ミラクルな贈り物を、あなたに
聖殿から外に出ると、公園へと繋がっている道から、レイナが来るのが見えた。
私に気付いたレイナは駆け寄ってくる。
「アンジュ、さっきはごめんなさい」
「ううん。ミランは仕事に向かったの?」
そう尋ねると、レイナは顔を赤くして微笑んだ。
「ええ、そうなの。
アンジュがいいと言ってくれたおかげで、ミラン様と胸がときめく時間を過ごせたわ。
本当にありがとう。
──ユエ様はさっき公園にいらしたわよ。会えた?」
そうレイナは、私のことも気にしてくれる。
「うん。ユエの人形だから、そばで私を見守ってくれるって…言ってくれたの。
凄く嬉しいし、持っていていいって聞いて、安心したなあ」
「ユエ様もそうおっしゃって下さったのね。
─本当よね。私もミラン様から、あんなふうに言っていただけて、とてもうれしかったわ」
そう2人とも、その時の余韻に浸る。
それからレイナは新しい情報をくれる。
「さっきシュリ様、ヴァージル様、フェリクス様にもお会いしたの。
聞いてみたけれど、人形の贈り主はご存じないって、おっしゃっていたわ…」
「そうなんだ……。私はヴァージル以外には会って話を聞いたけど、同じく知らないって言ってたなあ…」
そう答えてから、私はとあることを思い出す。
「そういえばシュリは、レイナが持っている人形を調べに行ったはずだけど……、大丈夫だった?」
「ええ。このミラン様の人形に、危険なものが仕掛けられているかもしれない…って、
森の湖まで足を運んで、調べてくださったの。
それで安全なことはわかったけれど、シュリ様は難しい顔をしていたわ……」
そうレイナも困った顔をする。
それは人形の謎以外にも、理由があるかもしれないよ…。
そう考えたけれど、実際私はレイナとシュリがどんな状態かを知らない。
だから黙っておくことにした。
「守護聖様には全員伺ったということは…。
あと聞けるとしたら、タイラーかしら。じゃあこれから王立研究院に──」
そう考えていたレイナは、ふと私の顔を覗き込んでこう尋ねる。
「あら?よく見たら、あなた少し疲れてない?」
「そう言われてみれば……、2時間以上立ちっぱなしだったから、少し…」
私がそう答えると、レイナは気を遣ってくれる。
「じゃあタイラーへは、私が聞いてくるわ。
アンジュはこれまでずっと尋ね回ってくれていたんだから、遠慮しないで。
2人揃って聞きに行くと、大事に聞こえるかもしれないしね。
あなたはカフェテラスで休憩してて」
そうレイナは頼もしく言ってくれた。
「ありがとう。じゃあ休憩させてもらうね」
そう今度は私が、お言葉に甘えさせていただくことにした。
「タイラーに聞いてきたら、私も合流するわ」
そう待ち合わせの約束をして。
私はカフェテラスに行くと、オレンジスカッシュを注文する。
大好きな柑橘系の味が、体に沁みわたる。
私はクリームコロッケも大好きだから、食べ物の好みはゼノと一番近い。
ユエくん人形は汚れないように、ハンカチの上に置いた。
カフェテラスの他のお客さんも、守護聖くん人形を持っている人が多い。
そしてその守護聖のことを話している人もいる。
そんな話が耳に入りながら、私はユエくん人形や、周りの植物を眺めて、ゆったり過ごしていた───。
そして数十分後にレイナが帰ってくる。
「レイナ、お疲れ様」
「アンジュ、お待たせ。私はフルーツスムージーをもらおうかしら」
そうレイナは、ミランも好きな飲み物を注文した。
普段、一緒に飲んだりしてるのかな?
そしてそのフルーツスムージーを受け取ると、レイナは報告してくれる。
「タイラーにこっそり聞いてきたけれど、わからないと言っていたわ。
そしてもしこういう不審なことが、また起きるようなら、王立研究院で調べてみるとも。
今日はクリスマスということもあるし、とりあえず様子を見ると言っていたけれど…」
「そうなんだ……。また何かあったら、王立研究院が動いてくれるなら安心だね」
そう答えたものの……。
つまり身近な人みんなに聞いたけれど、結局贈り主はわからないままなんだ──。でも……。
「私は一目見た時から、このユエくん人形をとっても欲しかったんだ。
ユエが『この人形も喜んでる』って言ってたし、私はこのまま可愛がる」
そう私がユエくん人形を見つめて決めると、レイナも頷く。
「そうね。さっきミラン様も、この人形を気に入って下さっていたし…。
私もこのまま持っていたいわ」
「私は今夜から、熊のノワールとこのユエくんの、3人で一緒に眠るんだ」
「えっ!?そうなの?私はどうしようかしら……」
そう2人で、自分がもらった人形を見ながら、少しの間盛り上がった。
そんな私達の様子に、2人の守護聖くん人形もうれしそうに見えた。
守護聖くん人形お渡し会の終了時間の少し前に、また会場に行ってみる。
今の当番はノアとシュリのようだけど、それ以外の人も結構いる。
「後20分位ありますけど、守護聖様全員の人形が残ってますし、ちょうど間に合って
良かったー」
「あの数にして良かったな」
そう人形の数も一緒に考えたゼノとフェリクスは、ほっとしている。
「なんか俺の人形が、思っていたよりも残ってるんだが…。
まあ守護聖みんなに、違ういいところがあるもんな。それがわかって良かったぜ」
そうユエが言っている時に、研究員のニコラさんが早足でやってきた。
「守護聖様、お忙しいところ失礼します。
私にはユエ様の人形を頂けるでしょうか」
「えっ!?ニコラ、そうなのか?」
本人がそう驚くと、ニコラさんは具体的にお礼を伝える。
「はい。この間も励ましていただいて、ありがとうございました。
ユエ様のおかげで、仕事でやるせないことがあっても、できることをしていきたいと
思い直せています。
ぜひおそばにいていただけたら…と思います」
「──そうか。俺もニコラの集めてくれるデータのおかげで、仕事の方向が決まって、
いつも助かってる。これからも一緒に頑張ろうぜ。
──そう言ってくれて、ありがとうな」
そう2人は普段抱いている思いを伝え合って、ユエが笑う。
そんな様子を見て、私が言われたんじゃないのに、幸せな気持ちになってしまう。
そういえば私がユエを好きになったきっかけも、ニコラさんとのやり取りだった。
悲しむニコラさんの相談にこたえている様子を見て、優しい人なんだな…とわかったから。
「──ユエから渡してあげたら?」
そうノアが促す。
「そうだな」
そうユエから受け取った人形を、ニコラさんは大事そうに見つめた。
「私室に大切に飾ります」
それから私の視線に気付いたのか、ニコラさんはこちらを見る。
そして私もユエくん人形を持っていることに気付くと、お辞儀をされた。
私もお辞儀を返した。
そして守護聖くん人形お渡し会は終わった。
そこにいたメンバーで、残った人形を箱にしまったり、運んできたテーブルなどを片付けたりする。
守護聖くん人形を入れた箱を保管場所に置くと、ノアが尋ねた。
「……残った人形はどうなるの?」
するとサイラスが答える。
「飛空都市の職員はこれからも、入れ替わりがありますからね。
これから配属される職員にも、記念に渡したいと思います」
そう聞いてノアは、ほっとした様子になる。
「……そうなんだ。良かった」
ノアは以前、はぐれた風船の心配をしていたこともあった。
きっと人形にも、そんな気持ちになったんだと思う。
「ゼノ様、フェリクス様!
今回は200体もの守護聖くん人形を制作していただき、誠にありがとうございました。
しばらくは大丈夫かと思いますが、足りなくなった際には、またよろしくお願い致します」
そうサイラスが最敬礼をする。
「はい!任せてください。
今回については6週間あったから、1日5個で…、他の仕事と並行してできましたし、
大丈夫です」
そう笑顔でこたえるゼノに、ヴァージルは感心したみたい。
「ゼノの根気は本当に凄いですよね…。
俺なら人のために、そこまでやれないです」
私も200個作り続けるのは心が折れるかもしれないので、心の中でうなずく。
ゼノこそ天使!
「最初は僕も一緒に、人形の素材とかを考えたけど……。
作る方については、僕は簡単なことしかしてないから、大方ゼノのお手柄だな」
そうフェリクスがいうと、ゼノは首を振った。
「いいえ。丁寧に作るフェリクス様と一緒だったから、俺もいつも以上に心を込めようと
思いました。
──それと最初に考えていた数よりも、俺の人形は減ってました。
フェリクス様のいう通りに、増やして良かったです」
そうゼノが笑うと、フェリクスも微笑んだ。
「そうだったのか…。
ゼノはそれくらい求められてるだろうって僕は思っていたから、予想通りで良かったよ」
そうフェリクスと一緒に仕事したことが、ぬいぐるみ作りに慣れているゼノにとっても、良かったみたい。
それからサイラスは、こんなことも付け加えた。
「最初に作っていただいたサイラスくん人形は、神鳥の王立研究院にいくつか持って行きます。
私が留守で寂しがっていましたので。
───それから神鳥の守護聖様にも、皆様の人形を差し上げようと思います。
たくさんは運べませんので、とりあえず1つずつで。
皆様きっと、喜ばれることでしょう」
そしてその後、守護聖のみんなは軽いお疲れ様会をした。
守護聖くん人形関係の仕事をしていない私とレイナも、みんなの厚意で混ぜてもらっている。
カフェテラスを4席予約していたそうで、それぞれ好きな飲み物を頼む。
さっきジュースを飲んだ私は、今回はコーン茶にした。
「うーん。レイナが僕の人形を持っていてくれるのは、すごく嬉しいんだけど…。
僕もレイナの人形を欲しくなっちゃったな~」
そうミランがいうので、レイナは照れる。
「親密度から予想は付いていたが、ミラン…か…!」
そうシュリは悔しそうにしている。…うん…。
そのミランの話を聞いて、親切なゼノは提案してくれる。
「じゃあミラン様用に、俺、作りましょうか?
レイナだけだと不公平だから、アンジュのも作ってみるね」
そう私の方も見て、気をつかってくれる。
「ゼノー、ありがとう!楽しみにしてるね!」
そうミランが嬉しそうに答えた後──、大きく鳥の鳴き声が聞こえた。
これはきっと──。
「──トンビかと思いましたか?私です!」
そうサイラスが現われる。
「いや、きっとサイラスだと思いました」
そう突っ込まれても、サイラスは真面目な顔で話し始める。
「ゼノ様、女王候補様の人形を作られるのは構いません。
ただ…守護聖様とは違い、女王候補様たちが女王陛下になられるかは、まだわかりません。
ですのでお渡しするなら、守護聖様の間だけにしていただきたいのです」
その話にゼノもはっとしたようで、うなずく。
「なるほど…!そうですね。了解しました」
「いただけるなら、私もアンジュの人形を欲しいと思ったのだけど……ダメかしら?」
そうレイナが尋ねると、サイラスは許してくれた。
「そうですね…。女王候補様たちなら、よろしいかと」
そう聞いて、私もリクエストする。
「だったら私も、レイナのも欲しいです」
「うん、じゃあ2人の分も作るね。他のみんなは───」
そう聞こうとして、ゼノは私達に気をつかってくれる。
「…ううん。
本人たちの前で聞くのは失礼になっちゃうから、後で俺に希望を教えてください」
「そうと決まれば、ミラクル人形シリーズを企画した私が、またデザインしましょう」
「今回は作る数は少ないだろうけど、僕もまた一緒に考えるよ」
そう張り切ってくれる仲間達に、ゼノは笑顔でお礼を言った。
「ありがとうございます。サイラス!フェリクス様!」
「うーん。それにしても、オレ達の部屋に人形を届けてくれたのって、誰なのかな?
この辺りにも、サンタみたいな存在っているの?」
そうカナタが疑問を口にする。
それにはヴァージルが真面目な顔で答える。
「当番の前に、日課のランニングがてら飛空都市中を回ってみましたが…。
怪しい人物も見掛けないし、気配も感じなかったんですよね……。
まあこの飛空都市に、不審者が侵入するのは難しいとは思いますが……」
今日しばらくヴァージルと会わなかったのは、そう見回りをしてくれていたから
なんだ…。
「置かれていた人形から推測すると…、その何者かは、我々の人間関係を把握している人物のようだね」
ロレンツォでも、そこまでしかわからないみたい。
「──それにしても、部屋に侵入されるなんて、無用心すぎると思います。
俺だったら、そんなこと許しませんので。
あなた達も、もっと気を付けて下さい」
そうヴァージルは、私とレイナを見る。
私達はうなずいた。
「確かに、部屋や窓の鍵さえかければ安心と思っていました。もっと気を引き締めます」
私がそう答えると、ヴァージルは少し安心したような表情になった。
「ええ。女王候補寮は離れているので、さすがに俺でも、すぐには駆けつけられません。
ぜひそうしてください。
──そういうことはありましたが、人形のお渡し会は無事に終わって、良かったですね」
「みんなが喜んでる姿を見られて良かったよな」
ユエがそう嬉しそうにいうと、シュリも優しい表情でうなずいた。
「……ああ。故郷で子供に物を持っていったら、喜んでいた姿を思い出したな」
「こんなに大勢に渡したのって初めてだったから、本場のサンタって、こんな気分
なのかなーって思ったよ。いいもんだね」
そのカナタの言葉に、私も前にクリスマスプレゼントに関わるアルバイトをしたことを思い出す。
忙しかったけど、受け取った人は喜ぶと思ったら、モチベーションを維持できたなあ。
「僕たち守護聖の人形なんだから、きっとみんなの心にも力を与えられるよね」
そうミランがいうように、ご利益を願ってもらった人もいたみたいだった。
守護聖の姿を見ることで、願いを持ち続ける力も強くなりそうだよね。
「……人形みんなが大切にされるといいな。もちろん僕も……そうする」
本当にそう。そう思ってくれるノアにもらわれた人形は幸せだね。
「今回フェリクス様と一緒に、仕事が出来て良かったです。
いろいろとありがとうございます!」
「僕もゼノと普段しないような仕事をやってみて、いい勉強になったし、楽しかったよ」
そう守護聖くん人形を作った2人は、前に見掛けた時よりも、
空気が柔らかくなったみたい。
そんなみんなを見ながら、ロレンツォも楽しそうに笑った。
「フフ、今日はいろんな人間関係を知れて、興味深かったね」
そう飛空都市みんなにとっての、1番の守護聖が判明したわけだから……。
私の知らないところでも、たくさんのドラマが生まれたんだろうな。
私に気付いたレイナは駆け寄ってくる。
「アンジュ、さっきはごめんなさい」
「ううん。ミランは仕事に向かったの?」
そう尋ねると、レイナは顔を赤くして微笑んだ。
「ええ、そうなの。
アンジュがいいと言ってくれたおかげで、ミラン様と胸がときめく時間を過ごせたわ。
本当にありがとう。
──ユエ様はさっき公園にいらしたわよ。会えた?」
そうレイナは、私のことも気にしてくれる。
「うん。ユエの人形だから、そばで私を見守ってくれるって…言ってくれたの。
凄く嬉しいし、持っていていいって聞いて、安心したなあ」
「ユエ様もそうおっしゃって下さったのね。
─本当よね。私もミラン様から、あんなふうに言っていただけて、とてもうれしかったわ」
そう2人とも、その時の余韻に浸る。
それからレイナは新しい情報をくれる。
「さっきシュリ様、ヴァージル様、フェリクス様にもお会いしたの。
聞いてみたけれど、人形の贈り主はご存じないって、おっしゃっていたわ…」
「そうなんだ……。私はヴァージル以外には会って話を聞いたけど、同じく知らないって言ってたなあ…」
そう答えてから、私はとあることを思い出す。
「そういえばシュリは、レイナが持っている人形を調べに行ったはずだけど……、大丈夫だった?」
「ええ。このミラン様の人形に、危険なものが仕掛けられているかもしれない…って、
森の湖まで足を運んで、調べてくださったの。
それで安全なことはわかったけれど、シュリ様は難しい顔をしていたわ……」
そうレイナも困った顔をする。
それは人形の謎以外にも、理由があるかもしれないよ…。
そう考えたけれど、実際私はレイナとシュリがどんな状態かを知らない。
だから黙っておくことにした。
「守護聖様には全員伺ったということは…。
あと聞けるとしたら、タイラーかしら。じゃあこれから王立研究院に──」
そう考えていたレイナは、ふと私の顔を覗き込んでこう尋ねる。
「あら?よく見たら、あなた少し疲れてない?」
「そう言われてみれば……、2時間以上立ちっぱなしだったから、少し…」
私がそう答えると、レイナは気を遣ってくれる。
「じゃあタイラーへは、私が聞いてくるわ。
アンジュはこれまでずっと尋ね回ってくれていたんだから、遠慮しないで。
2人揃って聞きに行くと、大事に聞こえるかもしれないしね。
あなたはカフェテラスで休憩してて」
そうレイナは頼もしく言ってくれた。
「ありがとう。じゃあ休憩させてもらうね」
そう今度は私が、お言葉に甘えさせていただくことにした。
「タイラーに聞いてきたら、私も合流するわ」
そう待ち合わせの約束をして。
私はカフェテラスに行くと、オレンジスカッシュを注文する。
大好きな柑橘系の味が、体に沁みわたる。
私はクリームコロッケも大好きだから、食べ物の好みはゼノと一番近い。
ユエくん人形は汚れないように、ハンカチの上に置いた。
カフェテラスの他のお客さんも、守護聖くん人形を持っている人が多い。
そしてその守護聖のことを話している人もいる。
そんな話が耳に入りながら、私はユエくん人形や、周りの植物を眺めて、ゆったり過ごしていた───。
そして数十分後にレイナが帰ってくる。
「レイナ、お疲れ様」
「アンジュ、お待たせ。私はフルーツスムージーをもらおうかしら」
そうレイナは、ミランも好きな飲み物を注文した。
普段、一緒に飲んだりしてるのかな?
そしてそのフルーツスムージーを受け取ると、レイナは報告してくれる。
「タイラーにこっそり聞いてきたけれど、わからないと言っていたわ。
そしてもしこういう不審なことが、また起きるようなら、王立研究院で調べてみるとも。
今日はクリスマスということもあるし、とりあえず様子を見ると言っていたけれど…」
「そうなんだ……。また何かあったら、王立研究院が動いてくれるなら安心だね」
そう答えたものの……。
つまり身近な人みんなに聞いたけれど、結局贈り主はわからないままなんだ──。でも……。
「私は一目見た時から、このユエくん人形をとっても欲しかったんだ。
ユエが『この人形も喜んでる』って言ってたし、私はこのまま可愛がる」
そう私がユエくん人形を見つめて決めると、レイナも頷く。
「そうね。さっきミラン様も、この人形を気に入って下さっていたし…。
私もこのまま持っていたいわ」
「私は今夜から、熊のノワールとこのユエくんの、3人で一緒に眠るんだ」
「えっ!?そうなの?私はどうしようかしら……」
そう2人で、自分がもらった人形を見ながら、少しの間盛り上がった。
そんな私達の様子に、2人の守護聖くん人形もうれしそうに見えた。
守護聖くん人形お渡し会の終了時間の少し前に、また会場に行ってみる。
今の当番はノアとシュリのようだけど、それ以外の人も結構いる。
「後20分位ありますけど、守護聖様全員の人形が残ってますし、ちょうど間に合って
良かったー」
「あの数にして良かったな」
そう人形の数も一緒に考えたゼノとフェリクスは、ほっとしている。
「なんか俺の人形が、思っていたよりも残ってるんだが…。
まあ守護聖みんなに、違ういいところがあるもんな。それがわかって良かったぜ」
そうユエが言っている時に、研究員のニコラさんが早足でやってきた。
「守護聖様、お忙しいところ失礼します。
私にはユエ様の人形を頂けるでしょうか」
「えっ!?ニコラ、そうなのか?」
本人がそう驚くと、ニコラさんは具体的にお礼を伝える。
「はい。この間も励ましていただいて、ありがとうございました。
ユエ様のおかげで、仕事でやるせないことがあっても、できることをしていきたいと
思い直せています。
ぜひおそばにいていただけたら…と思います」
「──そうか。俺もニコラの集めてくれるデータのおかげで、仕事の方向が決まって、
いつも助かってる。これからも一緒に頑張ろうぜ。
──そう言ってくれて、ありがとうな」
そう2人は普段抱いている思いを伝え合って、ユエが笑う。
そんな様子を見て、私が言われたんじゃないのに、幸せな気持ちになってしまう。
そういえば私がユエを好きになったきっかけも、ニコラさんとのやり取りだった。
悲しむニコラさんの相談にこたえている様子を見て、優しい人なんだな…とわかったから。
「──ユエから渡してあげたら?」
そうノアが促す。
「そうだな」
そうユエから受け取った人形を、ニコラさんは大事そうに見つめた。
「私室に大切に飾ります」
それから私の視線に気付いたのか、ニコラさんはこちらを見る。
そして私もユエくん人形を持っていることに気付くと、お辞儀をされた。
私もお辞儀を返した。
そして守護聖くん人形お渡し会は終わった。
そこにいたメンバーで、残った人形を箱にしまったり、運んできたテーブルなどを片付けたりする。
守護聖くん人形を入れた箱を保管場所に置くと、ノアが尋ねた。
「……残った人形はどうなるの?」
するとサイラスが答える。
「飛空都市の職員はこれからも、入れ替わりがありますからね。
これから配属される職員にも、記念に渡したいと思います」
そう聞いてノアは、ほっとした様子になる。
「……そうなんだ。良かった」
ノアは以前、はぐれた風船の心配をしていたこともあった。
きっと人形にも、そんな気持ちになったんだと思う。
「ゼノ様、フェリクス様!
今回は200体もの守護聖くん人形を制作していただき、誠にありがとうございました。
しばらくは大丈夫かと思いますが、足りなくなった際には、またよろしくお願い致します」
そうサイラスが最敬礼をする。
「はい!任せてください。
今回については6週間あったから、1日5個で…、他の仕事と並行してできましたし、
大丈夫です」
そう笑顔でこたえるゼノに、ヴァージルは感心したみたい。
「ゼノの根気は本当に凄いですよね…。
俺なら人のために、そこまでやれないです」
私も200個作り続けるのは心が折れるかもしれないので、心の中でうなずく。
ゼノこそ天使!
「最初は僕も一緒に、人形の素材とかを考えたけど……。
作る方については、僕は簡単なことしかしてないから、大方ゼノのお手柄だな」
そうフェリクスがいうと、ゼノは首を振った。
「いいえ。丁寧に作るフェリクス様と一緒だったから、俺もいつも以上に心を込めようと
思いました。
──それと最初に考えていた数よりも、俺の人形は減ってました。
フェリクス様のいう通りに、増やして良かったです」
そうゼノが笑うと、フェリクスも微笑んだ。
「そうだったのか…。
ゼノはそれくらい求められてるだろうって僕は思っていたから、予想通りで良かったよ」
そうフェリクスと一緒に仕事したことが、ぬいぐるみ作りに慣れているゼノにとっても、良かったみたい。
それからサイラスは、こんなことも付け加えた。
「最初に作っていただいたサイラスくん人形は、神鳥の王立研究院にいくつか持って行きます。
私が留守で寂しがっていましたので。
───それから神鳥の守護聖様にも、皆様の人形を差し上げようと思います。
たくさんは運べませんので、とりあえず1つずつで。
皆様きっと、喜ばれることでしょう」
そしてその後、守護聖のみんなは軽いお疲れ様会をした。
守護聖くん人形関係の仕事をしていない私とレイナも、みんなの厚意で混ぜてもらっている。
カフェテラスを4席予約していたそうで、それぞれ好きな飲み物を頼む。
さっきジュースを飲んだ私は、今回はコーン茶にした。
「うーん。レイナが僕の人形を持っていてくれるのは、すごく嬉しいんだけど…。
僕もレイナの人形を欲しくなっちゃったな~」
そうミランがいうので、レイナは照れる。
「親密度から予想は付いていたが、ミラン…か…!」
そうシュリは悔しそうにしている。…うん…。
そのミランの話を聞いて、親切なゼノは提案してくれる。
「じゃあミラン様用に、俺、作りましょうか?
レイナだけだと不公平だから、アンジュのも作ってみるね」
そう私の方も見て、気をつかってくれる。
「ゼノー、ありがとう!楽しみにしてるね!」
そうミランが嬉しそうに答えた後──、大きく鳥の鳴き声が聞こえた。
これはきっと──。
「──トンビかと思いましたか?私です!」
そうサイラスが現われる。
「いや、きっとサイラスだと思いました」
そう突っ込まれても、サイラスは真面目な顔で話し始める。
「ゼノ様、女王候補様の人形を作られるのは構いません。
ただ…守護聖様とは違い、女王候補様たちが女王陛下になられるかは、まだわかりません。
ですのでお渡しするなら、守護聖様の間だけにしていただきたいのです」
その話にゼノもはっとしたようで、うなずく。
「なるほど…!そうですね。了解しました」
「いただけるなら、私もアンジュの人形を欲しいと思ったのだけど……ダメかしら?」
そうレイナが尋ねると、サイラスは許してくれた。
「そうですね…。女王候補様たちなら、よろしいかと」
そう聞いて、私もリクエストする。
「だったら私も、レイナのも欲しいです」
「うん、じゃあ2人の分も作るね。他のみんなは───」
そう聞こうとして、ゼノは私達に気をつかってくれる。
「…ううん。
本人たちの前で聞くのは失礼になっちゃうから、後で俺に希望を教えてください」
「そうと決まれば、ミラクル人形シリーズを企画した私が、またデザインしましょう」
「今回は作る数は少ないだろうけど、僕もまた一緒に考えるよ」
そう張り切ってくれる仲間達に、ゼノは笑顔でお礼を言った。
「ありがとうございます。サイラス!フェリクス様!」
「うーん。それにしても、オレ達の部屋に人形を届けてくれたのって、誰なのかな?
この辺りにも、サンタみたいな存在っているの?」
そうカナタが疑問を口にする。
それにはヴァージルが真面目な顔で答える。
「当番の前に、日課のランニングがてら飛空都市中を回ってみましたが…。
怪しい人物も見掛けないし、気配も感じなかったんですよね……。
まあこの飛空都市に、不審者が侵入するのは難しいとは思いますが……」
今日しばらくヴァージルと会わなかったのは、そう見回りをしてくれていたから
なんだ…。
「置かれていた人形から推測すると…、その何者かは、我々の人間関係を把握している人物のようだね」
ロレンツォでも、そこまでしかわからないみたい。
「──それにしても、部屋に侵入されるなんて、無用心すぎると思います。
俺だったら、そんなこと許しませんので。
あなた達も、もっと気を付けて下さい」
そうヴァージルは、私とレイナを見る。
私達はうなずいた。
「確かに、部屋や窓の鍵さえかければ安心と思っていました。もっと気を引き締めます」
私がそう答えると、ヴァージルは少し安心したような表情になった。
「ええ。女王候補寮は離れているので、さすがに俺でも、すぐには駆けつけられません。
ぜひそうしてください。
──そういうことはありましたが、人形のお渡し会は無事に終わって、良かったですね」
「みんなが喜んでる姿を見られて良かったよな」
ユエがそう嬉しそうにいうと、シュリも優しい表情でうなずいた。
「……ああ。故郷で子供に物を持っていったら、喜んでいた姿を思い出したな」
「こんなに大勢に渡したのって初めてだったから、本場のサンタって、こんな気分
なのかなーって思ったよ。いいもんだね」
そのカナタの言葉に、私も前にクリスマスプレゼントに関わるアルバイトをしたことを思い出す。
忙しかったけど、受け取った人は喜ぶと思ったら、モチベーションを維持できたなあ。
「僕たち守護聖の人形なんだから、きっとみんなの心にも力を与えられるよね」
そうミランがいうように、ご利益を願ってもらった人もいたみたいだった。
守護聖の姿を見ることで、願いを持ち続ける力も強くなりそうだよね。
「……人形みんなが大切にされるといいな。もちろん僕も……そうする」
本当にそう。そう思ってくれるノアにもらわれた人形は幸せだね。
「今回フェリクス様と一緒に、仕事が出来て良かったです。
いろいろとありがとうございます!」
「僕もゼノと普段しないような仕事をやってみて、いい勉強になったし、楽しかったよ」
そう守護聖くん人形を作った2人は、前に見掛けた時よりも、
空気が柔らかくなったみたい。
そんなみんなを見ながら、ロレンツォも楽しそうに笑った。
「フフ、今日はいろんな人間関係を知れて、興味深かったね」
そう飛空都市みんなにとっての、1番の守護聖が判明したわけだから……。
私の知らないところでも、たくさんのドラマが生まれたんだろうな。