1日目

村編2─メイプル村の歓迎会

宿に帰るとサ―ラがにこにこ顔で聞いた。
「お帰り。いい絵は描けた?」
「はい。メミリ―に案内されて、村の入り口でこの通りを描いてきたんです」
透がそうはきはき答える。
「そうなの。メミリ―が」
サ―ラはそう微笑んだ後、今度は楽しそうに言った。
「あのね、さっき村長が来て、今夜あなた達の歓迎会を開きたいって」
「えっ!わたし達のために?」
3人は驚きとうれしさでそう聞いた。
サ―ラはそんな3人にうなずいて言った。
「ええ。だからそれまで部屋で待ってて。外で準備あるから」
「はい」
3人はうれしい気持ちで返事をした。

「今から歓迎会始めるって。来て!」
サ―ラが各部屋を周ってそう呼びかける。
時は夕暮れ時。
3人は1階へと集まった。
「じゃあ、着いて来て」
サ―ラに着いて外に出ると、村の人達がたくさん集まっていた。
うわあ。すご―い。
にぎやかね―。
透、鈴良、優志もその様子を見て圧巻された。
メインストリ―トに大きな長いテ―ブルがいくつか出してあり、その上にはたくさんの料理、そして周りにはたくさんの人々がいた。
透達は村の人達に注目された。
「ようこそ。メイプル村へ」
「こんにちは。よく来てくれたわね」
「お姉ちゃん達、よろしくね」
村の人に口々にそう言われ、透達は照れた。
そんな透達の元に1人のおじいさんがやってきた。
その人はこの村の村長で、透達にあいさつした。
「私はこの村の村長のショテ―ル。ようこそ、みなさん。
 外から人が来るのは、この村にとって始めてのことじゃ。旅人というのは、本で読んで知ってはおったがのう」
3人は村長にそれぞれあいさつをして、その中鈴良は考えた。
この村の人ってみんな、本読んでるのね。
そして村長は3人に聞いた。
「みなさんは、いつ頃までいて下さるのかな?」
3人は、ぱっと答えられず少し考えた。
え―と、確かおじいさんは…。
鈴良が真っ先に思い出して簡潔に答えた。
「私達が持っているスケッチブックがいっぱいになるまでです。
 この村で1人1冊ずつ描こうと思っています。
 今日早速1ペ―ジ描かせていただきました」
あ、そうだった、そうだった。
透と優志は、鈴良の答えを聞いて思い出した。
「では、結構長くいて下さるんですな」
村長は、その答えを聞いてうれしそうに言った。
「私達はみなさんに来てもらってとても喜んでおります。
 それで歓迎会を開きたいと思いましてな。
料理も用意しましたので、どうぞ召し上がって下さい」
「ありがとうございます」
そしてテ―ブルの周りにいた女の人達が透達を手招きした。
「森で採った山菜料理食べてみて。おいしいのよ」
透達が誘いにのって、女の人達はお皿に料理を乗せて渡してくれた。
食べてみると、
「おいしい」
その料理は3人とも食べたことのないものだったが、とてもおいしかった。
透達が喜んで食べていると、隣から聞き覚えのある声がした。
「そうかい?良かった、良かった」
声の方を向くと、それはこの村で最初に話したナコだった。
シャミ―もちゃんといる。
シャミ―はさっきとは違い、瞳をぱっちり開けて透達を見ている。
「あ、ナコさん」
透がそう言うと、ナコは3人にうれしそうに言った。
「これは、この村が始まった時からある伝統の料理なんだよ。気に入ってもらえて良かった」
「はい。飲み物もあるのよ」
そう言って女の人が透達3人にジュ―スの入ったコップを渡してくれた。
「ありがとうございます」
飲んでみると、それはオレンジジュ―スだった。
3人とも大好きだったのでうれしかった。
「本当においしいですね」
3人が喜んで食べたり飲んだりしていると、サ―ラの宿まで案内してくれたダンがやってきた。
「3人とも楽しんでるか?
 食べてる最中で悪いが、村のみんなにあいさつしてくれ。みんな、どんな子かわかってないしな。
 ほら、踏み台とマイクも持ってきたから、1人ずつ話してくれ」
ダンが指差す先には大きめの踏み台があり、ダンはマイクを差し出している。
そんなダンの言葉を聞いて、まず透が立候補した。
「は―い。ではわたしが最初にやります」
透は料理の乗った皿とコップをひとまずテ―ブルに置き、ダンからマイクを受け取って踏み台の上へと昇った。
「わたしは真坂透、14歳です。
 好きなことは絵を描くことの他に、知らないところを探検することです。
 この村のお隣に森があるそうなので、行くの楽しみです。
 これからよろしくお願いします」
透はそう元気良く言いお辞儀をした後、踏み台を降りて近くにいた優志にマイクを渡した。
「はい。どうぞ」
優志はマイクを渡されてしまったので、次にしゃべることとなってしまった。
優志も踏み台に昇り、あいさつを始めた。
「野村優志です。……………」
優志は名前を言ったあと、止まってしまった。
年はいいたくないな。
俺、誕生日まだきてないんだよな。
透は14って言ってたし、すずかも14だったら俺だけ下になるじゃね―か。
かといって、他にしゃべることもね―し。
そんなことを考えていた。
しばらくいろいろ考えていたが、やはり何も思いつかないので、
「どうぞよろしく」
そう言って踏み台を降りてしまった。
そして鈴良にマイクを渡した。
鈴良もマイクを受け取ると、はっきりとあいさつした。
「夢里鈴良です。13歳です。
 物を作るのが大好きです。工作をしたり、料理もよく作ります。
 絵を描くのももちろん大好きなので、これから頑張ろうと思います。
 お世話になります」
鈴良のあいさつを聞きながら優志は少しほっとしていた。
すずかも13か。俺だけじゃなくて良かった。
しかし、はっきり「すずら」と言ったのに、優志は気付かなかった。
3人のあいさつが終わると、村中の人が歓迎の拍手をおくってくれた。
「じゃあみんなで料理を食べてお祝いしよう」
誰かがそう言って、村の人達と透達3人はいろいろな話をしながら、おいしい料理を食べた。
こうして歓迎会はとても楽しく続いた。

3人が宿に帰る頃には、あたりはもうすっかり暗くなっていた。
宿に帰るとサ―ラが3人に聞いた。
「もしかして、みんな歯ブラシとかパジャマとか持ってないんじゃない?
 ないんだったら新しいのあげるわよ」
透達は昼間学校にいるとき、おじいさんにここに送られてきたので、もちろん持っていない。
だから3人はぜひにと頼んだ。
「はい。持ってないんです。よろしくお願いします」
「はい」
サ―ラは棚に取りにいって、3人にそれそれパジャマ、歯ブラシ、コップと渡してくれた。
パジャマは赤と青のチェックで、3人ともお揃いだった。
「部屋に低い棚があったでしょ?コップと歯ブラシは普段あの上に置いておくといいわ」
コップ、歯ブラシは3人とも色違いで、透は黄色、鈴良は桃色、優志は水色だった。
「ありがとう。サ―ラ」
透達3人がそうお礼を言うと、サ―ラは、
「今日は村に来たばっかりで疲れたでしょ?早めに休んだほうがいいわ。
 そうそう、2階にある洗面所は自由に使っていいからね。3人の部屋のある通路にあったでしょ?」
そう付け加えた。
「は―い。わかりました。じゃあお休みなさい」
透、鈴良がそう笑顔で言って、
「お休みなさい」
優志が言うと、サ―ラは笑顔で部屋に帰る3人を見送った。
「お休み―。また明日ね」
3人はそれぞれ自分の部屋へと戻った。
部屋へ戻ってほっと一息つくと、透は明里達に電話をかける約束を思い出した。
まだ暗くなったばっかりだし、起きてるよね。
そう思って星型のボタンを押した。
するとボタンが光ったので、透は電話を持って、向こうに問い掛けた。
「もしもし、明里先輩ですか?」
するとまもなく、明里の明るい声が聞こえてきた。
『あ、透ちゃん』
「はい」
透はしっかり返事をした。
『元気にやってるようだね』
明里がそう言うのが聞こえてくると、鈴良も楽しそうに言った。
「私達、今歓迎会を開いてもらってたんですよ」
『へえ。それは良かったね』
「はい」
透と鈴良がうれしそうに返事をすると、明里も元気に言うのが聞こえてくる。
『あたし達もね、いろいろあったよ。
 テントを張ったり魚を釣ったり、野外生活を楽しんでるんだ。
 実と星成は、疲れて今は眠っちゃった』
「そうなんですか」
明里先輩達もとっても楽しそう。
2人がそう思いながら返事をすると、明里がちょっといたずらっぽく言うのが聞こえてきた。
『そうそう、実にはびっくりだよ』
「え?」

透達が電話しているその時、優志は寝る準備を整えて、もう眠ろうとベットに横になっていた。
しかし…。
眠れない…。
優志はなかなか寝付けなかった。
その理由はもちろん、透に言ったように怖いとかの理由ではなかった。
優志の家はアパ―トで部屋数が少ないので、家族全員同じ部屋で寝ていた。
優志には弟が2人いた。小学4年生と3年生の年子の弟達。
優志は年のわりに早く寝る方なのだが、逆に弟達は、いつまでも騒いでいて夜更かしするので、優志が寝ようとする時は、大抵弟達が騒いでいる。
いつもはうるさいと思っているのだが、そんな状態に慣れてしまっている。
つまり静かすぎて眠れないのだった。
…………………。

「そっか。いい村で良かったね。優志も一緒に、2人とも頑張って!」
お互いに今日のことを詳しく説明した後、明里が透、鈴良に向かって言った。
「はい。明里先輩も。実くんと星成くんにも伝えて下さい」
「うん、もちろん。2人とも喜ぶよ。
 じゃあまた今度話そうね。」
明里の言葉に、2人ともすがすがしい気持ちでうなずいた。
「はい。お休みなさい」
『うん、お休み』
明里が最後にそう言うのが聞こえて、透はボタンを押して電話を切った。
「明里先輩達、楽しそうだったね」
透が鈴良を向いて満足した気持ちで言うと、鈴良もにっこり笑った。
「そうね。アウトドアもおもしろそう。
今度、実くんや星成くんから話を聞くのが楽しみね」
鈴良の言葉に透がうなずいた。
「うん。そうだね」
実くんと星成くんにはどんな1日だったんだろう…?
そんなふうに今はすっかり眠っている2人のことを思いながらも、透と鈴良は自分達も眠くなってきているのに気付いた。
大体3人とも夕方美術室に行ったのにこの村の昼に送られてきたわけだから、いつもより長く起きていることになる。
「わたし達も、もう寝ようか」
透がそう言うと鈴良もうなずいた。
「うん、そうしましょう」
2人とも寝る準備を始めた。

その頃には優志も昼間の疲れが出てきて眠くなっていた。
透達はしばらく布団の中で今日の出来事を思い出してうきうきしていた。
今日は今までで1番不思議なことがあったけど、楽しい1日だったなあ。
明日はどんなことがあるのかな。
そう透と鈴良は明日に期待しながら眠りについた。

2001年7~8月制作
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