1日目

山編3-カレーを作ろう!

魚を食べ終わった明里達は、それぞれ自由に過ごすことにした。
あたしだけまだ行ったことないんだよね。川行ってみようかな。
明里はそう思って1人で川に向かった。
実と星成は、テントが見える程度の近くを散策することにした。

「うわあ。すっごくきれいな川」
あたしの想像以上…。
星成や実と同じように、明里もまたそのきれいな川の水に感動した。
そして、川の水にさわってみた。
「冷たくて気持ちいい-」
川の周りは開けていて、森の中にいた時とはまた違う気持ちになった。
なんだかすごい開放感。
明里は立ち上がって大きく伸びをした。

「せっかく山に来たんだし、虫探してみるか」
実がそう提案した。
星成もうなずいて、分析する。
「うん、それいいな。こんなに鳥がいるんだから、鳥達が生きてくためにも、あのおじいさんきっと描いてくれただろうし」
チチッ チチッ
そんな2人の耳には、確かにたくさんの鳥の声が届いてくる。
「春の虫と言えば…、てんとう虫とかちょうちょとか、蜂…は、いやだな。刺されるから」
実は春の虫を一生懸命考えてみた。
「おれ達、町の子だからな。夏ならたくさん思い付くんだけど…。
かぶと虫に、蝉に…」
星成が挙げると実も張り切る。
「かぶと虫って言えば、小学生の時育てたりしなかったか?」
「ああ、したした」
星成は返事をしながら、テントから大分離れてきたことに気が付いた。
歩きながら話していたため、いつのまにか進みすぎたらしい。
「これ以上進んで迷うと悪いから、折り返して探してみよう」

そしてそれぞれのんびりと楽しく過ごしていて、陽も暮れかかってきた頃、明里があの丸太の側を通りかかった。
あっ!?
丸太の上に食料の入った籠が乗っていた。
驚いたあと、冷静に考えた。
そういえば銀じいさん、言ってたっけ。夜は材料送ってくれるって。
う-ん。
おなかもすいたし、それに自然の中で作るわけだから、暗くなったら危ないし…。
そう判断すると、明里は大声で実と星成を呼んだ。
「お-い。実-、星成-。夕食作ろ-」

「さて、何を作ろっか」
明里がそう言って籠を見た。
籠の中には、にんじん、玉ねぎ、じゃがいもなどが入っているらしいことがわかる。
「これあると、いろいろ作れますね」
実はそう言って籠の中身を調べ始めた。
そして-。
「あ、今日はカレ-を作るみたいですね」
「え?」
「カレ-ルゥが入ってましたよ」
実がカレ-ルゥの箱を取り出して得意そうに言った。
「では、早速作りますか」
実は今までにないくらい張り切って、籠の中の物を取り出し始めた。
しかし、そんな実に明里はためらいがちに言った。
「実、作り方わかるの?
あたし、大体わかるけど、炒める順番がうろ覚え…」
でもそんな明里とは対照的に、実は力強くうなずいた。
「はい。しっかり覚えてます」
そして実は2人の様子を見て、自分が先導すべきことに気付いた。
「ではぼくが教えますから、3人で分担して作りましょう。
まず明里先輩はお米洗ってきてください」
「あ、それはよくやってるから任せて!」
そううなずいた明里に、実は米と米とぎを渡した。
「じゃあこれ川で洗ってきてください」
「うん」
明里はそれを受け取って川に向かいながら思った。
実ってなんかすごいかも。
明里の次に、実は星成に材料を渡した。
「星成は、この野菜を洗ってきて」
たくさんあったため、星成は危うく落としそうになったがなんとか受け止めた。
「わかった」
そして用心しながら川へと向かった。
1人残った実は、星成を見送ると、2人が戻ってくるまでに準備を整えておこうと作業を始めた。

星成が川に着くと、明里は米をといでいた手を少し休めて尋ねた。
「あれ?星成も川に?」
「はい。実に言われて」
星成はうなずいて、早速川岸に座って野菜を洗い始めた。
そんな星成の方を向いて、明里は言った。
「なんかさっきの実、頼もしかったね。いつもと感じが違って、ちょっとびっくりしちゃった」
そんな明里の言葉に、星成は幾分親友がほめられてうれしい気持ちで答えた。
「そうですね。実って料理の時はとっても頼りになるから」
「えっ!?」
明里は驚きのあまり、思わず手が止まった。
そんな明里に、星成は教える。
「実は料理得意なんですよ。
調理実習の時とかも上手でみんなに感心されてるんです」
「へえ。実にそんな特技があったんだ」
明里はそれを聞いて感慨深げに言った。
半年一緒に絵を描いてきたけど、やっぱりそれだけじゃまだわからないことがあるんだな。
…と思いながら。

「よしっと」
明里は米を洗い終わって立ち上がった。
星成はあと少しなので、明里は待ってて一緒に戻った。
2人は話しながら洗っていたため、普通よりは多少時間がかかった。
2人が帰ってくると、実はもう準備が終わっていて、2人の帰りを待っていた。
「あ、帰ってきた」
「ただいま」
そして明里と星成はとても驚いた。
「実、そのテ-ブルやコンロは?」
明里が実の周りにある物を指差して聞くと、実は上機嫌で説明した。
「ぼくが準備してるとき、ぱっと現れたんです。メッセ-ジも付いてました」
そして2人にその紙を見せる。
『これで道具は全部じゃ。おいしいカレ-を作っておくれ。
銀より』
そう書いてあった。
「あとで銀じいさんにお礼の電話しなくっちゃ」
明里がそう言うと、実や星成もうなずいた。
明里はそのおじいさんのあたたかいメッセ-ジを見て、やる気が増した。
「じゃ、皮むいて材料を切りましょう。
明里先輩と星成は、先にやっててください。ぼくは最初にご飯を炊きますから」
そして実の言葉でカレ-作りが始まった。

「玉葱、目にしみる-」
明里が涙ぐみながら言う。
それを見て、ご飯の方が終わった実は急いでやってきた。
「続きはぼくが切りますから、明里先輩は川で目を洗ってきてください」
明里があまりにつらそうなので、実は少し慌てて言った。

などなどいろいろあったが、3人は上手にカレ-を作ることができた。
折りたたみイスなどもおじいさんが送ってくれていたので、それに座って食べる。
カレ-を食べながら、明里が実をほめた。
「実ってば、本当に料理得意なんだね。手際とか見てるとわかるよ」
「え?そうですか?」
実は照れながらも語った。
「じつはぼく、将来は料理人になりたいな-と思って、家でよく練習してるんです」
その言葉に明里はますます感心した。
「えらいね-。もうそこまで考えてるんだ。
実は料理上手だし、星成はかしこいし、あたしは何だろう?」
そう言って明里は考えた。
あたしの特技かあ。
もう3年生なんだし、そろそろ将来のこと考えなきゃいけないな。
あっ…。
考えてるうちにふと思い出した。
思えばあたし、もう1ヶ月も部活には出れないんだ。
引退したら、もうこんなふうに実達と話したり、透ちゃん達にも会えなくなるんだ。
喜んで食べている実、星成もちらっと見て、明里はすごく悲しくなってきた。
星成がそんな明里に気付いた。
明里先輩…?
そしてあたりをきょうろきょうろと見回す。
あ…!
そして普段より大分元気な声で言った。
「見てください!すっごくきれいな星空ですよ」
カレ-を作っている間に陽は落ちて、今はすっかり真っ暗。
その中で、普段では見られないくらいの星が光っていた。
天の川も見える。
「すご-い」
星成に言われて空を見上げた明里と実は、感嘆の声をもらした。
その星空を見ながら、同じ星という字を名前に持った星成は思う。
おじいさんもきっと星が大好きだったんだな。
だってこんなにきれいな星空なんだから。
3人はしばらく感動して星空を見ていた。
そんなきれいな星空を見ているうち、明里はだんだん寂しさを忘れ元気になってきた。
うん、しばらくは別れのことは考えないようにしよう。
もう少しの間、こうやって実や星成と旅ができるんだから。
そんな元気になった明里を見て、星成は安心した。

カレ-をおなかいっぱい食べた3人は、後片付けをした後、おじいさんにお礼の電話をすることにした。
明里が丸いボタンを押すと、すぐにおじいさんにつながった。
「銀じいさん、本当にいろいろありがとう」
「ありがとうございます」
明里に続いて、星成と実もお礼を言った。
『いやいや、わしの絵のためにも、君達には頑張ってほしいからのう。
他に入り用な物は…。あ…と、そうじゃ!ふとんも必要じゃろう」
そして少しの間の後、
『よし、ふとんも送ったぞ』
そんなおじいさんの声が聞こえたが、3人が見る限り何も現れていない。
「えっ?どこに?」
明里がおもわず聞く。
『それぞれのテントの中じゃよ』
おじいさんの言葉を聞き、毎度のことながら感心する星成。
「すごい。物の中にも送れるんだ」
『ではのう、わしも眠るのでな』
おじいさんがそう眠そうに言うので、明里達も言った。
「あ、はい。銀じいさん、お休みなさい」
「お休みなさい」
電話を切ると、実と星成はあくびをしだした。
「そういえば、ぼく達も眠いな、星成」
実の言葉に星成もうなずいて、明里に聞いた。
「本当に。明里先輩、僕達、もう眠ってもいいですか?」
明里達3人は、絵の世界のお昼前に送られてきている。
自由時間のときに3人とも少し昼寝はしていたが、普通の時間の流れだと夜中の2時頃になっている今は相当眠い。
今までは太陽の光や、初めてのことだらけで気を張っていたから起きていられたのだった。
明里はうなずく。
「うん。お休み」
実と星成は自分のテントへと向かった。
テントの中には本当に布団が置いてあって、その上にパジャマと歯磨きセットが乗っている。
2人とも歯磨きセットも持って出てきた。
そして明里も誘った。
「明里先輩も一緒に行きませんか?」
「うん」
明里はテントに取りに行った。
やっぱり夜に1人で川に行くのは、ちょっとこわい。
2人は明里がそう思うのがわかっていたから誘ったのだった。

歯磨きを済ませると、実と星成はパジャマに着替えて眠った。
2人ともいろいろあったけれど、満足した気持ちで眠りについている。
明里はもう少し起きていたくて、おじいさんが送ってくれたらんたんに照らされながら、テントの近くにイスを持っていき座っていた。
…と、電話が明里の手に飛んできた。

あ、そっか。透ちゃんだ。後で電話くれるって言ってたっけ。
少し不思議に思ったが、そう思い出すと明里は星型のボタンを押した。
するとやはり透だった。
『もしもし、明里先輩ですか?』
昼間電話したのに、何だか透の声がなつかしく感じる。
明里は元気に返事をした。
「あ、透ちゃん?」
それから透達の話を聞いて、明里も自分達のことを話した。
「そうそう、実にはびっくりだよ」
『え?』
透と鈴良のそんな声が聞こえてくると、明里は得意そうに言った。
「実ってね、すっごく料理上手なんだよ。あたし、驚いちゃった」
そう言うと、やはり2人も驚いたようだった。
『そうなんですか。知らなかったなあ。実くん、料理も得意だったんだ』
そう感心する2人。
『実くん、器用そうだものね。ところで材料はどうしてるんですか?』
鈴良の質問に、明里はまだ説明していなかったのに気付いた。
「あっ、銀じいさんが送ってくれてるんだよ。
他にもあたし達をいろいろ気にかけてくれてるみたいで感謝してるんだ」
そう少ししみじみしてから、途端に元気になって言った。
「実も星成もしっかりしてるし、一緒にいると楽しいよ。これからもいい旅を続けて行けそう!」
明里はそれから、ちょっと気がかりなことを聞いてみた。
「透ちゃん達は、優志とは大丈夫?」
優志は幽霊部員であったため、部長である自分以外とはあまり面識がない状態。
おまけにお天気屋ですぐ不機嫌になる性格なので、独断で実と星成を連れてきてしまった明里としてはちょっと心配だった。
昼間の電話のこともあるし…。
でも予想外に、透ははっきり返事した。
「はい。大丈夫です。優志くんとも仲良くやっていけそうです」
「え!?そうなんだ」
明里は驚いたが、すぐに思い直した。
そっか。透ちゃんはこういう性格だったんだ。
優志もこんな透ちゃんや鈴良ちゃんと一緒にいれば、この旅のうちに性格少しはよくなるかもね。
そんな未来を見据えた予測をして、明里は次の話題に移った。

透や鈴良と詳しく今日の出来事を話したあと、明里はもうお開きにすることにした。
「じゃあまた今度話そうね」
『はい、お休みなさい』
「うん、お休み」
透ちゃん、鈴良ちゃんと話ができて良かったな。
明里はそんな思いで電話を切ると、自分も眠くなってきているのに気付いた。
ふう。あたしもそろそろ寝ようかな。明日もあることだし。
そしてらんたんの灯りを消した。
布団の中に入って耳をすますと、川の流れる音、木々のゆれる音が聞こえてくる。
そんな音を聞きながら、明里はわりとすぐに眠っていた。
時刻は9時頃。
3人ともたくさん動いたり、いろいろな経験をして大分疲れたみたいです。

2001年9月制作
5/6ページ
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