不登校の綾部さん、と言えば１組に在籍している女子だと誰でもわかる。4月に入学して5月の末頃にはもうあまり顔を見せなかった彼女だったが、入学式からパーカーの着用や指定外の靴下、本来ならば結ばなければいけない伸ばしっぱなしの長髪での登校で、初日に先生から注意を受けていた彼女は印象に残るにはあまりにも強かった。しかし、彼女は髪をショートに切った以外は変えることなく何度注意されても同じ格好で登校していた。
昨今の少子化の影響によりクラス数が少なく３クラスのみで学年の人数もあまり多くなかったから覚えやすいというのもあると思うが、それにしても綾部さんは特に強烈で個性的な女子として教師の間だけではなく生徒の間、さらには関わりの無い二年や三年の間でも有名になっていた。
入学してから数週間経ったが…いつも何を考えているかわからず、かと言って話しかけるとストレートに返してくる。それに頭が良いのか数学のじかんぼーっと外を眺めていて、突然先生に当てられてとスラスラと解答してしまう。
特に興味のない授業だとシャベル片手に学校から消えてしまう事も多々ありまだ新米教師である担任がこの問題児に手を焼いているのは生徒からみても明白であった。

そんな彼女が学校に来なくなったのは五月も終わりのまだ五月風の気持ちイイ晴れた日。
気分の良い気候とは裏腹に学級の間ではとある噂が回っていた。それは、
｢綾部さんは援交をしているらしい｣
という、まあなんとも中学生らしい根も葉もなさそうなものだった。
しかしその噂は学年に瞬く間に広まって、遂には学年の誰もが知っている話しとなった。。
どうやら前日の夜に、塾帰りの男子が男と歩いている綾部を見かけたらしいというのが噂の根源であるそうだ。
そんなもの嘘でもなんでも、ついてすぐに否定してしまえば良い…とは思うが、その否定する本人が居ないのでこの話で1週間は持ちきることとなる。