1.出会い
世界は突如の天変地異により地表の90%を灰の雲により覆われてしまった。
人間は窓の無い部屋に閉じ込められると気をおかしくするらしいのだが今は地球全体が窓のない部屋のように薄暗く厚い灰の雲に日光を遮られている。
生き物はどれも日光なしでは生きられないと1つ歳が下の竹谷が言っていたのを思い出す。
この時代には地表の生き物がほとんど絶滅し、室町の頃は生物委員として生き物を愛していた竹谷にとっては耐え難い環境なのではないだろうか。最後は狼にハラワタを食いちぎられぶちまけられても尚顔は笑顔だった(らしい)のだから生き物に対する情熱相当なものだ。
私…いや、私達は過去に領主に仕える武器として、手駒として育った忍者であった。
忍びとなるため学園に10歳で入学し、15で卒業する。わずか6年の間に忍として生きるための知識を叩き込まれる。そして卒業後は城に仕え主の命を全うする。それが私達の何よりの幸福であり目標であった。戦乱の世ではそれが当たり前だった。
しかし、現実とは残酷なものである。視界埋め尽くすは死体死体死体の山だ。無論、私も手を掛ける事もあったし、命を狙われる事だってあった。しかしそれがあの世の常識であったから私は何も怖くは感じる事はなく、主の命を忠実にこなす飼犬である事で本当の幸福が掴めると信じていた。
そんな思考を欠如した人間が長く生きられる訳もなく学園で同じ所属の作法委員会であった後輩、浦風藤内に敵討ちとしてあっけなく殺害されてしまい最後を迎えた。
まあ、私はやはり主君に贔屓にされるくらいは優秀である自覚はあるが、男とは馬鹿な生き物と相場が決まっているので、大人しく藤内に殺害された時に薄れゆく意識の中で後輩の成長を嬉しく思い一つ目の物語の幕を閉じた。
しかし、今は違う。
違うのは今生きる時代だけではない。私は本当の平和というものを知ってしまったのだ。
二度目の転生はとてもゆるやかで平和な時代であった。前世の仲間や後輩とも出逢うことが出来、文を待つ必要もなく、殺される事だってない。私達は仲間もとい、友と生きられるという幸福を知ってしまったのだ。
覚えている、ただそれだけの事だ。だが覚えているから今のこの世が許せないのだ。
二つの時代を駆け抜けた私達はこの極東の国日本が死に向かっている事がよく理解できる。
それがとても不快であった。
それはそれとして奇妙な因果があるものだ。
瀬戸内海に面した工場地帯、ここ蛍火町は昔々に私達が過ごした学園にほど近く、正確に言うならば兵庫水軍の水軍舘があった地帯だと思われる。学園があったと推測される地帯は今や戦争の軍事基地として東の飛び地が置かれており近づくことも容易ではない。そこから垂れ流される汚物は川に流れ込み今や記憶にある清流とは程遠い。たしかあの川の名前は三年生の神崎左門の名前の由来となっていた筈である。
再会した時、3つも下の後輩が今の世界を悲しんでいたのはついこの間の事であったか。
神崎左門や竹谷八左ヱ門と再会…正確に言うならば私達が六年だった頃に学園に在籍し、かつ卒業をした六年生から二年生はここ蛍火町の地下街の更に奥である地下鉄跡の反政府組織拠点にて再会を果たしたのである。
「聞いているのか仙蔵!」
パイプを伝い聞こえてくる無機質な機械音に紛れ聞き慣れた怒声が反響する。
「ああ聞いているさ。隣町のスラム街の話だろう?」
声の主に対して冷静に答える。
「あぁ、そうだ。だが惜しい。隣町の“子供”の話だ。」
目の前ので男がニヤリと笑う。腹立たしい顔をぶん殴りたい衝動に駆られるが目を逸らしぐっと堪えた。
この男は潮江文次郎。反政府組織のリーダー格の1人である。
「…で、その子供達がなんだって?」
「お前っっっ!やっぱり聞いてなかったな!」
「少し昔を思い出してな」
前世を思い出している場合は少し昔で正解なのだろうか?などと素朴な疑問を浮かべている間も潮江文次郎は隣でギンギンと五月蝿い。
「うるせぇ!静かにしろ!」
また怒声が鳴り響く。この狭い空間でどれだけ騒げば気が済むのだ。
「なんだと留三郎!!やんのか?!」
二つ目の怒声を上げたのは食満留三郎だ。
潮江文次郎とは前世のそのまた前世からの腐れ縁兼犬猿の仲である。
「うるせぇからうるせぇって言ってんだ!」
「テメェのその声よりうるさくねぇわ!」
「なんだと?!」
「やるか?!」
「勝負だ!!!!!!」
「うるさいぞ!!!!!!!!!!!!」
第三の怒声が上げられる。七松小平太だ。
「「いやお前が一番うるさい」」
声が重なる。
正直全員うるさい。
「この間隣町できり丸をみかけた」
ボソリと声が聞こえた。中在家長次だ。
「きり丸って…あの、きり丸か?」
普段切れ長の目を文字通り丸くして食満が長次を見つめる。
「ああ…どこからか盗ってきたか分からんが(肉)を持って走ってぶつかってきた」
「(肉)って言ったら……あの地域でも1等級の高級品じゃねぇか!」
「この間上層部でネズミが入り込んだって言ってたな」
小平太がポツリと言う。この男、言動や行動に反して政府組織所属軍隊に所属しているのである。
「かなり慣れた手つきで食料を運び出したらしいな…まるで、"忍者"のようだったと」
人間は窓の無い部屋に閉じ込められると気をおかしくするらしいのだが今は地球全体が窓のない部屋のように薄暗く厚い灰の雲に日光を遮られている。
生き物はどれも日光なしでは生きられないと1つ歳が下の竹谷が言っていたのを思い出す。
この時代には地表の生き物がほとんど絶滅し、室町の頃は生物委員として生き物を愛していた竹谷にとっては耐え難い環境なのではないだろうか。最後は狼にハラワタを食いちぎられぶちまけられても尚顔は笑顔だった(らしい)のだから生き物に対する情熱相当なものだ。
私…いや、私達は過去に領主に仕える武器として、手駒として育った忍者であった。
忍びとなるため学園に10歳で入学し、15で卒業する。わずか6年の間に忍として生きるための知識を叩き込まれる。そして卒業後は城に仕え主の命を全うする。それが私達の何よりの幸福であり目標であった。戦乱の世ではそれが当たり前だった。
しかし、現実とは残酷なものである。視界埋め尽くすは死体死体死体の山だ。無論、私も手を掛ける事もあったし、命を狙われる事だってあった。しかしそれがあの世の常識であったから私は何も怖くは感じる事はなく、主の命を忠実にこなす飼犬である事で本当の幸福が掴めると信じていた。
そんな思考を欠如した人間が長く生きられる訳もなく学園で同じ所属の作法委員会であった後輩、浦風藤内に敵討ちとしてあっけなく殺害されてしまい最後を迎えた。
まあ、私はやはり主君に贔屓にされるくらいは優秀である自覚はあるが、男とは馬鹿な生き物と相場が決まっているので、大人しく藤内に殺害された時に薄れゆく意識の中で後輩の成長を嬉しく思い一つ目の物語の幕を閉じた。
しかし、今は違う。
違うのは今生きる時代だけではない。私は本当の平和というものを知ってしまったのだ。
二度目の転生はとてもゆるやかで平和な時代であった。前世の仲間や後輩とも出逢うことが出来、文を待つ必要もなく、殺される事だってない。私達は仲間もとい、友と生きられるという幸福を知ってしまったのだ。
覚えている、ただそれだけの事だ。だが覚えているから今のこの世が許せないのだ。
二つの時代を駆け抜けた私達はこの極東の国日本が死に向かっている事がよく理解できる。
それがとても不快であった。
それはそれとして奇妙な因果があるものだ。
瀬戸内海に面した工場地帯、ここ蛍火町は昔々に私達が過ごした学園にほど近く、正確に言うならば兵庫水軍の水軍舘があった地帯だと思われる。学園があったと推測される地帯は今や戦争の軍事基地として東の飛び地が置かれており近づくことも容易ではない。そこから垂れ流される汚物は川に流れ込み今や記憶にある清流とは程遠い。たしかあの川の名前は三年生の神崎左門の名前の由来となっていた筈である。
再会した時、3つも下の後輩が今の世界を悲しんでいたのはついこの間の事であったか。
神崎左門や竹谷八左ヱ門と再会…正確に言うならば私達が六年だった頃に学園に在籍し、かつ卒業をした六年生から二年生はここ蛍火町の地下街の更に奥である地下鉄跡の反政府組織拠点にて再会を果たしたのである。
「聞いているのか仙蔵!」
パイプを伝い聞こえてくる無機質な機械音に紛れ聞き慣れた怒声が反響する。
「ああ聞いているさ。隣町のスラム街の話だろう?」
声の主に対して冷静に答える。
「あぁ、そうだ。だが惜しい。隣町の“子供”の話だ。」
目の前ので男がニヤリと笑う。腹立たしい顔をぶん殴りたい衝動に駆られるが目を逸らしぐっと堪えた。
この男は潮江文次郎。反政府組織のリーダー格の1人である。
「…で、その子供達がなんだって?」
「お前っっっ!やっぱり聞いてなかったな!」
「少し昔を思い出してな」
前世を思い出している場合は少し昔で正解なのだろうか?などと素朴な疑問を浮かべている間も潮江文次郎は隣でギンギンと五月蝿い。
「うるせぇ!静かにしろ!」
また怒声が鳴り響く。この狭い空間でどれだけ騒げば気が済むのだ。
「なんだと留三郎!!やんのか?!」
二つ目の怒声を上げたのは食満留三郎だ。
潮江文次郎とは前世のそのまた前世からの腐れ縁兼犬猿の仲である。
「うるせぇからうるせぇって言ってんだ!」
「テメェのその声よりうるさくねぇわ!」
「なんだと?!」
「やるか?!」
「勝負だ!!!!!!」
「うるさいぞ!!!!!!!!!!!!」
第三の怒声が上げられる。七松小平太だ。
「「いやお前が一番うるさい」」
声が重なる。
正直全員うるさい。
「この間隣町できり丸をみかけた」
ボソリと声が聞こえた。中在家長次だ。
「きり丸って…あの、きり丸か?」
普段切れ長の目を文字通り丸くして食満が長次を見つめる。
「ああ…どこからか盗ってきたか分からんが(肉)を持って走ってぶつかってきた」
「(肉)って言ったら……あの地域でも1等級の高級品じゃねぇか!」
「この間上層部でネズミが入り込んだって言ってたな」
小平太がポツリと言う。この男、言動や行動に反して政府組織所属軍隊に所属しているのである。
「かなり慣れた手つきで食料を運び出したらしいな…まるで、"忍者"のようだったと」
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