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『ウタ!・・・・・ウタ!ウタ!!』
「・・・ルナ?」
ウタは遠くで自分の名前を呼ぶルナの声に答えるように、重たい瞼をゆっくりと持ち上げた
遠くにいると思っていたルナは目の前で今にも泣き出しそうな顔をしていた
ウタの視界いっぱいを占領していているルナに素直に驚いてウタは目を見開いた
『終わったよ!みんな無事に戻った!』
目があったルナは、遂に堰き止めていた大きな瞳からボタボタと大粒の雫を落としてウタに笑顔を向ける
暖かい雫がウタの頬に落ちてゆっくりと伝っていった
「フフッ・・・ねぇ、ルフィやみんなは大丈夫かな?」
ウタはぐしゃぐしゃのルナに少しだけ吹き出した後、そっと視線を他に向けて小さく尋ねた
ルナの涙は暖かい
とても大切にしてくれている気持ちが、伝わってきた
こんな事をしでかした私なんかのために
私は誰にも愛されない
大好きなみんなに捨てられた
それは私の思い違いだったのだろうか
「人間はそんなにやわじゃない」
ウタの問に答えたのはシャンクス
背中が暖かかったのは、シャンクスに抱きかかえられているからだった
ウタはシャンクスの方へ視線を上げようとして身体をよじる
シャンクスからも私を大切に思っている気持ちがヒシヒシと感じられた
絶対に捨てられたと思っていたのに
これも違ったみたいだ
『ウタ!お願いこれを!』
ルナが取り出したのは薬瓶
たぷん、と少し粘度がありそうな液体の入った茶色い瓶
中身の色は不明だった
でもきっと、さっきホンゴウさんから受け取ってシャンクスの手から払い落とした薬と同じだろう
「グハッ!ルナ!!お、おまっ今どっから出した!?」
突然ウタの頭上で叫んだのはシャンクス
もう払う気力も残っていないウタの顔に思いっきりつばが飛んできて大きな声と振動、そして大粒のヨダレにびっくりした
ルナが薬瓶を取り出した場所に驚いて騒いでいるらしい
・・・・確かに特に鞄とかを持っていなかった気もするが、女の子の服には男が知らないたくさんのポケットがついているので、騒ぐような事ではないと思うのだけれど・・
まぁ、若い子の服の事はオジサンにはわからないのかも・・・?
ウタはぼんやりと失礼な事を考えていた
膝をついてウタを抱くシャンクスは目の前で繰り広げられた出来事に顔を赤くして片方の鼻から鼻血が出ていた
『色々持ってたんですが、ウタがネズキノコを食べたと聞きましたので、コレだけ』
ルナが薬瓶を取り出したのは服の中
といってもウタの考えていたポケットではなく、ブカブカのワイシャツをはだけて覗いたぽってりとした胸の谷間からだった
予想外の出来事に、シャンクスの後ろに立っていたプレイボーイ代表の副船長 ベックマンもぽかーんとだらし無く口が開いたまま固まっている
子供だと思っていた娘のような存在が突然男を惑わす手練れの女の様な行動をした事に思考がついていけなくなっていた
「・・・・色んなもん・・・・ブハ」
何を想像したのか、シャンクスが両鼻から鼻血を吹き出した
「ぎゃッッ!!ちょ、シャンクス!鼻血出てる!」
ボタボタと近くに落ちてきた液体がシャンクスの鼻血だと気づいたウタは不快な気持ちを隠しもしない叫び声を上げた
ズリズリとシャンクスの膝を端に避けてシャンクスを見上げて抗議する
「・・・ガキかお頭は」
シャンクスの醜態とウタの様子を見ていたベックマンは正気を取り戻してボソリと呟き、隣のホンゴウになんとかするよう指示をした
ホンゴウはやれやれ・・・と呆れた様子で頭を掻きながらポケットをゴソゴソとあさり始めた
『ウタ!コレを飲んで眠って!!お願い!生きて!』
そんなシャンクスの痴態など全く目に入っていない様子のルナは、薬瓶の蓋を投げ捨て、ウタの口元へ薬瓶を当てて傾けた
「・・・もう無理だよ・・・疲れた」
ウタはヘラッと笑ってひと粒の涙を流した
ウタは疲労困憊な上、張り詰めていたものが開放された反動で無気力状態になっていて、薬瓶に手を伸ばす力は残っていなかった
それに本当に疲れてしまって、「これから」なんて考えられなかった
もう生きている気力を失っていた
口元に薬瓶をあてて傾けも口の端から溢れるだけで飲み込む気配はなかった
『諦めないで!私のために!!やっと!・・・やっと会えたの!!お願い!ウタ!』
そう言った後、ルナはウタの前でグッっと薬を煽った
ルナの行動にギョッとしたのはウタだけではないようで、周りに立っている赤髪海賊団の幹部達からもどよめきが聞こえた
「・・・ルナ、あんた何して・・んぐ!」
慌ててルナを静止しようとして身体を傾けたウタは最後まで言葉を繋ぐことができなかった
「グハッ!」
シャンクスは鼻だけでなく噎せながら吐血までして白目を向いた
ルナは、シャンクスにもたれかかっていたウタの顔を強引自分の方へ向けて、グッと近づき、躊躇なくウタに口付けた
その目の前で起きているなんとも羨ましい光景に、鼻だけでなく口からも血を噴き出しているシャンクス
ベックマンは思考がグシャグシャになって口をあんぐり開けていた
「んんん・・・ゴク・・ゴクゴク・・・ぷは!」
ルナに首を強引に持ち上げられたウタは、ルナの口内から流れてくる液体を無理矢理に飲み下す
今まで飲んだことがないくらい苦くて不味くて変な匂いがする薬だった
『ぷはぁ!に、苦い・・・』
目の前で口の端から垂れた紫色の薬を手でぐいっと拭ったルナは、泣きそうな顔をしてそう呟いた
ウタも同じ意見だ
まだ息をすると変な匂いがするし口の中は苦くて舌が痺れている
涙目で口端を拭うルナの表情に嗜虐心を擽られ、むくむくと欲望がせり上がってきているのはシャンクス
ウタが瀕死の状態で、海軍との交戦の真っ只中で落ち着かなければ、と小さな理性が警鐘を鳴らしているが、抑えきれそうもない大きな欲望が脳裏を支配しようとしていた
グサッ
「ブブッッッ」
ウタを支えるシャンクスの手がピクリと動いたタイミングで、シャンクスの顔面に謎の衝撃が走った
「・・・・大頭、ウタに鼻血が垂れそうだ」
船医のホンゴウの声
特大の鼻栓を作ってシャンクスの鼻に容赦なく突き刺した
ちょっとゴワゴワするのでホンゴウが普段消毒後に使っているペーパータオルじゃないだろうか
少しだけ刺激のある消毒液の香りのお陰でシャンクスの頭は冷静さを取り戻し、大切な娘を放り出して娘の親友ルナに襲いかかる失態を犯さずにすんだ
「もぅ!!ばかルナ!いつからそんなふうに生意気で我が儘になったの!!昔はあたしの後ろをくっついて、なんでも言う事きいてたくせに・・・」
次に沈黙を破ったのはウタ
恥ずかしいやら悔しいやら色んな感情をそのままにウタが叫ぶ
八つ当たりをしている自覚はしっかりとあったが、言葉が溢れて止まらない
『うん、私もウタと同じだよ!皆が平和で幸せな新時代を作りたいと思ったから、我が儘になったの!』
そう言ってフフッと笑うルナに、ウタはハッとした
ぁあ、この子も大人になったんだ
私と同じ気持ちで、ルナなりに、ルナができる新時代のために頑張っているんだ
私の後に続いて一生懸命に追いかけてきていた
妹のようなルナは12年でこんなにも成長していた
私は・・・ずっと自分独りが戦っているつもりになっていた
ウタの張り詰めた想いはルナの言葉に溶かされていくようだった
「・・・っていうか、あたし、ファーストキスだったんだけど?」
どーしてくれんのよ!とウタは意地悪な顔を少し赤く染めながらルナを見上げた
本当は、ありがとうやごめんなさいを言わなければいけないのはわかっている
そんな言葉じゃ済まないことをしたことも重々理解している
なのにこんな憎まれ口しかでてこない自分が嫌だった
『あ、私も。』
そんなウタの自己嫌悪な思考をぶち壊したのは
ルナもぱっと口元に手を当ててそう答えた
「「「「え!?」」」」
その言葉が耳に届いた赤髪海賊団の幹部達は、一斉にルナの方へ視線を向けた
2年も前から付き合っている男がいて、ファーストキスもしていないというルナの発言に息が止まるほど驚いていた
ホンゴウだけは大頭 シャンクスが鼻にティッシュを詰められた情けない顔をさらに情けなくしまりのない顔にしてニヤついていたのを目撃してしまって、ドン引きしている
「なにそれ」
『だってウタが言うから』
鼻がくっつくほど顔を近づけた2人は揃ってフフッと笑い合って
『「あたし(私)たち、お揃いだね」』
そう言ってまた微笑み合った
その場で1人、“付き合っている男”に気がついてしまった副船長のベックマンはチラリと海軍側の前線へ目を向けた
「んん〜ぅ?なぁ〜んかベン・ベックマンがこちらを伺ってるねぇ〜?」
目敏く気がついたのは黄猿
わざとらしく敬礼するような仕草と、目を凝らす様に細めて呟いた
「なッ!?まだなにか仕掛けてくると!?」
手前に控えるモモンガは、刀に手を掛け直ぐ様臨戦態勢を取り黄猿の言葉に反応した
膠着状態にヤキモキする暇も与えられず再び戦いが始まるのだろうか、ルナをまだ見つけることができていないというのに・・・
モモンガの額から一筋の汗が伝って、雨に紛れて落ちていった
「んぅ〜ん〜〜?なぁ〜んか可哀想な目でキミを見てる気がするよぉ〜??心当たりある?」
緊迫した雰囲気をぶち壊したのは黄猿の間の抜けた声と内容
手を望遠鏡に見立てて見はじめた黄猿の言葉に「は?」と上官にあるまじき態度をとってしまったモモンガ
4皇一角の海賊団の副船長に同情される謂れがみつからず、その後もずっと心当たりを探していた
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