未来の守護聖

令梟の緑の守護聖ミランからも、とうとうサクリアが無くなり、退任する日が来た。
昨日は守護聖など、聖地のみんなで集まり、別れを惜しむ会を開いた。
その中でミランはよく笑顔も見せていたけれど……。
もうみんなとは二度と会えないだろう寂しさや、これからは人として生きていく不安もあるみたいだった。
そんなミランが先程、この聖地から旅立っていった。
ミランの守護聖歴は16年。
現女王である私アンジュは3年ほど近くにいた。
私が最初に見送った守護聖はフェリクス。
あれから数ヶ月しか経っていない。
「ミラン、16年もの長い間、本当にお疲れ様でした」
聖地の1年は人の世界よりもずっと長いこともあって、私はそう言葉を掛ける。
人の一生よりもずっと長い時間を、ミランも守護聖として務めてくれたらしいから。
「ありがとうございます、女王陛下。
あなたのもとで、世界をこんなに豊かにすることができたこと、ずっと忘れません」
そう挨拶をしてから、ミランは普段の口調に戻って、こんな話をした。
「僕は故郷に帰る前に、フェリクスに会いに行くよ。
前に訪ねた時に、彼が住んでいたところに行ってみる」
ミランはフェリクスが退任した後に、訪ねていったことがあった。
そうミランから希望を出されたから、許可したんだ。
故郷で10歳位歳を重ねたフェリクスは、温かい家庭を築いていたらしい。
そんな様子を見て、ミランも安心したと聞いていた。
「もう結構なおじさんになっているはずだけど、まだ生きているなら話をしたいんだ。
僕にとってフェリクスは、やっぱり特別だからね。
新しい人生を歩き出す前に、また会いたい」
そうフェリクスに思いを馳せているような目をする。
それからミランは、私にも微笑んで言ってくれた。
「じゃあアンジュも、体に気を付けて。ずっと元気でいてね」


ミランはフェリクスと会えたかな?会えてるといいな。
星の瞬く、私邸への帰り道。
私は星を見上げながら、さっきのミランのことを思い出していた。
フェリクスの故郷のネージュは寒い。
だから最後に見たミランは、冬の装いをしていたなあ。
すると隣りを歩いていた、恋人のユエに訊ねられる。
「どうした?今日ミランが帰っちまったから、寂しいのか?」
そう心配してくれるユエに目線を合わせる。
「うん。そういう気持ちもあるけど…、ミランがフェリクスとまた話したいっていってたんだ。
だからそれが叶いますようにって思ったの」
私がそう答えると、ユエもしみじみとうなずく。
「そうか。そんなこといってたのか。あの2人は同期だもんな。
俺には同期がいないから、他とはどう違うのか、正直わからねえけど…」
そう考えてみたら思い付いたようで、すぐに笑顔になった。
「あっ!俺が対のノアに対して思ってる気持ちと、近いのかもしれねえな……!」
私にとっては女王補佐官になってくれたレイナが、その対の存在に近いのかな?だったら…。
「うん。そうなのかもしれないね」
そうかけがえのない存在である、レイナを思い浮かべながらうなずく。
それから私は、目の前にいる人のある事実を口にする。
「それにしても、とうとうユエが1番先輩の守護聖になっちゃったね」
「そうだな…。俺も守護聖になって、もう13年か……」
私が初めてフェリクスやミランと出会った時の年数に、今のユエはなっている。
「首座のうえに、大先輩かあ……」
私は思わずそう呟いたけれど、宇宙から首座に選ばれる人は力強くいう。
「俺は平気だぜ。尊敬するジュリアス様もそうやっていらっしゃるしな。
それに…、俺が一番長いとはいっても、来たばかりの「緑」や新人の「夢」以外は、もうみんな一人前の守護聖じゃねえか。
そう頼れる仲間がいるから大丈夫だ」
そうユエの人に頼れるところは長所だって、他の守護聖もいっていた。
1人で抱え込まない人だから、私も幾分安心していられる。
「流石首座だね。でも無理はしないでね」
そう感心する私に、ユエはうなずく。
「ああ、気を付ける。
俺のサクリアはいつまで保つかわからねえけど……。
最後の後輩の「緑」が、もう守護聖として大丈夫だって思えるまでは、ここにいてえからな……。
そしてそういう環境を、次の「光」に受け継ぎたい」
そうユエは後輩達のことも、自分が去った後の未来のことも考えていた。
そんな考えを聞いて、やっぱりユエはみんなの母のような、父のような人だな、と私は思う。
私にとってユエは十数年ぶりに恋している人でもあるけれど、そういう思いも持っていた。
それはユエと出会って2ヶ月位の頃に、「この宇宙の全ての命が大切で、愛おしいと思う」という言葉を聞いたから。
それで『女王と9人の神様』を好きだった私が信じていた、温かい眼差しの神様は本当にいるんだってわかった。
だからそんな気持ちをユエから聞いて、とても感動したのを覚えている。
そして宇宙意思からも、そんな全てを愛する女王を望んでいることも聞いた。
私の傍にいる人が、良きお手本でいてくれる。
おかげで私も、みんなを愛する女王でいたいという気持ちを、ずっと持ち続けていられる。
もしかしたら私がそういう人と一緒になったのも、宇宙意思のお導きなのかもしれない。
そんな愛のあるユエが、今度は私を心配そうに見る。
「2年くらいで交代になる女王陛下もいたが、アンジュの方こそ、まだ大丈夫そうか?」
そう訊ねられたけれど、私の女王の力は即位した時から変わらない。うん、特に衰えは感じられない。
「うん。みんながいっぱいサポートしてくれているから、体調は全然問題ないよ」
正直に「体調は」と答えたので、ユエはこう付け加える。
「ストレスも万病の元っていうからな。
何かあったら、すぐに相談してくれ。
俺にもできることがあるはずだから」
そういつも心強く支えてくれるから、私は素直に感謝の言葉を伝える。
「うん。いつも力になってくれて、ありがとう。
補佐官のレイナもいてくれるし、今は大丈夫。
だけど、もし困ることがあったら相談させてね」
女王の仕事は迷ったり、悩むことも多い。
でも心に寄り添ってくれる人がいるから、まだまだ頑張れる。
そう今の私と同じ気持ちを、人生を共に生きていく人もいってくれる。
「もう少し…、いやまだまだ一緒に頑張っていこうな」
「うん。一緒にもっと令梟の宇宙を育てていこうね」
そう繋いでいた手にギュッと力が入る。
そして2人で、これからも守っていきたい星空を見つめるのだった。



Fin


2024年5~6月制作


[chapter:あとがき]
『未来の守護聖』は、Xでのアンミナ3周年の創作イベント『3rd ANNIVERSARY PARTY』のテーマ「3年」から生まれました。

女王試験開始から3年後だと、最長の守護聖は入れ替わっていそうだな…と、まず思ったことをテーマにしました。

ルトゥールのライ様の話からも、人の世界と時間の流れが同じだとしても、守護聖が歳を取るのは人の10倍以上もかかるらしい……という知識で書きました。
アンジェリークはルミナライズとルトゥールくらいしか知らないので、正確な時間差はわからないですが。

ミランが再会するフェリクスは60代をイメージしています。
聖地で15年位は一緒に過ごしただろう2人が、人に戻ってもまた15年は寿命が重なったらいいな……と願いを込めました。
お互いが望むなら、たまに遊びに行ったり、メールしたりして、続いたらいいな。
ゲーム中で「君がいなくなったら寂しいだろうね」とミランがいっていたりしたので、ミランの方から訪ねる形にしました。
あの後2人は無事に再会して、内心これからの人生が不安なミランに、フェリクスは「ミランなら大丈夫だろ」っていってくれています。
1/1ページ
スキ