未来の神様の新年

もしも私がバースにいたままだったら、大晦日にあたる日の夜……。
私はレイナの夢ブロマイドを、枕の下に敷いて眠った。
今晩はレイナと会う約束をしているんだ。
夢の中に行くと、レイナは笑顔で迎えてくれた。
「アンジュ、待ってたわ。〇〇神社、開いてるといいわね」
「うん、現実と同じ時間だと、深夜だからね」
私たちはこれから神社に、初詣に行こうとしているんだ。
前もって行きたい神社を決めていた私たちは、2人でその名前を唱える。
「「それじゃあ〇〇神社へ」」
すると景色が変わって、その神社の近くに瞬間移動していた。
周りに人はたくさんいるけれど、突然現れた私たちを気に留める様子はない。
夢とはいえ本当に不思議で、便利だ。
「夢ブロマイドって、本当にどういう仕組みなのかしらね……」
何度か体験していることだけれど、レイナも改めてつぶやく。
初めてレイナの夢ブロマイドを使った時に、彼女となら特別にバースにも行けることを聞いた。
それから週に1度は夢でレイナと会って、一緒に息抜きをしていた。
その3分の2位はバースに来ている。
空は暗いので、今は夜……なのに、神社の前には大勢の人が並んでいる。
そして行列の周りには、屋台もたくさん出ている。
神社がこうなる時は、桜祭り、夏祭り、秋祭り……といろいろあるけれど。
周りの人の服装を見ると……。
「今はちょうど初詣なのかな?」
夢の中だからか、普段飛空都市で着ている服でも、私は寒く感じない。
けれど周りの人は、コートやマフラーを身に着けている。
元々私たちだけでも初詣できたら……と考えていた。
でも他の人もそうなら、気分が盛り上がってくる。
私たちは明るい顔になって、列に並ぶ。
「私の家はここから3km離れてるんだ。レイナのところは?」
私もレイナも子どもの頃から、この神社にお参りに来ていた。
そんな話を昼間していたので、そう訊ねてみる。
「私も同じくらいね。
高校生になってからの初詣は毎年こうやって、大晦日の夜に両親と来ていたわ」
「私の家も。じゃあこれまでに、すれ違ったことがあるかもしれないね。
もしかして今も、両親が来ていたりして?」
一応2人で周りの人を見回してみたけれど、私たちの両親はいないようだった。
思い出してみれば、これまでバースに来た時に、1度も知り合いを見掛けたことがない。
夢とはいえ、そう会わないようにされているのかもしれない。
「ともかく親戚以外と来るのは初めてだから嬉しいわ」
そうはにかむレイナに私も頷く。
「私も。夜は家族以外と来たことがないから、新鮮な気分だよ」
明るい時間なら友達とも来たことがあるけれど、夜は雰囲気や空気感が大分違う。
「……今更だけれど、初詣はユエ様と一緒じゃなくて良かったの?
バース以外のところには行けたでしょう?」
レイナにはユエを好きなことを打ち明けているので、そう確認される。
そう気遣われたので、私ははっきり頷いた。
「うん。初詣は『バースにレイナと』行くのが一番いいと思ったの。
それに起きたら、ユエとは一緒に初日の出を見るんだ。
明日は書き初めをする約束もしてるし」
数日前にもうすぐお正月が来ると、ユエに話をしたら、一緒にそれらしいことをしようといってくれた。
「レイナも彼と何かするの?」
レイナが一番いいと思っている人のことも聞いているので、私も訊ねてみる。
「ええ。私も一緒に初日の出を見る約束をしているわ。
あとバースでお正月にする遊びもしてみたいって」
その話に私は興味をひかれた。
レイナたちはどんなことをするんだろう?お正月の遊びって、いろいろあるからなあ。
「(お互い)楽しみだね!」
そう私たちはこれからの楽しい予定を思い出して、笑顔になった。

そんな話をしながら、参拝の列に10分程並んだだろうか。
「あと30秒で新年だよ」
そんな声が聞こえて、周りの人たちがカウントダウンを始めた。
だんだんと一緒に数える人が増えていく。
私たちは時計を持っていないけれど、そんな空気の中、一緒に気分が高まっていった。
「5……4……3……2……1!」
そしてカランカラン♪と神社の鐘が鳴らされ、
離れたところから神社の人の声が聞こえた。
「あけましておめでとうございまーす!」
そこで私とレイナも笑顔を見合わせて、新年の挨拶をした。
「あけましておめでとう。これからもよろしくね!」

夢の中なので、私が飛空都市に行った時に無くした財布が今手元にある。
お賽銭を入れて、手を合わせて、願い事をする。
(この宇宙を無事救えますように……)
夢は他にもあるけれど、今はそれが1番の願い。

参拝が終わって少し移動すると、毎年引いているおみくじが目に入った。
「おみくじを引くの?」
そうレイナに訊かれたけれど、私はおみくじから目線を外して、キッパリと答えた。
「ううん。これまでは気になって引いてたけど、今年は大吉にするから」
そんな私の真意をわかってくれたレイナも頷いた。
「……そうね。私たちが大吉にしてみせるわよね」
『努力は私を裏切らない。決断したのなら、後はやるだけ』
そう前にレイナがいっていた言葉が、今は私の心にもある。

それからもう幾らか掛けられている絵馬を見掛けて、私は近付いた。
『幸せな年になりますように』
『就職できますように』
『家族みんなが健康でありますように』
『子供が無事生まれてきますように』
『世界が平和になりますように』
そういろいろなことが書かれている。
そんな願い事を見て、私はこの前見た夢を思い出した。
その夢の中で私は、仲間と一緒なら、人々を守っていけるんじゃないか──って思った。
そして先日レイナは、私と一緒に仕事をしたい、力になりたいと言ってくれた。
──今は私とレイナの大陸の発展度は同じくらい。
女王になるのはどちらなのか、まだわからないけれど──。
もし私が女王になれなかったとしても、レイナと一緒に聖地に残ろうと思ってる。
そしてこの宇宙で暮らすみんなのために、頑張っていきたい。
育てている大陸の人たちの思いを聞いたり、宇宙意思と話をしているうちに、
そんな気持ちが私の中に芽生えてきていた。
だから新年にレイナと大切な故郷に来て、改めて心を決めたかった。
新年の希望に満ちた、この清浄な空気に包まれていると、叶えられる気がする。
みんなの未来は、私たちが守ってみせるよ。

おみくじは引かなかったけれど、お守りは欲しいと思った。
神様になっても、変わらず病気になったりするそうだし。
「肌守りを買おうかしら」
やっぱりレイナも、そのお守りが一番いいと思うみたい。
事故からも病気からも守ってくれる肌守りが、1番役立つように思う。
宇宙がいい方向に行くように、厄除けか開運なども買った方がいいのかは迷うところ。
「私も。それから守護聖の分も買いたいな。
前にユエに付いて王立研究院に行ったら、危ない任務もあるって聞いて驚いたんだ」
守護聖は宇宙にとって、かけがえのない存在と聞いているのに……。
治安の悪い地域に行くこともあったり、反乱の鎮圧まですることもあるらしい。
特にヴァージルとシュリは、度々そんな仕事をしているらしいから、とても心配だ。
「そうね。私も心配していたの。
じゃあ半分ずつ買うのはどうかしら」
「それがいいね」
そうレイナの提案通り、私と親密度が高い5人分を買うことになった。
レイナは1人少ない分、サイラスの分も買ってくれた。
入ってはいけないバックドアを閉めるなど、サイラスも危険な仕事もしている。
確かに必要な気がする。
──こんな話をしているけれど、実は夢で買った物は、現実には持っていけない。
目が覚めたら消えてしまう──。
それでも私たちはお守りを買いたかった。
今私たちの手元にあるうちに、願いを込める。
私は両手でお守り6体を扇形に持つと、目を閉じてこう願った。
(この令梟の宇宙を頑張って支える、みんなの身をどうか守ってくれますように──)

そして彼と初日の出を見るために、起きる時までは──。
レイナと屋台の物を楽しみながら、語り明かすのだった。
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