ミラクルな贈り物を、あなたに

フェリクスと別れて聖殿に入ると、すぐにシュリに呼び止められた。
「おい!ここに来るまでに、怪しい奴を見かけなかったか?
昨晩守護聖寮に不審者が侵入したんだ。
子どもの守護聖ばかりが狙われた!」
そんな緊迫した雰囲気に私は驚く。
「えっ?そうなんですか?」
さっき会ったカナタもゼノも、普通にしてたけどなあと、思い出していると──。
「部屋に置かれていた不審物に、危険な物が仕掛けられていないか俺が調べたところ、何もなかったが…。
守護聖の形をした不審物を置くとは、どういうつもりだ!」
そうシュリは怒っている。
それで私はその不審物とは、ラッピングされていた守護聖くん人形のことだとわかった。
ああ、なるほど。サンタクロースからのプレゼントをシュリはもらったことがないとしたら…、怪しく感じたんだろうなあ。
確かに誰がくれたのかまだ全然分かっていないし、飛空都市にサンタクロースというのも───。
そうも思ったけれど、そんなに危険な香りを感じない私は、シュリに伝える。
「私とレイナのところにも、今朝この人形が届きましたけど…。
ゼノが『これは自分が作った物で間違いない』って言ってたし…。
クリスマスのプレゼントみたいだから、大丈夫じゃないですかね?」
そんな私の話に、シュリは更に慌てる。
「何!?女王候補のところにもか!?
これがその人形か。貸してみろ」
そう言って私の腕の中から、ユエくん人形を取り上げる。
私が思わずじっと見つめると──。
「……そんなに心配そうな顔をするな。壊したりはしない」
そう私にことわってから、シュリは人形を調べ始める。
そしてそれが終わると───。
「これにも特に、何か仕掛けられてはいないようだな」
そう言って人形を返してくれる。
「確かめてくれて、ありがとうございました」
危険物とは考えていなかったけれど、シュリがそういうなら、より安心できる。
ほっとしている私とは逆に、シュリは厳しい顔のまま確認する。
「……レイナのところにも届いたと言っていたな。
──レイナは優秀な女王候補だからな。他はフェイクで、レイナのだけが危険物ということも、充分あり得る!
レイナは今、どこにいるんだ…!?」
そう苦悩し始めたので、知っている私は伝える。
「10時半くらいまでは、森の湖にいるって言ってましたよ」
「森の湖か!わかった。待ってろ、レイナー!」
そうシュリは勢いよく聖殿を飛び出して行く。
その様子を見て、私はとあることを思い出した。
………。そういえば、レイナとシュリの親密度は130くらいあったな…。
そしてレイナとミランはほぼMAX──。
……三角関係だとしたら、今レイナはミランとデート中だけど、大丈夫かな?
そう心配になったものの、関係ない私にはどうしようもない。
モテると大変そうだな…。
残念ながら私はこれまでに、殆どの守護聖と恋愛失敗してきた。
でも私はそれで良かったのかもしれない。
好きな人とはまだ上手くいってるし…。うん。
そう思い直してから、目的地に行くことにした。

ノアの執務室に行くと、いつもの落ち着いた様子で迎えてくれた。
「…こんにちは。サイラスが言ってたけど……、昨日はレイナとクリスマスのお祝いをしたんでしょ?楽しかった?」
「うん。私もレイナも、すごく楽しい時間を過ごせたよ。
ノアが書いてくれたメッセージもとっても嬉しかった。どうもありがとう」
そう2人とも、昨日のことを笑顔で話す。
その間にも目に入る、並べて置いてある守護聖くん人形について聞いてみる。
「今朝私のところに、このユエくん人形が置いてあったんだけどね…。
ノアのところにもたくさん届いたって聞いて、話を聞きたいと思ったの」
するとノアは驚いた後、詳しく話してくれる。
「えっ!?君のところにも?
……うん、そう……。カナタとゼノのところにもあったって聞いたけど……、
僕のところだけ5つも届いたんだ……。
シュリが確認して、安全だってわかったから……、私室用と執務室用に分けた。
怖いシュリと…、ユエには……プライベートまで見張られたくないから…、執務室にした」
そうノアが言うように、その2人と、真ん中にノアくんの人形が置かれている。
その配置で、ノアくんとユエくんは手をつなげそうに見える。
だからやっぱりユエの方に心を開いているのかなと感じた。
笑っている人形なこともあって、ノアくん人形は2人と一緒で嬉しそうに見える。
可愛い…。
私はぬいぐるみ好きなこともあって、見ていて楽しくなる。
「私室には…カナタとゼノのがある。
……うーん……、他の3人は関わり多いから、分からなくもないけど……、
ゼノはどうしてなんだろう?
嫌じゃないけど……、理由がわからない……。気になる……」
そうノアは悩んでいる。
その話を聞いた私は、前にゼノから聞いたことを思い出した。
ゼノが聖地に来たばかりの頃、ノアのそばに落ち着きに行ってたって…。
ノアは気付いてないみたいだけど、ゼノの方にそういう気持ちがあるからかもしれない。
さっきゼノも、ノアくん人形をもらったって言ってたし…。
そう思い付いたけれど、私が直接その話をしていいのか分からない。
そこでノアにこういった。
「ゼノとは、仲良くなりやすいのかもしれないね」
「うーん……。そうなのかな?
……じゃあ、これから気をつけて見てみる……」
ノアはそう戸惑いながらも、頷いてくれた。

聖殿から外に出ると、公園へと繋がっている道から、レイナが来るのが見えた。
私に気付いたレイナは駆け寄ってくる。
「アンジュ、さっきはごめんなさい」
「ううん。ミランは仕事に向かったの?」
そう尋ねると、レイナは顔を赤くして微笑んだ。
「ええ、そうなの。
アンジュがいいと言ってくれたおかげで、ミラン様と胸がときめく時間を過ごせたわ。
本当にありがとう。
──ユエ様はさっき公園にいらしたわよ。会えた?」
そうレイナは、私のことも気にしてくれる。
「うん。ユエの人形だから、そばで私を見守ってくれるって…言ってくれたの。
凄く嬉しいし、持っていていいって聞いて、安心したなあ」
「ユエ様もそうおっしゃって下さったのね。
─本当よね。私もミラン様から、あんなふうに言っていただけて、とてもうれしかったわ」
そう2人とも、その時の余韻に浸る。
それからレイナは新しい情報をくれる。
「さっきシュリ様、ヴァージル様、フェリクス様にもお会いしたの。
聞いてみたけれど、人形の贈り主はご存じないって、おっしゃっていたわ…」
「そうなんだ……。私はヴァージル以外には会って話を聞いたけど、同じく知らないって言ってたなあ…」
そう答えてから、私はとあることを思い出す。
「そういえばシュリは、レイナが持っている人形を調べに行ったはずだけど……、大丈夫だった?」
「ええ。このミラン様の人形に、危険なものが仕掛けられているかもしれない…って、
森の湖まで足を運んで、調べてくださったの。
それで安全なことはわかったけれど、シュリ様は難しい顔をしていたわ……」
そうレイナも困った顔をする。
それは人形の謎以外にも、理由があるかもしれないよ…。
そう考えたけれど、実際私はレイナとシュリがどんな状態かを知らない。
だから黙っておくことにした。
「守護聖様には全員伺ったということは…。
あと聞けるとしたら、タイラーかしら。じゃあこれから王立研究院に──」
そう考えていたレイナは、ふと私の顔を覗き込んでこう尋ねる。
「あら?よく見たら、あなた少し疲れてない?」
「そう言われてみれば……、2時間以上立ちっぱなしだったから、少し…」
私がそう答えると、レイナは気を遣ってくれる。
「じゃあタイラーへは、私が聞いてくるわ。
アンジュはこれまでずっと尋ね回ってくれていたんだから、遠慮しないで。
2人揃って聞きに行くと、大事に聞こえるかもしれないしね。
あなたはカフェテラスで休憩してて」
そうレイナは頼もしく言ってくれた。
「ありがとう。じゃあ休憩させてもらうね」
そう今度は私が、お言葉に甘えさせていただくことにした。
「タイラーに聞いてきたら、私も合流するわ」
そう待ち合わせの約束をして。

私はカフェテラスに行くと、オレンジスカッシュを注文する。
大好きな柑橘系の味が、体に沁みわたる。
私はクリームコロッケも大好きだから、食べ物の好みはゼノと一番近い。
ユエくん人形は汚れないように、ハンカチの上に置いた。
カフェテラスの他のお客さんも、守護聖くん人形を持っている人が多い。
そしてその守護聖のことを話している人もいる。
そんな話が耳に入りながら、私はユエくん人形や、周りの植物を眺めて、ゆったり過ごしていた───。

そして数十分後にレイナが帰ってくる。
「レイナ、お疲れ様」
「アンジュ、お待たせ。私はフルーツスムージーをもらおうかしら」
そうレイナは、ミランも好きな飲み物を注文した。
普段、一緒に飲んだりしてるのかな?
そしてそのフルーツスムージーを受け取ると、レイナは報告してくれる。
「タイラーにこっそり聞いてきたけれど、わからないと言っていたわ。
そしてもしこういう不審なことが、また起きるようなら、王立研究院で調べてみるとも。
今日はクリスマスということもあるし、とりあえず様子を見ると言っていたけれど…」
「そうなんだ……。また何かあったら、王立研究院が動いてくれるなら安心だね」
そう答えたものの……。
つまり身近な人みんなに聞いたけれど、結局贈り主はわからないままなんだ──。でも……。
「私は一目見た時から、このユエくん人形をとっても欲しかったんだ。
ユエが『この人形も喜んでる』って言ってたし、私はこのまま可愛がる」
そう私がユエくん人形を見つめて決めると、レイナも頷く。
「そうね。さっきミラン様も、この人形を気に入って下さっていたし…。
私もこのまま持っていたいわ」
「私は今夜から、熊のノワールとこのユエくんの、3人で一緒に眠るんだ」
「えっ!?そうなの?私はどうしようかしら……」
そう2人で、自分がもらった人形を見ながら、少しの間盛り上がった。
そんな私達の様子に、2人の守護聖くん人形もうれしそうに見えた。

守護聖くん人形お渡し会の終了時間の少し前に、また会場に行ってみる。
今の当番はノアとシュリのようだけど、それ以外の人も結構いる。
「後20分位ありますけど、守護聖様全員の人形が残ってますし、ちょうど間に合って
良かったー」
「あの数にして良かったな」
そう人形の数も一緒に考えたゼノとフェリクスは、ほっとしている。
「なんか俺の人形が、思っていたよりも残ってるんだが…。
まあ守護聖みんなに、違ういいところがあるもんな。それがわかって良かったぜ」
そうユエが言っている時に、研究員のニコラさんが早足でやってきた。
「守護聖様、お忙しいところ失礼します。
私にはユエ様の人形を頂けるでしょうか」
「えっ!?ニコラ、そうなのか?」
本人がそう驚くと、ニコラさんは具体的にお礼を伝える。
「はい。この間も励ましていただいて、ありがとうございました。
ユエ様のおかげで、仕事でやるせないことがあっても、できることをしていきたいと
思い直せています。
ぜひおそばにいていただけたら…と思います」
「──そうか。俺もニコラの集めてくれるデータのおかげで、仕事の方向が決まって、
いつも助かってる。これからも一緒に頑張ろうぜ。
──そう言ってくれて、ありがとうな」
そう2人は普段抱いている思いを伝え合って、ユエが笑う。
そんな様子を見て、私が言われたんじゃないのに、幸せな気持ちになってしまう。
そういえば私がユエを好きになったきっかけも、ニコラさんとのやり取りだった。
悲しむニコラさんの相談にこたえている様子を見て、優しい人なんだな…とわかったから。
「──ユエから渡してあげたら?」
そうノアが促す。
「そうだな」
そうユエから受け取った人形を、ニコラさんは大事そうに見つめた。
「私室に大切に飾ります」
それから私の視線に気付いたのか、ニコラさんはこちらを見る。
そして私もユエくん人形を持っていることに気付くと、お辞儀をされた。
私もお辞儀を返した。

そして守護聖くん人形お渡し会は終わった。
そこにいたメンバーで、残った人形を箱にしまったり、運んできたテーブルなどを片付けたりする。
守護聖くん人形を入れた箱を保管場所に置くと、ノアが尋ねた。
「……残った人形はどうなるの?」
するとサイラスが答える。
「飛空都市の職員はこれからも、入れ替わりがありますからね。
これから配属される職員にも、記念に渡したいと思います」
そう聞いてノアは、ほっとした様子になる。
「……そうなんだ。良かった」
ノアは以前、はぐれた風船の心配をしていたこともあった。
きっと人形にも、そんな気持ちになったんだと思う。
「ゼノ様、フェリクス様!
今回は200体もの守護聖くん人形を制作していただき、誠にありがとうございました。
しばらくは大丈夫かと思いますが、足りなくなった際には、またよろしくお願い致します」
そうサイラスが最敬礼をする。
「はい!任せてください。
今回については6週間あったから、1日5個で…、他の仕事と並行してできましたし、
大丈夫です」
そう笑顔でこたえるゼノに、ヴァージルは感心したみたい。
「ゼノの根気は本当に凄いですよね…。
俺なら人のために、そこまでやれないです」
私も200個作り続けるのは心が折れるかもしれないので、心の中でうなずく。
ゼノこそ天使!
「最初は僕も一緒に、人形の素材とかを考えたけど……。
作る方については、僕は簡単なことしかしてないから、大方ゼノのお手柄だな」
そうフェリクスがいうと、ゼノは首を振った。
「いいえ。丁寧に作るフェリクス様と一緒だったから、俺もいつも以上に心を込めようと
思いました。
──それと最初に考えていた数よりも、俺の人形は減ってました。
フェリクス様のいう通りに、増やして良かったです」
そうゼノが笑うと、フェリクスも微笑んだ。
「そうだったのか…。
ゼノはそれくらい求められてるだろうって僕は思っていたから、予想通りで良かったよ」
そうフェリクスと一緒に仕事したことが、ぬいぐるみ作りに慣れているゼノにとっても、良かったみたい。
それからサイラスは、こんなことも付け加えた。
「最初に作っていただいたサイラスくん人形は、神鳥の王立研究院にいくつか持って行きます。
私が留守で寂しがっていましたので。
───それから神鳥の守護聖様にも、皆様の人形を差し上げようと思います。
たくさんは運べませんので、とりあえず1つずつで。
皆様きっと、喜ばれることでしょう」

そしてその後、守護聖のみんなは軽いお疲れ様会をした。
守護聖くん人形関係の仕事をしていない私とレイナも、みんなの厚意で混ぜてもらっている。
カフェテラスを4席予約していたそうで、それぞれ好きな飲み物を頼む。
さっきジュースを飲んだ私は、今回はコーン茶にした。
「うーん。レイナが僕の人形を持っていてくれるのは、すごく嬉しいんだけど…。
僕もレイナの人形を欲しくなっちゃったな~」
そうミランがいうので、レイナは照れる。
「親密度から予想は付いていたが、ミラン…か…!」
そうシュリは悔しそうにしている。…うん…。
そのミランの話を聞いて、親切なゼノは提案してくれる。
「じゃあミラン様用に、俺、作りましょうか?
レイナだけだと不公平だから、アンジュのも作ってみるね」
そう私の方も見て、気をつかってくれる。
「ゼノー、ありがとう!楽しみにしてるね!」
そうミランが嬉しそうに答えた後──、大きく鳥の鳴き声が聞こえた。
これはきっと──。
「──トンビかと思いましたか?私です!」
そうサイラスが現われる。
「いや、きっとサイラスだと思いました」
そう突っ込まれても、サイラスは真面目な顔で話し始める。
「ゼノ様、女王候補様の人形を作られるのは構いません。
ただ…守護聖様とは違い、女王候補様たちが女王陛下になられるかは、まだわかりません。
ですのでお渡しするなら、守護聖様の間だけにしていただきたいのです」
その話にゼノもはっとしたようで、うなずく。
「なるほど…!そうですね。了解しました」
「いただけるなら、私もアンジュの人形を欲しいと思ったのだけど……ダメかしら?」
そうレイナが尋ねると、サイラスは許してくれた。
「そうですね…。女王候補様たちなら、よろしいかと」
そう聞いて、私もリクエストする。
「だったら私も、レイナのも欲しいです」
「うん、じゃあ2人の分も作るね。他のみんなは───」
そう聞こうとして、ゼノは私達に気をつかってくれる。
「…ううん。
本人たちの前で聞くのは失礼になっちゃうから、後で俺に希望を教えてください」
「そうと決まれば、ミラクル人形シリーズを企画した私が、またデザインしましょう」
「今回は作る数は少ないだろうけど、僕もまた一緒に考えるよ」
そう張り切ってくれる仲間達に、ゼノは笑顔でお礼を言った。
「ありがとうございます。サイラス!フェリクス様!」

「うーん。それにしても、オレ達の部屋に人形を届けてくれたのって、誰なのかな?
この辺りにも、サンタみたいな存在っているの?」
そうカナタが疑問を口にする。
それにはヴァージルが真面目な顔で答える。
「当番の前に、日課のランニングがてら飛空都市中を回ってみましたが…。
怪しい人物も見掛けないし、気配も感じなかったんですよね……。
まあこの飛空都市に、不審者が侵入するのは難しいとは思いますが……」
今日しばらくヴァージルと会わなかったのは、そう見回りをしてくれていたから
なんだ…。
「置かれていた人形から推測すると…、その何者かは、我々の人間関係を把握している人物のようだね」
ロレンツォでも、そこまでしかわからないみたい。
「──それにしても、部屋に侵入されるなんて、無用心すぎると思います。
俺だったら、そんなこと許しませんので。
あなた達も、もっと気を付けて下さい」
そうヴァージルは、私とレイナを見る。
私達はうなずいた。
「確かに、部屋や窓の鍵さえかければ安心と思っていました。もっと気を引き締めます」
私がそう答えると、ヴァージルは少し安心したような表情になった。
「ええ。女王候補寮は離れているので、さすがに俺でも、すぐには駆けつけられません。
ぜひそうしてください。
──そういうことはありましたが、人形のお渡し会は無事に終わって、良かったですね」
「みんなが喜んでる姿を見られて良かったよな」
ユエがそう嬉しそうにいうと、シュリも優しい表情でうなずいた。
「……ああ。故郷で子供に物を持っていったら、喜んでいた姿を思い出したな」
「こんなに大勢に渡したのって初めてだったから、本場のサンタって、こんな気分
なのかなーって思ったよ。いいもんだね」
そのカナタの言葉に、私も前にクリスマスプレゼントに関わるアルバイトをしたことを思い出す。
忙しかったけど、受け取った人は喜ぶと思ったら、モチベーションを維持できたなあ。
「僕たち守護聖の人形なんだから、きっとみんなの心にも力を与えられるよね」
そうミランがいうように、ご利益を願ってもらった人もいたみたいだった。
守護聖の姿を見ることで、願いを持ち続ける力も強くなりそうだよね。
「……人形みんなが大切にされるといいな。もちろん僕も……そうする」
本当にそう。そう思ってくれるノアにもらわれた人形は幸せだね。
「今回フェリクス様と一緒に、仕事が出来て良かったです。
いろいろとありがとうございます!」
「僕もゼノと普段しないような仕事をやってみて、いい勉強になったし、楽しかったよ」
そう守護聖くん人形を作った2人は、前に見掛けた時よりも、
空気が柔らかくなったみたい。
そんなみんなを見ながら、ロレンツォも楽しそうに笑った。
「フフ、今日はいろんな人間関係を知れて、興味深かったね」
そう飛空都市みんなにとっての、1番の守護聖が判明したわけだから……。
私の知らないところでも、たくさんのドラマが生まれたんだろうな。

そんなクリスマスの夜、ベッドにユエくん人形を寝かせる場所を作った。
熊のノワールのぬいぐるみは、その分少し移動させる。
そして置く前に、今日連れ回したユエくん人形を見つめる。
それから今日のユエの様子を思い出す。
「今日もかっこよかったなあ……」
そうつぶやいてから、本人にはできない分、人形をぎゅっと抱きしめる。……あったかい。
恋する相手の人形と一緒だと、これまでよりも幸せな毎日になりそうだな……。
満足すると、ユエくん人形を隣に置いて布団をかける。
そして私はそろそろ眠ることにした。


夢の中で何度か会っている、金色のフクロウがまた現れた。
そのフクロウが話してくれたこととは───。
私達の部屋に、守護聖くん人形を置いたのは自分だ──ということ。
夜に寂しがっている守護聖の心も、少しでも慰められれば……と思ったということ。
特にノアには早く力を授けてしまったことに対するお詫びも込めて、多くした──
ということ。
そしてこのことで不安になった守護聖もいるので、私に伝えておこうと考えた──ということが語られた。

そこで私は次の日に、何度か夢で会っている不思議なフクロウ──多分、宇宙意思──が
人形を置いておいたらしいことを話す。
するとみんな驚きはしたものの、疑いはしなかった。
「アンジュ様にはたまに、私とタイラーが話していることが伝わっていることがあります。
まだ候補とは言え、宇宙意思と共鳴しているのでは……と考えていました。
ですので、きっと本当のことなのでしょう」
そう度々夢の話をしていたサイラスとレイナは、すぐに納得してくれる。
宇宙意思と話せるなら、聞きたいことがある!という守護聖も多かった。
でも私もめったに会わないし、もし機会があったら……ということで、その質問内容は
聞いておいた。
──ともかくこれはそういうプレゼントだと、みんなが安心してくれたから良かった。

それから少し経って、カナタとゼノは、こんな話をしていたそうです。
「オレ、ゼノの人形をベッドに置くようになってから、寂しい夢を見る回数が
減ったんだよね。今のオレにも新しい友達がいる…って、思えるからかな…」
そんなカナタの言葉に、ゼノも嬉しそうに答える。
「カナタも!?俺もカナタとノア様の人形を置いてるんだけど…。
嫌な夢を見ることがあっても人形を見たら、すぐに落ち着けるようになったんだよね。
カナタと楽しく遊んだことを、思い出したりしてさ。
──それからノア様の安らぎの効果か、前よりも良く眠れるようになったんだ。
俺が作った物でもあるけど、プレゼントしてもらえて、本当に良かったな」


あれからノアの執務室に行くと、いつも3人の人形が仲良く並んでいる。
でも出退勤時に、ノアがその人形を持って歩いている姿が、時々目撃されているそうです。

【とある日の、執務室からの退勤時】
(うーん。今日もシュリと一緒に掃除したけど……、やっぱり結構いい人なのかも……。)
そう思ったノアは、シュリくん人形にこう話しかける。
「今日は君も一緒に帰る?」

【またとある日の退勤時】
「今日は『僕』も、カナタ(くん人形)やゼノ(くん人形)と一緒に過ごす?」
そうご機嫌な様子で自分の人形を手に取ったノアは、「あっ」と気付いた顔になる。
そしてシュリくんとの隙間を、ユエくん人形を動かすことで埋めた。
「うん。……これで今晩、君たちも寂しくないよね…」

【また、こんな日も──】
(──今日はいつもよりも寂しいな……。ユエ……)
【そんな次の日の出勤時】
ノアがユエくん人形を持って、聖殿に向かっていると──。
「よお、ノア。おはよう。ん?俺の人形か?」
そう不意に後ろから話しかけられたノアは慌てる。
「ユエ!?これは……、この子も時々はベッドで寝たいでしょ。
この子はユエと違って、うるさくないし……」
ユエはノアが持っている人形の顔を見て、こうこたえる。
「…ふーん、そうか。…その人形、ノアに可愛がってもらって、うれしそうにしてるな。
大事にしてくれて、ありがとうな」
そう人形のモデルから笑顔で返ってきて、ノアは頷いた。
「…うん」

そしてクリスマスから10日ほど経った頃、ゼノ達が追加で作ってくれた、
レイナちゃん人形を受け取った。
「お待たせ!レイナの人形が出来上がったよ。はい!」
そうゼノが私の部屋まで持ってきてくれた。
「わあ。ありがとう!レイナちゃんのも可愛いね」
そう人形を受け取ると、それを持って早速、レイナの部屋を訪ねた。
「今レイナちゃんの人形をもらったから、持ってきてみたよ」
「かわいいわね。私もさっき、あなたの人形を受け取ったわよ。見て」
そうレイナも、私の前に持ってきてくれる。
私の人形も可愛くできていて嬉しい。
「せっかくだから、一緒に写真を撮りたいね」
そこで2つの女王候補ちゃん人形を並べてみる。いい!
その後も本人が人形を抱いてみたり…。
レイナちゃんとミランくんの人形同士とか…。
ユエくん人形も持ってきて、私と一緒に撮ってもらったりとか…。
2人でいろんな写真を撮って盛り上がった。
写真で持ってるのもいい!よね。

そんな夜レイナちゃん人形の置き場所を考える。
人形とはいえ、ユエくんとレイナちゃんが隣だと妬けてしまうので、私の右側にレイナちゃん。
左側は今まで通り、ユエくん人形とノワールにした。
これでどちら向きで寝ても、大好きな人と一緒。
おかげでますますうれしい気持ちで、眠れるようになった。

その翌日にユエが遊びに来てくれた。
そのまま部屋で過ごすことにして、ユエくん人形も持ってくる。
近くに置くと、ユエは少し驚いた顔になる。
「…なんか前に見た時よりも、熱い眼差しで見られてる気がするな…。なんでだ?
俺の人形だからなのか、俺が凄い存在だってことが、わかってきたからなのか……」
そうユエくん人形を見つめながら、悩み始める。
そのユエの言葉に、私は思い当たることがある。
そういえば私は夜眠る前に、ユエくん人形を抱きながら、いろいろつぶやいてるな……。
ユエからのこういう言葉がうれしかった…とか、こういうところがステキだった…とか。それが原因?
恥ずかしくて、本人には言えないけど……。
私達にはわからないけれど、実はユエくん人形はこんなことを思っていた。
『おれのモデルの人だ!カッコイイらしいから、うれしいなー。よく見とこうー』
「…うーん。考えてもわからねえし、まあ、いっか。
喜ばれてるなら問題ねえし」
それからユエは私に向き直って、こう教えてくれた。
「──俺の方も、アンジュの人形を作ってもらった。
さすがに一緒に寝たりはしてねえけど、私室において可愛がってるぜ。
昨日は茶柱を見せてやったんだ」
そう聞いて、私はテンションが上がった。
「本当!?嬉しい!」
前に私を気に入ってるって、言ってもらったことはあったけど……。
お互いの人形を持ってるって、なんだか両想いみたいだし……。
それに私の人形に、茶柱の話をしてるユエを想像すると、いい!
その様子を私も見せてほしいくらい…。
「…お前、かわいいな。そんなに嬉しそうにするなんて、素直すぎるだろ」
そうユエに言われたけれど、私は嬉しくて仕方なかった。
ユエくん人形もそんな私達の様子を見て、喜んでいた──みたい。

そうサイラスが企画して、ゼノとフェリクス(そして宇宙意思)の想いが込もったミラクル人形は、飛空都市中の人を幸せな気持ちにしてくれた。
そしてこれから末永く、私達を支えてくれるんだろう──。

またそれから少し経って──。
神鳥のジュリアス様から、ユエ宛てのメールに、こんな事も書かれていたそうです。
『サイラスから、お前たちの人形を受け取ったぞ。
令梟には、このようなものがあるのだな。
同じ力を持つ守護聖に渡したら、皆喜んでいるぞ。
神鳥にも、このような守護聖の人形がある。
今度そちらに行く際に、持って行こう』



Fin
2024年1月制作


[chapter:あとがき]
ここまで、この「ミラクルな贈り物を、あなたに」を読んでいただいて、ありがとうございました。
ミラクル守護聖くん人形愛と、働く守護聖様が好きなので、こういう物語になりました。
二次創作の小説自体初めて書いたので、ちゃんと本物のキャラや設定に寄せられるのかが不安でした。

アンミナは大人組以外の恋愛EDは見ていて、(最良はユエさん、ノアくん、カナタくん、ミランさん)公式サイトとTwitterは読んでから挑みました。
仲を取り持ったり、見たかった場面をたくさん入れられて、書いていて、とても楽しかったです。レイナさんがモテている図は、イベントでも見られなかったし…。
神鳥と令梟の守護聖様がお互いの人形を受け取って、どんな反応をしたのかは、あなたの心の中で。
タイラーくん、ザックさん、ダイアナさんも推し守護聖様が公開されていたら、登場させたかったです。
出来るだけそれぞれの良いところをピックアップして、大勢がハッピーになる物語に出来たら…と考えました。

主人公以外の私室での様子はプライバシーに配慮して、あえて描写しませんでしたが…。
ノアくんはカナタくん人形、ゼノくん人形と一緒に映画を観たりとか、そばに置いている時間が長そう。
ユエさんは深夜などで他の人のところに行きにくいけど話したい時とかに、主人公の人形を相手にしてそう。3つ子の卵とか、珍しいのも見せてもらってるんだ。
部屋の窓から、星空を見せたりもしてくれる。いいな。
自分で書いたのに、絵的に見たい。

オールキャラの物語ですが、フェリクス様イベントの「二月、冬の惑星で」に参加させていただきました。どうもありがとうございました。

今後何の作品を元にするかは決めていませんが、また二次創作も挑戦してみたいですね。
基本的にはオリジナル小説を書いているので、そちらをメインで続けます。
2/2ページ
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