ミラクルな贈り物を、あなたに

そんな時に、この人形の製作者であるゼノが、ロレンツォと話をしているのが聞こえてきた。
「さすがロレンツォ様の人形は大人気ですね」
私はユエにお辞儀をしてから、ゼノに昨日のお礼を言おうと思って駆け寄る。
「ゼノ、おはよう。
昨日私がもらった寄せ書きって、ゼノのアイディアなんだよね?
みんなからのメッセージが凄く嬉しかったから、部屋に飾ろうと思ってるんだ。
本当にありがとう」
するとゼノも笑顔で答えてくれる。
「おはよう。そんなに喜んでもらえたんなら良かったよ。
──君はユエ様の人形にしたの?」
それから私の持っている人形を見つめる。
「あ、うん、そうなんだけど…、これは部屋に届いたものなの」
私の希望通りの物ではあるので、そういう答え方をする。
それから詳しく説明すると、ゼノは目を丸くした。
「えっ!?君も?
俺の部屋にも今朝、ラッピングされたカナタとノア様の人形があったんだよね…。
俺が作った物で間違いないと思うけど、誰が置いたのか不思議だなぁって…。
──でもせっかくだから、このまま私室に置こうと思うよ」
その話にカナタが大きく反応した。
「ゼノも!?オレも今朝、ゼノの人形をもらったよ!」
「ええ!?カナタも?じゃあ俺たち、お互いの人形をもらったんだ…」
そう気付いたゼノに、カナタはこう伝える。
「──なんだかわかんないけど、オレはバースのことを思い出して寂しくなる時がある
から、もらったのが友達のゼノの人形で良かったと思う」
カナタはゼノと一番仲がいいもんね。
「カナタ…。俺もカナタの人形で良かったよ。
俺の人形を喜んでくれる人が1人でもいて、良かったな…」
そういうゼノの横で、ロレンツォと話していた女の子が大きな声を上げた。
「えーっ!?このお人形はゼノさまが作ったの?すごい!
わたしはゼノさまのがいいな!」
その言葉を聞いて、ゼノが確認する。
「えっ!?1人1個だよ?本当に俺でいいの?」
女の子はしっかりとうなずいた。
「うん!わたしはゼノさまみたいに、いろんな物を上手に作れるようになりたいから」
なるほど。力を与えてくれる守護聖の人形だから、確かにそういうご利益もありそうだよね…と、私は納得する。
「そっか…。ありがとう。
作り続けていれば、君もどんどん上手くなるよ。俺も応援してるから」
そうゼノは女の子を励まして、手を振りながら見送る。
そんな時にゼノの後ろから、男の子が話しかける。
「ねえ、ゼノさま。この前ピーちゃんのおはかを、いっしょに作ってくれてありがとう」
その声に振り返ったゼノは目を丸くする。
「君はあの時の!?君も俺の人形を?」
そう男の子は、もうゼノの人形を持っていた。
「うん。あの時ゼノさまのおかげで、かなしい気持ちが少しへったんだ。
だからゼノさまのにしたよ」
そう聞いたゼノは感動しているみたいだった。
その男の子は、私も知ってる。
男の子に小鳥を生き返らせてほしいってお願いされたそうで、最初ゼノは困っていたけど…。
あの後うまくいっていたんだ。本当に良かったな。
そんなやりとりを見ていた私も、心が温かくなった。
子ども達が去ったあと、ゼノはしみじみつぶやく。
「そっか。俺の人形を欲しいと思ってくれてる人も、ちゃんといるんだ。
フェリクス様の言う通り、数を増やしてよかったな」
「フェリクスが、そういうアドバイスを?
そういえばフェリクスも一緒に、この守護聖くん人形を作ってくれたんだよね」
私がそのことを思い出していると、ゼノはうなずく。
「そう!この人形はね、デザインはサイラスがしたんだけど…。
それを一般用のぬいぐるみにするにあたって、フェリクス様も一緒に考えてくれたんだ
よ。デザインの修正や、素材選びなんかをね」
それからゼノは、私の持っている人形を見て教えてくれる。
「ユエ様だと…ブローチだけは金色にしたらいいんじゃないかって提案されたのも、
フェリクス様だよ」
そういわれて見ると、ユエくん人形の中で神鳥のブローチだけは特別に、少しキラキラして目立っている。
「そうなんだ。これキレイだよね」
その話を聞いて、それまで飛空都市の人と話していたユエも反応する。
「おっ。そうなのか?さすがフェリクス。俺もこの部分、気に入ってるんだよなー。
後でお礼いっとかなくちゃな」
「はい、ぜひ」
そう喜ぶユエに答えた後、ゼノは続けて説明してくれる。
「みんなの記念品になるなら、ちゃんとした物を作りたい。
縫うのはゼノに任せたほうがいいと思うけど、他にできることがあれば……って、
フェリクス様はおっしゃって下さってね──。
小さなパーツを貼ったりするのは、フェリクス様がやって下さったんだ。
生地に印刷するだけじゃなくて、目立たせた方がいい部分もあるんじゃないかって」
そう聞いてよく見てみると、確かにアクセサリーとかがいくつか貼ってある。
「そうなんだ。2人で凄く丁寧に作ってくれた人形なんだね。
そう聞いたら、ますます大切にしなくちゃって思うよ」
感心した私がそう答えると、ゼノはうなずいた。
「うん。そうしてくれると、俺たちも嬉しいな。
──それでね、それぞれ何個ずつ作るか考えた時に──。
『ロレンツォ様とヴァージル様は、特に人気って噂だから、多めに作った方がいいかなー』
そう俺が作る人形の数を、紙に書いていたら…。
『これゼノのだけ少なすぎるだろ。もっと作れよ。
ゼノの人形を欲しがる人に行き渡らなかったら、悲しませることになるだろう』
そうフェリクス様がおっしゃって下さったんだー。
それで俺のをいくらか増やしたんだけど──。
……うん。俺の人形、思ってたよりも減ってるし、フェリクス様のおっしゃる通りにして
良かったな」
そうゼノは、箱の中に入っている自分の人形を見ながら、笑顔になった。

そんな想いのこもった守護聖くん人形の話を聞いた後、私は聖殿に向かう。
人形をたくさんもらったという、ノアの話も聞きたくて。
その途中の道でフェリクスと会った。
「おはよう、アンジュ。あんたはその人形をもらってきたのか」
挨拶をした後、他の人にも説明したように、今朝私の部屋に置いてあったことを話す。
「へぇ。守護聖にも何人かそんなことがあったようだけど、女王候補達もなのか」
そう驚いた顔をした後、今度は少し嬉しそうな顔になって教えてくれる。
「──あんたと前に公園で話した時にも近くにいた職員がさ、僕の人形を持ってたんだ。
小さな子どもも…。
僕は顔ばかりほめられることが多いのが気になってた。
だからみんな同じ顔の人形でも、僕を選んでくれるんだな…って、少しうれしかったよ」
その話に、私も一緒に嬉しくなる。
うん、フェリクスの良いところは、もっと他にもいろいろある。
「この人形も、ゼノとフェリクスがこだわって作ってくれたって、さっき聞いたよ」
「うん、そう。気に入った?」
「うん、とっても。大切にします!」
私がそう笑顔で答えると、フェリクスはいつもより声に力を込めていった。
「──それじゃあ僕も、人形を渡しに行くか」

フェリクスと別れて聖殿に入ると、すぐにシュリに呼び止められた。
「おい!ここに来るまでに、怪しい奴を見かけなかったか?
昨晩守護聖寮に不審者が侵入したんだ。
子どもの守護聖ばかりが狙われた!」
そんな緊迫した雰囲気に私は驚く。
「えっ?そうなんですか?」
さっき会ったカナタもゼノも、普通にしてたけどなあと、思い出していると──。
「部屋に置かれていた不審物に、危険な物が仕掛けられていないか俺が調べたところ、何もなかったが…。
守護聖の形をした不審物を置くとは、どういうつもりだ!」
そうシュリは怒っている。
それで私はその不審物とは、ラッピングされていた守護聖くん人形のことだとわかった。
ああ、なるほど。サンタクロースからのプレゼントをシュリはもらったことがないとしたら…、怪しく感じたんだろうなあ。
確かに誰がくれたのかまだ全然分かっていないし、飛空都市にサンタクロースというのも───。
そうも思ったけれど、そんなに危険な香りを感じない私は、シュリに伝える。
「私とレイナのところにも、今朝この人形が届きましたけど…。
ゼノが『これは自分が作った物で間違いない』って言ってたし…。
クリスマスのプレゼントみたいだから、大丈夫じゃないですかね?」
そんな私の話に、シュリは更に慌てる。
「何!?女王候補のところにもか!?
これがその人形か。貸してみろ」
そう言って私の腕の中から、ユエくん人形を取り上げる。
私が思わずじっと見つめると──。
「……そんなに心配そうな顔をするな。壊したりはしない」
そう私にことわってから、シュリは人形を調べ始める。
そしてそれが終わると───。
「これにも特に、何か仕掛けられてはいないようだな」
そう言って人形を返してくれる。
「確かめてくれて、ありがとうございました」
危険物とは考えていなかったけれど、シュリがそういうなら、より安心できる。
ほっとしている私とは逆に、シュリは厳しい顔のまま確認する。
「……レイナのところにも届いたと言っていたな。
──レイナは優秀な女王候補だからな。他はフェイクで、レイナのだけが危険物ということも、充分あり得る!
レイナは今、どこにいるんだ…!?」
そう苦悩し始めたので、知っている私は伝える。
「10時半くらいまでは、森の湖にいるって言ってましたよ」
「森の湖か!わかった。待ってろ、レイナー!」
そうシュリは勢いよく聖殿を飛び出して行く。
その様子を見て、私はとあることを思い出した。
………。そういえば、レイナとシュリの親密度は130くらいあったな…。
そしてレイナとミランはほぼMAX──。
……三角関係だとしたら、今レイナはミランとデート中だけど、大丈夫かな?
そう心配になったものの、関係ない私にはどうしようもない。
モテると大変そうだな…。
残念ながら私はこれまでに、殆どの守護聖と恋愛失敗してきた。
でも私はそれで良かったのかもしれない。
好きな人とはまだ上手くいってるし…。うん。
そう思い直してから、目的地に行くことにした。

ノアの執務室に行くと、いつもの落ち着いた様子で迎えてくれた。
「…こんにちは。サイラスが言ってたけど……、昨日はレイナとクリスマスのお祝いをしたんでしょ?楽しかった?」
「うん。私もレイナも、すごく楽しい時間を過ごせたよ。
ノアが書いてくれたメッセージもとっても嬉しかった。どうもありがとう」
そう2人とも、昨日のことを笑顔で話す。
その間にも目に入る、並べて置いてある守護聖くん人形について聞いてみる。
「今朝私のところに、このユエくん人形が置いてあったんだけどね…。
ノアのところにもたくさん届いたって聞いて、話を聞きたいと思ったの」
するとノアは驚いた後、詳しく話してくれる。
「えっ!?君のところにも?
……うん、そう……。カナタとゼノのところにもあったって聞いたけど……、
僕のところだけ5つも届いたんだ……。
シュリが確認して、安全だってわかったから……、私室用と執務室用に分けた。
怖いシュリと…、ユエには……プライベートまで見張られたくないから…、執務室にした」
そうノアが言うように、その2人と、真ん中にノアくんの人形が置かれている。
その配置で、ノアくんとユエくんは手をつなげそうに見える。
だからやっぱりユエの方に心を開いているのかなと感じた。
笑っている人形なこともあって、ノアくん人形は2人と一緒で嬉しそうに見える。
可愛い…。
私はぬいぐるみ好きなこともあって、見ていて楽しくなる。
「私室には…カナタとゼノのがある。
……うーん……、他の3人は関わり多いから、分からなくもないけど……、
ゼノはどうしてなんだろう?
嫌じゃないけど……、理由がわからない……。気になる……」
そうノアは悩んでいる。
その話を聞いた私は、前にゼノから聞いたことを思い出した。
ゼノが聖地に来たばかりの頃、ノアのそばに落ち着きに行ってたって…。
ノアは気付いてないみたいだけど、ゼノの方にそういう気持ちがあるからかもしれない。
さっきゼノも、ノアくん人形をもらったって言ってたし…。
そう思い付いたけれど、私が直接その話をしていいのか分からない。
そこでノアにこういった。
「ゼノとは、仲良くなりやすいのかもしれないね」
「うーん……。そうなのかな?
……じゃあ、これから気をつけて見てみる……」
ノアはそう戸惑いながらも、頷いてくれた。
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