1日目

山編2─楽しい魚釣り

透達との電話が終わった明里達は、今日はこれ以上山を登らないことに決めた。
まだ陽は高かったけれど(午後2時くらい)、野宿をする明里達にはいろいろやることがあったし、これから進んでいい場所を見つけても、1日に何枚も絵を描けないからだった。
最初にやるのはまず泊まるところを確保するため、テント張り。

明里はおじいさんにこれからのことを電話して聞いてみた。
「銀じいさん、あたし達、どこに泊まればいいの?」
明里は、今回は話しやすいように電話機を耳に当てて話しているので、実と星成にはおじいさんの声は聞こえない。
『それはのう。テントを3つ送るから、それを使っておくれ』
そうおじいさんの声が聞こえると、間もなく折りたたまれたテントが3つぱっと3人の足元に現れた。
!! !! !!
3人は激しく驚いた。
実と星成はおじいさんの言葉を聞いていなかったので突然のことに驚いたが、聞いた明里さえ驚いた。
銀じいさんってこんなこともできるんだ。
明里はそう感心したが、自分達が絵の中へ送られてきたのも似たようなものだ。
『食料は夜は材料を送るが、昼は魚でも釣って食べておくれ』
明里が少し落ち着いて電話機を耳に当てると、おじいさんがそう言うのが聞こえた。
そしてまた釣竿がぱっと現れた。
明里はそれを確認すると、明るく返事をした。
『うん、わかった。ありがとう、銀じいさん。
あたし達、これからも頑張ってばっちりいい絵を描くからね』
おじいさんはそれを聞いてうれしそうだった。
『ああ、よろしく頼むよ』

そういういきさつがあったのだった。
絵を描く時に座った切り株の近くに開けた場所があったので、そこにテントを張ることにした。
テント張りは、明里の指導の元行われた。
明里は、よく家族でキャンプに行ったりしていたので、張り方をよくわかっていたのだった。
3人で力を合わせて1つずつ作る。
やっと3つ立つと、
「完成!」
明里が言って、実、星成は喜んだ。
「やったあ」
黄色のテントが3つ。
2つは川向きに並べて立てられ、もう1つはその2つのテントの向かいに立てられた。
「じゃあ、あたしはこれにする」
明里は真っ先に、切り株に1番近い手前のテントをとった。
「じゃあ、僕はここ」
続いて星成が、明里の隣のテントを指差した。
そんな2人の言葉に実は動揺した。
「ええっ!じゃあ、オ…いやぼくは、あそこ?」
実はそう言いながら、1つだけ向かいにあるテントを指差した。
「そういうことになるんじゃない?」
明里がそう平然と言うと、実は必死に言った。
「ぼくだけ隣誰もいないんですか?」
しかし明里に、
「大丈夫だって!向かいには星成がいるじゃんか」
そう言われてよくよく考えてみると、
あ、そう言われればそうだな。
と思い直した。
実のテントは星成のテントのちょうど向かいに立っているし、それほど離れているわけでもない。
今実がいる位置から見ると、自分のだけ離れているように見えたが、近づいてみるとそれがよくわかった。
実が納得していると、星成と明里は今後について話し合っていた。
「次は何をしますか?」
星成が明里にそう聞く。
「じゃあおなかもすいたし、魚でも釣ろう」
明里のその言葉に実は戻ってきた。
明里は釣竿を持って2人に聞いた。
「釣竿2本しかないけど、誰が行く?」
「ぼく」
すかさず実が立候補した。
「僕も」
もちろんさっきから釣りをしたがっていた星成も手を挙げて明里を見た。
明里は2人のそんな真剣な目にちょっとたじろいだ。
「う-ん、わかった。2人で行ってきなよ」
そして2人にそれぞれ1本ずつ釣竿を渡した。
わ-い、やったあ。釣りができる。
実と星成は幸せでいっぱいになった。
「たくさん釣ってきますね」
「明里先輩、行ってきま-す」
星成、実はそう言って笑顔で駆け出して言った。
残された明里は、そんな2人を見て笑っていた。
2人とも、まったく子供らしくてかわいいんだから。
そして振り返って林の中を見回した。
さ-て、あたしは何してよう?
そこら辺を歩いて、いいもの探してみようかな。
そう思い歩きはじめた。

「うれしいな。釣りができて」
実と星成は、川に釣り糸を垂らしながら喜んでいた。
「本当きれいだな、ここの水。思ってたよりずっと透明だし、魚が見える」
実が川を見つめながら感心する。
2人は、さっき星成が水を汲んだところよりも少し高いところにいた。
うまく釣り糸が垂らせそうな場所をいくつか見つけて、そこに分かれて座っていた。
「あ、魚釣ったらどこに入れておこう?」
星成がふと気付いた。
2人は釣竿1本しか持っていない。
しかもその釣竿は、釣り糸の長さを調節できたりするタイプではなく、昔ながらの釣竿だった。
しかし釣竿については、2人が満足しているので、それでいい。
「バケツでも無いと困るよな」
星成の言葉に実が答えてつぶやくと、なぜか川上からバケツが。
「ああっ!」
2人ともとても驚いた。
「オレ、取ってくる」
実はそう言って釣竿を一旦置くと、低いところに降りてバケツを拾い上げた。
そしてバケツを持ってにこにこしながら戻ってきた。
「なんかすっごくラッキ-だな」
そしてバケツを2人の真ん中に置くと、また釣りを再開した。
実はラッキ-としか思っていなかったが、星成は今の出来事が偶然とは思えなかった。
やっぱり、あのおじいさんが…?

それからしばらくして…。
もう魚は充分なくらい釣れていた。
「よく釣れるな」
実がウキウキしながらそう言った。
拍子抜けするくらいあっさりと魚が釣れる。
それに対して、星成は不思議に思いながら返事をした。
「本当に。餌も何も付けてないのに」
本当に何も付けていない釣竿なのに、よく魚がかかってくる。
最初は釣りが出来るうれしさに餌を付けるのを忘れていたのだが、途中でふと気付いた。
『あれ?そういえば餌付けてなかったよな。
なのに何で釣れるんだろう?」
全くの謎だが、とにかく釣れるから2人は釣り続け今に至るのです。
「あ、また魚が寄ってきた」
川の水がきれいなため魚の動きがはっきりわかり、それもまた楽しい2人だった。
「釣れた」
星成が竿を引き上げた。
ドボン
釣った魚をバケツに入れて、バケツの中の魚を確認しながら、星成は実に言った。
「もう大分魚釣れたし、そろそろ止めるか?」
実はうなずいた。
「そうだな。じゃあ明里先輩のところに戻るか」
実は竿を引き上げて星成のところまで来た。
「釣りできてよかったよな」
実が笑顔で言うと、星成も笑って言った。
「そうだな。なんかちょっと簡単すぎた気もするけど、楽しかったよな」

明里は、マッチを持って待っていた。そして足元には小枝の山。
「お帰り-」
2人の姿が見えると大きく手を振った。
「ただいま」
2人はうれしそうに、明里にバケツの中を見せた。
「うわあ。よく釣れたね-」
明里は魚を見て歓声をあげた。
「はい。楽しいくらいに釣れちゃって」
そう星成は言って、心の中でこう付け加えた。
まあ、釣れなくても釣り自体楽しいけどな。
そして明里の持っている物に気付いた。
「あれ?明里先輩、そのマッチは-?」
「ああ、これはね-」
それに応えて、明里は自分が星成達と分かれた後のことを話し始めた。
「あたしが何かいい物はないかと林の中を歩いていると-。
『何か他に食べられそうなものないかな-?』
突然この電話があたしの手に飛んできて…。すっごいびっくりしちゃった。
それで見てみると、銀じいさんに電話するときの丸いボタンが光ってたの。
そのボタンを押したら、銀じいさんの声が聞こえてきたんだ。
『明里さん、今いるあたりには食べられるものは生えていないよ』
『あ、そうなんだ』
あたしがちょっとがっかりすると、銀じいさんが教えてくれたんだ。
『ただ、実くん、星成くんが釣ってきた魚は焼いて食べないとだめじゃろう?
だから燃えるものが必要じゃな。2人が帰ってくる前に落ちている枝を集めるといい』
『うん、そうするね』
あたしがうなずくと、銀じいさんが、
『あと火を付けるマッチは、絵を描くときに座っていた丸太の上に置いておくからのう』
だからマッチもあるってわけ。
どう?魚を焼けるくらい枝集まったでしょ?」
明里はそう言って枝の山を指差した。
実と星成は、明里の話を聞いて納得した。
それにしても、電話が飛んでくるなんて驚きだ。
星成はそう思ったが、さっきの電話で透達がそういう思いをしたことに気付いていない。
「じゃっ、魚焼いて食べよう。2人ともおなかすいてるでしょ?」
明里が実と星成に聞くと、2人ともしっかりうなずいた。
「はい。とっても」
もし現実の世界にいたら、夕飯の時間を過ぎているくらいの時間が経っていた。
明里は2人の答えを聞くと、マッチをシュッとすって、枝の山に火をつけた。
あれ?
星成はふと疑問に思った。
「明里先輩、どうやって魚焼くんですか?網もないし」
その星成の言葉に実も気付いた。
「このまま火に入れるとか?」
そんな2人に首を振って明里は教えた。
「ああ。それは魚に枝を刺して、火のまわりに立てるといいんだよ」
2人が知らないことも、明里は家族とのキャンプでいろいろ学んでいるのだった。
そして明里が教えながら、3人は魚を立てた。
星成も実も、そんな明里に改めて感心した。
明里先輩、すごいな-。やっぱりいろいろな経験をするって大事なんだな-。
星成はそう思った。
しばらくすると、こげ色がついていい匂いがしてきた。
「あ、焼けたかな」
明里がそう言うと、実は張り切って言った。
「じゃあ食べましょう、食べましょう」
3人はそれぞれ魚を手に取った。
「では、いただきます」
3人は魚を食べはじめた。
実と星成は、こういう食べ方は初めてだったけれど…。
「おいしい!」
「おなかすいてたからとっても幸せ」
3人とも、とてもうれしく魚を味わった。
そしておなかがいっぱいになると、バケツの中に残った魚を、感謝しながら川に戻したのでした。

2001年6月制作
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