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綾部さん

夜遅くまで起きているため、朝はどうしても起きることが出来ない。まだお母さんがいた頃はどんなに眠くても起こされて家を出ていたが、出ていってからは起きると既に2時間目の授業が始まっていることが多かった。
だから朝早くから滝が本当に家まで迎えに来てくれたのは本当に驚いた。彼女は真面目すぎる。
「喜八!」
ふいに呼びかけられ、後ろを向くと滝がいた。
授業がいつの間にか終わっていたようで周りは既にお弁当を出し始めている。眠気に勝てずウトウトしていた為か判断力が鈍る。
「授業は終わったぞ」
「そうだね」
少し大人びた花柄の包を持った滝が私の席の前に来た。
「喜八、弁当は無いのか?」
「ない」
そう答えた途端滝の顔が1目で分かるほど歪む。
「喜八…行くぞ!」
そう言うと私の腕を取り教室を出た。
腕が引かれる方向へどんどんと滝が歩いて行くので強制的に早足になる。
途中、他の生徒の視線を感じたがそれよりも引っ張られる腕について行くのがやっとで気にはならなかった。
「喜八、ここから選べ」
引っ張られる腕にウンザリし始めていた頃、声をかけられ滝の影から前を見ると目の前には美味しそうなパンが並んでいた。
「わああ、美味しそう~!これ食べたい」
そう言いながらチョコチップの入ったメロンパンを指さす。
「コレね、じゃああとこれとこれも下さい」
そう言うとメロンパンの他に野菜の多く入ったサンドイッチ2つ選んで買った。
値段を言われ滝がお金を払いパンを受け取ると、
「はい、これ食べな」
と渡してきた。
「えっ、これ食べていいの?」
「当たり前だろう、何のために連れてきたと思っているんだ」
と真面目な顔をして話す。素直にそれを受け取ると、まるで母親の様に顔が少しだけ綻んだ。
こんな滝の顔が見られるなら、お世話されるのも悪くないと思った。
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