2日目

「おはよう!優志くん」
「野村くん、おはよう」
メイプル村へ来て2日目の朝。
透と鈴良は、ちょうど部屋から出てきた優志にあいさつした。
「ああ、おはよう」
よく眠って3人とも気分はさわやかだ。
時刻は朝の8時頃。
3人とも身支度を整えて、サ-ラのいる1階へと降りていった。
サ-ラは、入り口と階段のちょうど間にある休憩所にいた。
そして3人を見つけると笑顔で言った。
「おはよう。3人とも」
「おはようございます」
透達3人も元気にあいさつを返す。
「待ってたのよ。朝食ができているから食堂へどうぞ」
そう言ってサ-ラは、受付の向かいにあるガラス戸の部屋に3人を案内した。
その部屋は、丸いテ-ブルが部屋の数だけ6つあり、そのうち3つはうまっていた。
赤のチェックのカ-テンが白いリボンでまとめられていて、メインストリ-トに面した大きな窓からは、さんさんと太陽の光が入っている。
うわあ。とってもすてきな食堂。
透はそう喜んだ。
1番礼儀正しい鈴良は、食堂にいる他のお客さんに真っ先にあいさつした。
「おはようございます」
「おはよう。スズラちゃん。カト-ルちゃんとユ-ジくんだよね」
「おねえちゃん、おにいちゃん、おはよ-っ」
お客さんはそう3人を向いてあいさつしてくれた。
「はい。そうです。おはようございます」
透と優志は、少し慌ててあいさつした。
わたし、この村ではカト-ルって呼ばれるなあ。
でも外国の名前みたいでかわいいし、いっか。
透はそうちょっとおもしろく感じた。
お客さんは、1番奥のテ-ブルにお父さんと7歳くらいの男の子の2人、奥から3番目のテ-ブルに10歳くらいの女の子2人、そしてその隣に男の子と女の子の兄弟を連れた4人家族が座っていた。
透達は、その人達の隣のテ-ブル、つまり手前から2番目のテ-ブルに座った。
「これでお客さんは全員ね。今朝はチャ-ハンよ。今持ってくるわね」
サ-ラはそう言って、のれんの奥へと行った。
わたし達、1番最後だったんだ‥。
起きるのゆっくりだったかな。
透は少し心配しながら食堂の中を見回した。
お客さんのうち2組は、サ-ラの言っていた通り、おいしそうなチャ-ハンを食べている。
しかし1番奥に座っている親子2人は、きつねうどんを食べていた。
あれ?あそこはメニュ-が違う。
透はちょっと不思議に思った。
きつねうどんって、もしかして‥。
鈴良も気が付いて、昨日のことを思い出し、正解にいきついた。
サ-ラはすぐにチャ-ハンを持って戻ってきた。
その時間から、できていたのを盛ってきたという感じだ。
「ありがとう。いただきます!」
透と鈴良は気にしつつも、優志は全く気付かず、チャ-ハンを食べ始めた。
サ-ラはそんな3人を満足そうに見てから、いろいろなテ-ブルに回って話を始めた。
そしてその親子連れのところへ行った時、透と鈴良は気にしていたのでその会話が聞こえてきた。
「いやあ。サ-ラさん。いつも私達仲間のために、きつねうどんを用意しておいてくれてありがとう。本当にここのはおいしい」
お父さんの方がサ-ラにうれしそうに言った。
「よろこんでいただけて、うれしいわ」
サ-ラがそう返事をすると、子どもが元気に言った。
「ほんとうにおいしいよ。おねえちゃん。
 ぼくなんかうれしくって、ひげとしっぽが飛び出しそう!」
その言葉ははっきりと透達3人に届き、透と優志はとても驚いた。
優志はわりと勘がいい方だったが、様子に何も気付いていなかったため、いきなりで余計驚いた。
鈴良はなんとなく予想がついていたが、やはり驚いた。
しかし他の人達にもそれは聞こえたはずだが、何事もなかったかのように普通にしている。
サ-ラが透達のテ-ブルにくると、3人は小声で聞いた。
「サ-ラ、もしかしてあのきつねうどんを食べてる人達、人間じゃないの?」
まだ正体はわかっていない透が真っ先に聞いた。
「きつねうどんってことは、きつね‥か?」
優志は知ったばかりだが、すぐに判断して聞いた。
すると鈴良がうなずいた。
「私もそう思うわ。昨日ナコさん、私達にきつね?って聞いたし」
この3人はもうすでに、この村が不思議な村だということを頭に入れて推理している。
3人がそれぞれ言うのを聞いて、サ-ラは説明した。
「そうよ。その通り。森に住むきつねさん達は、人間に変身して時々村に来るの。
 それは村の人みんなが知ってることなのよ。
 きつねさん達はきつねうどんが大好きだから、泊まりにくるときはいつも用意しておくようにしているの」
すご-い。
その説明を聞いて3人は感心した。
おじいさんが言っていた、村の不思議な部分に初めてふれた3人だった。

3人は、食事が終わってそれぞれの家族が部屋に戻ることになると、休憩所あたりでその親子に話しかけてみた。
「こんにちは。わたし達、村の外から来た旅人です。
 いきなりですけど、本当にきつねさんなんですか?」
そう透が聞くと、子どもの方が元気よく答えた。
「あ、昨日の歓迎会のおねえちゃんたちだね。
 うん、そうだよ。ぼく達、森に住んでるきつねなんだ。
 ほらっ、これがぼくの本当の姿だよ」
ボンッ
そう言ってきつねの子は、本来の姿に戻った。
「うわあ。すご-い」
3人とも歓声をあげる。
きつねの子はそう喜ばれてうれしそうな顔をしながら、またさっきの男の子の姿になった。
透達にお父さんの方が説明する。
「私達は変身を覚えると、この村にやってきていいように仲間うちで決まっているのですが、この子は今日初めてきましてな。
うれしくてしょうがないらしい」
そう言って、お父さんは幸せそうに男の子の頭をなでる。
「そうなんですか。私達、変身できるきつねさんに会うのは初めてだったので感動しているんです」
鈴良がそう言うと、お父さんも笑顔になって言った。
「おお。そうだったのですか。私達はもう1泊していくので、ぜひまたお話しましょう。
 私は吉次。息子は小太郎といいます
では、私達は村巡りに行きますので」
「ばいば-い。またあとでね」
そしてその親子は階段を上がっていった。
「は-い。またあとで」
3人は吉次、小太郎親子に手を振ってから、3人で向き直った。
初めて見る不思議な世界にドキドキした気持ちを持ったまま。
透はもちろん、鈴良も小さい頃お話の中で聞いた変身するきつねに会えて感動だった。
優志も、母に根は夢のある子に育てられたので、会えてやっぱりうれしかった。
そんなめったにないようなうれしい気持ちで透が言った。
「さあ、わたし達も村に行こう!」
「ああ」
張り切っている透に、優志はうなずいた。
鈴良は昨日の失敗を思い出して言った。
「またいつでも絵が描けるように、スケッチブックとリュックは持っていきましょうね」
「ああ、そうだな」
こうして3人の2日目の朝は、少し不思議に、そしてさわやかに始まりました。

2004年1月制作
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