いつも、あなたを見守ってる

私、女王候補であるアンジュは先日、光の守護聖であるユエと恋人同士になれた。
思い入れのある星がなくなり、悲しむニコラさんを励ます様子を見たあの時から、ユエに惹かれていた私。
両想いだとわかって、夢みたいに嬉しかった。
これからもずっと一緒にいたい。
女王補佐官になれば、それは叶うはずだけど──。
ユエと話し合って、女王試験は最後まで頑張ってみるって決めた。
そのために今日も張り切って、育成をお願いしに行かなくちゃ。
「じゃあ、行ってくるね」
私はそうぬいぐるみ達にいって、出掛けることにした。


(ユエSIDE)
そんな頃、ユエの執務室をサイラスが訪ねて、こんな相談をしていた。
「もうすぐアンジュ様のお誕生日ですね。
当日は夕方からのお誕生日会に向けて、皆様で集まって準備をする計画になっておりますが、それとは別に、ユエ様にはお願いしたいことがございます」
「うん?なんだ?」
「アンジュ様がこれからの女王試験も頑張っていけるように。
そしてこれからの人生を前向きに生きていけるような言葉を、ユエ様から贈っていただきたいのです。
それを私が布に印刷して参りまして、アンジュ様に差し上げたいと思います」
その提案にユエはすぐに頷く。
「クリスマスの時の寄せ書きも喜んでいたもんな。
そうか。見たら、あいつの力になれるような言葉を考えねえとな……」
「はい。今回はユエ様からの言葉のみで作りますので、たくさん考えてください」
それは想定外だったユエは驚く。
「えっ!?他の守護聖とかの言葉は入れねえのか?」
「はい。恋人からの言葉が敷き詰められていたほうが、嬉しいと思いますので」
そう更に驚くことを、サイラスは笑顔で告げる。
「えっ!?なんで俺とアンジュが恋人だと思ったんだ?」
そうユエは動揺したが、尋ねられたサイラスは落ち着いたまま、数日前のことを思い出す。
「──私は先日、アンジュ様が初めて滝でお祈りを成功させたことを察知致しました。
相手が誰なのか、まではわかりませんでしたが……」
そう、どういう仕組みなのか、よくわからない説明をされる。
ユエは滝のお祈りについては、噂でしか知らない。
お祈りをすると、何故サイラスにはわかるのか……。
ユエはそれについても聞きたいと思ったが、その後続けられた話の方に意識が向いた。
「その後森の湖に行った職員が、こう話していたのを聞きました。
『さっき見かけたユエ様は、いつも以上に幸せそうだった』と。
それでそうなったのではないか……と判断致しました」
そう飛空都市の情報網を知らされる。
そういわれて思い出してみれば、彼女と想いが通じ合ったあの後に、確かに職員とすれ違った。
そしてその時ユエは、初恋が成就したことに浮き足立っていた自覚はある。
しかしまさかそれで、その場にいなかったサイラスに気付かれるとは考えもしなかった。
ユエは汗をかきそうなくらい動揺した。
しかし目の前のサイラスは、意外にもいつも通りの様子だった。
大切な女王候補に恋人ができたらしいと知っても、サイラスは反対しているそぶりを見せない──。
「まあ……、そうだな。
確かに俺は、アンジュに凄く好きと伝えた」
そうユエはしっかり認めた後、前例のないことに踏み出してしまった是非を問う。
「サイラスが話していたという、新しい扉を開けられたらと思ったんだが……、いい…のか?」
そう真面目に聞くユエに、サイラスはこう答えた。
「アンジュ様が最後まで女王試験に挑みたいとお考えなのでしたら、その様子を見て、結論を出したいと考えています。
ですが私は、この宇宙のため、そしてアンジュ様が生きたい道を進んでいけるように、応援するつもりですよ」
そう包容力あふれるサイラスの姿勢に、ユエは胸を打たれた。
「そうか……、ありがとう!
俺もアンジュが女王になっても補佐官になっても、──万が一バースに帰ることになったとしても、出来るだけ支えていきたいと思ってる」
そう話がまとまってから、今回の依頼の具体的な話にうつる。
「──それでアンジュに贈る言葉は、どれくらい考えればいいんだ?」
「そうですね。15個ほど挙げていただけると良いですね。
ちなみにレイナ様と親しい守護聖様にも、同じようにお願いしてあります。
アンジュ様のお誕生日会の時に、レイナ様にも一緒にお渡ししたいと思いまして」
この分だとレイナの誕生日前に、女王試験の決着は着くだろう。
女王が決まったら、サイラスは神鳥の宇宙に帰るかもしれない。
だからレイナにも今、アンジュと同じ物を渡してあげたい。
サイラスはそう考えていた。
「なのでユエ様だけではありません!ファイト!」
そう女王候補のことを平等に想うサイラスが、ユエのことも笑顔で励ましてくれる。
「わかった。いろんな場面を想定して考えてみるな」
そう笑顔でやる気を出すユエに、サイラスはこんなことも付け加える。
「そのメッセージですが、こちらでは他の守護聖様たちの目にはふれないように致します。
ですので、少々恋人らしい言葉も入れていただいてもよいですよ。
その方が女王候補様も、お喜びになるでしょう」
「ああ、そうなのか。じゃあ少し……な」

そうしてユエは数日かけて、恋人の女王候補の心を支えられるような言葉を考えた。
そして納得できる言葉が出揃うと、どのようにその言葉を配置するかをサイラスと話し合う。
それを大きな布に印刷した物が、アンジュの誕生日前に無事出来上がったのだった。


(アンジュSIDE)
「アンジュ、誕生日おめでとう!」
広間に入ると、みんながそう笑顔でお祝いしてくれる。
私の誕生日に、みんなはお誕生日会を開いてくれた。
部屋の飾りつけもしてくれていて、レイナや守護聖のみんなが作ってくれた料理もあった。
飛空都市に来てから何度もこうやって、サイラスやみんなは楽しい催しを準備してくれた。
今回は数人ずつでアナログゲームもしたんだ。
私がよく部屋で遊びたがるから、今回は3人以上でやれるようにって企画してくれたそう。
普段は複数で遊ぶ機会はあまりないし、なかなか白熱して面白かった。
たくさん今日もそんな楽しい時間を過ごせて、感謝の気持ちでいっぱいだ。
そしてそんなお誕生日会もお開きになる頃、サイラスから声がかかった。
「本日は女王候補のお2人に贈り物がございます。では、お渡しください」
すると私にはユエが、平面的で大きな包みを持って来てくれた。
「アンジュ、女王試験ももう少しだな。
これにはどんな時のお前も、応援している気持ちを込めたんだ。
……あー、でも、一人の時に見てくれ」
そう最後の方は、照れたように目線をそらされる。
「ありがとう!何だろう?楽しみだなあ」
それは箱に入っていて、持ってみると500gもないくらい。
何が入っているのか予想はつかないけど……。
大切な人の想いの込もったものなら、嬉しいに決まってる!
そしてレイナにも同じような包みを、ミランとシュリの2人で渡している。
そう仲の良い2人から受け取ったレイナも、とても嬉しそうだった。

「ただいま!今日は私の誕生日をみんなでお祝いしてくれたんだ。嬉しかったなあ。
よくここで遊んでるトランプとかを、大勢でやったりもしたんだよ」
寮の部屋に帰ってきた私はいつも通りに、今日の楽しかった話をぬいぐるみ達にした。
それからユエくん、レイナちゃん、ノワールのぬいぐるみ3人とも、テーブルの周りに連れてくる。
「プレゼントももらったんだ。一緒に見よう」
そしてドキドキしながら、贈り物の箱を開けてみると───。
それは大きな黄色の布に、白文字が敷き詰められているものだった。
広げてみると、いろいろな大きさの文字でメッセージがつづられている。
読んでみると、「俺のペガサスで迎えに行く」とか、「首座の守護聖」とか……。
あ!これ、ユエが考えてくれた言葉なんだ!
そうわかって胸が熱くなる。
他の言葉もユエらしい……。
そう思いながら読んでいた私がハッとしたのは──。
「失敗したのは挑戦したってこと」か……。そっか。そういう考え方もあるんだ……。
私はバースの職場でたくさん失敗をしていた。
だから特に励まされる言葉だった。
そしてユエは私なら「絶対にできる」って、信じてくれてるんだ……。
うん、私の大切な人もそういってくれてるし、すぐに諦めないで、これからも挑戦していこう。
そうやる気が出てくる。
中にはこんな言葉もあった。
ん?ラッシュとか、バースのことも書かれてる……。
ユエはあまりバースを知らないって聞いたけど、来た時のことを思い出してくれたのかな……。
それから…。可愛いとか、まぶしすぎるとか、好きとか、大きめの文字で書いてある…。
うわあ。これは嬉しいけど、恥ずかしくもある。
「鏡もお前を映せて、嬉しそうにしてる」って、本当の話?
ユエは物の気持ちがわかる人だからなあ。
これまでは何の気なしに見ていたけど、そう思われているなら鏡相手でも照れる!
そう私は赤くなって、頬に手を当てる。
でもこの贈り物は、ユエ以外の人の手も介して作られただろうことを考えると、少し心配になった。
私たちが恋人同士なのは秘密なのに、これは大丈夫だったのかな?
こういう理由で、一人で見てって言われたんだろうな。
そんなことも考えたけれど、とりあえず私は素直に幸せに浸ることにした。
……うん、でも嬉しい!
そう頬が緩んで仕方ないけれど、今日はもう誰とも会わないから大丈夫。
ステキな贈り物ももらって、本当に幸せな誕生日になった。
私ははずんだ気持ちで、ユエくん人形を抱きしめる。
「ユエくん、ユエがたくさん嬉しい言葉をくれたんだ。
明日と明後日はずっと一緒にいられるし、とっても幸せだなあ」
明日は土の曜日だから、一緒に視察に行く約束をしている。
今回はユエのサクリアが満ちている、プラチナコーストに行きたいな。
前に一緒に行った時に、ユエは夜景にも喜んでいたし。
そして明後日の青空面談も、ユエにしてもらう約束をしている。
私の誕生日がある週末だから、2人で少し特別にお祝いしようって話をしてるんだ。
その時にこの贈り物のお礼を言わなくちゃ。
それだけじゃなくて私もお返しに、ユエへの手紙でも書いた方がいいかな?
うん、近いうちに書こう。ユエからもらったボールペンで。
そう決めてから、まずは今のことを考える。
「この贈り物は、どこに保管しておこうかな?」
この布はできれば飾っておきたいくらい気に入ったけど、ここには他の守護聖も来る。
しばらくは人目につかないところに置かないと。
ユエと恋人になったんだって、みんなにいえる、その日までは──。
そして落ち込む時には、何度も見返そう。
私の心を明るく照らしてくれるはずだから。

私にはこんな風に想ってくれる人がいる。
サイラスやユエもいうように、私も新しい扉を開けられたらいいと思う。
そしてこの宇宙のために頑張っていきたい。
そう満ち足りた気持ちの中、私は思いを新たにした。


Fin

2024年2~5月制作
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