ミラクルな贈り物を、あなたに
『ミラクルな贈り物を、あなたに』
昨日は楽しかったなあ…。
クリスマス当日の朝、私アンジュは目を覚ましてから、そう昨夜のことを思い出していた。
昨日はこの私の部屋で、サイラスがクリスマスのティーパーティーの準備をしてくれていた。
そんな思いがけないプレゼントを、レイナと2人で楽しんで…。
そして守護聖のみんなもクリスマスプレゼントとして、私達それぞれに寄せ書きをしてくれていた。
それをパーティーの後に、私は想い人のユエから受け取ったのだった。
私がユエを希望したものの、クリスマスの深夜に会うのはドキドキしたなあ…。
明るい昼間に、一緒に部屋で遊ぶ時とはなんだか違って…。
──以前私には両想いだった人もいたけど、それは子どもの頃のことだから…。
大人になってからは初めてになる恋は、いろいろなことが刺激的に感じる。
そんな昨夜の幸せな余韻に浸りながら、体を起こしてみると…。
枕元に包みが置いてあることに気が付いた。
「えっ!?いつの間に?」
昨日寝る時には、確かなかったはずだけど…と思いながら、よく見てみる。
すると「アンジュへ」と私の名前が書かれている。
クリスマスの朝とはいえ、こういうふうにプレゼントをもらうのは10年以上ぶりだなあ。
飛空都市にもサンタ・クロースの風習があったりする?
そう思いながら開けてみると、中には…。
「これは……!ユエくんの ぬいぐるみ!?」
それは以前見たことのある、ミラクル ユエくん人形だった。
この人形について聞いた時のことを思い出す───。
先日ゼノの執務室に行ったら、サイラスもいて、2人で私に教えてくれたんだ。
「ミラクル サイラスくんが好評ですので、このデザインでミラクル守護聖くん人形も作ってみました。
制作はゼノ様、そしてフェリクス様にも協力をお願いしています。
今は一緒に過ごしている飛空都市の皆様とも、女王試験が終了すれば、もう会えることはなくなってしまいますからね…。
何か守護聖様にちなんだ記念品が欲しい、とご要望がありましたので、実現させていただきました」
「これは一般用だからね。よくぬいぐるみに使われている素材にしたよ。
フェリクス様が一緒に考えてくれて…、衣装にはこだわってみたんだ。
受け取るみんなが喜んでくれたらいいな」
そう主に制作したらしいゼノの前に、守護聖全員のぬいぐるみが並べられていた。
それに私もすぐに惹きつけられる。
みんなかわいい!
特にこのユエくん人形、私も欲しい!
そう私は想い人のぬいぐるみをじっと見つめる。
でも…、そんなこといえないよね。
私がユエを好きなのは、一応秘密だし。(私は態度に出やすいから、知っている人もいるかもしれないけど)
かといって、平等に全員分ほしいだなんて、とても手間をかけて作っただろうゼノに申し訳ない。
…まあ私は女王か補佐官になれたとしたら、これからも本人に会えるんだしね。諦めよう…。
そう思っていたので、これはかなり嬉しいプレゼントではある。
やっぱりこのユエくん、かわいいなあ…。
そううっとり見つめている私の元に、サイラスがいつも通りに、朝食を持ってきてくれる。
「おはようございます。昨日のクリスマス・イブは楽しんでいただけましたか?」
そんなサイラスに、まず昨日のお礼をいってから、尋ねてみることにした。
「はい。昨日は本当に、夢のように嬉しい時間でした。どうもありがとうございました。
──ところで、あの…これが今朝、私の枕元に置いてあったんです。
サイラスからですか?」
そう私がユエくん人形を見せると、サイラスは不思議そうな顔をする。
「おや。これは私がゼノ様に作っていただいた、ミラクル守護聖くん人形のようでいすが…、私は置いていませんね」
その答えを聞いて、私は他の心当たりを考えてみる。
「そうですか…。!そういえば昨日、レイナもここに来ていたので、確認してみます」
そこで朝食の後に、早速レイナの部屋を訪ねてみた。
するとレイナも慌てた様子だった。
「アンジュ聞いて!今朝不思議なことがあったのよ。
私の部屋に見慣れない包みがあってね…。開けてみたら、ミラン様の人形が入っていたの」
「えっ!?レイナにも!?今朝私のところにも、ユエの人形が置いてあったよ」
私達2人に、同じことが起こっていたとは…。
「ミラン様の人形をいただけたのは嬉しいけれど…、贈り主がわからないと…。
どうしようかしらね…」
そうレイナは複雑そうな顔をする。
レイナはミランを好きということは、本人から聞いている。
だからぬいぐるみをもらったこと自体は、本当に嬉しいんだと思う。それは私もだから…。
私は持ってきたユエくん人形を、ぎゅっと抱きしめる。
それからレイナに提案した。
「サイラスからは違うって聞いたけど、他の人は何か知ってるかもしれない。
一緒に聞きに行ってみようか」
するとレイナは直ぐにうなずいた。
「そうね。このままだとどう扱っていいのか、わからないものね。行きましょう」
そうして2人で守護聖くん人形を持って、出掛けることにした。
まずは森の湖に行ってみる。
そこではミランがいつものように、楽しそうに踊っていた。
でも私達2人に気が付くと踊りをやめて、声をかけてくれる。
「おはよう!レイナ、アンジュ。クリスマス楽しんでる?
レイナ、昨日はステキなイブになったね~。
それにこうして、また直ぐに会えるなんて嬉しいな」
やっぱり昨日レイナも、本命のミランから寄せ書きをもらっていたらしい。
それからミランは、レイナの持っている人形に目を留める。
「あれ?それは僕の人形?」
「はい。今朝私達の部屋に何故かこの人形が置いてあって…。贈り主を探しているんです」
そうレイナは困った顔で答えたけれど、対するミランは笑顔のまま。
「そうなんだー。僕には心当たりはないなー。
──でもレイナが僕の人形を持っていてくれるなら、嬉しいよ。
僕の人形ならきっと、ラッキーパワーを届けられると思うし、是非そばに置いてほしいな」
そう人形のモデルのミランは、このことを喜んでいる。
好きな人からそんな言葉をもらえて、レイナは顔が赤くなりながらも嬉しそう。
いいなあ。
「ねえレイナ、せっかく森の湖で会ったんだから、ちょっとデートしようよ。
僕は今日の仕事まで、もう少し時間があるんだ~」
そうレイナはミランさんに、デートに誘われる。
でも私と一緒に人形の贈り主を探すことになっているので、レイナは迷っている。
「ね、今日はクリスマスっていう特別な日みたいだし、
人形の贈り主は、急いで見つけなきゃいけないわけでもないんでしょ?」
そのミランの言葉に、私は考える。
うーん。確かに、贈り主が誰だかはっきりさせたい気持ちはあるものの…。
急を要するほどのことではないかな…。
「そうだね。しばらくは私1人でも、大丈夫だよ」
そう後押しすると、先にミランから返事がくる。
「アンジュ、ごめんね。ありがとう。
今日僕は10時半から仕事だから、レイナは1時間位でお返しするね」
「──じゃあ少しだけ…、いいかしら。
アンジュはこの後、どこに行く予定なの?」
そうレイナに聞かれて、私は大まかに立てていた計画を話す。
「まずは人がいそうな公園に行ってみて…。
それからみんなの執務室を訪ねてみようかなって。
王立研究院は…それでもわからなかった時で」
研究員の人達の仕事を出来るだけ邪魔したくないから、後にする。
まずは普段から話している、守護聖のみんなに聞いてみよう。
そう考えた私はとりあえず一人で、他の場所を回ってみることにした。
「私も後でそちらに向かうわね」
そう申し訳なさそうにいう、レイナにうなずいて。
公園に移動しながら、さっきのミランとレイナの様子を思い出す。
それにしても、私が口を挟みにくいほど、すっかり2人の世界だったなあ…。
昨夜2人で過ごしたクリスマス・イブの余韻も、あるのかもしれないけど…。
ミランは時々私のことも誘いに来てくれるけど、やっぱり好きな人へは違うんだ…。
そう実感した。
今日の公園はいつもよりも、ずいぶんと賑やか。
そして人々はみんな、守護聖くん人形を持っている。
あ、この前ロレンツォと一緒にいた女性も、ロレンツォくん人形を持ってる。
「シュリさまの人形といっしょに、でかけるんだー」
「カナタ様、ありがとう!
これを持ってたら、カナタ様みたいに、はやく走れるようになるかな」
そう子供たちの嬉しそうな声が聞こえる。
人が集まっているところを見ると、ロレンツォとカナタが守護聖くん人形を配っていた。
2人の近くにはテーブルがあって、9種類の守護聖くん人形が並べられている。
見本の人形は立てられていて、見えやすくなっていた。
残りのぬいぐるみは箱に入っているみたい。
──そういえばあの人形は、飛空都市のみんなにプレゼントするっていってたっけ…。
そのお渡し会を今やってるんだ。
そのことに私は気付いた。
「フフ……、イアンは私を選んでくれるんだね」
「はい!ロレンツォ様を尊敬していますので。
この間も助言していただき、ありがとうございました。
これからも自分の経験を大切にしていきます」
そう研究員のイアンさんは、ロレンツォくん人形を受け取って、嬉しそうに帰っていく。
そこで人が途切れたので、私はロレンツォとカナタのところに行く。
「おはようございます。昨日は寄せ書きをありがとうございました。
今日はみんなに、守護聖くん人形を配っているんですね」
するとロレンツォが詳しく説明してくれる。
「やあ、アンジュ、おはよう。
数日前にサイラスが、バースのクリスマスにあたる日に、この人形をプレゼントするのが
ぴったりなんじゃないかって、いいだしてね。
今日の午前中は、守護聖が交替で人形を手渡しすることになっているんだ。
1人1つずつね。
それで私達が最初の当番というわけだ」
「お姉さん、おはよう。オレは正直まだ眠い…」
早起きが苦手らしいカナタは、そう眠いのがわかる目をしている。
「ところでお嬢さんとは、今日初めて会ったと思うが…」
そうロレンツォが私の持っている、ユエくん人形を不思議そうに見る。
そこで私とレイナの部屋に、この守護聖くん人形が置いてあったことを話す。
すると驚いたことに、カナタまで。
「えっ!?お姉さんのところにも!?オレの枕元にも、今朝プレゼントが置いてあってさ…。
開けたら、ゼノの人形が入ってたんだよね。
オレは最初の当番だったから、とりあえず部屋にそのまま置いてある」
!私達以外にも、同じようなもらい方をした人が、他にもいたとは…。
そう驚いていると、カナタは付け加えた。
「そういえば、ノアさんのところには5つも届いたって、今朝騒いでたな…。
誰の人形かは聞いてないけど」
「ノアのところにも!5人は凄いね…。
本当に一体、誰が置いたんだろう!?」
この話に、ロレンツォは楽しそうな顔をする。
「これは興味深い出来事だね。
犯人…といっていいのか…は、一体何の目的でそんなことをしたのか…。
──お嬢さんは、ユエの人形で良かったのかな?」
ロレンツォは私のユエくん人形を見つめて、そう確認する。
「はい」
私ははっきりうなずいた。
2人から離れると、向こうからユエが来るのが見えた。
私は駆け寄って、昨日のお礼をいう。
「ユエ、おはよう。昨日は一緒に過ごしてくれて…、どうもありがとう」
そんな昨日のことを思い出すと、少しもじもじしてしまう。
「…おお、おはよ。昨日は楽しかったな」
そう私と挨拶した後、ユエは周りを見回す。
「今日はみんな人形をもらって、うれしそうだな。
そんな顔を見たくて、当番よりも早く来ちまった。
──うん?それは──、アンジュは…俺の人形を選んでくれたのか?」
そう私の持っているユエくん人形を見る。
そこで私とレイナとカナタには、部屋に届いていたことを話す。
するとユエは、あっと何かを思い出した顔をした。
「そうなのか…。そういえば今朝、ノアの私室にも置いてあったって言ってたな。
見てみたら俺のもあったから、ノアの近くに置いとけよって言ったんだ」
それから私の腕の中にいる、ユエくん人形をじっと見る。
「この人形、喜んでるな。俺にはわかる」
そういえばユエは、物の気持ちもわかる人だっけ。
「そうなんだ。良かった。
じゃあこの人形は、このまま私が持っていてもいい?」
私がそう確認すると、ユエはうなずいた。
「ああ、いいぜ。もちろん」
「じゃあこの前、ユエからもらったノワールのぬいぐるみと一緒に、3人で寝よう」
私は少し前から、ファンタジーパークのキャラクターのぬいぐるみと一緒に眠っている。
ユエが当てたコインと交換してもらった物で、大事にしているんだ。
ぬいぐるみ大好きだし、好きな人からもらった物でもあるし…。
私がそういうと、ユエは少し戸惑っているような反応をする。
「おお…、そうなのか…?そういえばこの前、そんなこと言ってたもんな…」
そこで私はそうしようと考えた理由をいう。
「うん。子どもの時からずっと、寝るときはぬいぐるみと一緒だったし…、
怖い夢を見ても、ユエの人形を見たら安心できると思うから、また眠れる気がする」
その話にユエは納得してくれた。
「そうだな…。ユエ様の人形だから、そばでお前を見守れるはずだぜ。
──でも人形相手だけじゃなくて、ちゃんと俺の執務室にも来いよ」
「うん」
そう本人の許可をもらえて安心した。
昨日は楽しかったなあ…。
クリスマス当日の朝、私アンジュは目を覚ましてから、そう昨夜のことを思い出していた。
昨日はこの私の部屋で、サイラスがクリスマスのティーパーティーの準備をしてくれていた。
そんな思いがけないプレゼントを、レイナと2人で楽しんで…。
そして守護聖のみんなもクリスマスプレゼントとして、私達それぞれに寄せ書きをしてくれていた。
それをパーティーの後に、私は想い人のユエから受け取ったのだった。
私がユエを希望したものの、クリスマスの深夜に会うのはドキドキしたなあ…。
明るい昼間に、一緒に部屋で遊ぶ時とはなんだか違って…。
──以前私には両想いだった人もいたけど、それは子どもの頃のことだから…。
大人になってからは初めてになる恋は、いろいろなことが刺激的に感じる。
そんな昨夜の幸せな余韻に浸りながら、体を起こしてみると…。
枕元に包みが置いてあることに気が付いた。
「えっ!?いつの間に?」
昨日寝る時には、確かなかったはずだけど…と思いながら、よく見てみる。
すると「アンジュへ」と私の名前が書かれている。
クリスマスの朝とはいえ、こういうふうにプレゼントをもらうのは10年以上ぶりだなあ。
飛空都市にもサンタ・クロースの風習があったりする?
そう思いながら開けてみると、中には…。
「これは……!ユエくんの ぬいぐるみ!?」
それは以前見たことのある、ミラクル ユエくん人形だった。
この人形について聞いた時のことを思い出す───。
先日ゼノの執務室に行ったら、サイラスもいて、2人で私に教えてくれたんだ。
「ミラクル サイラスくんが好評ですので、このデザインでミラクル守護聖くん人形も作ってみました。
制作はゼノ様、そしてフェリクス様にも協力をお願いしています。
今は一緒に過ごしている飛空都市の皆様とも、女王試験が終了すれば、もう会えることはなくなってしまいますからね…。
何か守護聖様にちなんだ記念品が欲しい、とご要望がありましたので、実現させていただきました」
「これは一般用だからね。よくぬいぐるみに使われている素材にしたよ。
フェリクス様が一緒に考えてくれて…、衣装にはこだわってみたんだ。
受け取るみんなが喜んでくれたらいいな」
そう主に制作したらしいゼノの前に、守護聖全員のぬいぐるみが並べられていた。
それに私もすぐに惹きつけられる。
みんなかわいい!
特にこのユエくん人形、私も欲しい!
そう私は想い人のぬいぐるみをじっと見つめる。
でも…、そんなこといえないよね。
私がユエを好きなのは、一応秘密だし。(私は態度に出やすいから、知っている人もいるかもしれないけど)
かといって、平等に全員分ほしいだなんて、とても手間をかけて作っただろうゼノに申し訳ない。
…まあ私は女王か補佐官になれたとしたら、これからも本人に会えるんだしね。諦めよう…。
そう思っていたので、これはかなり嬉しいプレゼントではある。
やっぱりこのユエくん、かわいいなあ…。
そううっとり見つめている私の元に、サイラスがいつも通りに、朝食を持ってきてくれる。
「おはようございます。昨日のクリスマス・イブは楽しんでいただけましたか?」
そんなサイラスに、まず昨日のお礼をいってから、尋ねてみることにした。
「はい。昨日は本当に、夢のように嬉しい時間でした。どうもありがとうございました。
──ところで、あの…これが今朝、私の枕元に置いてあったんです。
サイラスからですか?」
そう私がユエくん人形を見せると、サイラスは不思議そうな顔をする。
「おや。これは私がゼノ様に作っていただいた、ミラクル守護聖くん人形のようでいすが…、私は置いていませんね」
その答えを聞いて、私は他の心当たりを考えてみる。
「そうですか…。!そういえば昨日、レイナもここに来ていたので、確認してみます」
そこで朝食の後に、早速レイナの部屋を訪ねてみた。
するとレイナも慌てた様子だった。
「アンジュ聞いて!今朝不思議なことがあったのよ。
私の部屋に見慣れない包みがあってね…。開けてみたら、ミラン様の人形が入っていたの」
「えっ!?レイナにも!?今朝私のところにも、ユエの人形が置いてあったよ」
私達2人に、同じことが起こっていたとは…。
「ミラン様の人形をいただけたのは嬉しいけれど…、贈り主がわからないと…。
どうしようかしらね…」
そうレイナは複雑そうな顔をする。
レイナはミランを好きということは、本人から聞いている。
だからぬいぐるみをもらったこと自体は、本当に嬉しいんだと思う。それは私もだから…。
私は持ってきたユエくん人形を、ぎゅっと抱きしめる。
それからレイナに提案した。
「サイラスからは違うって聞いたけど、他の人は何か知ってるかもしれない。
一緒に聞きに行ってみようか」
するとレイナは直ぐにうなずいた。
「そうね。このままだとどう扱っていいのか、わからないものね。行きましょう」
そうして2人で守護聖くん人形を持って、出掛けることにした。
まずは森の湖に行ってみる。
そこではミランがいつものように、楽しそうに踊っていた。
でも私達2人に気が付くと踊りをやめて、声をかけてくれる。
「おはよう!レイナ、アンジュ。クリスマス楽しんでる?
レイナ、昨日はステキなイブになったね~。
それにこうして、また直ぐに会えるなんて嬉しいな」
やっぱり昨日レイナも、本命のミランから寄せ書きをもらっていたらしい。
それからミランは、レイナの持っている人形に目を留める。
「あれ?それは僕の人形?」
「はい。今朝私達の部屋に何故かこの人形が置いてあって…。贈り主を探しているんです」
そうレイナは困った顔で答えたけれど、対するミランは笑顔のまま。
「そうなんだー。僕には心当たりはないなー。
──でもレイナが僕の人形を持っていてくれるなら、嬉しいよ。
僕の人形ならきっと、ラッキーパワーを届けられると思うし、是非そばに置いてほしいな」
そう人形のモデルのミランは、このことを喜んでいる。
好きな人からそんな言葉をもらえて、レイナは顔が赤くなりながらも嬉しそう。
いいなあ。
「ねえレイナ、せっかく森の湖で会ったんだから、ちょっとデートしようよ。
僕は今日の仕事まで、もう少し時間があるんだ~」
そうレイナはミランさんに、デートに誘われる。
でも私と一緒に人形の贈り主を探すことになっているので、レイナは迷っている。
「ね、今日はクリスマスっていう特別な日みたいだし、
人形の贈り主は、急いで見つけなきゃいけないわけでもないんでしょ?」
そのミランの言葉に、私は考える。
うーん。確かに、贈り主が誰だかはっきりさせたい気持ちはあるものの…。
急を要するほどのことではないかな…。
「そうだね。しばらくは私1人でも、大丈夫だよ」
そう後押しすると、先にミランから返事がくる。
「アンジュ、ごめんね。ありがとう。
今日僕は10時半から仕事だから、レイナは1時間位でお返しするね」
「──じゃあ少しだけ…、いいかしら。
アンジュはこの後、どこに行く予定なの?」
そうレイナに聞かれて、私は大まかに立てていた計画を話す。
「まずは人がいそうな公園に行ってみて…。
それからみんなの執務室を訪ねてみようかなって。
王立研究院は…それでもわからなかった時で」
研究員の人達の仕事を出来るだけ邪魔したくないから、後にする。
まずは普段から話している、守護聖のみんなに聞いてみよう。
そう考えた私はとりあえず一人で、他の場所を回ってみることにした。
「私も後でそちらに向かうわね」
そう申し訳なさそうにいう、レイナにうなずいて。
公園に移動しながら、さっきのミランとレイナの様子を思い出す。
それにしても、私が口を挟みにくいほど、すっかり2人の世界だったなあ…。
昨夜2人で過ごしたクリスマス・イブの余韻も、あるのかもしれないけど…。
ミランは時々私のことも誘いに来てくれるけど、やっぱり好きな人へは違うんだ…。
そう実感した。
今日の公園はいつもよりも、ずいぶんと賑やか。
そして人々はみんな、守護聖くん人形を持っている。
あ、この前ロレンツォと一緒にいた女性も、ロレンツォくん人形を持ってる。
「シュリさまの人形といっしょに、でかけるんだー」
「カナタ様、ありがとう!
これを持ってたら、カナタ様みたいに、はやく走れるようになるかな」
そう子供たちの嬉しそうな声が聞こえる。
人が集まっているところを見ると、ロレンツォとカナタが守護聖くん人形を配っていた。
2人の近くにはテーブルがあって、9種類の守護聖くん人形が並べられている。
見本の人形は立てられていて、見えやすくなっていた。
残りのぬいぐるみは箱に入っているみたい。
──そういえばあの人形は、飛空都市のみんなにプレゼントするっていってたっけ…。
そのお渡し会を今やってるんだ。
そのことに私は気付いた。
「フフ……、イアンは私を選んでくれるんだね」
「はい!ロレンツォ様を尊敬していますので。
この間も助言していただき、ありがとうございました。
これからも自分の経験を大切にしていきます」
そう研究員のイアンさんは、ロレンツォくん人形を受け取って、嬉しそうに帰っていく。
そこで人が途切れたので、私はロレンツォとカナタのところに行く。
「おはようございます。昨日は寄せ書きをありがとうございました。
今日はみんなに、守護聖くん人形を配っているんですね」
するとロレンツォが詳しく説明してくれる。
「やあ、アンジュ、おはよう。
数日前にサイラスが、バースのクリスマスにあたる日に、この人形をプレゼントするのが
ぴったりなんじゃないかって、いいだしてね。
今日の午前中は、守護聖が交替で人形を手渡しすることになっているんだ。
1人1つずつね。
それで私達が最初の当番というわけだ」
「お姉さん、おはよう。オレは正直まだ眠い…」
早起きが苦手らしいカナタは、そう眠いのがわかる目をしている。
「ところでお嬢さんとは、今日初めて会ったと思うが…」
そうロレンツォが私の持っている、ユエくん人形を不思議そうに見る。
そこで私とレイナの部屋に、この守護聖くん人形が置いてあったことを話す。
すると驚いたことに、カナタまで。
「えっ!?お姉さんのところにも!?オレの枕元にも、今朝プレゼントが置いてあってさ…。
開けたら、ゼノの人形が入ってたんだよね。
オレは最初の当番だったから、とりあえず部屋にそのまま置いてある」
!私達以外にも、同じようなもらい方をした人が、他にもいたとは…。
そう驚いていると、カナタは付け加えた。
「そういえば、ノアさんのところには5つも届いたって、今朝騒いでたな…。
誰の人形かは聞いてないけど」
「ノアのところにも!5人は凄いね…。
本当に一体、誰が置いたんだろう!?」
この話に、ロレンツォは楽しそうな顔をする。
「これは興味深い出来事だね。
犯人…といっていいのか…は、一体何の目的でそんなことをしたのか…。
──お嬢さんは、ユエの人形で良かったのかな?」
ロレンツォは私のユエくん人形を見つめて、そう確認する。
「はい」
私ははっきりうなずいた。
2人から離れると、向こうからユエが来るのが見えた。
私は駆け寄って、昨日のお礼をいう。
「ユエ、おはよう。昨日は一緒に過ごしてくれて…、どうもありがとう」
そんな昨日のことを思い出すと、少しもじもじしてしまう。
「…おお、おはよ。昨日は楽しかったな」
そう私と挨拶した後、ユエは周りを見回す。
「今日はみんな人形をもらって、うれしそうだな。
そんな顔を見たくて、当番よりも早く来ちまった。
──うん?それは──、アンジュは…俺の人形を選んでくれたのか?」
そう私の持っているユエくん人形を見る。
そこで私とレイナとカナタには、部屋に届いていたことを話す。
するとユエは、あっと何かを思い出した顔をした。
「そうなのか…。そういえば今朝、ノアの私室にも置いてあったって言ってたな。
見てみたら俺のもあったから、ノアの近くに置いとけよって言ったんだ」
それから私の腕の中にいる、ユエくん人形をじっと見る。
「この人形、喜んでるな。俺にはわかる」
そういえばユエは、物の気持ちもわかる人だっけ。
「そうなんだ。良かった。
じゃあこの人形は、このまま私が持っていてもいい?」
私がそう確認すると、ユエはうなずいた。
「ああ、いいぜ。もちろん」
「じゃあこの前、ユエからもらったノワールのぬいぐるみと一緒に、3人で寝よう」
私は少し前から、ファンタジーパークのキャラクターのぬいぐるみと一緒に眠っている。
ユエが当てたコインと交換してもらった物で、大事にしているんだ。
ぬいぐるみ大好きだし、好きな人からもらった物でもあるし…。
私がそういうと、ユエは少し戸惑っているような反応をする。
「おお…、そうなのか…?そういえばこの前、そんなこと言ってたもんな…」
そこで私はそうしようと考えた理由をいう。
「うん。子どもの時からずっと、寝るときはぬいぐるみと一緒だったし…、
怖い夢を見ても、ユエの人形を見たら安心できると思うから、また眠れる気がする」
その話にユエは納得してくれた。
「そうだな…。ユエ様の人形だから、そばでお前を見守れるはずだぜ。
──でも人形相手だけじゃなくて、ちゃんと俺の執務室にも来いよ」
「うん」
そう本人の許可をもらえて安心した。