「勇作兄さま！」


北海道　旭川にある第７師団の駐屯地へと続くメイン通りで、若い女の華やぐような声が響いた

声のする方を振り返ると、このあたりではまだまだ珍しい洋装で、少し癖のある艶やかな長い髪をなびかせた目鼻立ちのはっきりとした女・・・そう、十人が十人、美しいと答えるような麗しい少女が立っていた


「ルナ！すまない！待たせてしまったな！」

通りの向こうから聞こえた声にふりかえると、女に答えたのは軍服姿の長身の男
配属先したてだろうか、ピカピカの将校服を纏っていた
若い将校の方も少女に負けず劣らずの爽やかな美男子で、駆け寄る二人を見る通行人達は、観劇のワンシーンを見ているかのように見惚れ足を止めてしまっている者もいる
少し歳の差のある許婚同士の再会だろうか



「勇作兄さま！突然押しかけたのは私の方です！わざわざのお迎えありがとうございます！」

駆け寄ってきた美男子に柔らかそうなハンケチーフを差し出して、顔を綻ばせる女　ルナは矢継ぎ早に答えた
手の届くところまで近付いた将校　花沢勇作の額に浮かんだ汗を拭おうと背伸びをして、ハンケチーフを持った手を伸ばしている
兄・・・ということはさぞ美男美女の両親から良いところを引き継いだこれまた羨ましい兄妹ということか
立ち振舞からも品を感じるので良いところのお家の見目好し頭脳よし家柄よしの家庭なのだろう
世の中不公平だなぁ・・・と二人のやりとりを眺めていた一人、炉端の新聞売りはぼんやりと考えていた




「いやいや、可愛い妹が会いに来るのに出迎えぬ不躾なことはしまいさ！！ルナ、疲れていないかい？このまま宿屋に・・・・『疲れてなどおりませんわ！』

ルナにハンケチーフで額の汗を拭われながら、気遣う勇作に被せるようにルナは声を上げた
その声は歓喜をふんだんに含んで、再会を心待ちにしていたことがよくわかる
ルナの肩に手を置いた勇作も嬉しそうに笑いながら

「ではこのまま観光と行きましょうか、お嬢さん？」

と言ってニヒルな笑顔に切り替え恭しく腕を差し出し、ルナは優雅にその腕に華奢な手をそっと添えて2人は大通りをゆっくりと歩いていった