1日目
山編1─アウトドア生活開始!
先におじいさんに絵の中へと送られた明里__あかり__、実__みのる__、星成__ほしなり__の3人。
気が付くと、山のふもとに立っていた。
それはとても大きな山で、木々の様子から今は春らしかった。
「本当にとばされちゃったなー」
実がそう瞳を丸くする。
「すごかったね。目の前が白くなったかと思ったら、すぐ…だもんね」
不思議な感覚だったな…。
明里もそう驚きを顔に出していた。
そんな中、1番早く自分のペースを取り戻した星成。
辺りをきょろきょろと見回していた。
そしてふと足元に視線をやる。
ん?
そしてとても驚いた。
「あっ!靴が変わってる」
送られた時にはいていた上履きではなくなっていた。
それも下駄箱に入れておいた自分の靴に、いつのまにか変わっていたのだった。
その声に、実も自分の靴を見た。
「本当だ!」
「きっとあの人が気を利かせて、変えてくれたんだろうな」
星成はもう落ち着きを取り戻して、明里に問い掛けた。
「明里先輩、早速登りますか?」
それまで、さっきの不思議なことを考えていた明里。
その星成の問いにはっと我に返った。
「あっ!うん。そうだね。登ろう!」
明里を先頭に、3人は山の中へと足を踏み入れていった。
「うわあ。鳥の声が聴こえる」
その山はたくさんの木が並んでいて、木漏れ日が美しい。
その中を3人は、周りの景色を見回しながら歩いていた。
そして明里が、聴こえてきた鳥の鳴き声に感嘆の声をあげたのだった。
この山、気温もちょうどいいし、鳥の声もたくさん聴こえてきて、気持ちいいなー。
そんな明里と、実と星成も同じ気持ちで、とてもうれしそうに歩いている。
そして明里が突然振り返った。
「ねえ!星成。
こんなにいっぱい鳥がいるけどさ、何か知ってるのいない?」
そう聞かれた星成は、木の上の方を見上げた。
うーん。どこかに姿の見える鳥はいないかなー?
探していると、ある鳥の声がひときわ大きく聴こえてきた。
チチッ チチッ
星成はすぐに鳴き声のした方を見る。
そして木の枝にとまっている鳥を見つけた。
その鳥は星成が本で読んで知っているものだった。
そこで指を差して、詳しく説明を始める。
「あれはミヤマホオジロという鳥です。
ここから見ると小さく見えるけど、13cm位はあるんです。
あの鳥は10月頃に現れて、4月頃いなくなるそうです。
だからこの気候と合わせて考えると、今は3月下旬頃だと思います」
「そうなんだ。星成、凄いなあ」
実は親友の博識ぶりに感心した。
しかし聞いた本人の明里は、あろうことかよく聞いていなかった。
それどころか違うことを考えていた。
うーん。こんなにたくさんの鳥がいるんだから、鳥の絵を描くっていうのもいいかも。
美術部部長だけあって、もう絵のことを考えている。
思いつくとすぐに提案してみた。
「ねえ実、星成!
今日は鳥の絵を描かない?
鳥って今までに描いたことがないし、描いてみたいな」
しかしこれには星成が反対した。
「それはまた今度にしませんか?
鳥って木の高いところにいるからよく見えないし、動くし…。
僕達にはまだ難しいです」
そう首を振ってから、他の提案をする。
「それよりも木を描きませんか?
芽吹いてきたところだから、今しか描けない貴重なものだと思いますよ」
うーん。それもそっか。木もいいよね。
明里はすぐに納得した。
そして良さそうな木を探し始める。
「じゃあ…、あっ。あそこに切り株がある。
あそこに座って描こうよ」
明里が指差す先には、3つの切り株があった。
明里はいち早く駆けていって、切り株に座る。
「椅子もあるなんてラッキー」
その後に実が続く。
星成は立ち止まって考えた。
切り株がこんなに都合良く3つあるなんて
これもあのおじいさんが、僕達がここで絵を描くと思って置いたんだろうか?
それとも旅に必要な物を送るっていうのは、こういうこと?
いや、それは考えすぎで偶然かも…。
そんな考えがぐるぐると回る。
「星成―。どうしたんだよー。
早く来いよー」
実はそんな星成を呼ぶ。
その声にはっとして、星成は追求するのを止めた。
そして2人の元へ急いで走っていく。
そう3人揃ったので、早速絵を描き始めることにした。
絵を描くには道具が必要だ。
そこで3人はそれぞれ、おじいさんからもらったリュックサックを探った。
「あ、あたしは鉛筆が入ってた」
明里にはいつも部活で描き慣れている鉛筆が出た。
僕は水彩絵の具だ!
星成も普段部活では、水彩絵の具で描いている。
パレットから水汲みバケツまで、必要な道具は全部揃っていた。
そんな2人を見ながら、実は考えた。
明里先輩も星成も、いつも部活で使っている道具だな。
…ということは、オレも星成と同じ水彩絵の具かな?
いつも星成と一緒に、水彩で描いているもんな。
そう考えたが、しかし…。
出てきたのはなぜか、18色のクレヨンだった。
「えー!ぼくはクレヨン?」
実はあまりの驚きに大声を出した。
クレヨン…何でクレヨン…?
おじいさん、何でオレのはこれにしたんだろう?
実はしばらくショックから立ち直れなかった。
その間に星成は、水汲みバケツを持って立ち上がる。
「じゃあ僕は、あそこの川から水を汲んできます」
そう近くの川に向かった。
3人がいる切り株から見える程すぐ近くに、川が流れていたのだった。
やっぱり気になるなあ。
実際のところ、どうなんだろう?
そうまたさっきの疑問がわきあがってくる。
しかし川を見ると、すぐに忘れてしまった。
「うわ―。きれいな水だな―」
その川は水がとても透き通っていた。
小さな魚が泳いでいるのが見える程だ。
「絵に描いたようにきれいだなー。
…あっ、ここは絵の中なんだっけ」
そう星成は思い出して、自分に突っ込む。
「……それにしても、魚を見ると釣りしたくなるな―」
そうしばらく魚を見つめる。
しかしすぐに、ここに来た目的を思い出した。
あっ!今はそれより絵を描かなくちゃいけないんだった。
そのために僕達はここに来たんだから。
急いで水を汲むと、明里と実のいる切り株へと戻る。
星成__ほしなり__が戻ると、実__みのる__は立ち直っており、明里__あかり__と一緒に絵を描いていた。
そこに星成が意気揚々と帰ってくる。
「すっごくきれいな川でしたよ。
魚もいるし…」
星成が川の話をすると、明里は手を止める。
「へ―。いいね」
実も手を止めて、ちょっぴりわくわくしながらいった。
「魚がいるんだったら、釣りしたいな」
親友だからか、星成と考えることが同じだった。
星成は実のその言葉にうれしくなる。
そしてついつい禁じられていることをいいそうになった。
「そうだよな―。
おれ…いや、ぼくもそう思っていたんだよ」
そして慌てていい直した。
星成と実は、明里に「おれ」というのを禁じられているのだった。
その理由は、表向きは年上に対する礼儀だといわれている。
しかし本当の理由は、透達からこっそり聞いていた。
それは明里の勝手な意見だが、同情もあって、2人はいう通りにしている。
だから普通2人は、部活動中は「ぼく」といっていた。
特に星成は素もそうなので、めったにいい間違えることはなかった。
しかし機嫌がとても良くなると、ついつい友達と一緒にいる時に使う言葉が出てきてしまうのだった。
星成はごまかし笑いをする。
そして切り株に座り、絵を描き始めた。
ふう。危ない、危ない。
すぐにいい直したためか、明里の機嫌が悪くなった様子はない。
それを横目で確認した星成は、ほっとため息をついた。
そして描き終わった3人は、絵の見せ合いを始めた。
「わー。明里先輩の絵はいつもながら、細かくてきれいですねー」
星成が素直に、明里の絵に感心する。
そう鉛筆で細かく描くのが、明里は得意なのだ。
「そういう星成の絵も、ほわっとしてていいよね」
星成の絵は、明里の黒一色の絵とは雰囲気が違って見える。
水彩絵の具のやわらかい筆の味が出ていた。
それから明里は、実の絵を見て元気に笑う。
「実のもカラフルできれいだよね」
実の絵はクレヨンなので、星成のよりもずっと色がはっきりしている。
見た目がとても明るかった。
えっ!
自分の絵が意外にもほめられたことに、実はうれしくなった。
「そうっすか?」
そっか。きれいに見えるなら、クレヨンでもいっか。
そう明里のおかげで思い直す。
それぞれ道具の持ち味が光る、とてもいい絵に仕上がった。
そう初仕事を終えた3人は、スケッチブックを閉じて、軽く伸びをした。
絵を描いている間はずっと同じ姿勢でいたので、少し体が凝ったのだった。
各自軽い体操をして、体の調子を元に戻す。
それから明里はぱっと思いついた。
そうだ!透__とおる__ちゃん達に電話してみようかな。
そういえばあたし達が先にこっちに来たから、透ちゃん達がどんなところにいるのかも知らないしね。
そう明里は、制服のポケットに入れておいた魔法電話を取り出す。
「先輩、誰に電話するんですか?」
実がそう尋ねる。
「透ちゃん達はどうしてるのか、かけてみようと思って」
気持ちがはやる明里は、電話機を見つめながらそう答えた。
えーと、透ちゃん達へは星形のボタンだったよね。
そう思い出しながら、ボタンを押す。
すると星が光った。
そこで普通電話をする時のように、耳にあてようと明里は思った。
しかしその前に、透の声がしっかりと聞こえてきた。
『はい、透です』
そこで明里は、実達も話が出来るように、電話を真ん中の切り株の上に置いた。
そしてしゃがんで、電話に向かって話し始める。
「透ちゃん?あたしだよ、明里。
あたし達は結構楽しんでるよ。
きれいでいい山なんだ」
そう礼儀で、まずは自分達のことを話してから尋ねる。
者
「透ちゃん達は、どんなところにいるの?」
すると透もとても楽しいらしく、明るい声で返ってきた。
『わたし達はおじいさんに、村で絵を描くように頼まれたんです。
それで今、村の入り口で描いていたんですよ』
そんな透の雰囲気に、星成と実も明るく話しかける。
「透先輩!元気そうですね」
その声でますます元気になったらしい、透の声が聞こえてくる。
『実くん、星成くん!
うん。とっても楽しいよ。
村の人もとってもいい人達だし』
そんな和やかな雰囲気の時に小さく、#鈴良__すずら__#の慌てた声が聞こえてきた。
『透ちゃん、野村くんが…』
またその後、慌てているような透の声も聞こえてくる。
『あっ!優志__ゆうじ__くん、待って!』
………?どうしたんだろう?
明里達3人は不思議に思いながら、それを聞いている。
少し経って、透の声が聞こえてきた。
『あの…、ごめんなさい。
また後でかけ直してもいいですか?』
そんな慌てた透とは逆に、明里は明るく笑いながら答える。
「あ。特別用があったわけじゃないから、気にしなくていいよ。
でも暇が出来たら、ぜひかけてちょうだい」
『じゃあ今夜かけますね。すみません』
そう透は電話を切ったらしかった。
星のボタンの光が消える。
そこで明里は電話機をまたポケットにしまった。
今の話に対して、星成と実は不思議そうにつぶやく。
「透先輩、どうしたんだろう?」
「何か慌てていたみたいだけど」
そう首をひねる実達とは違って、明里は想像が付いた。
そこで意味ありげにいう。
「優志と一緒じゃ、透ちゃん達も大変だよね」
あいつは真面目にやらないだろうしなあ。
でもこの実達の方が、優志の相手は無理だしねえ。
ふう。
そうため息をつく。
そんな明里に、何だかわからない実と星成は問い掛けた。
「え?」
「明里先輩、何ですか?」
実と星成は、美術部に入ってまだ半年だ。
めったに部活に出ない優志のことは、ほとんど知らないのだった。
「まあなんとかなるよね」
明里はそう自分でうなずく。
そして実達に向き直って、右手を挙げた。
「さあ、それはとりあえずいいとして、あたし達も頑張るぞ!」
「は、はい」
実と星成は、明里の気迫に押されてうなずいた。
そううまくはぐらかされてしまった2人だった。
2000年12月制作
先におじいさんに絵の中へと送られた明里__あかり__、実__みのる__、星成__ほしなり__の3人。
気が付くと、山のふもとに立っていた。
それはとても大きな山で、木々の様子から今は春らしかった。
「本当にとばされちゃったなー」
実がそう瞳を丸くする。
「すごかったね。目の前が白くなったかと思ったら、すぐ…だもんね」
不思議な感覚だったな…。
明里もそう驚きを顔に出していた。
そんな中、1番早く自分のペースを取り戻した星成。
辺りをきょろきょろと見回していた。
そしてふと足元に視線をやる。
ん?
そしてとても驚いた。
「あっ!靴が変わってる」
送られた時にはいていた上履きではなくなっていた。
それも下駄箱に入れておいた自分の靴に、いつのまにか変わっていたのだった。
その声に、実も自分の靴を見た。
「本当だ!」
「きっとあの人が気を利かせて、変えてくれたんだろうな」
星成はもう落ち着きを取り戻して、明里に問い掛けた。
「明里先輩、早速登りますか?」
それまで、さっきの不思議なことを考えていた明里。
その星成の問いにはっと我に返った。
「あっ!うん。そうだね。登ろう!」
明里を先頭に、3人は山の中へと足を踏み入れていった。
「うわあ。鳥の声が聴こえる」
その山はたくさんの木が並んでいて、木漏れ日が美しい。
その中を3人は、周りの景色を見回しながら歩いていた。
そして明里が、聴こえてきた鳥の鳴き声に感嘆の声をあげたのだった。
この山、気温もちょうどいいし、鳥の声もたくさん聴こえてきて、気持ちいいなー。
そんな明里と、実と星成も同じ気持ちで、とてもうれしそうに歩いている。
そして明里が突然振り返った。
「ねえ!星成。
こんなにいっぱい鳥がいるけどさ、何か知ってるのいない?」
そう聞かれた星成は、木の上の方を見上げた。
うーん。どこかに姿の見える鳥はいないかなー?
探していると、ある鳥の声がひときわ大きく聴こえてきた。
チチッ チチッ
星成はすぐに鳴き声のした方を見る。
そして木の枝にとまっている鳥を見つけた。
その鳥は星成が本で読んで知っているものだった。
そこで指を差して、詳しく説明を始める。
「あれはミヤマホオジロという鳥です。
ここから見ると小さく見えるけど、13cm位はあるんです。
あの鳥は10月頃に現れて、4月頃いなくなるそうです。
だからこの気候と合わせて考えると、今は3月下旬頃だと思います」
「そうなんだ。星成、凄いなあ」
実は親友の博識ぶりに感心した。
しかし聞いた本人の明里は、あろうことかよく聞いていなかった。
それどころか違うことを考えていた。
うーん。こんなにたくさんの鳥がいるんだから、鳥の絵を描くっていうのもいいかも。
美術部部長だけあって、もう絵のことを考えている。
思いつくとすぐに提案してみた。
「ねえ実、星成!
今日は鳥の絵を描かない?
鳥って今までに描いたことがないし、描いてみたいな」
しかしこれには星成が反対した。
「それはまた今度にしませんか?
鳥って木の高いところにいるからよく見えないし、動くし…。
僕達にはまだ難しいです」
そう首を振ってから、他の提案をする。
「それよりも木を描きませんか?
芽吹いてきたところだから、今しか描けない貴重なものだと思いますよ」
うーん。それもそっか。木もいいよね。
明里はすぐに納得した。
そして良さそうな木を探し始める。
「じゃあ…、あっ。あそこに切り株がある。
あそこに座って描こうよ」
明里が指差す先には、3つの切り株があった。
明里はいち早く駆けていって、切り株に座る。
「椅子もあるなんてラッキー」
その後に実が続く。
星成は立ち止まって考えた。
切り株がこんなに都合良く3つあるなんて
これもあのおじいさんが、僕達がここで絵を描くと思って置いたんだろうか?
それとも旅に必要な物を送るっていうのは、こういうこと?
いや、それは考えすぎで偶然かも…。
そんな考えがぐるぐると回る。
「星成―。どうしたんだよー。
早く来いよー」
実はそんな星成を呼ぶ。
その声にはっとして、星成は追求するのを止めた。
そして2人の元へ急いで走っていく。
そう3人揃ったので、早速絵を描き始めることにした。
絵を描くには道具が必要だ。
そこで3人はそれぞれ、おじいさんからもらったリュックサックを探った。
「あ、あたしは鉛筆が入ってた」
明里にはいつも部活で描き慣れている鉛筆が出た。
僕は水彩絵の具だ!
星成も普段部活では、水彩絵の具で描いている。
パレットから水汲みバケツまで、必要な道具は全部揃っていた。
そんな2人を見ながら、実は考えた。
明里先輩も星成も、いつも部活で使っている道具だな。
…ということは、オレも星成と同じ水彩絵の具かな?
いつも星成と一緒に、水彩で描いているもんな。
そう考えたが、しかし…。
出てきたのはなぜか、18色のクレヨンだった。
「えー!ぼくはクレヨン?」
実はあまりの驚きに大声を出した。
クレヨン…何でクレヨン…?
おじいさん、何でオレのはこれにしたんだろう?
実はしばらくショックから立ち直れなかった。
その間に星成は、水汲みバケツを持って立ち上がる。
「じゃあ僕は、あそこの川から水を汲んできます」
そう近くの川に向かった。
3人がいる切り株から見える程すぐ近くに、川が流れていたのだった。
やっぱり気になるなあ。
実際のところ、どうなんだろう?
そうまたさっきの疑問がわきあがってくる。
しかし川を見ると、すぐに忘れてしまった。
「うわ―。きれいな水だな―」
その川は水がとても透き通っていた。
小さな魚が泳いでいるのが見える程だ。
「絵に描いたようにきれいだなー。
…あっ、ここは絵の中なんだっけ」
そう星成は思い出して、自分に突っ込む。
「……それにしても、魚を見ると釣りしたくなるな―」
そうしばらく魚を見つめる。
しかしすぐに、ここに来た目的を思い出した。
あっ!今はそれより絵を描かなくちゃいけないんだった。
そのために僕達はここに来たんだから。
急いで水を汲むと、明里と実のいる切り株へと戻る。
星成__ほしなり__が戻ると、実__みのる__は立ち直っており、明里__あかり__と一緒に絵を描いていた。
そこに星成が意気揚々と帰ってくる。
「すっごくきれいな川でしたよ。
魚もいるし…」
星成が川の話をすると、明里は手を止める。
「へ―。いいね」
実も手を止めて、ちょっぴりわくわくしながらいった。
「魚がいるんだったら、釣りしたいな」
親友だからか、星成と考えることが同じだった。
星成は実のその言葉にうれしくなる。
そしてついつい禁じられていることをいいそうになった。
「そうだよな―。
おれ…いや、ぼくもそう思っていたんだよ」
そして慌てていい直した。
星成と実は、明里に「おれ」というのを禁じられているのだった。
その理由は、表向きは年上に対する礼儀だといわれている。
しかし本当の理由は、透達からこっそり聞いていた。
それは明里の勝手な意見だが、同情もあって、2人はいう通りにしている。
だから普通2人は、部活動中は「ぼく」といっていた。
特に星成は素もそうなので、めったにいい間違えることはなかった。
しかし機嫌がとても良くなると、ついつい友達と一緒にいる時に使う言葉が出てきてしまうのだった。
星成はごまかし笑いをする。
そして切り株に座り、絵を描き始めた。
ふう。危ない、危ない。
すぐにいい直したためか、明里の機嫌が悪くなった様子はない。
それを横目で確認した星成は、ほっとため息をついた。
そして描き終わった3人は、絵の見せ合いを始めた。
「わー。明里先輩の絵はいつもながら、細かくてきれいですねー」
星成が素直に、明里の絵に感心する。
そう鉛筆で細かく描くのが、明里は得意なのだ。
「そういう星成の絵も、ほわっとしてていいよね」
星成の絵は、明里の黒一色の絵とは雰囲気が違って見える。
水彩絵の具のやわらかい筆の味が出ていた。
それから明里は、実の絵を見て元気に笑う。
「実のもカラフルできれいだよね」
実の絵はクレヨンなので、星成のよりもずっと色がはっきりしている。
見た目がとても明るかった。
えっ!
自分の絵が意外にもほめられたことに、実はうれしくなった。
「そうっすか?」
そっか。きれいに見えるなら、クレヨンでもいっか。
そう明里のおかげで思い直す。
それぞれ道具の持ち味が光る、とてもいい絵に仕上がった。
そう初仕事を終えた3人は、スケッチブックを閉じて、軽く伸びをした。
絵を描いている間はずっと同じ姿勢でいたので、少し体が凝ったのだった。
各自軽い体操をして、体の調子を元に戻す。
それから明里はぱっと思いついた。
そうだ!透__とおる__ちゃん達に電話してみようかな。
そういえばあたし達が先にこっちに来たから、透ちゃん達がどんなところにいるのかも知らないしね。
そう明里は、制服のポケットに入れておいた魔法電話を取り出す。
「先輩、誰に電話するんですか?」
実がそう尋ねる。
「透ちゃん達はどうしてるのか、かけてみようと思って」
気持ちがはやる明里は、電話機を見つめながらそう答えた。
えーと、透ちゃん達へは星形のボタンだったよね。
そう思い出しながら、ボタンを押す。
すると星が光った。
そこで普通電話をする時のように、耳にあてようと明里は思った。
しかしその前に、透の声がしっかりと聞こえてきた。
『はい、透です』
そこで明里は、実達も話が出来るように、電話を真ん中の切り株の上に置いた。
そしてしゃがんで、電話に向かって話し始める。
「透ちゃん?あたしだよ、明里。
あたし達は結構楽しんでるよ。
きれいでいい山なんだ」
そう礼儀で、まずは自分達のことを話してから尋ねる。
者
「透ちゃん達は、どんなところにいるの?」
すると透もとても楽しいらしく、明るい声で返ってきた。
『わたし達はおじいさんに、村で絵を描くように頼まれたんです。
それで今、村の入り口で描いていたんですよ』
そんな透の雰囲気に、星成と実も明るく話しかける。
「透先輩!元気そうですね」
その声でますます元気になったらしい、透の声が聞こえてくる。
『実くん、星成くん!
うん。とっても楽しいよ。
村の人もとってもいい人達だし』
そんな和やかな雰囲気の時に小さく、#鈴良__すずら__#の慌てた声が聞こえてきた。
『透ちゃん、野村くんが…』
またその後、慌てているような透の声も聞こえてくる。
『あっ!優志__ゆうじ__くん、待って!』
………?どうしたんだろう?
明里達3人は不思議に思いながら、それを聞いている。
少し経って、透の声が聞こえてきた。
『あの…、ごめんなさい。
また後でかけ直してもいいですか?』
そんな慌てた透とは逆に、明里は明るく笑いながら答える。
「あ。特別用があったわけじゃないから、気にしなくていいよ。
でも暇が出来たら、ぜひかけてちょうだい」
『じゃあ今夜かけますね。すみません』
そう透は電話を切ったらしかった。
星のボタンの光が消える。
そこで明里は電話機をまたポケットにしまった。
今の話に対して、星成と実は不思議そうにつぶやく。
「透先輩、どうしたんだろう?」
「何か慌てていたみたいだけど」
そう首をひねる実達とは違って、明里は想像が付いた。
そこで意味ありげにいう。
「優志と一緒じゃ、透ちゃん達も大変だよね」
あいつは真面目にやらないだろうしなあ。
でもこの実達の方が、優志の相手は無理だしねえ。
ふう。
そうため息をつく。
そんな明里に、何だかわからない実と星成は問い掛けた。
「え?」
「明里先輩、何ですか?」
実と星成は、美術部に入ってまだ半年だ。
めったに部活に出ない優志のことは、ほとんど知らないのだった。
「まあなんとかなるよね」
明里はそう自分でうなずく。
そして実達に向き直って、右手を挙げた。
「さあ、それはとりあえずいいとして、あたし達も頑張るぞ!」
「は、はい」
実と星成は、明里の気迫に押されてうなずいた。
そううまくはぐらかされてしまった2人だった。
2000年12月制作