ミステリー・グリーンティー

仕切り直してゼノの私室の前に行くと、中からゼノとカナタの声が聞こえる。
こちらは私的な場所なので、部屋の主にちゃんと許可を取る。
「ゼノ、聞きたいことがあるんだが、入っていいか?」
するとほどなくして、ゼノの声が返ってくる。
「シュリ様!?はい、どうぞ」
そこでシュリは部屋に入る。
2人はゲームをしていたようで、近くにゲーム機がある。
ゼノもカナタも立った状態でシュリを迎えた。
「シュリ様は視察から帰られたところですか?お疲れ様です」
そうゼノはまず挨拶をする。
「ああ。さっき戻ってきたところだ」
「あ!シュリさんは今日誕生日だって聞きました。おめでとうございます」
そう周りから聞いていたカナタは、自分からお祝いの言葉を伝える。
「お誕生日おめでとうございます!」
ゼノも笑顔で続く。
そんな後輩にシュリはお礼をいった。
「ああ、ありがとう」
「それでシュリ様はどうされたんですか?」
そうゼノに促され、シュリは話を始める。
「今日俺の執務室に、グリーンティーのセットが置かれていてな。
その贈り主を探しているんだ」
そう聞いたゼノもカナタも戸惑った顔をする。
「グリーンティー…。俺はわからないですね」
「オレも。今日はシュリさんの執務室に行ってないしな…」
そう2人は顔を見合わせる。
それからゼノは「これはいい機会」と気持ちを切り替えて、用意していた物を取りに向かう。
「シュリ様、今少し時間ありますか?
俺たちからもシュリ様へプレゼントがあるんですよ」
そういってから部屋の冷蔵庫を開ける。
冷蔵室、冷凍室それぞれから長方形のお盆を1つずつ取り出して、テーブルに置いた。
ゼノは嬉しそうにいう。
「俺たち、シュリ様の好きなフルーツシャーベットやゼリーをたくさん作ってみました。
冷やしておかないといけないから、シュリ様が帰ってきたら、お出ししようと思っていたんです。
ちょうど来ていただけて良かったです」
「シュリさん、今はどれにしますか?」
そうカナタも嬉しそうに訊ねる。
そこには色とりどりのシャーベットとゼリーが、それぞれ5種類も並んでいた。
シャーベットの上には少し、その味の果物も乗っている。
それを見るとオレンジ、さくらんぼ、ラ・フランス、メロン、ぶどうがある。
聞いてみると、5種類ともシャーベットとゼリーは同じ味を作ったそうだ。
(作り方は難しくないはずだが、これだけの種類を用意するのは手間だっただろう)
まだグリーンティーの謎は解けないままだが、
そんな想像をしたシュリは、せっかくの厚意を受けることにした。
「そうだな。ではこのぶどうのシャーベットと、オレンジのゼリーを頂こう」
そう1つずつ選ぶ。
ゼリーはそのまま1人分になっている。
しかしシャーベットは3人分のため、3分の1をガラスの器に盛りつける。
「ではこちらをどうぞ。俺たちも食べよう」
そうゼノはシュリ用に用意していたゼリーを、まず冷蔵庫にしまう。
その後に自分達用のを出す。
ゼリーも3人がそれぞれの味を食べられるように、分けてあった。
「カナタはどれを食べたい?」
そうゼノに訊かれたカナタは、食べたことのない味を選ぶ。
「じゃあオレはラ・フランスのシャーベットを食べてみたい」
カナタは基本的に甘いものが得意ではない。
そこでゼノはすくいながら「これくらいにする?」と確認した。
「うん。それくらいで」
そうカナタが頷いたので、その小盛りのシャーベットを目の前に置く。
2人と同じ味を試食したいと考えたゼノ。
ラ・フランスのシャーベットとオレンジのゼリーにした。
他はすぐに冷蔵庫に戻す。
「たくさん作ったので、また食べに来てくださいね」
そうシュリを誘いながら、2人にスプーンを配る。
そして3人ともテーブルにつくと、早速食べ始める。
「「「いただきます」」」
「これは美味いな」
そう目を丸くするシュリ。
「このシャーベット、結構サッパリしてるから、オレもいけるよ」
そうカナタがゼノを見ると、ゼノは喜んで誘う。
「じゃあカナタもまた一緒に食べよう。やっぱりオレンジは美味しいなー」
そう作った本人も満足する味だ。
デザートを楽しみながら、謎のグリーンティーセットについて、シュリは違う方向からいってみる。
「さっき話したグリーンティーセットで淹れてみたら、初めて茶柱が立ったんだ」
すると自分も体験した時に嬉しかったカナタが反応する。
「え!?誕生日に!?聞いたオレまでテンション上がりました」
シュリはカナタを見て頷いてから、話を続ける。
「ああ。驚きのあまり、見入ってしまった。
それでもしかすると急須に仕掛けがあって、そうなったのかと思ってな」
その話を聞くと、ゼノは考え込む。
「うーん。急須が特別製だったか、もしくは茶柱が立ちやすくなる条件がある…とか?
その急須と茶葉を見せてもらってもいいですか?」
そこで冷菓をゆっくり楽しんだ後に、3人で確かめることにした。

食べ終わったシュリは、私室からグリーンティーセットを持ってくる。
その急須をあらゆる角度から確認したゼノは、こう答える。
「うーん。とりあえずこれは、普通の急須みたいですね…」
「茶柱が立ったのは、たまたまなのかな?」
カナタはそう相槌を打つ。
そこでゼノはもう1つの案を、タブレットで調べてみることにした。
するとすぐに目的の情報を見つける。
「あ、ありましたよ。茶柱の立て方!」
その発言にカナタもシュリも驚く。
「えっ!?」
「そんな方法があるのか!?」
そんな2人にゼノは、そこに書かれている説明を要約して伝える。
「読み上げますね。
えーとまず、茎の含まれている茶葉を選ぶ…」
「しのって?」
カナタにとって初めて聞く言葉なので、きょとんとした顔でゼノを見つめる。
そこでゼノはネットの写真と、シュリの持ってきた茶葉を見比べながら、2人に指し示す。
「この白っぽい部分のことみたいですね」
「!確かに白いものが多く含まれていると思っていた」
そう自分でも気付いていたシュリが頷く。
「それから…茶こしに大きめの穴が空いている急須を使う…」
そうゼノから聞いても、標準がわからないシュリは首をひねる。
「茶こし?ここも肝心なのか。これまでに使ったものがどうだったのか覚えていないが…」
その言葉にカナタがすぐに動く。
「じゃあ、オレも自分の急須を買ってもらったから、比べてみましょう」
そうカナタはすぐに、私室からマイ急須と茶葉も持ってくる。すると───。
「やはり俺がもらった物の方が、穴が大きいな」
比べてみると違いがよくわかった。
「それにオレの茶葉よりも、茎の部分が断然多い!」
カナタの茶葉にも少し茎は入っているが、明らかに割合いが違っている。
「本当にここに書いてある通りですね…」
そうゼノも驚いてから、まだある茶柱を立てる秘訣を読み上げる。
「それから少なめの茶葉に、多めのお湯を使う」
その言葉にシュリは大きく反応する。
「それは……!そうするようにメッセージが入っていたな…」
「すると30%の確率で茶柱が立つでしょう…だそうです」
それでネットの説明は締められていた。
グリーンティーをよく飲む国の出身であるカナタが、初めて知る情報に特に感心する。
「へー。茶柱が立ちやすくなる方法があるなんて知らなかったな。30%か…。
シュリさんは何杯淹れたんですか?」
「1人だったから1杯だけだ」
その話にゼノが笑顔で祝う。
「じゃあシュリ様は、その30%を引き当てたんですね!おめでとうございます!」
「誕生日にスゲー!オレも茶柱を見たことがあるのは2回だけだから、羨ましいです」
そうカナタは心から羨ましがる。
そう3分の1の幸運を引き寄せた上に、また2人からも祝ってもらえて、シュリも満足した気持ちになる。
そこでシュリは、カナタにこう提案する。
「これは茶柱が立ちやすいなら、今度一緒に飲むか」
するとカナタは目を輝かせて乗り気になる。
「やったー!オレも茶柱立てたい。楽しみです」
そんな様子を見ながら、ゼノはこう思った。
(俺は確実に茶柱を立てる急須も作れるけど…。
成功するかわからないから、嬉しいんだよね)

そう謎の半分は解明したが、シュリは目を閉じて考え込む。
「茶柱が立った原理はわかったが、一体これは誰がくれたのか…」
「シュリ様を喜ばせたかった誰かに、心当たりはないですか?」
そうゼノに問われる。
これまではこんなことが出来そうな相手を考えていた。
そんなシュリにとって、目から鱗な発想だ。
これまででユエ、ノア、カナタ、ミラン、ゼノ、フェリクス、レイナは違うらしいことが判明している。
「そうか。俺を喜ばせたい誰か…か」
そう繰り返して呟いたシュリの頭に、真っ先に浮かんだのは───。
「(シュリを)私が笑顔にしてあげられたらいいのに」とか、
「私もシュリの仲間になれないですか?」といっていた彼女の姿だった。
彼女は今日の視察中も、
「誕生日なのに来ていただいて、ありがとうございます。
今日はシュリの行きたいところに行きましょう。
シュリにとって嬉しい1日にできたら…って思っているんです」
そう笑顔で軽やかに歩いていた。
そして中央広場で、温かい時間を過ごしたのだった。
アンジュとは今日ずっと一緒にいたから、執務室に来る時間はないはずだ…。
チラと頭に浮かんだものの、そう考えから外していたが、もしかしたら…。
そして心当たりもある。
最近ちょっとした悲しいこととして、「一度も茶柱が立ったことがない」とアンジュに話したばかりだ。
これまでの彼女の反応を思い出してみれば、「なんとかしたい」と考えてくれたのかもしれない。
そんなアンジュに、シュリも大分心を許してきている。
先日はずっと大切にしている遺品よりも、優先して彼女を助けていた。
そんなアンジュの姿を思い出し、贈り主の予想がついたシュリは、穏やかな顔でこう言った。
「ああ。あいつかもしれない。
明日聞いてみるか」


Fin
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