4人で作る しあわせプレート

ゼノの誕生日の朝。9時にキッチンに集合した私アンジュとレイナ、カナタ、ユエの4人。
先日、予め決めていた分担通りに、それぞれ2時間ほどかけて料理を作る。
そして11時頃、私たち4人は料理を盛ったお皿を持って、ゼノの執務室を訪ねる。
ゼノには予告していないけれど、私が当番札を置いておいたから、いるはずだ。
当番札というものがあって、本当に良かった!
「こんにちは、ゼノ。みんなでお祝いにきたよ!」
そう私がドアを開けると、ゼノは片付けをしていたようだった。
まずメインのバースデープレートを持ったカナタが入る。
「ゼノ、誕生日おめでとう!」
その後に続いて入った、私たち3人も笑顔でお祝いする。
「ハッピーバースデー!」
「お誕生日おめでとうございます」
そんな私たちを見たゼノは目を丸くして、作業の手を止めた。
「えっ!?ありがとうございます。
みんな料理を持ってきてくれたの?こんなにたくさん」
そう私たちの持っている5皿を見回す。
そこでこの料理企画を発案したカナタが答える。
「うん。いつもお世話になっているゼノに、手料理でお返ししたくてさ。
お姉さん達にも、いろいろ協力してもらったんだ」
そう手料理と聞いて、この中に一人いる大先輩にゼノは恐縮する。
「ユエ様まで!?ありがとうございます」
するとユエも日頃のお礼を伝える。
「俺もゼノにはペガサスシステムとか、いろんなものを作ってもらってるしな。
この前も俺のために、ローストビーフを作ってくれただろ。ありがとうな。
だからカナタの話を聞いた時に、俺も何か作りたいと思ったんだ」
私たちはお皿を持ったままなので、2皿持ってくれているユエはこう訊ねる。
「ところでこの皿、テーブルに置いていいか?」
「あ、はい。すみません。お願いします」
そこで私たちはお皿を応接机に並べていく。
その料理を見て、ゼノは瞳をキラキラとさせる。
「うわ。嬉しいー。こんなに俺の好物を作ってくれたんだ」
それからゼノは、カナタが置いたメインのお皿を興味深そうに見る。
「このプレートには全部の料理が乗ってるんだね」
そのバースデープレートには、私たち4人が作った4品を少しずつ盛り付けてある。
クリームコロッケ、オムライス、ハンバーグ、ナポリタンを。
「あ、それはお姉さんのアイディアなんだよ」
そうカナタが私を見たので、経緯を説明する。
「ゼノの好きな料理を思い出していたら、そういうのを盛り合わせたプレートがあるのを思い出してね。
バースで私も大好きだったものなの」
このプレートのモデルはお子様ランチ。
私は小学生の間めいっぱい食べているくらい大好きだった。
数年前にも大人向けのお子様ランチがあると聞いて、食べに行ったりもしていた。
「ゼノはたくさん食べたいだろうから、結局おかわり用も持ってきたんだけど。
お祝い用のプレートもあってもいいなって。
4品でゼノの幸せを願う『しあわせ(4合わせ)プレート』だよ」
そう私がネーミングしたところ、3人とも「いいんじゃない」といってくれた。
最初にこのしあわせプレートを作ってから、残りをそれぞれお皿に盛り付けている。
私がそう説明すると、ゼノはにっこり笑ってくれた。
「幸せプレートかあ。
うん。このプレートは、立体映像で記録したいくらいステキだね。
それにたくさん食べられるのも嬉しいな」
そういってくれたので、このしあわせプレートも作ることにして良かった。
「このコロッケは、何が入ってるんだろう?楽しみだなー」
そう中身は見えない、ゼノ1番の大好物を見つめている。
爆発することもなく、キレイに揚がっているコロッケ。
これをメンバーで1番料理ができるレイナに頼んで良かった。
そのレイナは曖昧に答える。
「ゼノ様の好きなクリームコロッケを3種類用意しました。どれも野菜です」
実はそれぞれキャベツと、ポテトと、コーンなんだよね。
これがメインディッシュみたいなものだし、
ゼノを驚かせたいということで、秘密にする約束をしていた。
「具体的には食べてからのお楽しみだよ」
そうカナタが引き継いで、自分が作った物をアピールする。
「オレはこのハンバーグを作ったんだ。
高校の授業でも作ったことがあるからさ、うまくできてると思うんだよね」
カナタは普段あまり料理をしないそうだけど、
これは成功したことがあるという理由で立候補していた。
自信作らしく、こんがり、ふっくらと焼けている。
ちゃんと中まで火が通っているか、私たちも確認した。
「うん、美味しそう」
料理上手なゼノからも、そう見えるみたい。
続いて、料理と相性が悪いらしいユエは少し困った顔をして伝える。
「俺はオムライスを作った。
なんか全体的に…硬めになってしまったが、味見をしたらちゃんと食べられたぜ」
そう本人も言う通り、ライスの方は少しパサパサしている。
そして玉子は少し茶色く色付いているくらい、硬く仕上がっていた。
でも普通に食べられるレベルであることは、みんなで確認済みだ。
こんなふうに火を通しすぎるのは、私も料理を始めたばかりの頃はやりがちだった。
ライスを玉子で包むのは技術がいるので、玉子は上から被せてある。
そんな仕上がりでも、ゼノは笑顔のままフォローする。
「しっかり火が通っている料理も、俺は好きです。
この笑顔が描いてあるところもいいですね」
守護聖の話に頷いた時に見られるあの表情が、玉子にケチャップで描かれている。
「お祝いだし、喜んでいる顔を描きたい」とユエはいっていた。
それからゼノはまだ名前の挙がっていない料理と私を見る。
「じゃあこのナポリタンは君が作ってくれたのかな?」
「うん。レトルトを使わないで作るのは初めてだけど、なかなか美味しくできたと思う」
バースではいつも出来合いのソースを使っていたけれど、今回初めてレシピを調べてみた。
料理が得意とはいえない私でも作れるくらいの難易度で良かった。
これにはトマトとほうれん草を多めに入れてある。
ユエが栄養バランスも大事だといったから、私はそうした。
他の料理もそう。
みんなで話し合って、野菜のクリームコロッケに決めたのもそのため。
ハンバーグには、ニンジンとインゲンを多めに入れてある。
オムライスにはブロッコリーも入っているんだ。
茹でる材料が増えた分、時間はかかったけれど、
割ってみればどれも彩りがキレイでいいと思う。
そうみんなの料理の紹介が終わると、ユエは踵を返した。
「じゃあ俺は仕事に戻る。ゼノはゆっくり食事していいからな」
そう立ち去ろうとする背中に、ゼノはお礼を伝える。
「ユエ様、本当にありがとうございました」
するとユエは扉を閉める前に、こう応えた。
「忘れられない誕生日になるといいな」
ここに来る前にユエは「俺がいるとゼノが気を遣うから、今回は早めに帰る」といっていた。
せっかくの誕生日だから、のびのびしてほしいってことみたい。
私とレイナも目配せして、帰ることにする。
「ではゼノ様。私たちも育成の依頼等ありますので、ここで失礼します」
「いい誕生日にしてね」
実はゼノに作ったのと同じプレートを、私たちの分も用意してある。
お互い今日の依頼をしたら、一緒に食べる約束をしていた。
今は冷蔵してあるけれど、ここではバースよりも美味しく温められる。
みんなの気持ちがこもっている料理は、きっと美味しいはず。
私も食べるのを楽しみにしている。
ユエのも一緒に冷やしてあるので、今日中に取りにくるはずだ。
「うん。2人ともありがとう。
おかげで今年の誕生日も、凄く幸せな思い出になりそうだよ」
ゼノがそう思ってくれるなら、私たちは大満足だ。
私とレイナにお礼をいってから、ゼノはカナタに向き合う。
「ねえ、こんなにたくさんあるんだし、時間があるなら、カナタも一緒に食べていってよ」
ここにはそれぞれの料理を1人前ずつ持ってきていた。
1人前が4種類あるので、人より多く食べるゼノとはいえ多いだろう。
残ったらゼノの技術で冷凍することもできるし、
カナタが相席しても足りるような量を持ってきたんだよね。
「うん。オレもそうしたいなって思ってたんだ。一緒にお祝いしよう」
そうカナタが頷くと、ゼノはお皿を持ってくる。
「じゃあカナタの分も、こういうふうに盛り付けようよ」
そう自分のバースデープレートを見ながら提案するゼノ。
「いいね」
そうカナタも頷く。楽しそうな2人。
そんな声を聞きながら、私とレイナはゼノの執務室を後にした。

後でカナタから聞いた話によると──。
ゼノはお代わりする時も、しあわせプレートの同じ場所に盛り付けていたんだって。
そうとても気に入ってくれて良かった。
カナタと2人で記念ムービーを撮ったりもしたそう。
私もこのしあわせプレートを食べたら、どれも美味しく感じたな…。
そう私たち4人の料理を合わせた、ゼノのための『しあわせプレート』は
大成功で幕を閉じた。
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