ミラクルな贈り物を、あなたに
『前日譚 ミラクルな贈り物を作ろう』
令梟での初めての女王試験で、もうすぐ最初の定期審査が行われる頃───。
俺、鋼の守護聖ゼノは、サイラスからこんな仕事を依頼された。
「飛空都市に暮らす皆様からご要望がありまして、守護聖様たちの人形を作っていただけないでしょうか?
1人1個として、職員は100人以上…その家族も含めると150人分ほどということになりますが…」
期待には応えたいけれど、現実的にできそうか、俺は一応確認する。
「ええと…それはいつまでに欲しいんですか?」
「そうですね……。ゼノ様には他のお仕事もありますので、強くは言えないのですが…。
女王試験の3期末位までに、お願いできれば…と」
そう聞いて俺は計算する。
そうなると最大で60日あるとして…。
多めに200個作るとしても、1日当たり4個作れば間に合うのか…。
「やります!飛空都市のみんなが待ってるなら、やらせてください!」
俺がそう答えると、サイラスは具体的に話を進める。
「人気のミラクルサイラスくん人形に合わせた、デザインを考えてあります。
名付けて「ミラクル守護聖くん人形」!です。
なおゼノ様お一人に、全てお任せするのは大変かと思いますので、
フェリクス様にご協力をお願いしておきます。
お受けしていただき、誠にありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します」
そうサイラスが去っていったあと、俺は考える。
フェリクス様かぁ。
ロレンツォ様とは一緒に何かを作ることも多いけど、
フェリクス様と2人はあまりなかったなぁ…。
そして数日後、フェリクス様が俺の執務室を訪ねてこられた。
「──それで僕も一緒に考えることになったわけだけど、みんなの記念品になるなら、
ちゃんとした物を作りたいよな」
そうフェリクス様はやる気だった。
フェリクス様が人形作りをしてる…なんて話は聞いたことがないけど、
何事にも真面目に取り組まれる方だから──。
「かといって、縫うのは得意なゼノに任せたほうがいいと思う。
だから他に僕にもできることがあれば……」
そうフェリクス様は付け加える。
そこで俺はまず、ぬいぐるみによく使う素材の説明をした。
そしてそれぞれにどれを使うのか、一緒に考えることにした。
「こういう細い線は、印刷にしようと思います。模様を入れる機械を先に作りますね」
そう俺は執務服の模様を指し示して言う。
するとフェリクス様は頷いてから、こう提案する。
「そうだな。そういうところは印刷でいいと思う。
ただ装飾品とか、細かくても目立たせたい部分もあるよな……。
──よし!そういうのは僕が貼ろう。
ゼノには縫い合わせる作業を頼みたいから、他の細かい部分は僕がやるよ」
「お願いしていいんですか?」
俺が思わず確認すると、フェリクス様は頷いた。
「ああ。協力者として呼ばれた以上、作業もゼノに任せっきりには出来ないだろう。
その分残しておいてくれれば、時々ゼノの執務室に行って、やるよ」
そうせっかく申し出てくれているので、俺はお言葉に甘えることにした。
「ありがとうございます。ではよろしくお願いします」
それからもう一つ大事なことを思い出した。
「あ、じゃあそれぞれ何個ずつ作るかも、先に決めた方がいいですよね…。うーん。
ロレンツォ様とヴァージル様は特に人気って噂だから、多めに作った方がいいかなー」
そんなことを思い出しながら、紙にそれぞれの個数の目安を書き出してみる。
それを見たフェリクス様にこう指摘された。
「これ、ゼノのだけ少なすぎるだろ。もっと作れよ。
ゼノの人形を欲しがる人に行き渡らなかったら、悲しませることになるだろう」
えっ!?8人の凄い先輩方よりも、俺を選ぶ人がそんなにいるとは、
とても思えないんだけど…。
俺は正直そう思った。
でもフェリクス様の意見を受け入れて、俺の人形の割合を少し増やすことにした。
やっぱり自信がないから、俺の個数が一番少ないままではあったけど…。
フェリクス様が納得してくださる数には修正した。
そして後日、いよいよ人形作りに取り掛かる。
必要な材料を揃えて、まずは布に模様を入れる。このために専用の機械を作っておいた。
それから俺は毎日のように、コツコツ人形を作っていく。
最初にパーツを整える以外は、出来るだけ手作業にした。
もっと効率的にサクサク作ることもできたんだけど───。
フェリクス様は3日に1度ほど、俺の執務室を訪れる。
そして仰っていた通り、人形に小さなパーツを貼って完成させていく。
初めて作る守護聖様の人形に貼っていく時は、ここでいいか俺にも確認して下さった。
そして2体目を作る時からは、1体目の見本と比べながら、
真剣な面持ちで黙々と作業している。
そんなフェリクス様の影響もあって、俺もいつも以上に、人形1つ1つに心を込めて、
作りたいと思ったんだ。
受け取った人にとって、これは大切な物になるかもしれないからね。
だから無理にペースを上げたりはしなかった。
なんだか人形作りは、毎日の心休まる時間だった。
そしてフェリクス様の人形作りが終わった後は、少し会話する機会も持てた。
おかげで前よりもフェリクス様との間に、良い空気が流れるようになったのも良かったな。
そして多めに用意した、200人ほどの守護聖くん人形が出来上がって、少し経った頃──。
女王候補たちの出身地バースでのクリスマスにあたる日に、飛空都市のみんなに人形を手渡ししたらいいんじゃないかって、サイラスが提案した。
そのクリスマスっていうのは、みんなで贈り物をし合う風習があるんだって。
そこで守護聖のみんなが2人ずつ当番制で、人形を手渡しすることに決まった。
でも人形作りに一番時間をかけた俺は、当日の当番はしなくていいって…。
そう言っていただいたものの、実際人形はどんなふうに減っていったのか…とか。
人形を受け取った飛空都市のみんなの様子を見たくて、俺も「守護聖くん人形お渡し会場」へと向かった。
そうしたら───。
「えーっ!?このお人形はゼノさまが作ったの?すごい!
わたしはゼノさまのがいいな!」
なんて言う女の子がいたんだ。
もしかして、いくつももらえると勘違いしてない?
そう思った俺は、焦って確認する。
「えっ!?1人1個だよ?本当に俺でいいの?」
でも女の子はしっかりとうなずいた。
「うん!わたしはゼノさまみたいに、いろんな物を上手に作れるようになりたいから」
そっか…。そう俺の司る器用さを一番求めてる人もいるのか…。
そう納得した俺は、女の子にこう答える。
「そっか…。ありがとう。
作り続けていれば、君もどんどん上手くなるよ。俺も応援してるから」
その女の子を見送っていると、以前会ったある男の子から声をかけられた。
「ねえ、ゼノさま。この前ピーちゃんのおはかをいっしょに作ってくれて、ありがとう」
その声に振り返って、俺は驚いた。
「君はあの時の!?君も俺の人形を?」
そう男の子は、俺の人形を持っていたんだ。
「うん。あの時ゼノさまのおかげで、かなしい気持ちが少しへったんだ。
だからゼノさまのにしたよ」
男の子はそういってくれた。
そっか。小鳥を生き返らせてほしいという、この子の願いは叶えられなかったけど…。
俺のしたことで、悲しい気持ちを少しでも軽くしてあげられたんだな。良かった。
そして俺の人形を持ちたいとまで、思ってくれたんだ…。
俺は安心と感動が入り交じった気持ちになった。
そして子ども達が去ったあと、こうつぶやく。
「そっか。俺の人形を欲しいと思ってくれてる人も、ちゃんといるんだ。
うん。俺の人形、思ってたよりも減ってるし、フェリクス様のおっしゃる通りにして良かったな…」
そう俺は箱の中に入っている自分の人形を見ながら、嬉しい気持ちになった。
そうそうそれからこの守護聖くん人形が、俺たち守護聖の一部や、女王候補の部屋に置かれていた…っていう、不思議な出来事が起こったんだ。
全部保管場所に移したはずなのに、俺の部屋にもあって、どうして!?ってびっくりしたよ。
俺の部屋には2つの人形が置いてあったんだ。
よく一緒に遊んでいるカナタと…。
俺が聖地に来たばかりの頃に、そばに居ると落ち着けたノア様。
逆にカナタとノア様のところにも、俺の人形が届いたんだって。
女王候補の彼女に後から教えてもらったんだけど…、なんと宇宙意思が俺達に配ってくれた…らしい。夢見がよくなるように…だって。
実際カナタはこう言ってくれた。
「オレ、ゼノの人形をベッドに置くようになってから、寂しい夢を見る回数が減ったんだよね。今のオレにも新しい友達がいるって、思えるからかな…」
その話に俺も笑顔で同意する。
「カナタも!?俺もカナタとノア様の人形を置いてるんだけど…。
嫌な夢を見ることがあっても、人形を見たら、すぐに落ち着けるようになったんだよね。
カナタと楽しく遊んだことを、思い出したりしてさ。
そしてノア様の安らぎの効果か、前よりも良く眠れるようになったんだ。
俺が作った物でもあるけど、プレゼントしてもらえて、本当に良かったな」
そう。自分では作った人形を部屋に置こうなんて、思ってなかった。
でも身近に置いてみたら、予想外に助けられてる。
この人形を受け取った人もみんなこんなふうに、心癒されたり、元気をもらえたりしていたらいいな。
俺、この守護聖くん人形を作って、本当に良かったな…。心からそう思った。
Fin
[chapter:おまけ]
【タイラーくん人形】
「ジャン!同じ王立研究院の主任のよしみで、タイラーの人形も作っていただきました。
なんと!一点物です」
そうサイラスがいうように、研究院のデスクに1つ、タイラーくん人形が置かれている。
「えっ!?何で俺のまで?」
「主任の人形可愛いですね!」
タイラー本人は戸惑うが、研究員仲間には好評だった。
こうして神鳥、令梟の王立研究院には、主任の人形が飾られている……。
【本編の守護聖くん人形 お渡し会 当番表】
9:00~45 ロレンツォ&カナタ
~10:30 ユエ&フェリクス(茶飲み友達)
~11:15 ヴァージル&ミラン(親密度が高い)
~12:00 ノア&シュリ(掃除仲間)
※ゼノは準備を1番頑張ったので、当日は当番なし
出来るだけ、仲の良い設定がある組み合わせにしました。
[chapter:あとがき]
ミラクル守護聖くん人形を頑張って作ってくれた2人に、スポットを当てられて良かったです。
本編でのフェリクスさんのメインの活躍が回想だったこともあり、ちゃんと書きたいなと思ったので。
本編でも1番頑張ってくれたゼノくんが、嬉しい気分になる展開にできたら…と考えていたので、それもまとめました。
鋼の力も、ゼノくん個人としても、1番の守護聖様だと思ってる民は、きっとたくさんいるよ。
自分が作った人形を計10個も勝手に配られているのに、全然不満に思っていないゼノくんっていい人…と、自分で書いていて思いました。
ゼノくん以外で、ぬいぐるみ作りにやる気を出してやってくれそうなのはフェリクスさんだろうと考えて、このコンビにしました。
ゼノくんの自信のなさがフェリクスさんをイラつかせるという話を2回位見たので、それをいいオチに持っていきたいな…と考えて、こういう展開にしました。
やんわりじゃなく断りにくい雰囲気で、ゼノくんの人形の数を増やしてくれる人は他にいない気がするし、話の展開上このコンビは合ってたなと思います。
アンジェリークの世界では物にも気持ちがあると判明しているので、ミラクル人形みんなにとって、作ってくれたゼノくん達は大好きなママなんだろうな。モデルの人も気になる存在だし、人形の持ち主も大好きだろうし…。そんなミラクル人形が可愛いです。
作中のミラクル人形が主役の話を描いてみたい気さえしています。
『ミラクルな贈り物を、あなたに』
昨日は楽しかったなあ…。
クリスマス当日の朝、私アンジュは目を覚ましてから、そう昨夜のことを思い出していた。
昨日はこの私の部屋で、サイラスがクリスマスのティーパーティーの準備をしてくれていた。
そんな思いがけないプレゼントを、レイナと2人で楽しんで…。
そして守護聖のみんなもクリスマスプレゼントとして、私達それぞれに寄せ書きをしてくれていた。
それをパーティーの後に、私は想い人のユエから受け取ったのだった。
私がユエを希望したものの、クリスマスの深夜に会うのはドキドキしたなあ…。
明るい昼間に、一緒に部屋で遊ぶ時とはなんだか違って…。
──以前私には両想いだった人もいたけど、それは子どもの頃のことだから…。
大人になってからは初めてになる恋は、いろいろなことが刺激的に感じる。
そんな昨夜の幸せな余韻に浸りながら、体を起こしてみると…。
枕元に包みが置いてあることに気が付いた。
「えっ!?いつの間に?」
昨日寝る時には、確かなかったはずだけど…と思いながら、よく見てみる。
すると「アンジュへ」と私の名前が書かれている。
クリスマスの朝とはいえ、こういうふうにプレゼントをもらうのは10年以上ぶりだなあ。
飛空都市にもサンタ・クロースの風習があったりする?
そう思いながら開けてみると、中には…。
「これは……!ユエくんの ぬいぐるみ!?」
それは以前見たことのある、ミラクル ユエくん人形だった。
この人形について聞いた時のことを思い出す───。
先日ゼノの執務室に行ったら、サイラスもいて、2人で私に教えてくれたんだ。
「ミラクル サイラスくんが好評ですので、このデザインでミラクル守護聖くん人形も作ってみました。
制作はゼノ様、そしてフェリクス様にも協力をお願いしています。
今は一緒に過ごしている飛空都市の皆様とも、女王試験が終了すれば、もう会えることはなくなってしまいますからね…。
何か守護聖様にちなんだ記念品が欲しい、とご要望がありましたので、実現させていただきました」
「これは一般用だからね。よくぬいぐるみに使われている素材にしたよ。
フェリクス様が一緒に考えてくれて…、衣装にはこだわってみたんだ。
受け取るみんなが喜んでくれたらいいな」
そう主に制作したらしいゼノの前に、守護聖全員のぬいぐるみが並べられていた。
それに私もすぐに惹きつけられる。
みんなかわいい!
特にこのユエくん人形、私も欲しい!
そう私は想い人のぬいぐるみをじっと見つめる。
でも…、そんなこといえないよね。
私がユエを好きなのは、一応秘密だし。(私は態度に出やすいから、知っている人もいるかもしれないけど)
かといって、平等に全員分ほしいだなんて、とても手間をかけて作っただろうゼノに申し訳ない。
…まあ私は女王か補佐官になれたとしたら、これからも本人に会えるんだしね。諦めよう…。
そう思っていたので、これはかなり嬉しいプレゼントではある。
やっぱりこのユエくん、かわいいなあ…。
そううっとり見つめている私の元に、サイラスがいつも通りに、朝食を持ってきてくれる。
「おはようございます。昨日のクリスマス・イブは楽しんでいただけましたか?」
そんなサイラスに、まず昨日のお礼をいってから、尋ねてみることにした。
「はい。昨日は本当に、夢のように嬉しい時間でした。どうもありがとうございました。
──ところで、あの…これが今朝、私の枕元に置いてあったんです。
サイラスからですか?」
そう私がユエくん人形を見せると、サイラスは不思議そうな顔をする。
「おや。これは私がゼノ様に作っていただいた、ミラクル守護聖くん人形のようでいすが…、私は置いていませんね」
その答えを聞いて、私は他の心当たりを考えてみる。
「そうですか…。!そういえば昨日、レイナもここに来ていたので、確認してみます」
そこで朝食の後に、早速レイナの部屋を訪ねてみた。
するとレイナも慌てた様子だった。
「アンジュ聞いて!今朝不思議なことがあったのよ。
私の部屋に見慣れない包みがあってね…。開けてみたら、ミラン様の人形が入っていたの」
「えっ!?レイナにも!?今朝私のところにも、ユエの人形が置いてあったよ」
私達2人に、同じことが起こっていたとは…。
「ミラン様の人形をいただけたのは嬉しいけれど…、贈り主がわからないと…。
どうしようかしらね…」
そうレイナは複雑そうな顔をする。
レイナはミランを好きということは、本人から聞いている。
だからぬいぐるみをもらったこと自体は、本当に嬉しいんだと思う。それは私もだから…。
私は持ってきたユエくん人形を、ぎゅっと抱きしめる。
それからレイナに提案した。
「サイラスからは違うって聞いたけど、他の人は何か知ってるかもしれない。
一緒に聞きに行ってみようか」
するとレイナは直ぐにうなずいた。
「そうね。このままだとどう扱っていいのか、わからないものね。行きましょう」
そうして2人で守護聖くん人形を持って、出掛けることにした。
まずは森の湖に行ってみる。
そこではミランがいつものように、楽しそうに踊っていた。
でも私達2人に気が付くと踊りをやめて、声をかけてくれる。
「おはよう!レイナ、アンジュ。クリスマス楽しんでる?
レイナ、昨日はステキなイブになったね~。
それにこうして、また直ぐに会えるなんて嬉しいな」
やっぱり昨日レイナも、本命のミランから寄せ書きをもらっていたらしい。
それからミランは、レイナの持っている人形に目を留める。
「あれ?それは僕の人形?」
「はい。今朝私達の部屋に何故かこの人形が置いてあって…。贈り主を探しているんです」
そうレイナは困った顔で答えたけれど、対するミランは笑顔のまま。
「そうなんだー。僕には心当たりはないなー。
──でもレイナが僕の人形を持っていてくれるなら、嬉しいよ。
僕の人形ならきっと、ラッキーパワーを届けられると思うし、是非そばに置いてほしいな」
そう人形のモデルのミランは、このことを喜んでいる。
好きな人からそんな言葉をもらえて、レイナは顔が赤くなりながらも嬉しそう。
いいなあ。
「ねえレイナ、せっかく森の湖で会ったんだから、ちょっとデートしようよ。
僕は今日の仕事まで、もう少し時間があるんだ~」
そうレイナはミランさんに、デートに誘われる。
でも私と一緒に人形の贈り主を探すことになっているので、レイナは迷っている。
「ね、今日はクリスマスっていう特別な日みたいだし、
人形の贈り主は、急いで見つけなきゃいけないわけでもないんでしょ?」
そのミランの言葉に、私は考える。
うーん。確かに、贈り主が誰だかはっきりさせたい気持ちはあるものの…。
急を要するほどのことではないかな…。
「そうだね。しばらくは私1人でも、大丈夫だよ」
そう後押しすると、先にミランから返事がくる。
「アンジュ、ごめんね。ありがとう。
今日僕は10時半から仕事だから、レイナは1時間位でお返しするね」
「──じゃあ少しだけ…、いいかしら。
アンジュはこの後、どこに行く予定なの?」
そうレイナに聞かれて、私は大まかに立てていた計画を話す。
「まずは人がいそうな公園に行ってみて…。
それからみんなの執務室を訪ねてみようかなって。
王立研究院は…それでもわからなかった時で」
研究員の人達の仕事を出来るだけ邪魔したくないから、後にする。
まずは普段から話している、守護聖のみんなに聞いてみよう。
そう考えた私はとりあえず一人で、他の場所を回ってみることにした。
「私も後でそちらに向かうわね」
そう申し訳なさそうにいう、レイナにうなずいて。
公園に移動しながら、さっきのミランとレイナの様子を思い出す。
それにしても、私が口を挟みにくいほど、すっかり2人の世界だったなあ…。
昨夜2人で過ごしたクリスマス・イブの余韻も、あるのかもしれないけど…。
ミランは時々私のことも誘いに来てくれるけど、やっぱり好きな人へは違うんだ…。
そう実感した。
今日の公園はいつもよりも、ずいぶんと賑やか。
そして人々はみんな、守護聖くん人形を持っている。
あ、この前ロレンツォと一緒にいた女性も、ロレンツォくん人形を持ってる。
「シュリさまの人形といっしょに、でかけるんだー」
「カナタ様、ありがとう!
これを持ってたら、カナタ様みたいに、はやく走れるようになるかな」
そう子供たちの嬉しそうな声が聞こえる。
人が集まっているところを見ると、ロレンツォとカナタが守護聖くん人形を配っていた。
2人の近くにはテーブルがあって、9種類の守護聖くん人形が並べられている。
見本の人形は立てられていて、見えやすくなっていた。
残りのぬいぐるみは箱に入っているみたい。
──そういえばあの人形は、飛空都市のみんなにプレゼントするっていってたっけ…。
そのお渡し会を今やってるんだ。
そのことに私は気付いた。
「フフ……、イアンは私を選んでくれるんだね」
「はい!ロレンツォ様を尊敬していますので。
この間も助言していただき、ありがとうございました。
これからも自分の経験を大切にしていきます」
そう研究員のイアンさんは、ロレンツォくん人形を受け取って、嬉しそうに帰っていく。
そこで人が途切れたので、私はロレンツォとカナタのところに行く。
「おはようございます。昨日は寄せ書きをありがとうございました。
今日はみんなに、守護聖くん人形を配っているんですね」
するとロレンツォが詳しく説明してくれる。
「やあ、アンジュ、おはよう。
数日前にサイラスが、バースのクリスマスにあたる日に、この人形をプレゼントするのが
ぴったりなんじゃないかって、いいだしてね。
今日の午前中は、守護聖が交替で人形を手渡しすることになっているんだ。
1人1つずつね。
それで私達が最初の当番というわけだ」
「お姉さん、おはよう。オレは正直まだ眠い…」
早起きが苦手らしいカナタは、そう眠いのがわかる目をしている。
「ところでお嬢さんとは、今日初めて会ったと思うが…」
そうロレンツォが私の持っている、ユエくん人形を不思議そうに見る。
そこで私とレイナの部屋に、この守護聖くん人形が置いてあったことを話す。
すると驚いたことに、カナタまで。
「えっ!?お姉さんのところにも!?オレの枕元にも、今朝プレゼントが置いてあってさ…。
開けたら、ゼノの人形が入ってたんだよね。
オレは最初の当番だったから、とりあえず部屋にそのまま置いてある」
!私達以外にも、同じようなもらい方をした人が、他にもいたとは…。
そう驚いていると、カナタは付け加えた。
「そういえば、ノアさんのところには5つも届いたって、今朝騒いでたな…。
誰の人形かは聞いてないけど」
「ノアのところにも!5人は凄いね…。
本当に一体、誰が置いたんだろう!?」
この話に、ロレンツォは楽しそうな顔をする。
「これは興味深い出来事だね。
犯人…といっていいのか…は、一体何の目的でそんなことをしたのか…。
──お嬢さんは、ユエの人形で良かったのかな?」
ロレンツォは私のユエくん人形を見つめて、そう確認する。
「はい」
私ははっきりうなずいた。
2人から離れると、向こうからユエが来るのが見えた。
私は駆け寄って、昨日のお礼をいう。
「ユエ、おはよう。昨日は一緒に過ごしてくれて…、どうもありがとう」
そんな昨日のことを思い出すと、少しもじもじしてしまう。
「…おお、おはよ。昨日は楽しかったな」
そう私と挨拶した後、ユエは周りを見回す。
「今日はみんな人形をもらって、うれしそうだな。
そんな顔を見たくて、当番よりも早く来ちまった。
──うん?それは──、アンジュは…俺の人形を選んでくれたのか?」
そう私の持っているユエくん人形を見る。
そこで私とレイナとカナタには、部屋に届いていたことを話す。
するとユエは、あっと何かを思い出した顔をした。
「そうなのか…。そういえば今朝、ノアの私室にも置いてあったって言ってたな。
見てみたら俺のもあったから、ノアの近くに置いとけよって言ったんだ」
それから私の腕の中にいる、ユエくん人形をじっと見る。
「この人形、喜んでるな。俺にはわかる」
そういえばユエは、物の気持ちもわかる人だっけ。
「そうなんだ。良かった。
じゃあこの人形は、このまま私が持っていてもいい?」
私がそう確認すると、ユエはうなずいた。
「ああ、いいぜ。もちろん」
「じゃあこの前、ユエからもらったノワールのぬいぐるみと一緒に、3人で寝よう」
私は少し前から、ファンタジーパークのキャラクターのぬいぐるみと一緒に眠っている。
ユエが当てたコインと交換してもらった物で、大事にしているんだ。
ぬいぐるみ大好きだし、好きな人からもらった物でもあるし…。
私がそういうと、ユエは少し戸惑っているような反応をする。
「おお…、そうなのか…?そういえばこの前、そんなこと言ってたもんな…」
そこで私はそうしようと考えた理由をいう。
「うん。子どもの時からずっと、寝るときはぬいぐるみと一緒だったし…、
怖い夢を見ても、ユエの人形を見たら安心できると思うから、また眠れる気がする」
その話にユエは納得してくれた。
「そうだな…。ユエ様の人形だから、そばでお前を見守れるはずだぜ。
──でも人形相手だけじゃなくて、ちゃんと俺の執務室にも来いよ」
「うん」
そう本人の許可をもらえて安心した。
そんな時に、この人形の製作者であるゼノが、ロレンツォと話をしているのが聞こえてきた。
「さすがロレンツォ様の人形は大人気ですね」
私はユエにお辞儀をしてから、ゼノに昨日のお礼を言おうと思って駆け寄る。
「ゼノ、おはよう。
昨日私がもらった寄せ書きって、ゼノのアイディアなんだよね?
みんなからのメッセージが凄く嬉しかったから、部屋に飾ろうと思ってるんだ。
本当にありがとう」
するとゼノも笑顔で答えてくれる。
「おはよう。そんなに喜んでもらえたんなら良かったよ。
──君はユエ様の人形にしたの?」
それから私の持っている人形を見つめる。
「あ、うん、そうなんだけど…、これは部屋に届いたものなの」
私の希望通りの物ではあるので、そういう答え方をする。
それから詳しく説明すると、ゼノは目を丸くした。
「えっ!?君も?
俺の部屋にも今朝、ラッピングされたカナタとノア様の人形があったんだよね…。
俺が作った物で間違いないと思うけど、誰が置いたのか不思議だなぁって…。
──でもせっかくだから、このまま私室に置こうと思うよ」
その話にカナタが大きく反応した。
「ゼノも!?オレも今朝、ゼノの人形をもらったよ!」
「ええ!?カナタも?じゃあ俺たち、お互いの人形をもらったんだ…」
そう気付いたゼノに、カナタはこう伝える。
「──なんだかわかんないけど、オレはバースのことを思い出して寂しくなる時がある
から、もらったのが友達のゼノの人形で良かったと思う」
カナタはゼノと一番仲がいいもんね。
「カナタ…。俺もカナタの人形で良かったよ。
俺の人形を喜んでくれる人が1人でもいて、良かったな…」
そういうゼノの横で、ロレンツォと話していた女の子が大きな声を上げた。
「えーっ!?このお人形はゼノさまが作ったの?すごい!
わたしはゼノさまのがいいな!」
その言葉を聞いて、ゼノが確認する。
「えっ!?1人1個だよ?本当に俺でいいの?」
女の子はしっかりとうなずいた。
「うん!わたしはゼノさまみたいに、いろんな物を上手に作れるようになりたいから」
なるほど。力を与えてくれる守護聖の人形だから、確かにそういうご利益もありそうだよね…と、私は納得する。
「そっか…。ありがとう。
作り続けていれば、君もどんどん上手くなるよ。俺も応援してるから」
そうゼノは女の子を励まして、手を振りながら見送る。
そんな時にゼノの後ろから、男の子が話しかける。
「ねえ、ゼノさま。この前ピーちゃんのおはかを、いっしょに作ってくれてありがとう」
その声に振り返ったゼノは目を丸くする。
「君はあの時の!?君も俺の人形を?」
そう男の子は、もうゼノの人形を持っていた。
「うん。あの時ゼノさまのおかげで、かなしい気持ちが少しへったんだ。
だからゼノさまのにしたよ」
そう聞いたゼノは感動しているみたいだった。
その男の子は、私も知ってる。
男の子に小鳥を生き返らせてほしいってお願いされたそうで、最初ゼノは困っていたけど…。
あの後うまくいっていたんだ。本当に良かったな。
そんなやりとりを見ていた私も、心が温かくなった。
子ども達が去ったあと、ゼノはしみじみつぶやく。
「そっか。俺の人形を欲しいと思ってくれてる人も、ちゃんといるんだ。
フェリクス様の言う通り、数を増やしてよかったな」
「フェリクスが、そういうアドバイスを?
そういえばフェリクスも一緒に、この守護聖くん人形を作ってくれたんだよね」
私がそのことを思い出していると、ゼノはうなずく。
「そう!この人形はね、デザインはサイラスがしたんだけど…。
それを一般用のぬいぐるみにするにあたって、フェリクス様も一緒に考えてくれたんだ
よ。デザインの修正や、素材選びなんかをね」
それからゼノは、私の持っている人形を見て教えてくれる。
「ユエ様だと…ブローチだけは金色にしたらいいんじゃないかって提案されたのも、
フェリクス様だよ」
そういわれて見ると、ユエくん人形の中で神鳥のブローチだけは特別に、少しキラキラして目立っている。
「そうなんだ。これキレイだよね」
その話を聞いて、それまで飛空都市の人と話していたユエも反応する。
「おっ。そうなのか?さすがフェリクス。俺もこの部分、気に入ってるんだよなー。
後でお礼いっとかなくちゃな」
「はい、ぜひ」
そう喜ぶユエに答えた後、ゼノは続けて説明してくれる。
「みんなの記念品になるなら、ちゃんとした物を作りたい。
縫うのはゼノに任せたほうがいいと思うけど、他にできることがあれば……って、
フェリクス様はおっしゃって下さってね──。
小さなパーツを貼ったりするのは、フェリクス様がやって下さったんだ。
生地に印刷するだけじゃなくて、目立たせた方がいい部分もあるんじゃないかって」
そう聞いてよく見てみると、確かにアクセサリーとかがいくつか貼ってある。
「そうなんだ。2人で凄く丁寧に作ってくれた人形なんだね。
そう聞いたら、ますます大切にしなくちゃって思うよ」
感心した私がそう答えると、ゼノはうなずいた。
「うん。そうしてくれると、俺たちも嬉しいな。
──それでね、それぞれ何個ずつ作るか考えた時に──。
『ロレンツォ様とヴァージル様は、特に人気って噂だから、多めに作った方がいいかなー』
そう俺が作る人形の数を、紙に書いていたら…。
『これゼノのだけ少なすぎるだろ。もっと作れよ。
ゼノの人形を欲しがる人に行き渡らなかったら、悲しませることになるだろう』
そうフェリクス様がおっしゃって下さったんだー。
それで俺のをいくらか増やしたんだけど──。
……うん。俺の人形、思ってたよりも減ってるし、フェリクス様のおっしゃる通りにして
良かったな」
そうゼノは、箱の中に入っている自分の人形を見ながら、笑顔になった。
そんな想いのこもった守護聖くん人形の話を聞いた後、私は聖殿に向かう。
人形をたくさんもらったという、ノアの話も聞きたくて。
その途中の道でフェリクスと会った。
「おはよう、アンジュ。あんたはその人形をもらってきたのか」
挨拶をした後、他の人にも説明したように、今朝私の部屋に置いてあったことを話す。
「へぇ。守護聖にも何人かそんなことがあったようだけど、女王候補達もなのか」
そう驚いた顔をした後、今度は少し嬉しそうな顔になって教えてくれる。
「──あんたと前に公園で話した時にも近くにいた職員がさ、僕の人形を持ってたんだ。
小さな子どもも…。
僕は顔ばかりほめられることが多いのが気になってた。
だからみんな同じ顔の人形でも、僕を選んでくれるんだな…って、少しうれしかったよ」
その話に、私も一緒に嬉しくなる。
うん、フェリクスの良いところは、もっと他にもいろいろある。
「この人形も、ゼノとフェリクスがこだわって作ってくれたって、さっき聞いたよ」
「うん、そう。気に入った?」
「うん、とっても。大切にします!」
私がそう笑顔で答えると、フェリクスはいつもより声に力を込めていった。
「──それじゃあ僕も、人形を渡しに行くか」
令梟での初めての女王試験で、もうすぐ最初の定期審査が行われる頃───。
俺、鋼の守護聖ゼノは、サイラスからこんな仕事を依頼された。
「飛空都市に暮らす皆様からご要望がありまして、守護聖様たちの人形を作っていただけないでしょうか?
1人1個として、職員は100人以上…その家族も含めると150人分ほどということになりますが…」
期待には応えたいけれど、現実的にできそうか、俺は一応確認する。
「ええと…それはいつまでに欲しいんですか?」
「そうですね……。ゼノ様には他のお仕事もありますので、強くは言えないのですが…。
女王試験の3期末位までに、お願いできれば…と」
そう聞いて俺は計算する。
そうなると最大で60日あるとして…。
多めに200個作るとしても、1日当たり4個作れば間に合うのか…。
「やります!飛空都市のみんなが待ってるなら、やらせてください!」
俺がそう答えると、サイラスは具体的に話を進める。
「人気のミラクルサイラスくん人形に合わせた、デザインを考えてあります。
名付けて「ミラクル守護聖くん人形」!です。
なおゼノ様お一人に、全てお任せするのは大変かと思いますので、
フェリクス様にご協力をお願いしておきます。
お受けしていただき、誠にありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します」
そうサイラスが去っていったあと、俺は考える。
フェリクス様かぁ。
ロレンツォ様とは一緒に何かを作ることも多いけど、
フェリクス様と2人はあまりなかったなぁ…。
そして数日後、フェリクス様が俺の執務室を訪ねてこられた。
「──それで僕も一緒に考えることになったわけだけど、みんなの記念品になるなら、
ちゃんとした物を作りたいよな」
そうフェリクス様はやる気だった。
フェリクス様が人形作りをしてる…なんて話は聞いたことがないけど、
何事にも真面目に取り組まれる方だから──。
「かといって、縫うのは得意なゼノに任せたほうがいいと思う。
だから他に僕にもできることがあれば……」
そうフェリクス様は付け加える。
そこで俺はまず、ぬいぐるみによく使う素材の説明をした。
そしてそれぞれにどれを使うのか、一緒に考えることにした。
「こういう細い線は、印刷にしようと思います。模様を入れる機械を先に作りますね」
そう俺は執務服の模様を指し示して言う。
するとフェリクス様は頷いてから、こう提案する。
「そうだな。そういうところは印刷でいいと思う。
ただ装飾品とか、細かくても目立たせたい部分もあるよな……。
──よし!そういうのは僕が貼ろう。
ゼノには縫い合わせる作業を頼みたいから、他の細かい部分は僕がやるよ」
「お願いしていいんですか?」
俺が思わず確認すると、フェリクス様は頷いた。
「ああ。協力者として呼ばれた以上、作業もゼノに任せっきりには出来ないだろう。
その分残しておいてくれれば、時々ゼノの執務室に行って、やるよ」
そうせっかく申し出てくれているので、俺はお言葉に甘えることにした。
「ありがとうございます。ではよろしくお願いします」
それからもう一つ大事なことを思い出した。
「あ、じゃあそれぞれ何個ずつ作るかも、先に決めた方がいいですよね…。うーん。
ロレンツォ様とヴァージル様は特に人気って噂だから、多めに作った方がいいかなー」
そんなことを思い出しながら、紙にそれぞれの個数の目安を書き出してみる。
それを見たフェリクス様にこう指摘された。
「これ、ゼノのだけ少なすぎるだろ。もっと作れよ。
ゼノの人形を欲しがる人に行き渡らなかったら、悲しませることになるだろう」
えっ!?8人の凄い先輩方よりも、俺を選ぶ人がそんなにいるとは、
とても思えないんだけど…。
俺は正直そう思った。
でもフェリクス様の意見を受け入れて、俺の人形の割合を少し増やすことにした。
やっぱり自信がないから、俺の個数が一番少ないままではあったけど…。
フェリクス様が納得してくださる数には修正した。
そして後日、いよいよ人形作りに取り掛かる。
必要な材料を揃えて、まずは布に模様を入れる。このために専用の機械を作っておいた。
それから俺は毎日のように、コツコツ人形を作っていく。
最初にパーツを整える以外は、出来るだけ手作業にした。
もっと効率的にサクサク作ることもできたんだけど───。
フェリクス様は3日に1度ほど、俺の執務室を訪れる。
そして仰っていた通り、人形に小さなパーツを貼って完成させていく。
初めて作る守護聖様の人形に貼っていく時は、ここでいいか俺にも確認して下さった。
そして2体目を作る時からは、1体目の見本と比べながら、
真剣な面持ちで黙々と作業している。
そんなフェリクス様の影響もあって、俺もいつも以上に、人形1つ1つに心を込めて、
作りたいと思ったんだ。
受け取った人にとって、これは大切な物になるかもしれないからね。
だから無理にペースを上げたりはしなかった。
なんだか人形作りは、毎日の心休まる時間だった。
そしてフェリクス様の人形作りが終わった後は、少し会話する機会も持てた。
おかげで前よりもフェリクス様との間に、良い空気が流れるようになったのも良かったな。
そして多めに用意した、200人ほどの守護聖くん人形が出来上がって、少し経った頃──。
女王候補たちの出身地バースでのクリスマスにあたる日に、飛空都市のみんなに人形を手渡ししたらいいんじゃないかって、サイラスが提案した。
そのクリスマスっていうのは、みんなで贈り物をし合う風習があるんだって。
そこで守護聖のみんなが2人ずつ当番制で、人形を手渡しすることに決まった。
でも人形作りに一番時間をかけた俺は、当日の当番はしなくていいって…。
そう言っていただいたものの、実際人形はどんなふうに減っていったのか…とか。
人形を受け取った飛空都市のみんなの様子を見たくて、俺も「守護聖くん人形お渡し会場」へと向かった。
そうしたら───。
「えーっ!?このお人形はゼノさまが作ったの?すごい!
わたしはゼノさまのがいいな!」
なんて言う女の子がいたんだ。
もしかして、いくつももらえると勘違いしてない?
そう思った俺は、焦って確認する。
「えっ!?1人1個だよ?本当に俺でいいの?」
でも女の子はしっかりとうなずいた。
「うん!わたしはゼノさまみたいに、いろんな物を上手に作れるようになりたいから」
そっか…。そう俺の司る器用さを一番求めてる人もいるのか…。
そう納得した俺は、女の子にこう答える。
「そっか…。ありがとう。
作り続けていれば、君もどんどん上手くなるよ。俺も応援してるから」
その女の子を見送っていると、以前会ったある男の子から声をかけられた。
「ねえ、ゼノさま。この前ピーちゃんのおはかをいっしょに作ってくれて、ありがとう」
その声に振り返って、俺は驚いた。
「君はあの時の!?君も俺の人形を?」
そう男の子は、俺の人形を持っていたんだ。
「うん。あの時ゼノさまのおかげで、かなしい気持ちが少しへったんだ。
だからゼノさまのにしたよ」
男の子はそういってくれた。
そっか。小鳥を生き返らせてほしいという、この子の願いは叶えられなかったけど…。
俺のしたことで、悲しい気持ちを少しでも軽くしてあげられたんだな。良かった。
そして俺の人形を持ちたいとまで、思ってくれたんだ…。
俺は安心と感動が入り交じった気持ちになった。
そして子ども達が去ったあと、こうつぶやく。
「そっか。俺の人形を欲しいと思ってくれてる人も、ちゃんといるんだ。
うん。俺の人形、思ってたよりも減ってるし、フェリクス様のおっしゃる通りにして良かったな…」
そう俺は箱の中に入っている自分の人形を見ながら、嬉しい気持ちになった。
そうそうそれからこの守護聖くん人形が、俺たち守護聖の一部や、女王候補の部屋に置かれていた…っていう、不思議な出来事が起こったんだ。
全部保管場所に移したはずなのに、俺の部屋にもあって、どうして!?ってびっくりしたよ。
俺の部屋には2つの人形が置いてあったんだ。
よく一緒に遊んでいるカナタと…。
俺が聖地に来たばかりの頃に、そばに居ると落ち着けたノア様。
逆にカナタとノア様のところにも、俺の人形が届いたんだって。
女王候補の彼女に後から教えてもらったんだけど…、なんと宇宙意思が俺達に配ってくれた…らしい。夢見がよくなるように…だって。
実際カナタはこう言ってくれた。
「オレ、ゼノの人形をベッドに置くようになってから、寂しい夢を見る回数が減ったんだよね。今のオレにも新しい友達がいるって、思えるからかな…」
その話に俺も笑顔で同意する。
「カナタも!?俺もカナタとノア様の人形を置いてるんだけど…。
嫌な夢を見ることがあっても、人形を見たら、すぐに落ち着けるようになったんだよね。
カナタと楽しく遊んだことを、思い出したりしてさ。
そしてノア様の安らぎの効果か、前よりも良く眠れるようになったんだ。
俺が作った物でもあるけど、プレゼントしてもらえて、本当に良かったな」
そう。自分では作った人形を部屋に置こうなんて、思ってなかった。
でも身近に置いてみたら、予想外に助けられてる。
この人形を受け取った人もみんなこんなふうに、心癒されたり、元気をもらえたりしていたらいいな。
俺、この守護聖くん人形を作って、本当に良かったな…。心からそう思った。
Fin
[chapter:おまけ]
【タイラーくん人形】
「ジャン!同じ王立研究院の主任のよしみで、タイラーの人形も作っていただきました。
なんと!一点物です」
そうサイラスがいうように、研究院のデスクに1つ、タイラーくん人形が置かれている。
「えっ!?何で俺のまで?」
「主任の人形可愛いですね!」
タイラー本人は戸惑うが、研究員仲間には好評だった。
こうして神鳥、令梟の王立研究院には、主任の人形が飾られている……。
【本編の守護聖くん人形 お渡し会 当番表】
9:00~45 ロレンツォ&カナタ
~10:30 ユエ&フェリクス(茶飲み友達)
~11:15 ヴァージル&ミラン(親密度が高い)
~12:00 ノア&シュリ(掃除仲間)
※ゼノは準備を1番頑張ったので、当日は当番なし
出来るだけ、仲の良い設定がある組み合わせにしました。
[chapter:あとがき]
ミラクル守護聖くん人形を頑張って作ってくれた2人に、スポットを当てられて良かったです。
本編でのフェリクスさんのメインの活躍が回想だったこともあり、ちゃんと書きたいなと思ったので。
本編でも1番頑張ってくれたゼノくんが、嬉しい気分になる展開にできたら…と考えていたので、それもまとめました。
鋼の力も、ゼノくん個人としても、1番の守護聖様だと思ってる民は、きっとたくさんいるよ。
自分が作った人形を計10個も勝手に配られているのに、全然不満に思っていないゼノくんっていい人…と、自分で書いていて思いました。
ゼノくん以外で、ぬいぐるみ作りにやる気を出してやってくれそうなのはフェリクスさんだろうと考えて、このコンビにしました。
ゼノくんの自信のなさがフェリクスさんをイラつかせるという話を2回位見たので、それをいいオチに持っていきたいな…と考えて、こういう展開にしました。
やんわりじゃなく断りにくい雰囲気で、ゼノくんの人形の数を増やしてくれる人は他にいない気がするし、話の展開上このコンビは合ってたなと思います。
アンジェリークの世界では物にも気持ちがあると判明しているので、ミラクル人形みんなにとって、作ってくれたゼノくん達は大好きなママなんだろうな。モデルの人も気になる存在だし、人形の持ち主も大好きだろうし…。そんなミラクル人形が可愛いです。
作中のミラクル人形が主役の話を描いてみたい気さえしています。
『ミラクルな贈り物を、あなたに』
昨日は楽しかったなあ…。
クリスマス当日の朝、私アンジュは目を覚ましてから、そう昨夜のことを思い出していた。
昨日はこの私の部屋で、サイラスがクリスマスのティーパーティーの準備をしてくれていた。
そんな思いがけないプレゼントを、レイナと2人で楽しんで…。
そして守護聖のみんなもクリスマスプレゼントとして、私達それぞれに寄せ書きをしてくれていた。
それをパーティーの後に、私は想い人のユエから受け取ったのだった。
私がユエを希望したものの、クリスマスの深夜に会うのはドキドキしたなあ…。
明るい昼間に、一緒に部屋で遊ぶ時とはなんだか違って…。
──以前私には両想いだった人もいたけど、それは子どもの頃のことだから…。
大人になってからは初めてになる恋は、いろいろなことが刺激的に感じる。
そんな昨夜の幸せな余韻に浸りながら、体を起こしてみると…。
枕元に包みが置いてあることに気が付いた。
「えっ!?いつの間に?」
昨日寝る時には、確かなかったはずだけど…と思いながら、よく見てみる。
すると「アンジュへ」と私の名前が書かれている。
クリスマスの朝とはいえ、こういうふうにプレゼントをもらうのは10年以上ぶりだなあ。
飛空都市にもサンタ・クロースの風習があったりする?
そう思いながら開けてみると、中には…。
「これは……!ユエくんの ぬいぐるみ!?」
それは以前見たことのある、ミラクル ユエくん人形だった。
この人形について聞いた時のことを思い出す───。
先日ゼノの執務室に行ったら、サイラスもいて、2人で私に教えてくれたんだ。
「ミラクル サイラスくんが好評ですので、このデザインでミラクル守護聖くん人形も作ってみました。
制作はゼノ様、そしてフェリクス様にも協力をお願いしています。
今は一緒に過ごしている飛空都市の皆様とも、女王試験が終了すれば、もう会えることはなくなってしまいますからね…。
何か守護聖様にちなんだ記念品が欲しい、とご要望がありましたので、実現させていただきました」
「これは一般用だからね。よくぬいぐるみに使われている素材にしたよ。
フェリクス様が一緒に考えてくれて…、衣装にはこだわってみたんだ。
受け取るみんなが喜んでくれたらいいな」
そう主に制作したらしいゼノの前に、守護聖全員のぬいぐるみが並べられていた。
それに私もすぐに惹きつけられる。
みんなかわいい!
特にこのユエくん人形、私も欲しい!
そう私は想い人のぬいぐるみをじっと見つめる。
でも…、そんなこといえないよね。
私がユエを好きなのは、一応秘密だし。(私は態度に出やすいから、知っている人もいるかもしれないけど)
かといって、平等に全員分ほしいだなんて、とても手間をかけて作っただろうゼノに申し訳ない。
…まあ私は女王か補佐官になれたとしたら、これからも本人に会えるんだしね。諦めよう…。
そう思っていたので、これはかなり嬉しいプレゼントではある。
やっぱりこのユエくん、かわいいなあ…。
そううっとり見つめている私の元に、サイラスがいつも通りに、朝食を持ってきてくれる。
「おはようございます。昨日のクリスマス・イブは楽しんでいただけましたか?」
そんなサイラスに、まず昨日のお礼をいってから、尋ねてみることにした。
「はい。昨日は本当に、夢のように嬉しい時間でした。どうもありがとうございました。
──ところで、あの…これが今朝、私の枕元に置いてあったんです。
サイラスからですか?」
そう私がユエくん人形を見せると、サイラスは不思議そうな顔をする。
「おや。これは私がゼノ様に作っていただいた、ミラクル守護聖くん人形のようでいすが…、私は置いていませんね」
その答えを聞いて、私は他の心当たりを考えてみる。
「そうですか…。!そういえば昨日、レイナもここに来ていたので、確認してみます」
そこで朝食の後に、早速レイナの部屋を訪ねてみた。
するとレイナも慌てた様子だった。
「アンジュ聞いて!今朝不思議なことがあったのよ。
私の部屋に見慣れない包みがあってね…。開けてみたら、ミラン様の人形が入っていたの」
「えっ!?レイナにも!?今朝私のところにも、ユエの人形が置いてあったよ」
私達2人に、同じことが起こっていたとは…。
「ミラン様の人形をいただけたのは嬉しいけれど…、贈り主がわからないと…。
どうしようかしらね…」
そうレイナは複雑そうな顔をする。
レイナはミランを好きということは、本人から聞いている。
だからぬいぐるみをもらったこと自体は、本当に嬉しいんだと思う。それは私もだから…。
私は持ってきたユエくん人形を、ぎゅっと抱きしめる。
それからレイナに提案した。
「サイラスからは違うって聞いたけど、他の人は何か知ってるかもしれない。
一緒に聞きに行ってみようか」
するとレイナは直ぐにうなずいた。
「そうね。このままだとどう扱っていいのか、わからないものね。行きましょう」
そうして2人で守護聖くん人形を持って、出掛けることにした。
まずは森の湖に行ってみる。
そこではミランがいつものように、楽しそうに踊っていた。
でも私達2人に気が付くと踊りをやめて、声をかけてくれる。
「おはよう!レイナ、アンジュ。クリスマス楽しんでる?
レイナ、昨日はステキなイブになったね~。
それにこうして、また直ぐに会えるなんて嬉しいな」
やっぱり昨日レイナも、本命のミランから寄せ書きをもらっていたらしい。
それからミランは、レイナの持っている人形に目を留める。
「あれ?それは僕の人形?」
「はい。今朝私達の部屋に何故かこの人形が置いてあって…。贈り主を探しているんです」
そうレイナは困った顔で答えたけれど、対するミランは笑顔のまま。
「そうなんだー。僕には心当たりはないなー。
──でもレイナが僕の人形を持っていてくれるなら、嬉しいよ。
僕の人形ならきっと、ラッキーパワーを届けられると思うし、是非そばに置いてほしいな」
そう人形のモデルのミランは、このことを喜んでいる。
好きな人からそんな言葉をもらえて、レイナは顔が赤くなりながらも嬉しそう。
いいなあ。
「ねえレイナ、せっかく森の湖で会ったんだから、ちょっとデートしようよ。
僕は今日の仕事まで、もう少し時間があるんだ~」
そうレイナはミランさんに、デートに誘われる。
でも私と一緒に人形の贈り主を探すことになっているので、レイナは迷っている。
「ね、今日はクリスマスっていう特別な日みたいだし、
人形の贈り主は、急いで見つけなきゃいけないわけでもないんでしょ?」
そのミランの言葉に、私は考える。
うーん。確かに、贈り主が誰だかはっきりさせたい気持ちはあるものの…。
急を要するほどのことではないかな…。
「そうだね。しばらくは私1人でも、大丈夫だよ」
そう後押しすると、先にミランから返事がくる。
「アンジュ、ごめんね。ありがとう。
今日僕は10時半から仕事だから、レイナは1時間位でお返しするね」
「──じゃあ少しだけ…、いいかしら。
アンジュはこの後、どこに行く予定なの?」
そうレイナに聞かれて、私は大まかに立てていた計画を話す。
「まずは人がいそうな公園に行ってみて…。
それからみんなの執務室を訪ねてみようかなって。
王立研究院は…それでもわからなかった時で」
研究員の人達の仕事を出来るだけ邪魔したくないから、後にする。
まずは普段から話している、守護聖のみんなに聞いてみよう。
そう考えた私はとりあえず一人で、他の場所を回ってみることにした。
「私も後でそちらに向かうわね」
そう申し訳なさそうにいう、レイナにうなずいて。
公園に移動しながら、さっきのミランとレイナの様子を思い出す。
それにしても、私が口を挟みにくいほど、すっかり2人の世界だったなあ…。
昨夜2人で過ごしたクリスマス・イブの余韻も、あるのかもしれないけど…。
ミランは時々私のことも誘いに来てくれるけど、やっぱり好きな人へは違うんだ…。
そう実感した。
今日の公園はいつもよりも、ずいぶんと賑やか。
そして人々はみんな、守護聖くん人形を持っている。
あ、この前ロレンツォと一緒にいた女性も、ロレンツォくん人形を持ってる。
「シュリさまの人形といっしょに、でかけるんだー」
「カナタ様、ありがとう!
これを持ってたら、カナタ様みたいに、はやく走れるようになるかな」
そう子供たちの嬉しそうな声が聞こえる。
人が集まっているところを見ると、ロレンツォとカナタが守護聖くん人形を配っていた。
2人の近くにはテーブルがあって、9種類の守護聖くん人形が並べられている。
見本の人形は立てられていて、見えやすくなっていた。
残りのぬいぐるみは箱に入っているみたい。
──そういえばあの人形は、飛空都市のみんなにプレゼントするっていってたっけ…。
そのお渡し会を今やってるんだ。
そのことに私は気付いた。
「フフ……、イアンは私を選んでくれるんだね」
「はい!ロレンツォ様を尊敬していますので。
この間も助言していただき、ありがとうございました。
これからも自分の経験を大切にしていきます」
そう研究員のイアンさんは、ロレンツォくん人形を受け取って、嬉しそうに帰っていく。
そこで人が途切れたので、私はロレンツォとカナタのところに行く。
「おはようございます。昨日は寄せ書きをありがとうございました。
今日はみんなに、守護聖くん人形を配っているんですね」
するとロレンツォが詳しく説明してくれる。
「やあ、アンジュ、おはよう。
数日前にサイラスが、バースのクリスマスにあたる日に、この人形をプレゼントするのが
ぴったりなんじゃないかって、いいだしてね。
今日の午前中は、守護聖が交替で人形を手渡しすることになっているんだ。
1人1つずつね。
それで私達が最初の当番というわけだ」
「お姉さん、おはよう。オレは正直まだ眠い…」
早起きが苦手らしいカナタは、そう眠いのがわかる目をしている。
「ところでお嬢さんとは、今日初めて会ったと思うが…」
そうロレンツォが私の持っている、ユエくん人形を不思議そうに見る。
そこで私とレイナの部屋に、この守護聖くん人形が置いてあったことを話す。
すると驚いたことに、カナタまで。
「えっ!?お姉さんのところにも!?オレの枕元にも、今朝プレゼントが置いてあってさ…。
開けたら、ゼノの人形が入ってたんだよね。
オレは最初の当番だったから、とりあえず部屋にそのまま置いてある」
!私達以外にも、同じようなもらい方をした人が、他にもいたとは…。
そう驚いていると、カナタは付け加えた。
「そういえば、ノアさんのところには5つも届いたって、今朝騒いでたな…。
誰の人形かは聞いてないけど」
「ノアのところにも!5人は凄いね…。
本当に一体、誰が置いたんだろう!?」
この話に、ロレンツォは楽しそうな顔をする。
「これは興味深い出来事だね。
犯人…といっていいのか…は、一体何の目的でそんなことをしたのか…。
──お嬢さんは、ユエの人形で良かったのかな?」
ロレンツォは私のユエくん人形を見つめて、そう確認する。
「はい」
私ははっきりうなずいた。
2人から離れると、向こうからユエが来るのが見えた。
私は駆け寄って、昨日のお礼をいう。
「ユエ、おはよう。昨日は一緒に過ごしてくれて…、どうもありがとう」
そんな昨日のことを思い出すと、少しもじもじしてしまう。
「…おお、おはよ。昨日は楽しかったな」
そう私と挨拶した後、ユエは周りを見回す。
「今日はみんな人形をもらって、うれしそうだな。
そんな顔を見たくて、当番よりも早く来ちまった。
──うん?それは──、アンジュは…俺の人形を選んでくれたのか?」
そう私の持っているユエくん人形を見る。
そこで私とレイナとカナタには、部屋に届いていたことを話す。
するとユエは、あっと何かを思い出した顔をした。
「そうなのか…。そういえば今朝、ノアの私室にも置いてあったって言ってたな。
見てみたら俺のもあったから、ノアの近くに置いとけよって言ったんだ」
それから私の腕の中にいる、ユエくん人形をじっと見る。
「この人形、喜んでるな。俺にはわかる」
そういえばユエは、物の気持ちもわかる人だっけ。
「そうなんだ。良かった。
じゃあこの人形は、このまま私が持っていてもいい?」
私がそう確認すると、ユエはうなずいた。
「ああ、いいぜ。もちろん」
「じゃあこの前、ユエからもらったノワールのぬいぐるみと一緒に、3人で寝よう」
私は少し前から、ファンタジーパークのキャラクターのぬいぐるみと一緒に眠っている。
ユエが当てたコインと交換してもらった物で、大事にしているんだ。
ぬいぐるみ大好きだし、好きな人からもらった物でもあるし…。
私がそういうと、ユエは少し戸惑っているような反応をする。
「おお…、そうなのか…?そういえばこの前、そんなこと言ってたもんな…」
そこで私はそうしようと考えた理由をいう。
「うん。子どもの時からずっと、寝るときはぬいぐるみと一緒だったし…、
怖い夢を見ても、ユエの人形を見たら安心できると思うから、また眠れる気がする」
その話にユエは納得してくれた。
「そうだな…。ユエ様の人形だから、そばでお前を見守れるはずだぜ。
──でも人形相手だけじゃなくて、ちゃんと俺の執務室にも来いよ」
「うん」
そう本人の許可をもらえて安心した。
そんな時に、この人形の製作者であるゼノが、ロレンツォと話をしているのが聞こえてきた。
「さすがロレンツォ様の人形は大人気ですね」
私はユエにお辞儀をしてから、ゼノに昨日のお礼を言おうと思って駆け寄る。
「ゼノ、おはよう。
昨日私がもらった寄せ書きって、ゼノのアイディアなんだよね?
みんなからのメッセージが凄く嬉しかったから、部屋に飾ろうと思ってるんだ。
本当にありがとう」
するとゼノも笑顔で答えてくれる。
「おはよう。そんなに喜んでもらえたんなら良かったよ。
──君はユエ様の人形にしたの?」
それから私の持っている人形を見つめる。
「あ、うん、そうなんだけど…、これは部屋に届いたものなの」
私の希望通りの物ではあるので、そういう答え方をする。
それから詳しく説明すると、ゼノは目を丸くした。
「えっ!?君も?
俺の部屋にも今朝、ラッピングされたカナタとノア様の人形があったんだよね…。
俺が作った物で間違いないと思うけど、誰が置いたのか不思議だなぁって…。
──でもせっかくだから、このまま私室に置こうと思うよ」
その話にカナタが大きく反応した。
「ゼノも!?オレも今朝、ゼノの人形をもらったよ!」
「ええ!?カナタも?じゃあ俺たち、お互いの人形をもらったんだ…」
そう気付いたゼノに、カナタはこう伝える。
「──なんだかわかんないけど、オレはバースのことを思い出して寂しくなる時がある
から、もらったのが友達のゼノの人形で良かったと思う」
カナタはゼノと一番仲がいいもんね。
「カナタ…。俺もカナタの人形で良かったよ。
俺の人形を喜んでくれる人が1人でもいて、良かったな…」
そういうゼノの横で、ロレンツォと話していた女の子が大きな声を上げた。
「えーっ!?このお人形はゼノさまが作ったの?すごい!
わたしはゼノさまのがいいな!」
その言葉を聞いて、ゼノが確認する。
「えっ!?1人1個だよ?本当に俺でいいの?」
女の子はしっかりとうなずいた。
「うん!わたしはゼノさまみたいに、いろんな物を上手に作れるようになりたいから」
なるほど。力を与えてくれる守護聖の人形だから、確かにそういうご利益もありそうだよね…と、私は納得する。
「そっか…。ありがとう。
作り続けていれば、君もどんどん上手くなるよ。俺も応援してるから」
そうゼノは女の子を励まして、手を振りながら見送る。
そんな時にゼノの後ろから、男の子が話しかける。
「ねえ、ゼノさま。この前ピーちゃんのおはかを、いっしょに作ってくれてありがとう」
その声に振り返ったゼノは目を丸くする。
「君はあの時の!?君も俺の人形を?」
そう男の子は、もうゼノの人形を持っていた。
「うん。あの時ゼノさまのおかげで、かなしい気持ちが少しへったんだ。
だからゼノさまのにしたよ」
そう聞いたゼノは感動しているみたいだった。
その男の子は、私も知ってる。
男の子に小鳥を生き返らせてほしいってお願いされたそうで、最初ゼノは困っていたけど…。
あの後うまくいっていたんだ。本当に良かったな。
そんなやりとりを見ていた私も、心が温かくなった。
子ども達が去ったあと、ゼノはしみじみつぶやく。
「そっか。俺の人形を欲しいと思ってくれてる人も、ちゃんといるんだ。
フェリクス様の言う通り、数を増やしてよかったな」
「フェリクスが、そういうアドバイスを?
そういえばフェリクスも一緒に、この守護聖くん人形を作ってくれたんだよね」
私がそのことを思い出していると、ゼノはうなずく。
「そう!この人形はね、デザインはサイラスがしたんだけど…。
それを一般用のぬいぐるみにするにあたって、フェリクス様も一緒に考えてくれたんだ
よ。デザインの修正や、素材選びなんかをね」
それからゼノは、私の持っている人形を見て教えてくれる。
「ユエ様だと…ブローチだけは金色にしたらいいんじゃないかって提案されたのも、
フェリクス様だよ」
そういわれて見ると、ユエくん人形の中で神鳥のブローチだけは特別に、少しキラキラして目立っている。
「そうなんだ。これキレイだよね」
その話を聞いて、それまで飛空都市の人と話していたユエも反応する。
「おっ。そうなのか?さすがフェリクス。俺もこの部分、気に入ってるんだよなー。
後でお礼いっとかなくちゃな」
「はい、ぜひ」
そう喜ぶユエに答えた後、ゼノは続けて説明してくれる。
「みんなの記念品になるなら、ちゃんとした物を作りたい。
縫うのはゼノに任せたほうがいいと思うけど、他にできることがあれば……って、
フェリクス様はおっしゃって下さってね──。
小さなパーツを貼ったりするのは、フェリクス様がやって下さったんだ。
生地に印刷するだけじゃなくて、目立たせた方がいい部分もあるんじゃないかって」
そう聞いてよく見てみると、確かにアクセサリーとかがいくつか貼ってある。
「そうなんだ。2人で凄く丁寧に作ってくれた人形なんだね。
そう聞いたら、ますます大切にしなくちゃって思うよ」
感心した私がそう答えると、ゼノはうなずいた。
「うん。そうしてくれると、俺たちも嬉しいな。
──それでね、それぞれ何個ずつ作るか考えた時に──。
『ロレンツォ様とヴァージル様は、特に人気って噂だから、多めに作った方がいいかなー』
そう俺が作る人形の数を、紙に書いていたら…。
『これゼノのだけ少なすぎるだろ。もっと作れよ。
ゼノの人形を欲しがる人に行き渡らなかったら、悲しませることになるだろう』
そうフェリクス様がおっしゃって下さったんだー。
それで俺のをいくらか増やしたんだけど──。
……うん。俺の人形、思ってたよりも減ってるし、フェリクス様のおっしゃる通りにして
良かったな」
そうゼノは、箱の中に入っている自分の人形を見ながら、笑顔になった。
そんな想いのこもった守護聖くん人形の話を聞いた後、私は聖殿に向かう。
人形をたくさんもらったという、ノアの話も聞きたくて。
その途中の道でフェリクスと会った。
「おはよう、アンジュ。あんたはその人形をもらってきたのか」
挨拶をした後、他の人にも説明したように、今朝私の部屋に置いてあったことを話す。
「へぇ。守護聖にも何人かそんなことがあったようだけど、女王候補達もなのか」
そう驚いた顔をした後、今度は少し嬉しそうな顔になって教えてくれる。
「──あんたと前に公園で話した時にも近くにいた職員がさ、僕の人形を持ってたんだ。
小さな子どもも…。
僕は顔ばかりほめられることが多いのが気になってた。
だからみんな同じ顔の人形でも、僕を選んでくれるんだな…って、少しうれしかったよ」
その話に、私も一緒に嬉しくなる。
うん、フェリクスの良いところは、もっと他にもいろいろある。
「この人形も、ゼノとフェリクスがこだわって作ってくれたって、さっき聞いたよ」
「うん、そう。気に入った?」
「うん、とっても。大切にします!」
私がそう笑顔で答えると、フェリクスはいつもより声に力を込めていった。
「──それじゃあ僕も、人形を渡しに行くか」