4人で作る しあわせプレート
私アンジュが、飛空都市での生活にも大分慣れた頃。
部屋に遊びに来たカナタから、こんな話をされた。
「もうすぐゼノの誕生日じゃん。
今までの感謝を込めて、ゼノに料理を作って、お祝いしたいって思うんだ。
オレはゼノのおかげで、ここでも少しずつ笑えるようになってきたから……。
いろんな物も作ってもらってるし。
そのお礼がしたい」
そう真面目な顔をしていうカナタに、私は感動を覚えた。
突然故郷から連れ去られた上に、当分帰ることもできなくなってしまい、ふさぎこんでいたカナタ。
そんな様子を1つ上の先輩であるゼノは、ずっと気遣っていた。
温かく励ましている姿を、私も何度か見かけている。
私も突然ここに連れてこられて似た境遇だし、時々カナタの話を聞いていたけれど……。
そういえばゼノとカナタは兄弟のように見える……と言っていた職員の人もいた。
2人がそんなにも仲良くなっていること。
そして今カナタが感謝の思いを形にしようとしていることを、私も嬉しいと思った。
「でもオレ、料理はあまりしたことがないから、お姉さんにも手伝ってもらえないかなと思って。ほら、この前部屋に遊びに来た時も、一緒に料理したし」
そうカナタとはこの前、一緒に餃子を作ったんだ。
私は喜んでうなずく。
「うん。私も料理が得意なわけじゃないから、難しいのは作れないけど……。
お祝いだったら、品数ほしいもんね」
カナタに協力したいし、そして私もまたゼノに感謝の気持ちを伝えたい。
私も急にこの飛空都市に連れてこられたときは、何だかわからずに混乱していた。
そんな私に、最初から特に温かく接してくれた守護聖がゼノだった。
『気楽にやっていこう』って、優しく笑ってくれたんだ。
その時の私はこれから何をさせられるのか、大分不安だった。
でもそんな対応を見て、いくらか落ち着けたんだ。
だから私もゼノが喜ぶことをできるなら嬉しい。
「ありがとう、お姉さん。
オレ1人じゃ難しいと思ってたから、心強いよ」
そうお礼をいうカナタに、具体的に訊いてみる。
「ゼノに何を作ってあげたいの?」
「やっぱりゼノの好物を食べさせてあげられたらいいよね。クリームコロッケとか……。」
その言葉に本人から聞いたことを思い出した私は、付け加える。
「他にスパゲッティ、グラタン、ハンバーグ、オムライスも好きって、この前言ってたよ」
そう聞いたカナタは明るい顔になった。
「そうなんだ!?ハンバーグなら、高校の調理実習で作ったばかりだ!
それならオレにもちゃんと作れそう」
それで1つはメニューが決まった。
他はオムライスとかなら、私も作れる。でも……。
「うーん。やっぱりゼノ一推しのクリームコロッケもあげたいよね。
けど……、私は揚げ物は自信ないな……」
前に家で揚げ物に挑戦したときに、衣をこげ茶色にしてしまったりしたことを思い出す。
食べられるレベルではあったけど……。
お祝いだし、出来ればちゃんとしているのをご馳走したい。
「これは他の誰かにお願いした方がいいかも」
そう私が提案すると、カナタは考えこむ。
「うーん。他にゼノのために、一緒に作ってくれる人か……」
そう身近な人を思い浮かべてみて、私はレイナのことを思い出した。
レイナとは一緒に料理をしたことはないけれど、何でもできるって言っていたから、多分揚げ物もできるんじゃないかな。
「うん!レイナに訊いてみよう。今いるか、ちょっと見てくるね」
そう思い立った私は、カナタを部屋に残して、すぐにレイナの部屋を訪ねてみた。
でも今は留守だった。
用事を済ませて帰ってきたら……。
今日中には会えるだろうから、その時に相談してみよう。
そう思ったら、1階の玄関のドアが開く音がした。
レイナが帰ってきたのかな?
階段の上から見てみると、ユエの声が聞こえた。
「ま、俺としても、激務の間の息抜きになった感じだ」
その会話からデートの帰りらしい、レイナとユエがいた。
2人とも私の視線に気付いて、こちらを見る。
「よお。おはよ」
「おはよう、アンジュ」
そんな2人に、私は階段を下りながら挨拶をする。
「レイナ、ユエ、おはよう」
そしてレイナの近くに行くと、私は頼み事を始める。
「あのねレイナ、ゼノの誕生日に料理を作ってあげようって、今カナタと相談しているんだけど……。
私たちはゼノの大好きなクリームコロッケを、上手に作れそうになくて……。
もしレイナが作れるなら、協力してもらえないかな?」
そう私が真剣にお願いすると、レイナは笑ってくれた。
「あら、そんなステキな計画を立てているのね。
そうね、私もゼノ様にお世話になっているし、もちろんいいわよ」
そう快く引き受けてくれて、心からほっとする。
「ありがとう、レイナ。よろしくお願いします」
「じゃあそのことについて、詳しく話しましょう。
カナタ様は今いらっしゃっているの?」
そうレイナも他にすることもあるだろうに、早速話を進めてくれる。
「うん。私の部屋で待ってもらっているよ」
そうして2人で私の部屋に行こうとした。
するとそれまで黙って話を聞いていたユエに、声をかけられた。
「俺もその計画に参加してえな。一緒に行ってもいいか?」
そう申し出てくれる。
お祝いしてくれる人が多い方が、ゼノもカナタも嬉しいだろうから、私は歓迎する。
「本当!?ゼノもきっと喜ぶよ。
じゃあみんなで、私の部屋で話そう」
ユエも部屋に招ける親密度になっているし、私の部屋のテーブルは4人なら座れる。
そこで私はレイナとユエを連れ立って、カナタの待つ部屋へと戻った。
「ただいま。レイナもユエも、一緒に作ってくれるって」
部屋に戻ると、私はそう笑顔でカナタに嬉しい報告をする。
一気に2人も増えたので、カナタは目を丸くした。
「えっ!?レイナだけでなく、ユエさんも!?
みんな、ありがとうございます」
そう驚きながらも、カナタはお礼をいう。
私は2人に席をすすめると、飲み物を用意する。
席に着いたレイナは、頼もしくこういってくれた。
「クリームコロッケが欲しいんですよね。
家で何度も作っているので、お任せ下さい」
そしてカナタの隣りの席に座ったユエは、参加した理由を教えてくれる。
「ああ。俺は毎年みんなの誕生日を祝っているが……。
この前ゼノが俺のために、ローストビーフを作ってくれたんだ。
だからそのお礼もしたいと思う」
その時のことを思い出しているのか、ご機嫌な笑顔になる。
でもそう聞いたカナタは複雑な顔をする。
「それオレも味見させてもらったけど、肉のたたきっぽかったものですよね?
ゼノにしては珍しく成功しなかったやつ」
そう怪訝そうに訊かれたけれど、ユエの表情は変わらなかった。
「確かに普段のローストビーフとは違っていたが……。
ゼノが俺のために、オーブンから作ってくれたものだからな。嬉しかったぜ!
……まあ俺は料理と相性が悪いから、簡単なものしか作れないと思う。
でもゼノのためにやりたいんだ」
そう思いを語ってから、具体的に話を始める。
「レイナはクリームコロッケを作るって決まってるそうだが、他には何を作る予定なんだ?」
そうユエに訊かれたので、まずは企画したカナタが答える。
「ゼノの好きな物にしたいって考えてて、オレはハンバーグを作ります」
「他にスパゲッティ、グラタン、オムライスもゼノは好きって言ってたから、
その辺りがいいんじゃないかと思う」
そう私も具体的な案を伝える。
「この中でグラタン……はホワイトソースを焦がすと残念だったから、他2つが安全かな」
料理を始めたての頃、シチューを作ったら焦がしてしまった。
そうしたら薄茶色になってしまって、味も違っていたことが忘れられない。
私がそう自分の体験をもとに言うと、ユエも目を閉じてうなずく。
「わかるぜ。俺もやったことがある」
あ、ユエも火加減で失敗するんだ。私と同じだな。
そうユエの言葉に親近感がわいた。
そして残る2つだと……。
私はバースでスパゲッティを作る時は、レトルトを使っていた。
だから自分でソースを作ったことはない。
「ちょっとスパゲッティのレシピを調べさせてね」
そうみんなに断ってから、タブレットで検索してみる。
なんとなく予想がついた通り、材料を切って炒めるわけだから、私にもできるかもしれない。
そう思ったら、挑戦してみたくなった。
「私はスパゲッティの方を作ってみたいな。
初めてだけど、これならちゃんとできる気がする」
そう張り切る私に、3人は頷いてくれた。
それでユエの作る料理も決まった。
「じゃあ俺はオムライスか。
何度か作ったことはあるが、前は焦がしちまったから、もっと慎重にやらねえとな」
そうホワイトソースほど大きな失敗にはならなくても、どの料理も焦がす危険はある。
気を付けないとね。
そう4人とも作る料理は決まったので、種類も考える。
「私は何のスパゲッティにしようかな?」
スパゲッティと一口にいっても、ソースはいろいろある。
他のクリームコロッケ、ハンバーグ、オムライスの3品とバランスがいいのは……。
そう考えてみて、私はある物を思い出した。
──この組み合わせって、お子様ランチみたいじゃない!?
私は小学生いっぱい、お子様ランチを食べていた。
そして数年前にも、大人向けがあると聞いて、食べに行ったほど大好きだ。
そのお子様ランチのスパゲッティといえば──。
「ナポリタンにしよう!」
そう決めた。
「私はクリームコロッケに何を入れたらいいかしら?」
そうレイナも考え始める。
するとユエがこんな意見をいった。
「守護聖も体調管理が大事だからな。
できるだけ栄養バランスが取れるようにした方がいいと思う」
その言葉に、私は以前カナタから聞いた話を思い出した。
そういえばユエがカナタの年齢に必要な栄養表を渡したって言ってたな。
「この4品に足りない栄養っていうと……野菜?」
そう私が訊くと、レイナがうなずく。
「そうね。それぞれに合う野菜を考えたらいいんじゃないかしら」
そこでクリームコロッケ以外にも、野菜を足すことにした。
コロッケにはキャベツ、ポテト、コーンを。
ナポリタンにはほうれん草と、トマト多めで。
オムライスにはブロッコリーを。
ハンバーグにはインゲン。そして人参を大目に入れる……ことを決めた。
どれもよくある組み合わせだし、美味しそう。
そう決まったメニューを見て、カナタはとても嬉しそうだった。
「好きな物をこれだけ食べられたら、ゼノ喜ぶだろうな」
そんなカナタの様子に、私たちも微笑みあった。
それからその材料が3日後にあるかどうか、料理係の職員に確認に行く。
すると無事、当日朝に材料を提供してもらえることになって、安心した。
飛空都市にキッチンは数ヶ所ある。
ゼノの執務室まで運ぶ都合上、聖殿のキッチンを貸してもらうことにした。
大勢の分を作ることもあるキッチンだから、コンロもたくさんあるらしい。
4つ位使っても大丈夫だそうだ。
そして材料をキッチンの冷蔵庫にまとめて置いてくれるという。
それで私たちはゼノの誕生日の朝9時に、キッチンに集合する約束をしたのだった。
ゼノの誕生日の朝。
約束の10分前にキッチンに行くと、私以外の3人はもう揃っていた。
みんなエプロンもして準備万端だ。
火を使うからか、今のユエは手袋の他にマントも付けていない。
聖殿の料理係の人達は、普段10時半頃に来るそうなので、まだいない。
ここは私がこれまでに入ったことのあるキッチンの中で、1番広い。
だから最初は圧倒された。
「みんな、おはよう。私ももっと早く来れば良かったな」
私がそういうと、カナタは首を振った。
「ううん。ゼノを喜ばせたいなーってオレが張り切りすぎて、早く起きただけだよ。
それに言い出したのはオレだし……。
お姉さんも、今日はありがとう。よろしくね」
そう笑顔を向けてくれる。
茹でる野菜を調理台の上に並べていたユエは、手を止めて私を見る。
「おはよ。今日はゼノのために頑張ろうな」
「うん。頑張って美味しく作りたいね」
みんなの様子を見た私は、そう右手を握って気合いを入れる。
そんな私が左手に持っている物に気付いたレイナが、こう声を掛けてくれる。
「アンジュはナポリタンを作るのは初めてって言ってたわよね?
レシピを見てわからないことがあったら、聞いてね」
「ありがとう、レイナ。頼もしい!」
そう料理が得意な人もいて安心だ。
みんなわりと手堅く担当するメニューを決めているから、きっとうまくいく……と思うけど。
そして私たちは印刷して持ってきた自分のレシピを見て、料理に取りかかったのだった。
まずは野菜を茹でるところから。
今回ゼノの分だけではなく、せっかくなので私たちのお昼も一緒に作ることにした。
料理は4品あるので、どれも1人前ずつにすると、私たちには多い。
私とレイナには、半人前ずつくらいがちょうどいいと思う。
でもゼノとカナタは多めがいいだろうということで、それぞれ3.5人前ずつ作ることにした。
部屋に遊びに来たカナタから、こんな話をされた。
「もうすぐゼノの誕生日じゃん。
今までの感謝を込めて、ゼノに料理を作って、お祝いしたいって思うんだ。
オレはゼノのおかげで、ここでも少しずつ笑えるようになってきたから……。
いろんな物も作ってもらってるし。
そのお礼がしたい」
そう真面目な顔をしていうカナタに、私は感動を覚えた。
突然故郷から連れ去られた上に、当分帰ることもできなくなってしまい、ふさぎこんでいたカナタ。
そんな様子を1つ上の先輩であるゼノは、ずっと気遣っていた。
温かく励ましている姿を、私も何度か見かけている。
私も突然ここに連れてこられて似た境遇だし、時々カナタの話を聞いていたけれど……。
そういえばゼノとカナタは兄弟のように見える……と言っていた職員の人もいた。
2人がそんなにも仲良くなっていること。
そして今カナタが感謝の思いを形にしようとしていることを、私も嬉しいと思った。
「でもオレ、料理はあまりしたことがないから、お姉さんにも手伝ってもらえないかなと思って。ほら、この前部屋に遊びに来た時も、一緒に料理したし」
そうカナタとはこの前、一緒に餃子を作ったんだ。
私は喜んでうなずく。
「うん。私も料理が得意なわけじゃないから、難しいのは作れないけど……。
お祝いだったら、品数ほしいもんね」
カナタに協力したいし、そして私もまたゼノに感謝の気持ちを伝えたい。
私も急にこの飛空都市に連れてこられたときは、何だかわからずに混乱していた。
そんな私に、最初から特に温かく接してくれた守護聖がゼノだった。
『気楽にやっていこう』って、優しく笑ってくれたんだ。
その時の私はこれから何をさせられるのか、大分不安だった。
でもそんな対応を見て、いくらか落ち着けたんだ。
だから私もゼノが喜ぶことをできるなら嬉しい。
「ありがとう、お姉さん。
オレ1人じゃ難しいと思ってたから、心強いよ」
そうお礼をいうカナタに、具体的に訊いてみる。
「ゼノに何を作ってあげたいの?」
「やっぱりゼノの好物を食べさせてあげられたらいいよね。クリームコロッケとか……。」
その言葉に本人から聞いたことを思い出した私は、付け加える。
「他にスパゲッティ、グラタン、ハンバーグ、オムライスも好きって、この前言ってたよ」
そう聞いたカナタは明るい顔になった。
「そうなんだ!?ハンバーグなら、高校の調理実習で作ったばかりだ!
それならオレにもちゃんと作れそう」
それで1つはメニューが決まった。
他はオムライスとかなら、私も作れる。でも……。
「うーん。やっぱりゼノ一推しのクリームコロッケもあげたいよね。
けど……、私は揚げ物は自信ないな……」
前に家で揚げ物に挑戦したときに、衣をこげ茶色にしてしまったりしたことを思い出す。
食べられるレベルではあったけど……。
お祝いだし、出来ればちゃんとしているのをご馳走したい。
「これは他の誰かにお願いした方がいいかも」
そう私が提案すると、カナタは考えこむ。
「うーん。他にゼノのために、一緒に作ってくれる人か……」
そう身近な人を思い浮かべてみて、私はレイナのことを思い出した。
レイナとは一緒に料理をしたことはないけれど、何でもできるって言っていたから、多分揚げ物もできるんじゃないかな。
「うん!レイナに訊いてみよう。今いるか、ちょっと見てくるね」
そう思い立った私は、カナタを部屋に残して、すぐにレイナの部屋を訪ねてみた。
でも今は留守だった。
用事を済ませて帰ってきたら……。
今日中には会えるだろうから、その時に相談してみよう。
そう思ったら、1階の玄関のドアが開く音がした。
レイナが帰ってきたのかな?
階段の上から見てみると、ユエの声が聞こえた。
「ま、俺としても、激務の間の息抜きになった感じだ」
その会話からデートの帰りらしい、レイナとユエがいた。
2人とも私の視線に気付いて、こちらを見る。
「よお。おはよ」
「おはよう、アンジュ」
そんな2人に、私は階段を下りながら挨拶をする。
「レイナ、ユエ、おはよう」
そしてレイナの近くに行くと、私は頼み事を始める。
「あのねレイナ、ゼノの誕生日に料理を作ってあげようって、今カナタと相談しているんだけど……。
私たちはゼノの大好きなクリームコロッケを、上手に作れそうになくて……。
もしレイナが作れるなら、協力してもらえないかな?」
そう私が真剣にお願いすると、レイナは笑ってくれた。
「あら、そんなステキな計画を立てているのね。
そうね、私もゼノ様にお世話になっているし、もちろんいいわよ」
そう快く引き受けてくれて、心からほっとする。
「ありがとう、レイナ。よろしくお願いします」
「じゃあそのことについて、詳しく話しましょう。
カナタ様は今いらっしゃっているの?」
そうレイナも他にすることもあるだろうに、早速話を進めてくれる。
「うん。私の部屋で待ってもらっているよ」
そうして2人で私の部屋に行こうとした。
するとそれまで黙って話を聞いていたユエに、声をかけられた。
「俺もその計画に参加してえな。一緒に行ってもいいか?」
そう申し出てくれる。
お祝いしてくれる人が多い方が、ゼノもカナタも嬉しいだろうから、私は歓迎する。
「本当!?ゼノもきっと喜ぶよ。
じゃあみんなで、私の部屋で話そう」
ユエも部屋に招ける親密度になっているし、私の部屋のテーブルは4人なら座れる。
そこで私はレイナとユエを連れ立って、カナタの待つ部屋へと戻った。
「ただいま。レイナもユエも、一緒に作ってくれるって」
部屋に戻ると、私はそう笑顔でカナタに嬉しい報告をする。
一気に2人も増えたので、カナタは目を丸くした。
「えっ!?レイナだけでなく、ユエさんも!?
みんな、ありがとうございます」
そう驚きながらも、カナタはお礼をいう。
私は2人に席をすすめると、飲み物を用意する。
席に着いたレイナは、頼もしくこういってくれた。
「クリームコロッケが欲しいんですよね。
家で何度も作っているので、お任せ下さい」
そしてカナタの隣りの席に座ったユエは、参加した理由を教えてくれる。
「ああ。俺は毎年みんなの誕生日を祝っているが……。
この前ゼノが俺のために、ローストビーフを作ってくれたんだ。
だからそのお礼もしたいと思う」
その時のことを思い出しているのか、ご機嫌な笑顔になる。
でもそう聞いたカナタは複雑な顔をする。
「それオレも味見させてもらったけど、肉のたたきっぽかったものですよね?
ゼノにしては珍しく成功しなかったやつ」
そう怪訝そうに訊かれたけれど、ユエの表情は変わらなかった。
「確かに普段のローストビーフとは違っていたが……。
ゼノが俺のために、オーブンから作ってくれたものだからな。嬉しかったぜ!
……まあ俺は料理と相性が悪いから、簡単なものしか作れないと思う。
でもゼノのためにやりたいんだ」
そう思いを語ってから、具体的に話を始める。
「レイナはクリームコロッケを作るって決まってるそうだが、他には何を作る予定なんだ?」
そうユエに訊かれたので、まずは企画したカナタが答える。
「ゼノの好きな物にしたいって考えてて、オレはハンバーグを作ります」
「他にスパゲッティ、グラタン、オムライスもゼノは好きって言ってたから、
その辺りがいいんじゃないかと思う」
そう私も具体的な案を伝える。
「この中でグラタン……はホワイトソースを焦がすと残念だったから、他2つが安全かな」
料理を始めたての頃、シチューを作ったら焦がしてしまった。
そうしたら薄茶色になってしまって、味も違っていたことが忘れられない。
私がそう自分の体験をもとに言うと、ユエも目を閉じてうなずく。
「わかるぜ。俺もやったことがある」
あ、ユエも火加減で失敗するんだ。私と同じだな。
そうユエの言葉に親近感がわいた。
そして残る2つだと……。
私はバースでスパゲッティを作る時は、レトルトを使っていた。
だから自分でソースを作ったことはない。
「ちょっとスパゲッティのレシピを調べさせてね」
そうみんなに断ってから、タブレットで検索してみる。
なんとなく予想がついた通り、材料を切って炒めるわけだから、私にもできるかもしれない。
そう思ったら、挑戦してみたくなった。
「私はスパゲッティの方を作ってみたいな。
初めてだけど、これならちゃんとできる気がする」
そう張り切る私に、3人は頷いてくれた。
それでユエの作る料理も決まった。
「じゃあ俺はオムライスか。
何度か作ったことはあるが、前は焦がしちまったから、もっと慎重にやらねえとな」
そうホワイトソースほど大きな失敗にはならなくても、どの料理も焦がす危険はある。
気を付けないとね。
そう4人とも作る料理は決まったので、種類も考える。
「私は何のスパゲッティにしようかな?」
スパゲッティと一口にいっても、ソースはいろいろある。
他のクリームコロッケ、ハンバーグ、オムライスの3品とバランスがいいのは……。
そう考えてみて、私はある物を思い出した。
──この組み合わせって、お子様ランチみたいじゃない!?
私は小学生いっぱい、お子様ランチを食べていた。
そして数年前にも、大人向けがあると聞いて、食べに行ったほど大好きだ。
そのお子様ランチのスパゲッティといえば──。
「ナポリタンにしよう!」
そう決めた。
「私はクリームコロッケに何を入れたらいいかしら?」
そうレイナも考え始める。
するとユエがこんな意見をいった。
「守護聖も体調管理が大事だからな。
できるだけ栄養バランスが取れるようにした方がいいと思う」
その言葉に、私は以前カナタから聞いた話を思い出した。
そういえばユエがカナタの年齢に必要な栄養表を渡したって言ってたな。
「この4品に足りない栄養っていうと……野菜?」
そう私が訊くと、レイナがうなずく。
「そうね。それぞれに合う野菜を考えたらいいんじゃないかしら」
そこでクリームコロッケ以外にも、野菜を足すことにした。
コロッケにはキャベツ、ポテト、コーンを。
ナポリタンにはほうれん草と、トマト多めで。
オムライスにはブロッコリーを。
ハンバーグにはインゲン。そして人参を大目に入れる……ことを決めた。
どれもよくある組み合わせだし、美味しそう。
そう決まったメニューを見て、カナタはとても嬉しそうだった。
「好きな物をこれだけ食べられたら、ゼノ喜ぶだろうな」
そんなカナタの様子に、私たちも微笑みあった。
それからその材料が3日後にあるかどうか、料理係の職員に確認に行く。
すると無事、当日朝に材料を提供してもらえることになって、安心した。
飛空都市にキッチンは数ヶ所ある。
ゼノの執務室まで運ぶ都合上、聖殿のキッチンを貸してもらうことにした。
大勢の分を作ることもあるキッチンだから、コンロもたくさんあるらしい。
4つ位使っても大丈夫だそうだ。
そして材料をキッチンの冷蔵庫にまとめて置いてくれるという。
それで私たちはゼノの誕生日の朝9時に、キッチンに集合する約束をしたのだった。
ゼノの誕生日の朝。
約束の10分前にキッチンに行くと、私以外の3人はもう揃っていた。
みんなエプロンもして準備万端だ。
火を使うからか、今のユエは手袋の他にマントも付けていない。
聖殿の料理係の人達は、普段10時半頃に来るそうなので、まだいない。
ここは私がこれまでに入ったことのあるキッチンの中で、1番広い。
だから最初は圧倒された。
「みんな、おはよう。私ももっと早く来れば良かったな」
私がそういうと、カナタは首を振った。
「ううん。ゼノを喜ばせたいなーってオレが張り切りすぎて、早く起きただけだよ。
それに言い出したのはオレだし……。
お姉さんも、今日はありがとう。よろしくね」
そう笑顔を向けてくれる。
茹でる野菜を調理台の上に並べていたユエは、手を止めて私を見る。
「おはよ。今日はゼノのために頑張ろうな」
「うん。頑張って美味しく作りたいね」
みんなの様子を見た私は、そう右手を握って気合いを入れる。
そんな私が左手に持っている物に気付いたレイナが、こう声を掛けてくれる。
「アンジュはナポリタンを作るのは初めてって言ってたわよね?
レシピを見てわからないことがあったら、聞いてね」
「ありがとう、レイナ。頼もしい!」
そう料理が得意な人もいて安心だ。
みんなわりと手堅く担当するメニューを決めているから、きっとうまくいく……と思うけど。
そして私たちは印刷して持ってきた自分のレシピを見て、料理に取りかかったのだった。
まずは野菜を茹でるところから。
今回ゼノの分だけではなく、せっかくなので私たちのお昼も一緒に作ることにした。
料理は4品あるので、どれも1人前ずつにすると、私たちには多い。
私とレイナには、半人前ずつくらいがちょうどいいと思う。
でもゼノとカナタは多めがいいだろうということで、それぞれ3.5人前ずつ作ることにした。