ミラクルな贈り物を、あなたに

令梟での初めての女王試験で、もうすぐ最初の定期審査が行われる頃───。
俺、鋼の守護聖ゼノは、サイラスからこんな仕事を依頼された。
「飛空都市に暮らす皆様からご要望がありまして、守護聖様たちの人形を作っていただけないでしょうか?
1人1個として、職員は100人以上…その家族も含めると150人分ほどということになりますが…」
期待には応えたいけれど、現実的にできそうか、俺は一応確認する。
「ええと…それはいつまでに欲しいんですか?」
「そうですね……。ゼノ様には他のお仕事もありますので、強くは言えないのですが…。
女王試験の3期末位までに、お願いできれば…と」
そう聞いて俺は計算する。
そうなると最大で60日あるとして…。
多めに200個作るとしても、1日当たり4個作れば間に合うのか…。
「やります!飛空都市のみんなが待ってるなら、やらせてください!」
俺がそう答えると、サイラスは具体的に話を進める。
「人気のミラクルサイラスくん人形に合わせた、デザインを考えてあります。
名付けて「ミラクル守護聖くん人形」!です。
なおゼノ様お一人に、全てお任せするのは大変かと思いますので、
フェリクス様にご協力をお願いしておきます。
お受けしていただき、誠にありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します」
そうサイラスが去っていったあと、俺は考える。
フェリクス様かぁ。
ロレンツォ様とは一緒に何かを作ることも多いけど、
フェリクス様と2人はあまりなかったなぁ…。

そして数日後、フェリクス様が俺の執務室を訪ねてこられた。
「──それで僕も一緒に考えることになったわけだけど、みんなの記念品になるなら、
ちゃんとした物を作りたいよな」
そうフェリクス様はやる気だった。
フェリクス様が人形作りをしてる…なんて話は聞いたことがないけど、
何事にも真面目に取り組まれる方だから──。
「かといって、縫うのは得意なゼノに任せたほうがいいと思う。
だから他に僕にもできることがあれば……」
そうフェリクス様は付け加える。
そこで俺はまず、ぬいぐるみによく使う素材の説明をした。
そしてそれぞれにどれを使うのか、一緒に考えることにした。
「こういう細い線は、印刷にしようと思います。模様を入れる機械を先に作りますね」
そう俺は執務服の模様を指し示して言う。
するとフェリクス様は頷いてから、こう提案する。
「そうだな。そういうところは印刷でいいと思う。
ただ装飾品とか、細かくても目立たせたい部分もあるよな……。
──よし!そういうのは僕が貼ろう。
ゼノには縫い合わせる作業を頼みたいから、他の細かい部分は僕がやるよ」
「お願いしていいんですか?」
俺が思わず確認すると、フェリクス様は頷いた。
「ああ。協力者として呼ばれた以上、作業もゼノに任せっきりには出来ないだろう。
その分残しておいてくれれば、時々ゼノの執務室に行って、やるよ」
そうせっかく申し出てくれているので、俺はお言葉に甘えることにした。
「ありがとうございます。ではよろしくお願いします」
それからもう一つ大事なことを思い出した。
「あ、じゃあそれぞれ何個ずつ作るかも、先に決めた方がいいですよね…。うーん。
ロレンツォ様とヴァージル様は特に人気って噂だから、多めに作った方がいいかなー」
そんなことを思い出しながら、紙にそれぞれの個数の目安を書き出してみる。
それを見たフェリクス様にこう指摘された。
「これ、ゼノのだけ少なすぎるだろ。もっと作れよ。
ゼノの人形を欲しがる人に行き渡らなかったら、悲しませることになるだろう」
えっ!?8人の凄い先輩方よりも、俺を選ぶ人がそんなにいるとは、
とても思えないんだけど…。
俺は正直そう思った。
でもフェリクス様の意見を受け入れて、俺の人形の割合を少し増やすことにした。
やっぱり自信がないから、俺の個数が一番少ないままではあったけど…。
フェリクス様が納得してくださる数には修正した。

そして後日、いよいよ人形作りに取り掛かる。
必要な材料を揃えて、まずは布に模様を入れる。このために専用の機械を作っておいた。
それから俺は毎日のように、コツコツ人形を作っていく。
最初にパーツを整える以外は、出来るだけ手作業にした。
もっと効率的にサクサク作ることもできたんだけど───。
フェリクス様は3日に1度ほど、俺の執務室を訪れる。
そして仰っていた通り、人形に小さなパーツを貼って完成させていく。
初めて作る守護聖様の人形に貼っていく時は、ここでいいか俺にも確認して下さった。
そして2体目を作る時からは、1体目の見本と比べながら、
真剣な面持ちで黙々と作業している。
そんなフェリクス様の影響もあって、俺もいつも以上に、人形1つ1つに心を込めて、
作りたいと思ったんだ。
受け取った人にとって、これは大切な物になるかもしれないからね。
だから無理にペースを上げたりはしなかった。
なんだか人形作りは、毎日の心休まる時間だった。
そしてフェリクス様の人形作りが終わった後は、少し会話する機会も持てた。
おかげで前よりもフェリクス様との間に、良い空気が流れるようになったのも良かったな。

そして多めに用意した、200人ほどの守護聖くん人形が出来上がって、少し経った頃──。
女王候補たちの出身地バースでのクリスマスにあたる日に、飛空都市のみんなに人形を手渡ししたらいいんじゃないかって、サイラスが提案した。
そのクリスマスっていうのは、みんなで贈り物をし合う風習があるんだって。
そこで守護聖のみんなが2人ずつ当番制で、人形を手渡しすることに決まった。
でも人形作りに一番時間をかけた俺は、当日の当番はしなくていいって…。
そう言っていただいたものの、実際人形はどんなふうに減っていったのか…とか。
人形を受け取った飛空都市のみんなの様子を見たくて、俺も「守護聖くん人形お渡し会場」へと向かった。
そうしたら───。
「えーっ!?このお人形はゼノさまが作ったの?すごい!
わたしはゼノさまのがいいな!」
なんて言う女の子がいたんだ。
もしかして、いくつももらえると勘違いしてない?
そう思った俺は、焦って確認する。
「えっ!?1人1個だよ?本当に俺でいいの?」
でも女の子はしっかりとうなずいた。
「うん!わたしはゼノさまみたいに、いろんな物を上手に作れるようになりたいから」
そっか…。そう俺の司る器用さを一番求めてる人もいるのか…。
そう納得した俺は、女の子にこう答える。
「そっか…。ありがとう。
作り続けていれば、君もどんどん上手くなるよ。俺も応援してるから」
その女の子を見送っていると、以前会ったある男の子から声をかけられた。
「ねえ、ゼノさま。この前ピーちゃんのおはかをいっしょに作ってくれて、ありがとう」
その声に振り返って、俺は驚いた。
「君はあの時の!?君も俺の人形を?」
そう男の子は、俺の人形を持っていたんだ。
「うん。あの時ゼノさまのおかげで、かなしい気持ちが少しへったんだ。
だからゼノさまのにしたよ」
男の子はそういってくれた。
そっか。小鳥を生き返らせてほしいという、この子の願いは叶えられなかったけど…。
俺のしたことで、悲しい気持ちを少しでも軽くしてあげられたんだな。良かった。
そして俺の人形を持ちたいとまで、思ってくれたんだ…。
俺は安心と感動が入り交じった気持ちになった。
そして子ども達が去ったあと、こうつぶやく。
「そっか。俺の人形を欲しいと思ってくれてる人も、ちゃんといるんだ。
うん。俺の人形、思ってたよりも減ってるし、フェリクス様のおっしゃる通りにして良かったな…」
そう俺は箱の中に入っている自分の人形を見ながら、嬉しい気持ちになった。

そうそうそれからこの守護聖くん人形が、俺たち守護聖の一部や、女王候補の部屋に置かれていた…っていう、不思議な出来事が起こったんだ。
全部保管場所に移したはずなのに、俺の部屋にもあって、どうして!?ってびっくりしたよ。
俺の部屋には2つの人形が置いてあったんだ。
よく一緒に遊んでいるカナタと…。
俺が聖地に来たばかりの頃に、そばに居ると落ち着けたノア様。
逆にカナタとノア様のところにも、俺の人形が届いたんだって。
女王候補の彼女に後から教えてもらったんだけど…、なんと宇宙意思が俺達に配ってくれた…らしい。夢見がよくなるように…だって。
実際カナタはこう言ってくれた。
「オレ、ゼノの人形をベッドに置くようになってから、寂しい夢を見る回数が減ったんだよね。今のオレにも新しい友達がいるって、思えるからかな…」
その話に俺も笑顔で同意する。
「カナタも!?俺もカナタとノア様の人形を置いてるんだけど…。
嫌な夢を見ることがあっても、人形を見たら、すぐに落ち着けるようになったんだよね。
カナタと楽しく遊んだことを、思い出したりしてさ。
そしてノア様の安らぎの効果か、前よりも良く眠れるようになったんだ。
俺が作った物でもあるけど、プレゼントしてもらえて、本当に良かったな」
そう。自分では作った人形を部屋に置こうなんて、思ってなかった。
でも身近に置いてみたら、予想外に助けられてる。
この人形を受け取った人もみんなこんなふうに、心癒されたり、元気をもらえたりしていたらいいな。
俺、この守護聖くん人形を作って、本当に良かったな…。心からそう思った。



Fin


2024年3月制作


[あとがき]
ミラクル守護聖くん人形を頑張って作ってくれた2人に、スポットを当てられて良かったです。
本編でのフェリクスさんのメインの活躍が回想だったこともあり、ちゃんと書きたいなと思ったので。
本編でも1番頑張ってくれたゼノくんが、嬉しい気分になる展開にできたら…と考えていたので、それもまとめました。
鋼の力も、ゼノくん個人としても、1番の守護聖様だと思ってる民は、きっとたくさんいるよ。
自分が作った人形を計10個も勝手に配られているのに、全然不満に思っていないゼノくんっていい人…と、自分で書いていて思いました。

ゼノくん以外で、ぬいぐるみ作りにやる気を出してやってくれそうなのはフェリクスさんだろうと考えて、このコンビにしました。
ゼノくんの自信のなさがフェリクスさんをイラつかせるという話を2回位見たので、それをいいオチに持っていきたいな…と考えて、こういう展開にしました。
やんわりじゃなく断りにくい雰囲気で、ゼノくんの人形の数を増やしてくれる人は他にいない気がするし、話の展開上このコンビは合ってたなと思います。

アンジェリークの世界では物にも気持ちがあると判明しているので、ミラクル人形みんなにとって、作ってくれたゼノくん達は大好きなママなんだろうな。モデルの人も気になる存在だし、人形の持ち主も大好きだろうし…。そんなミラクル人形が可愛いです。
作中のミラクル人形が主役の話を描いてみたい気さえしています。
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