2日目

村編5ーメミリーと泉へ!

「へえ。これがカト-ル達の描いたメインストリ-ト。
みんな、絵がうまいのね-」
メミリ-が透達の絵を見て、感心した。
サ-ラの宿から出てきたところ、すぐにメミリ-に捕まって、昨日描いた絵を見せているところだった。
「この村の大事な通りがとてもよく表されてるわ、うん」
メミリ-は3人の絵に満足した。
やっぱり頼んでよかった。どれもとっても素敵。
あ、そうだわ。
メミリ-はぱっと思い付くと、すぐに尋ねた。
「ねえ、3人とも。今空いてる?」
「?はい」
なんだろう?
3人は疑問に思いつつも、返事をした。
本当は、これからきつねの親子のように、昨日出来なかった村巡りをしようと思っていたけれど、急いでいるわけではないので、時間があるといえばある。
「素敵な絵のお礼に森の中を案内しようと思うんだけど、今からどう?」
3人はメミリ-のその提案に喜んだ。
「森?はいっ、行きたいです」
透と鈴良は張り切って返事をして、優志もわりと乗り気だった。
へえ。森か。おもしろそうだな。
3人のその反応をみて、メミリ-はすぐに計画を立て始めた。
「じゃあ、今だとお昼が近いから、お昼ごはんを持っていった方がいいわね。
リッケにもらいに生きましょ。
お弁当を入れるバスケットは、私の家から持っていくわ」
「リッケ…って?」
鈴良が聞いたことのない名前だったので聞いた。
メミリ-は簡単明瞭に説明する。
「村の人みんなの食事を作ってくれている人なの」
「じゃあ、他の人は作らないの?」
透が素朴な疑問を言った。
「うん。他の人もそれぞれ仕事があって、自分の役目をしっかりやっているからね」
その説明で、3人はこの村の仕組みがわかった。
なるほど。この村は分担制なんだ。
鈴良はさらに深く考えた。
…ということは、今朝の食事もそのリッケさんが作ってくれたものなのね。
「でも、昨日の歓迎会の料理はみんなで作ったのよ。私もね。
料理に限らず、昨日みたいに特別な時は、いつも担当している人に教えてもらいながら、みんなでやるの」
メミリ-はそう付け加えた。
そのやり方に、透と鈴良は好感をもった。
そういうのっていいなあ。
村の人がみんな仲がいいっていうのがよくわかる。
そんななごんでいる2人をよそに、メミリ-はきびきびと行動を開始することにした。
「では、まず私の家に行きましょう。
バスケットが先になくっちゃ、お弁当を運ぶのが大変だものね。
ついてきてね!」
そう元気に言って歩き出した。
メミリ-は歩きが早めだったので、透達は小走りぎみに着いていった。
昨日も元気に走り回ってたしな。さすがに歩くのも早いな。
優志も少し驚いていたが、元々歩くのはメミリ-並みに早いため、普通に着いていけた。
「ここよ。私の家」
メインストリ-トの入り口から見て左側のほぼ真ん中に、メミリ-の家があった。
サ-ラの宿は右側の1番奥のため、メインストリ-トのほぼ半分を今歩いてきたことになる。
しかし早足だったためわりとすぐに着いた。
村の建物はみんな木造だが、メミリ-の家は昨日のトロルおじさんの建物同様、少し高床になっていた。
5段の階段を昇って家の1階になるらしい。
「ただいま-。父さん、母さん!」
メミリ-がドアを開けると、メミリ-の両親らしい人がこちらを見た。
透達がいる玄関からは、すぐに続いている大きな居間が見えた。
他の部屋は、居間の奥にあるみたいだった。
メミリ-の両親は、居間のテ-ブルのところにいて、お母さんの方はテ-ブルの上を片付けており、お父さんの方はお茶を飲んでいるところだった。
2人はメミリ-のうしろにいる透達に気付くと、すぐにあいさつをした。
「おや、こんにちは」
「こんにちは」
3人もあいさつを返した。
メミリ-は両親のところに駆けていくと、元気よく言った。
「今からね、カト-ル達と一緒に森に行こうと思ってるの。
それで、お弁当を入れるバスケットを取りに来たんだ」
簡単明瞭に言うと、その言葉通り素早くバスケットを手に取った。
透達はドアのところに立って待っていたのだが、メミリ-の家を見て、
ほんとうに、外国みたいな家だ。
などと改めて思ったりしていた。
「では、行ってきま-す」
そう機敏に用事を済ませて、出て行くメミリ-。
そんな娘には慣れているらしく、両親は平常心な笑顔で見送った。
次に4人はリッケの家へと向かった。
リッケの家は、メミリ-の家からとても近かった。
村の入り口から見て右側の通りで、メミリ-の家よりは村の奥よりである。
メミリ-が戸を開けると、入り口のすぐ側に調理台があり、そこに女の人が立っていた。
すぐにメミリ-は単刀直入に用件を言う。
「リッケ。今から私達、森に行こうと思ってるの。
それでお弁当にして森の中で食べようと思うんだけど、今からお昼もらえない?」
メミリ-の声に振り返ったリッケは、透達もいることに気付いた。
そして透達は、リッケに見覚えがあった。
あれ、この人…。
優志はなんとなくだったが、透ははっきりと思い出した。
あ!昨日歓迎会の時、わたし達にいろいろごちそうをすすめてくれた人だ。
リッケはそんな透達を見て、納得した。
「ああ、カト-ルちゃん、スズラちゃん、ユ-ジくんだっけ?
そっか、昨日来た絵描きさんに森を案内しようってね」
そしてすぐに了解してくれた。
「大丈夫だよ。もうお昼作ってあったから。
じゃあ4人分お弁当箱に詰めるね」
「ありがとう、リッケ」
お弁当箱を受け取ったメミリ-は、バスケットに入れた。
バスケットはお弁当箱を入れるのにちょうどいい大きさだった。
透達は昨日のお礼を言った。
「昨日のごちそう、とってもおいしかったです。ごちそうさまでした」
リッケは快活な笑顔で応える。
「あらためて言われると照れるね。
でも、昨日のは特に腕によりをかけたっていうこともあるし、みんなで作ったものだし、そう言ってもらえるとうれしいね」
鈴良はさらに付け加えた。
「今日のチャ―ハンもおいしかったです」
その言葉を聞いて、透と優志は初めてわかった。
ああ。そうか。今朝サ―ラのところで食べた朝食も、リッケさんが作ってくれたものだったんだ。
サ-ラがチャ-ハンを持ってくるのが早かった理由がわかった2人。
「そう?じゃあお昼もおいしいよ」
リッケはちゃめっけを入れて応える。
透達3人は微笑んだ。
「じゃあ、行きましょう。行ってきま―す」
「行ってきま―す」
メミリ―に続いて、透と鈴良もリッケに手を振り、リッケの家をあとにした。
準備万端になったので、4人はメミリ―が先頭のもと森へと向かった。
しかし、森へは誰が先頭でも行けそうなほど、わかりやすかった。
森は小さいながらもちゃんと見えているし、それに1本道だったからだ。
メインストリ―トの奥から2㎞しか離れていないし、とりわけ危険なところもないので、村の人達が安心して行ける場所なのだった。
だからメミリ―や透達が森へ行くと言っても、誰も止めなかったのだった。
森に入ると、メミリ―は透達に説明してくれた。
「この森はね、私達にとっても大事なところなんだ。
 遊びに来るのも楽しいし、食料もここで採れるし。
 それにね、私達より小さい人や、たくさんの生き物が住んでるのよ」
その最後の言葉に、3人は反応した。
「そういえばあのきつねの親子も、この森から来たって言ってたな」
優志が今は村巡りをしてるであろう吉次・小太郎親子を思い出して言った。
「そうね。ここのきつね達はたくさん村に来てるわ」
メミリ―がうなずく。
透は違うところに着目していた。
「小さい人?」
楽しみにしていたので喜びに満ちた顔で、メミリ―に聞く透。
その言葉を聞いて、優志はおじいさんの言葉を思い出した。
小さい人って、じいさんが言ってた小人のことか?
メミリ―はおおまかに説明する。
「うん。私達によく似てるけど、小さいの。
 まあ服装や暮らし方とか、多少私達とは違うところもあるけど、見た目はそっくり」
「小さいって、どのくらいの大きさなんですか?」
鈴良が具体的に質問する。
「え―と、10㎝くらいの人もいるし、30㎝くらいの人も、1番大きい人だと50㎝くらいかな。
みんなそれぞれ種族が違うのよ」
メミリ―のその答えに、鈴良と優志は関心を持った。
「いろいろな大きさの人がいるんですね」
その小人さん達に会えたらいいのにな―。
透は心の中でわくわくしていた。
そんな話をしている時、偶然4人はある小人達の家の近くを通りかかっていた。
メミリ―がそのことに気付いて、透達に教える。
「ほら、あそこが1番小さい人達の家」
「え?」
3人がメミリ―の指差す先を見ると、そこにはきのこのような形の家がいくつかあった。
高さは透達のひざの高さもない。
「うわあ。ちいさ―い」
「1番小さいチップル族の家だからね」
そんなふうに喜んでいると、目の前に10㎝くらいの大きさの小人がやって来た。
手にどんぐりがいくつか入った籠を持って、赤い服に三角帽子、ぼんぼんも付けている。
よく絵本などに出てくる小人らしい姿だった。
あっ!
3人は小人を見るのは初めてなので驚いたけれど、その気持ちに差こそあれ、3人とも小人に会えてうれしかった。
絵本でよく見た小人さんだ。
特に透は、念願叶って大喜び。
「あ、メミリ―だ」
その小人は、自分を見ているメミリ―達に気が付いた。
そして持っていた籠を一旦地面に置いて、人懐っこい笑顔でトコトコと駆けてきた。
「ナッツ。元気?」
メミリ―の明るい問いかけにうなずいて、透達のことを聞く。
「うん。そっちの人達は?」
「村の外から来た絵描き旅行者のカト―ル、スズラ、ユ―ジよ」
「こんにちは」
透と鈴良があいさつすると、ナッツも体の大きさのわりに大きな声であいさつした。
「こんにちは!」
ナッツは見た目や声から見て、7歳くらいの男の子らしい。
「今日はカト―ル達を、泉に案内しようと思ってね」
「ああ。泉か。あそこはいいよね」
メミリ―の言葉に、ナッツは賛成する。
ここで初めて、メミリ―が透達を泉に連れて行こうとしているのだとわかった。
「ぼく、お家にごはんもって帰らなくちゃ」
籠を持ち上げて言うナッツ。
チップル族はどんぐりを主食にしているらしい。
「うん、じゃ、またね」
「ばいばい」
手を振って、たくさんある小さい家の中の1つに入っていった。
メミリ-、透、鈴良も小さく手を振る。
「すっごくかわいかったね-」
「ええ。小人に会えるなんてうれしかったわね」
チップルを見た感想を言う透と鈴良。
「そうだな。普通見れるものじゃないもんな」
優志もそう返事をしながらも、心の中ではするどく追求していた。
しかし、ここは本当にあのじいさんの描いた絵なのか?
ちょっと会っただけだけど、なんかあのじいさんの趣味のような気がしないな。


村編6-飲み物の沸く泉

メミリ-は、さっきも言っていた本題に入ることにした。
「他の小人達にも今度紹介するわね。では泉に行きましょう」
「泉?」
さっきのメミリ-の言葉は聞いていたが、どんなところかわからないので3人は聞き返す。
「森で1番カラフルなところよ。絵にしたらきっといいだろうなあと思ってね。
私達の飲み水はそこから汲んでくるから、毎日お世話になってるし」
カラフルって、何に色がついているのかしら?
鈴良は不思議に思った。
メミリ-の後をついて少し歩くと、木々が途切れて、開けた場所に出た。
「ここが泉よ」
そこは広い原っぱのような場所で、いくつかの泉があった。
「すご-い。いろんな色の泉だね」
透が真っ先に歓声をあげた。
本当にその泉は不思議なことに、いろいろな色の水がわいていたのだった。
「それにたくさん」
「大きさもいろいろだな」
鈴良と優志も言う。
その泉とは地面から湧いているのではなく、石造りの浅い井戸のような物だった。
そこに竹筒のような物から、水が流れてきていた。
そんな物が、原っぱのような場所の片側のはじにたくさん並んでいる。
泉の向こう側は樹の群れで、今まで通ってきた森と同じだった。
よく見ると、泉の水面に樹が映っていて、風情があった。
「でしょ?」
メミリ-は3人に感心されて、ますますこの泉を誇らしく思った。
「こんなにいろいろな色をしているけど、全部水なんですか?」
鈴良が素朴な質問をすると、メミリ-は首を振った。
「ううん。みんな違うわよ」
そしてメミリ-は向こうの泉まで歩いていくと、透達を手招きした。
3人が行くと、泉を1つずつ指差しながら説明していく。
「この黄色のは、レモンジュ-ス、茶色のは麦茶」
え!?え!?え!?
メミリ-の最初の説明で、透達は驚き混乱した。
メミリ-はそんな3人に気付かず、次々と教えてくれている。
「これは普通の水ね。
それからこっちはほら、昨日の歓迎会で飲んだでしょ?オレンジジュ-ス」
「ええ-!?」
透が少し落ち着いて考えてみて、やっぱり驚いて声に出した。
「どうしたの?カト-ル」
メミリ-はそんな透の声に驚く。
「ジュ-スやお茶が泉から?」
鈴良も驚きをかくせない表情で聞くので、メミリ-はきょとんとして聞いた。
「そう。スズラ達のところは違うの?」
「うん。わたし達のところでは作るの」
一生懸命気合いが入って言う透。
「へえ。飲み物も作るんだ」
メミリ-も逆に感心する。
「飲み物が天然で?すご-い」
透とメミリ-は、お互いに驚きあっていた。
あれ?でも…。
さっきまで一緒に驚いていた鈴良と優志は、はたと気付いた。
それで優志は、まだ驚いている透に、メミリ-には聞こえないように小声で教えた。
「おい、ここはじいさんの絵の中なんだぞ。
いくらでも好きなようにできるじゃね-か」
「ああ、そっか」
そういえばわたし達、魔法使いのおじいさんの絵の中にいるんだっけ。
ちょっぴり忘れてた。
透もそう納得した。
メミリ-はその話題を離れて、3人に張り切って言った。
「ここなら、カラフルできれいな絵ができるでしょ?」
「うん、ありがとう」
3人はお礼を言って、さっそく絵を描く準備にとりかかった。
画材を出すために、リュックをおろして開けてみると、中にはビニ-ルシ-トも入っていた。

その意味を考えてみようと周りを見てみると、泉の前は芝生で、特に座れそうところはない。
だから?これに座れって?
おじいさんが気をきかせてくれたのかしら。
おじいさん、こんなことまでわかっちゃうなんて…。
優志、鈴良、透の順でそう思い、おじいさんの力と心配りに感謝した。
そして透が感動のあまり大声を出した。
「おじいさん、すっご-い」
メミリ-はその声にびっくりして、問い掛ける。
「え?なに?おじいさん…って」
「え?う-ん」
どう答えたものかと透は困った。
おじいさんのこととか、ここが絵の中の世界だなんて、メミリ-達には言えないよね。
鈴良もとっさに言うことが思い付かず、はらはらしている。
しょうがねえなあ。
優志は透達の様子を見ながら、ビニ-ルシ-トを広げていた。
メミリ-は、今度はそんな優志に気を取られた。
「うわあ。ユ-ジ、準備い-い」
ほっ。優志くんのおかげで助かった。
透と鈴良は胸をなでおろした。
「それじゃ、絵、描こっか。鈴良ちゃん」
「そうね」
そうして3人は絵を描き始めた。
せっかくなので、透と鈴良は泉の中の色が描けるようにそれぞれ角度を工夫した。
優志は鉛筆画なので、自分の好きな位置から見て描いている。
やはり部活動とはいえ、絵を描く3人にはそれぞれ自分なりのこだわりがあるらしい。
すごいわね、3人とも。仕事をしている時はやっぱり違うわ。
メミリ-はそんな熱心な3人を見ながら、静かに準備をしていた。

よし、なかなかうまく描けた。
3人は自分で満足する絵を描き終わった。
それを見て取ると、すっかり準備を終えていたメミリ-が3人を呼んだ。
「おつかれさま-。お昼にしましょ-」
画材を片付けて、メミリ-の用意していた大きなピクニックシ-トに座る透達。
「メミリ-、用意しててくれたんだね。気付かなかった」
透が言うと、メミリ-は機嫌良くこたえた。
「うん。みんな仕事中だったし、私その間ひまだったから。
あ、それは麦茶ね。みんな麦茶好きでしょ?」
「はい」
それぞれの分としてコップに注いであった飲み物を指し示されて、3人はうなずいた。
「じゃあ、いただきましょう。いただきます」
「いただきま-す」
メミリ-から渡されたお弁当箱を開けると、中身はなんとカレ-だった。
普通、弁当にカレ-なんてないよな。
3人は驚いていたが、メミリ-は何も気にせずに食べている。
メミリ-にとっては、お弁当がカレ-でも普通なんだ。
またこの村のことを知った3人だった。
カレ-、お弁当で食べてもおいしいのかな。
冷たくなってるんじゃないか?
透と優志はそう不安がっていたが、鈴良はなかなかするどい読みをした。
この村って私達の常識と違うから、おいしいんじゃないかしら。
しかしそうは思っても、せっかく用意してもらったお弁当なので、3人は食べ始めた。
食べてみると不思議なことに、そのカレ-はあたたかくおいしかった。
「おいしい」
3人は最初不安に思ったこともあり、おいしさが余計感じられた。
そんな3人に、メミリ-は返事をする。
「そうよ。リッケの料理はいつだっておいしいんだから」
「そうだね」
この村って、本当にすごいな-。
そう改めて思った3人だった。
ん?いつもと味が違うと思ったら野菜カレ-だな。
3人は味わっているうちに、味のことにも気が付いた。
鈴良はいつもの通り、もっと深く考えている。
昨日の歓迎会でもお肉の料理は出なかったもの。きっと村の人みんな菜食主義なんだわ。
でもこの野菜カレ-もおいしいわね。
透は違うところを考えている。
でもカレ-ってルゥいるよね。どうしてるんだろ。
まさか泉みたいに、森にカレ-ルゥがなってるわけじゃないよね。
リッケさんが自分で作ってるのかな?
そんなことをいろいろ考えながら、透達がカレ-を味わっていると、ガラガラと透達が来た方の道から音が聞こえてきた。
?なんだろう。
透達が注目すると、それは小さめの樽をたくさん積んだ荷車を引いているダンだった。
「ダン!」
透達が意外に思って大声を出すと、ダンは気軽に言った。
「よっ!メミリ-、カト-ル、ユ-ジ、スズラ。
あんた達も森に来てたのか」
「こんにちは」
そう返事をしながら透達は、ダンの持ってきたものが気になっていた。
あの荷物はいったい…?
メミリ-はそんなダンを見慣れているらしく、普通に返事をする。
「ええ。カト-ル達の絵描きの仕事と、ピクニックにね」
「そうか。それは楽しそうだ」
ダンはそう言って、荷車を泉まで引いてきた。
そして荷車から樽をおろすと、樽にひしゃくで泉の水を汲み始めた。
4人はそんなダンの様子を見ている。
透達は好奇心から、メミリ-はそんなダンの働きっぷりを。
どうやらメミリ-は、真面目に働いている人を見ることが好きらしい。
ダンは他の樽には違う泉の水を汲み、全ての泉の水を少しずつ樽におさめる。
そしてその樽を荷車に積む。
ダンは慣れているのか、仕事が早かった。
「じゃあ、楽しんでな」
自分を注目していた透達にそう言うと、軽やかに車輪を回していってしまった。

「あんなにたくさんの水、どうするのかな」
透が思った通りのことを言うと、メミリ-が説明してくれた。
「あれはね、1日分の村の人の飲み水よ。
ダンは、泉から村へと飲み物を運ぶ仕事をしているの」
「へえ」
3人は納得した。
確かに、みんながここに来ないと飲み物が飲めないんじゃ大変だもんね。
透に続いて、優志がダンの体格や性格を考えて思った。
うん。ダンに似合った仕事だな。
鈴良も改めてさっき聞いたことを思い出す。
みんな何かしら仕事を持っているんだったものね。
「じゃあメミリ-は、なにか仕事をしているんですか?」
鈴良の問いに、メミリ-は首を振る。
「ううん。私達みたいな小さい人は、自分のお父さん、お母さんの仕事を手伝っているの。
だから自分の仕事は持っていないわ」
「なるほど」
透達はうなずいたが、優志は少し考えた。
小さい人って…、メミリ-って俺達より年上だよな。高校生くらいにみえるし。
優志が思っている通り、メミリ-は設定年齢17歳で、村の子ども達の中では1番大きい。
そんなことを考えている優志には誰も気がつかないで、メミリ-は続きを話している。
「まあ、シャミ-くらい小さいと何もしてないけどね。
シャミ-って知ってる?ナコの子なんだけど」
メミリ-の問いに、鈴良が返事をした。
「知ってます。ナコさんにはこの村に来た時に初めて会って、その時シャミ-も一緒でした」
「昨日の歓迎会の時も一緒にいたよね」
透も付け加える。
メミリ-はその返事を聞いて言った。
「シャミ-は小さいから、いつもナコと一緒にいるのよね。
そんなナコはね、他の家のシャミ-みたいに小さい子をお母さんが預けたい時に、預かる仕事をしているの」
ナコさんは、保母さんみたいな仕事をしてるんだ。
透はそんなナコを想像してみた。
うん、似合ってる。
「じゃ、お弁当食べ終わったし、森をぶらぶらしながら帰りましょう」
メミリ-がそう言って立ち上がった。
話をしている間に、いつのまにか4人共食べ終わっていた。
帰るとなると、透が森に来てからのことを振り返って言った。
「小人さんに会えたのも、こんな泉を見られたのも、ピクニックできたのも楽しかったね。
鈴良ちゃん、優志くん」
「そうだな」
「私達にはめずらしいことばかりだったものね」
優志と鈴良は、透の言葉にうなずく。
そして透はメミリーに向き直って言った。
「メミリー、連れてきてくれてありがとう」
「本当にありがとう」
「ありがとな」
自分に感謝する3人に、メミリーはこう言った。
「3人とも礼儀正しいのね。私も、みんなにこの森を見てもらえてうれしいわ。
でもまだまだこの森はいろいろあるのよ。たくさんの生き物も住んでいるし。
また来ましょうね」
「うん!」
透達は笑顔でうなずいた。
そうして4人は、森をのんびりと歩いて村へと帰っていきました。
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