4人で作る しあわせプレート
今回の4品の中で、私はナポリタンソースだけでなく、クリームコロッケも作ったことがなかった。出来合いのを揚げたことがあっただけで。
だから自分の作業の合間に目に入る、レイナの作る様子が興味深かった。
クリームコロッケの種は、一時間冷やすことも知らなかったなあ。
そこで空いた時間、レイナは私たちの料理の様子を見てくれた。
おかげで安心して作ることが出来た。
カナタがハンバーグを成形する時に、悩み始める。
「ゼノとオレの分のハンバーグは、大きいのを1つ作った方がいいのかな?」
その言葉を聞いて、私は前から思い浮かべていたものを提案した。
「この4品に決めるときから思っていたんだけど、ゼノへのお祝い用に、
1皿に少しずつ盛り付けてプレートを作るのはどうかなって思ったんだ。
お子様ランチみたいに」
するとみんな賛成してくれる。
「だったら、この大きい皿がいいんじゃないか?」
そうユエが食器戸棚から、ちょうど良さそうなお皿を見つけてくれた。
「じゃあそれに合うように、バランスを考えてみるよ」
カナタはそういって「これくらいでいいと思う?」と、大きさを確認してくれる。
それを見て、私たちは頷いた。
「うん。それだと他の3品を乗せるスペースも出来るし、ちょうど良さそうだね」
その後に同じくレイナも、よく大きさを考えてクリームコロッケを成形してくれた。
ユエが卵を割ったうち、双子の卵があった。
めったに見たことがない私たちは、手を止めて覗き込む。
「えっ!?双子?」
「おめでたい感じがする」
そう私がなんとなく思ったことをいうと、レイナが教えてくれる。
「前に私が見た時に調べたら、その通り双子の卵は幸運の象徴って書いてあったわよ」
そう私たち3人は驚いたけれど、ユエには割とあることらしい。
それでも本人も嬉しそうにこういった。
「この卵もゼノを祝いに来てくれたのもしれねえな」
それでこれはゼノ用に決まった。
双子は黄身の部分が1.5倍になる分、味が濃くなるんだって。
そんなことがありながら、
出来上がったみんなの料理を、皿に盛り付けていく。
ハンバーグとクリームコロッケ3種類をそれぞれ1つずつ。
スパゲッティとオムライスは小盛りにする。
オムライスの玉子で包むのは難しいので、ケチャップライスの上にかぶせられた。
あの幸せの象徴の黄色い卵が。
そんなバースデープレートを見て、私はこんなことを思った。
「これは『しあわせプレート』って名前がぴったりな気がする。
みんながゼノへの感謝と、喜んでほしいという気持ちで作った料理を合わせたから……。
『しあわせ(4合わせ)プレート』って名前がいいと思う」
そう私が突然名付けたけれど、3人とも賛成してくれた。
「ステキな名前だと思うわ」
「ユエ様の幸運も入ってるから、間違いなく幸せになれるはずだ」
「本当にこれを食べたゼノが、幸せな気分になったらいいよね」
そうプレートを作ったみんなで、温かい気持ちになる。
そのしあわせプレートを見て、カナタがしみじみいう。
「それにしても、なんか懐かしいな。オレも低学年までは、こういうのを食べてたっけ。
たくさん食べたくて、早めに大人用を頼むようになったけど。
小さい頃は大好きだったな」
その言葉にレイナも頷く。
「そうね。私も両親といい思い出があるわ……。
久しぶりに、私たちがいただく分も、同じように盛り付けるのもいいわね」
その提案に、私は張り切って頷く。
「うん。そうしよう」
そしてレイナと私は、自分の分も同じようにプレートに盛りつけた。
「せっかくだから、俺もやってみるか」
そういうユエは私たちよりも多く食べるから、ナポリタンだけは別皿に盛ることになった。
でも3品乗ったお皿を見て、楽しそう。
そしてカナタは出来ればゼノと一緒に食べたいということで、
ゼノのお代わり用とカナタの分を、まとめて盛りつけていた。
そう完成したのは11時頃。
しばらく戻ってこないので、私たちの分の料理は冷蔵庫に入れさせてもらう。
そして残っていた後片付けと、着替えを済ませる。
また戻ってくるときまで、エプロンは預かってもらうことにした。
それから私たち4人は、ゼノとカナタ用の料理を盛ったお皿を持って、ゼノの執務室を訪ねる。
ゼノには予告していないけれど、私が当番札を置いておいたから、いるはずだ。
当番札というものがあって、本当に良かった!
「こんにちは、ゼノ。みんなでお祝いにきたよ!」
そう私がドアを開けると、ゼノは片付けをしていたようだった。
まずメインのバースデープレートを持ったカナタが入る。
「ゼノ、誕生日おめでとう!」
その後に続いて入った、私たち3人も笑顔でお祝いする。
「ハッピーバースデー!」
「お誕生日おめでとうございます」
そんな私たちを見たゼノは目を丸くして、作業の手を止めた。
「えっ!?ありがとうございます。
みんな料理を持ってきてくれたの?こんなにたくさん」
そう私たちの持っている5皿を見回す。
そこでこの料理企画を発案したカナタが答える。
「うん。いつもお世話になっているゼノに、手料理でお返ししたくてさ。
お姉さん達にも、いろいろ協力してもらったんだ」
そう手料理と聞いて、この中に一人いる大先輩にゼノは恐縮する。
「ユエ様まで!?ありがとうございます」
するとユエも日頃のお礼を伝える。
「俺もゼノにはペガサスシステムとか、いろんなものを作ってもらってるしな。
この前も俺のために、ローストビーフを作ってくれただろ。ありがとうな。
だからカナタの話を聞いた時に、俺も何か作りたいと思ったんだ」
私たちはお皿を持ったままなので、2皿持ってくれているユエはこう訊ねる。
「ところでこの皿、テーブルに置いていいか?」
「あ、はい。すみません。お願いします」
そこで私たちはお皿を応接机に並べていく。
その料理を見て、ゼノは瞳をキラキラとさせる。
「うわ。嬉しいー。こんなに俺の好物を作ってくれたんだ」
それからゼノは、カナタが置いたメインのお皿を興味深そうに見る。
「このプレートには全部の料理が乗ってるんだね」
そうバースデープレートには、私たち4人が作った4品を盛り付けてある。
クリームコロッケ、オムライス、ハンバーグ、ナポリタンを。
「あ、それはお姉さんのアイディアなんだよ」
そうカナタが私を見たので、経緯を説明する。
「ゼノの好きな料理を思い出していたら、そういうのを盛り合わせたプレートがあるのを思い出してね。
バースで私も大好きだったものなの」
そうもう大人になるゼノには合わない名前はとりあえず伏せて、お子様ランチの話をする。
「ゼノはたくさん食べたいだろうから、結局おかわり用も持ってきたんだけど。
お祝い用のプレートもあってもいいなって。
4品でゼノの幸せを願う『しあわせ(4合わせ)プレート』だよ」
私たちがそう込めた気持ちも伝えると、ゼノはにっこり笑ってくれた。
「幸せプレートかあ。
うん。このプレートは、立体映像で記録したいくらいステキだね。
もう食べる前から、幸せな気分になってるよ。
それに、こんなにたくさん食べられるのも嬉しいな」
そういってくれたので、このしあわせプレートも作ることにして良かった。
「このコロッケは、何が入ってるんだろう?楽しみだなー」
そう中身は見えない、ゼノ1番の大好物を見つめている。
爆発することもなく、キレイに揚がっているコロッケ。
これをメンバーで1番料理ができるレイナに頼んで良かった。
そのレイナは曖昧に答える。
「ゼノ様の好きなクリームコロッケを3種類用意しました。どれも野菜です」
これがメインディッシュみたいなものだし、ゼノを驚かせたいということで、秘密にする約束をしていた。
私はキャベツのクリームコロッケは食べたことがないけど、ゼノはあるかな?
「具体的には食べてからのお楽しみだよ」
そうカナタが引き継いで、自分が作った物をアピールする。
「オレはこのハンバーグを作ったんだ。
高校の授業でも作ったことがあるからさ、うまくできてると思うんだよね」
カナタは普段あまり料理をしないそうだけど、これは成功したことがあるという理由で立候補していた。
自信作らしく、こんがり、ふっくらと焼けている。
ちゃんと中まで火が通っているか、私たちも確認した。
「うん、美味しそう」
料理上手なゼノからも、そう見えるみたい。
続いてユエは、少し困った顔をして伝える。
「俺はオムライスを作った。
なんか全体的に…硬めになってしまったが、味見をしたらちゃんと食べられたぜ」
そう本人も言う通り、ライスの方は少しパサパサしている。
そして玉子は少し茶色く色付いているくらい、硬く仕上がっていた。
でも普通に食べられるレベルであることは、みんなで確認済みだ。
こんなふうに火を通しすぎるのは、私も料理を始めたばかりの頃はやりがちだった。
ライスを玉子で包むのは技術がいるので、玉子は上から被せてある。
そんな仕上がりでも、ゼノは笑顔のままフォローする。
「しっかり火が通っている料理も、俺は好きです。
この笑顔が描いてあるところもいいですね」
守護聖の話に頷いた時に見られるあの表情が、玉子にケチャップで描かれている。
「お祝いだし、喜んでいる顔を描きたい」とユエはいっていた。
そしてユエは、この玉子の秘密も教える。
「それからこの卵は双子だったんだ。
バースでは幸運の象徴っていわれてるらしい」
そう知って、ゼノはまじまじと見る。
「普通の玉子よりも黄色いな……とは思っていたんですけど、双子だからなんですね。
わあ。そんな珍しい物でお祝いしていただけるなんて、嬉しいです」
そうゼノもテンションが上がったみたい。
それからゼノはまだ名前の挙がっていない料理と私を見る。
「じゃあこのナポリタンは君が作ってくれたのかな?」
「うん。レトルトを使わないで作るのは初めてだけど、なかなか美味しくできたと思う」
料理が得意とはいえない私でも作れるくらいの難易度で良かった。
4品とも野菜を足して茹でる材料が増えた分、時間はかかった。
でも割ってみれば、どれも彩りがキレイ。
そして食べたらいろんな味がして、とてもいいと思う。
そうみんなの料理の紹介が終わると、ユエは踵を返した。
「じゃあ俺は仕事に戻る。ゼノはゆっくり食事していいからな」
そう立ち去ろうとする背中に、ゼノはお礼を伝える。
「ユエ様、本当にありがとうございました」
するとユエは扉を閉める前に、こう応えた。
「忘れられない誕生日になるといいな」
ここに来る前にユエは「俺がいるとゼノが気を遣うから、今回は早めに帰る」といっていた。
せっかくの誕生日だから、のびのびしてほしいってことみたい。
私とレイナも目配せして、帰ることにする。
「ではゼノ様。私たちも育成の依頼等ありますので、ここで失礼します」
「いい誕生日にしてね」
お互い今日の依頼をしたら、私たちは一緒に食べる約束をしていた。
今は冷蔵してあるけれど、ここではバースよりも美味しく温められる。
みんなの気持ちがこもっている料理は、きっと美味しいはず。
私も食べるのを、とても楽しみにしている。
ユエのも一緒に冷やしてあるので、今日中に取りにくるはずだ。
「うん。2人ともありがとう。
おかげで今年の誕生日も、凄く幸せな思い出になりそうだよ」
ゼノがそう思ってくれるなら、私たちは大満足だ。
私とレイナにお礼をいってから、ゼノはカナタに向き合う。
「ねえ、こんなにたくさんあるんだし、時間があるなら、カナタも一緒に食べていってよ」
カナタはそのつもりだったので、ここにはそれぞれの料理を1.8人前ずつ持ってきている。
それぞれ約1人前が4種類あるので、人より多く食べる2人とはいえ、多いかもしれない。
でも残ったら、ゼノの技術で冷凍することもできるしね。
「うん。オレもそうしたいなって思ってたんだ。一緒にお祝いしよう」
そうカナタが頷くと、ゼノはお皿を持ってくる。
「じゃあカナタの分も、こういうふうに盛り付けようよ」
そう自分のバースデープレートを見ながら提案するゼノ。
「いいね」
そうカナタも頷く。楽しそうな2人。
そんな声を聞きながら、私とレイナはゼノの執務室を後にした。
後でカナタから聞いた話によると──。
ゼノはお代わりする時も、しあわせプレートの同じ場所に盛り付けていたんだって。
そうとても気に入ってくれて良かった。
カナタと2人で記念ムービーを撮ったりもしたそう。
今回のことで、2人はますます仲良くなったみたい。もちろん私たちも。
私とレイナは聖殿の中庭で、しあわせプレートを食べた。
キレイな景色を見ながら食べる手料理は、想像した通りどれも美味しく感じたな…。
こうして私たち4人の料理を合わせた、ゼノのための『しあわせプレート』は
大成功で幕を閉じた。
Fin
2024年7月、2025年2月制作
(あとがき)
この物語は「ゼノ様と食べ物」というテーマのイベント用に考えました。
イベント日はゼノくんの誕生日なので、作ってもらった側にしたい。
ゲーム内で「ゼノがいて良かった」と1番かみしめているのはカナタくんの印象が強いので、カナタくんが企画する話にしようと思いました。
でもお祝いだし、喜んで作ってくれそうな人は出来るだけ呼びたいなと。
カナタくんとゼノくんの関係メインの物語にしたかったので、今回のアンジュさんは本命が決まっていないようにしました。
イベントの頃は他の物語を先に書いていて、時間がなかったのと、
ゼノ様イベントに、ゼノくんの出ない場面は需要があるのだろうか?と思い、
イベントには料理を振る舞う場面を提出しました。
でも最初から全体の流れは大体浮かんでいたので、自主的に足しました。
私はやっぱり完全版の方が気持ちを込められたので、いいです。
しかし結末が先に決まっている状態で、その前の部分を書くのはやりづらかったので、今後はそうしないと思います。
先に発表した部分は出来るだけ変えないようにしましたが、追記した場面と説明が二重になるところは削りました。
追記している時に、私も実際双子の卵と出会いました。
それで幸せの象徴と知ったことを、しあわせプレートに入れられて、幸せ感を増すことができたので、ちょうど良かったです。
だから自分の作業の合間に目に入る、レイナの作る様子が興味深かった。
クリームコロッケの種は、一時間冷やすことも知らなかったなあ。
そこで空いた時間、レイナは私たちの料理の様子を見てくれた。
おかげで安心して作ることが出来た。
カナタがハンバーグを成形する時に、悩み始める。
「ゼノとオレの分のハンバーグは、大きいのを1つ作った方がいいのかな?」
その言葉を聞いて、私は前から思い浮かべていたものを提案した。
「この4品に決めるときから思っていたんだけど、ゼノへのお祝い用に、
1皿に少しずつ盛り付けてプレートを作るのはどうかなって思ったんだ。
お子様ランチみたいに」
するとみんな賛成してくれる。
「だったら、この大きい皿がいいんじゃないか?」
そうユエが食器戸棚から、ちょうど良さそうなお皿を見つけてくれた。
「じゃあそれに合うように、バランスを考えてみるよ」
カナタはそういって「これくらいでいいと思う?」と、大きさを確認してくれる。
それを見て、私たちは頷いた。
「うん。それだと他の3品を乗せるスペースも出来るし、ちょうど良さそうだね」
その後に同じくレイナも、よく大きさを考えてクリームコロッケを成形してくれた。
ユエが卵を割ったうち、双子の卵があった。
めったに見たことがない私たちは、手を止めて覗き込む。
「えっ!?双子?」
「おめでたい感じがする」
そう私がなんとなく思ったことをいうと、レイナが教えてくれる。
「前に私が見た時に調べたら、その通り双子の卵は幸運の象徴って書いてあったわよ」
そう私たち3人は驚いたけれど、ユエには割とあることらしい。
それでも本人も嬉しそうにこういった。
「この卵もゼノを祝いに来てくれたのもしれねえな」
それでこれはゼノ用に決まった。
双子は黄身の部分が1.5倍になる分、味が濃くなるんだって。
そんなことがありながら、
出来上がったみんなの料理を、皿に盛り付けていく。
ハンバーグとクリームコロッケ3種類をそれぞれ1つずつ。
スパゲッティとオムライスは小盛りにする。
オムライスの玉子で包むのは難しいので、ケチャップライスの上にかぶせられた。
あの幸せの象徴の黄色い卵が。
そんなバースデープレートを見て、私はこんなことを思った。
「これは『しあわせプレート』って名前がぴったりな気がする。
みんながゼノへの感謝と、喜んでほしいという気持ちで作った料理を合わせたから……。
『しあわせ(4合わせ)プレート』って名前がいいと思う」
そう私が突然名付けたけれど、3人とも賛成してくれた。
「ステキな名前だと思うわ」
「ユエ様の幸運も入ってるから、間違いなく幸せになれるはずだ」
「本当にこれを食べたゼノが、幸せな気分になったらいいよね」
そうプレートを作ったみんなで、温かい気持ちになる。
そのしあわせプレートを見て、カナタがしみじみいう。
「それにしても、なんか懐かしいな。オレも低学年までは、こういうのを食べてたっけ。
たくさん食べたくて、早めに大人用を頼むようになったけど。
小さい頃は大好きだったな」
その言葉にレイナも頷く。
「そうね。私も両親といい思い出があるわ……。
久しぶりに、私たちがいただく分も、同じように盛り付けるのもいいわね」
その提案に、私は張り切って頷く。
「うん。そうしよう」
そしてレイナと私は、自分の分も同じようにプレートに盛りつけた。
「せっかくだから、俺もやってみるか」
そういうユエは私たちよりも多く食べるから、ナポリタンだけは別皿に盛ることになった。
でも3品乗ったお皿を見て、楽しそう。
そしてカナタは出来ればゼノと一緒に食べたいということで、
ゼノのお代わり用とカナタの分を、まとめて盛りつけていた。
そう完成したのは11時頃。
しばらく戻ってこないので、私たちの分の料理は冷蔵庫に入れさせてもらう。
そして残っていた後片付けと、着替えを済ませる。
また戻ってくるときまで、エプロンは預かってもらうことにした。
それから私たち4人は、ゼノとカナタ用の料理を盛ったお皿を持って、ゼノの執務室を訪ねる。
ゼノには予告していないけれど、私が当番札を置いておいたから、いるはずだ。
当番札というものがあって、本当に良かった!
「こんにちは、ゼノ。みんなでお祝いにきたよ!」
そう私がドアを開けると、ゼノは片付けをしていたようだった。
まずメインのバースデープレートを持ったカナタが入る。
「ゼノ、誕生日おめでとう!」
その後に続いて入った、私たち3人も笑顔でお祝いする。
「ハッピーバースデー!」
「お誕生日おめでとうございます」
そんな私たちを見たゼノは目を丸くして、作業の手を止めた。
「えっ!?ありがとうございます。
みんな料理を持ってきてくれたの?こんなにたくさん」
そう私たちの持っている5皿を見回す。
そこでこの料理企画を発案したカナタが答える。
「うん。いつもお世話になっているゼノに、手料理でお返ししたくてさ。
お姉さん達にも、いろいろ協力してもらったんだ」
そう手料理と聞いて、この中に一人いる大先輩にゼノは恐縮する。
「ユエ様まで!?ありがとうございます」
するとユエも日頃のお礼を伝える。
「俺もゼノにはペガサスシステムとか、いろんなものを作ってもらってるしな。
この前も俺のために、ローストビーフを作ってくれただろ。ありがとうな。
だからカナタの話を聞いた時に、俺も何か作りたいと思ったんだ」
私たちはお皿を持ったままなので、2皿持ってくれているユエはこう訊ねる。
「ところでこの皿、テーブルに置いていいか?」
「あ、はい。すみません。お願いします」
そこで私たちはお皿を応接机に並べていく。
その料理を見て、ゼノは瞳をキラキラとさせる。
「うわ。嬉しいー。こんなに俺の好物を作ってくれたんだ」
それからゼノは、カナタが置いたメインのお皿を興味深そうに見る。
「このプレートには全部の料理が乗ってるんだね」
そうバースデープレートには、私たち4人が作った4品を盛り付けてある。
クリームコロッケ、オムライス、ハンバーグ、ナポリタンを。
「あ、それはお姉さんのアイディアなんだよ」
そうカナタが私を見たので、経緯を説明する。
「ゼノの好きな料理を思い出していたら、そういうのを盛り合わせたプレートがあるのを思い出してね。
バースで私も大好きだったものなの」
そうもう大人になるゼノには合わない名前はとりあえず伏せて、お子様ランチの話をする。
「ゼノはたくさん食べたいだろうから、結局おかわり用も持ってきたんだけど。
お祝い用のプレートもあってもいいなって。
4品でゼノの幸せを願う『しあわせ(4合わせ)プレート』だよ」
私たちがそう込めた気持ちも伝えると、ゼノはにっこり笑ってくれた。
「幸せプレートかあ。
うん。このプレートは、立体映像で記録したいくらいステキだね。
もう食べる前から、幸せな気分になってるよ。
それに、こんなにたくさん食べられるのも嬉しいな」
そういってくれたので、このしあわせプレートも作ることにして良かった。
「このコロッケは、何が入ってるんだろう?楽しみだなー」
そう中身は見えない、ゼノ1番の大好物を見つめている。
爆発することもなく、キレイに揚がっているコロッケ。
これをメンバーで1番料理ができるレイナに頼んで良かった。
そのレイナは曖昧に答える。
「ゼノ様の好きなクリームコロッケを3種類用意しました。どれも野菜です」
これがメインディッシュみたいなものだし、ゼノを驚かせたいということで、秘密にする約束をしていた。
私はキャベツのクリームコロッケは食べたことがないけど、ゼノはあるかな?
「具体的には食べてからのお楽しみだよ」
そうカナタが引き継いで、自分が作った物をアピールする。
「オレはこのハンバーグを作ったんだ。
高校の授業でも作ったことがあるからさ、うまくできてると思うんだよね」
カナタは普段あまり料理をしないそうだけど、これは成功したことがあるという理由で立候補していた。
自信作らしく、こんがり、ふっくらと焼けている。
ちゃんと中まで火が通っているか、私たちも確認した。
「うん、美味しそう」
料理上手なゼノからも、そう見えるみたい。
続いてユエは、少し困った顔をして伝える。
「俺はオムライスを作った。
なんか全体的に…硬めになってしまったが、味見をしたらちゃんと食べられたぜ」
そう本人も言う通り、ライスの方は少しパサパサしている。
そして玉子は少し茶色く色付いているくらい、硬く仕上がっていた。
でも普通に食べられるレベルであることは、みんなで確認済みだ。
こんなふうに火を通しすぎるのは、私も料理を始めたばかりの頃はやりがちだった。
ライスを玉子で包むのは技術がいるので、玉子は上から被せてある。
そんな仕上がりでも、ゼノは笑顔のままフォローする。
「しっかり火が通っている料理も、俺は好きです。
この笑顔が描いてあるところもいいですね」
守護聖の話に頷いた時に見られるあの表情が、玉子にケチャップで描かれている。
「お祝いだし、喜んでいる顔を描きたい」とユエはいっていた。
そしてユエは、この玉子の秘密も教える。
「それからこの卵は双子だったんだ。
バースでは幸運の象徴っていわれてるらしい」
そう知って、ゼノはまじまじと見る。
「普通の玉子よりも黄色いな……とは思っていたんですけど、双子だからなんですね。
わあ。そんな珍しい物でお祝いしていただけるなんて、嬉しいです」
そうゼノもテンションが上がったみたい。
それからゼノはまだ名前の挙がっていない料理と私を見る。
「じゃあこのナポリタンは君が作ってくれたのかな?」
「うん。レトルトを使わないで作るのは初めてだけど、なかなか美味しくできたと思う」
料理が得意とはいえない私でも作れるくらいの難易度で良かった。
4品とも野菜を足して茹でる材料が増えた分、時間はかかった。
でも割ってみれば、どれも彩りがキレイ。
そして食べたらいろんな味がして、とてもいいと思う。
そうみんなの料理の紹介が終わると、ユエは踵を返した。
「じゃあ俺は仕事に戻る。ゼノはゆっくり食事していいからな」
そう立ち去ろうとする背中に、ゼノはお礼を伝える。
「ユエ様、本当にありがとうございました」
するとユエは扉を閉める前に、こう応えた。
「忘れられない誕生日になるといいな」
ここに来る前にユエは「俺がいるとゼノが気を遣うから、今回は早めに帰る」といっていた。
せっかくの誕生日だから、のびのびしてほしいってことみたい。
私とレイナも目配せして、帰ることにする。
「ではゼノ様。私たちも育成の依頼等ありますので、ここで失礼します」
「いい誕生日にしてね」
お互い今日の依頼をしたら、私たちは一緒に食べる約束をしていた。
今は冷蔵してあるけれど、ここではバースよりも美味しく温められる。
みんなの気持ちがこもっている料理は、きっと美味しいはず。
私も食べるのを、とても楽しみにしている。
ユエのも一緒に冷やしてあるので、今日中に取りにくるはずだ。
「うん。2人ともありがとう。
おかげで今年の誕生日も、凄く幸せな思い出になりそうだよ」
ゼノがそう思ってくれるなら、私たちは大満足だ。
私とレイナにお礼をいってから、ゼノはカナタに向き合う。
「ねえ、こんなにたくさんあるんだし、時間があるなら、カナタも一緒に食べていってよ」
カナタはそのつもりだったので、ここにはそれぞれの料理を1.8人前ずつ持ってきている。
それぞれ約1人前が4種類あるので、人より多く食べる2人とはいえ、多いかもしれない。
でも残ったら、ゼノの技術で冷凍することもできるしね。
「うん。オレもそうしたいなって思ってたんだ。一緒にお祝いしよう」
そうカナタが頷くと、ゼノはお皿を持ってくる。
「じゃあカナタの分も、こういうふうに盛り付けようよ」
そう自分のバースデープレートを見ながら提案するゼノ。
「いいね」
そうカナタも頷く。楽しそうな2人。
そんな声を聞きながら、私とレイナはゼノの執務室を後にした。
後でカナタから聞いた話によると──。
ゼノはお代わりする時も、しあわせプレートの同じ場所に盛り付けていたんだって。
そうとても気に入ってくれて良かった。
カナタと2人で記念ムービーを撮ったりもしたそう。
今回のことで、2人はますます仲良くなったみたい。もちろん私たちも。
私とレイナは聖殿の中庭で、しあわせプレートを食べた。
キレイな景色を見ながら食べる手料理は、想像した通りどれも美味しく感じたな…。
こうして私たち4人の料理を合わせた、ゼノのための『しあわせプレート』は
大成功で幕を閉じた。
Fin
2024年7月、2025年2月制作
(あとがき)
この物語は「ゼノ様と食べ物」というテーマのイベント用に考えました。
イベント日はゼノくんの誕生日なので、作ってもらった側にしたい。
ゲーム内で「ゼノがいて良かった」と1番かみしめているのはカナタくんの印象が強いので、カナタくんが企画する話にしようと思いました。
でもお祝いだし、喜んで作ってくれそうな人は出来るだけ呼びたいなと。
カナタくんとゼノくんの関係メインの物語にしたかったので、今回のアンジュさんは本命が決まっていないようにしました。
イベントの頃は他の物語を先に書いていて、時間がなかったのと、
ゼノ様イベントに、ゼノくんの出ない場面は需要があるのだろうか?と思い、
イベントには料理を振る舞う場面を提出しました。
でも最初から全体の流れは大体浮かんでいたので、自主的に足しました。
私はやっぱり完全版の方が気持ちを込められたので、いいです。
しかし結末が先に決まっている状態で、その前の部分を書くのはやりづらかったので、今後はそうしないと思います。
先に発表した部分は出来るだけ変えないようにしましたが、追記した場面と説明が二重になるところは削りました。
追記している時に、私も実際双子の卵と出会いました。
それで幸せの象徴と知ったことを、しあわせプレートに入れられて、幸せ感を増すことができたので、ちょうど良かったです。