魔法の森編

4─魔法の森の木

魔法の森の学校は、明日からです。
これからは、ちょっと自由な時間ができました。
するとつばめくんが張り切って、わたしとタルトちゃんを誘います。
「ねえ、ぼく達の木がどのくらい大きくなったのか、見に行こうよ!」
その言葉にわたしも思い出して、わくわくしてうなずきます。
「そうだね!元気にしてたかなあ?」
わたし達は魔法の森の木を1本ずつ持っています。
さっきいったように、その木はわたし達の髪の毛の魔法も肥料にして育っているんです。
だからわたし達の木っていわれているんだよ。
でも木はわたし達の寿命よりも長い、何千年も生きるものです。
そこで80歳になって魔法の森に来なくなった人の分の木は、その時小学校に上がった子が引き継いでいきます。
だからわたし達は、その木を引き継いで5・6年目です。
時間が経つほど自分の魔法が入っているので、気持ちを澄ますとわかるようになります。
わたし達くらいではまだまだなので、目印にリボンを巻いて間違えないようにしてあります。
木はわたし達の歳ごとにまとまっているので、わたし達は3人ともすぐ近くです。
「じゃあ、早く行きましょう!」
タルトちゃんの掛け声で、わたし達はすぐにその方向へ駆けていきました。
木の根っことかで転んだりしないように、気をつけながらね。
するとちゃんと見覚えのある場所に着きました。
わたし達の木が立派に立っています。
わたしのリボンは、黄色と白のチェック柄です。
1年ぶりに会えたのがうれしくって、わたしは幹に抱きつきます。
「わたしの木だ」
ここまで近くに寄るとわたしの魔法が伝わってきて、安心した気持ちになります。
この木に住んでいる生き物の声や、風で葉っぱが揺れる音も聴こえるよ。
わたしの木は、両手を回しても少し届かないくらいまで育っています。
それだけ前に受け持っていた、たくさんの人の魔法も伝わってくるよ。
わたし達の持っている魔法の成分は人によって違うものなので、普通は混ざることってありません。
それがこういうふうにキレイに1つになるって、めずらしいことなんです。
その力を感じてみると、なんとも不思議な気分になります。
そんなわたしの後ろから、タルトちゃんの声が聞こえてきます。
「私の木も順調。
私のは小さいから、成長がよくわかるわ」
そういう通りタルトちゃんの木は、受け持って2人目という新しい木なんです。
毎年新しい枝を広げて、すくすくと育っています。
タルトちゃんは枝にあいさつをしてから、わたしとつばめくんを見ました。
「つばめくんとみかんちゃんの木は、大きいのに成長いいよね。
きっと2人とも、魔法の力が強い黄色なのね」
黄色?
話がわからなくて、わたしとつばめくんは首をかしげます。
「黄色ってなあに?」
つばめくんが聞くと、タルトちゃんはしっかり説明してくれます。
「私達魔法使いが生まれた時にもらった、魔法の種があるでしょ。
種が成る花には赤、青、黄色の3色があるの。
それで基本の性格と、魔法の力の限界が決まるのよ」
それから1本指を立てて、ちょっと得意そうに教えてくれます。
「私の持ってる赤はね、自分の意見をしっかり持つの。
そしてそれを貫ける、情熱的な人になるんだって」
その言葉にわたしとつばめくんは納得します。
うんうん。タルトちゃんはその通り、自分の目標をしっかりと決めてがんばっているもんね。
そんなわたし達の顔を見て、タルトちゃん自身もうなずきます。
「私も当たってると思うわー。
それから、みかんちゃんのお母さんもこの赤よ」
そうなんだあ。
お母さんも周りのみんなよりも早く色々なことに取り組んでいる、凄い人だよね。
そう2人の名前を聞いて、赤の人って本当に立派だなあと感心しました。
でもタルトちゃんは困った顔になって付け加えます。
「なぜか私達の赤が、1番魔法の力が強くならないのよねー。なぜかしら?」
そう首をひねります。
それからタルトちゃんは、わたしを見て付け加えました。
「でもみかんちゃんのお母さんは、たくさんの魔法を使えるように勉強しているわよね。
だからみんなから尊敬されているの。
私ももっとがんばれるって、力づけられるわ」
そうタルトちゃんは、同じ色のお母さんをほめてくれました。
わたしもそんなお母さんに憧れています。
それからタルトちゃんはこっそり聞きました。
「でも夢魔法は、みかんちゃんの方が得意だったりするでしょ?」
そういわれると思い当たります。
夢魔法で力がたくさんいるものは、わたしが頼まれたりしていました。
そう納得しているわたしを見て、タルトちゃんはいいました。
「やっぱり。みかんちゃんの方が力が強いっていうことは、この色じゃないわけね」
それから他の色の説明をしてくれます。
「次に強い青はね、落ち着いて物事を考えられる、冷静な人になるの。
そして1番強い黄色は考え方が明るくて、人間好きになるの。
この3種類の魔法使いが同じ数だけいて、世界のバランスを取っているのよ」
そのお話に、わたしとつばめくんはほーっとため息をつきました。
「そういうお話、初めて聞いたね」
「魔法使いにも種類があったんだあ」
つばめくんとわたしは、顔を見合わせてそうつぶやきました。
それからわたしは、そんな凄いことを知っているタルトちゃんにたずねます。
「タルトちゃんは、いつからそういうことを知ってるの?」
するとタルトちゃんは懐かしい名前を出しました。
「ここで魔法の薬の作り方を覚えてからよ。
家に帰ってからは研究室で薬を作るんだけど、そこにいるケパサの色でわかるの」
ケパサ!? ケッパー!
わたしは前に研究室に入ったことがあるので、その時のことを思い出しました。
でもそれはないしょのことなので、声には出しません。
「ぼくは何色かなあ?」
そうつばめくんは、斜め上を見上げて考え始めます。
するとタルトちゃんは迷わずにいいました。
「つばめくんは間違いなく黄色だと思うわ。
みかんちゃんもね。
2人とも、人間に魔法を使ってあげすぎだもの」
タルトちゃんは、ちょっと不満そうです。
そうため息をつかれても、つばめくんはにっこり返します。
「だってみんなが喜んでくれるから。
ぼくも一緒にうれしくなるんだもん」
そのつばめくんの言葉に、わたしも大賛成です。
わたしもいつもそんな気持ちで魔法を使っているよ。
こう思うわたしとつばめくんは、やっぱり黄色なのかな?
そう2人のお話を聞きながら、わたしは家のケッパーのことを思い出していました。
前にわたしが会った時は、ケッパーは真っ白でした。
あれは黄色じゃなかったよね?うん。
不思議に思って、タルトちゃんに聞いてみます。
「魔法使いが会っても、そのケパサの色が出ないってことはあるのかな?
例えば小さいとだめとか」
わたしはまだ研究室を使えるようになっていません。
だから変わらなかったのかな?
でもタルトちゃんは首を振りました。
「ううん。魔法使いなら、赤ちゃんにでも反応するって聞いてるけど。
人間だと何も変わらないけどね。
親は子どもを受け取った時に、その子の色を教えてもらうんだって」
じゃあお母さんはもう、ちゃんと知っているんだあ。
そう聞いて、わたしはまじめに考え込みます。
今までこうやって魔法を使えているわたしが、魔法使いじゃないってことはないはずです。
じゃあどうして、ケッパーは真っ白のままだったのかな??
そうわたしが困っている間も、お話は続きます。
タルトちゃんは真面目な顔になりました。
「でも小さいうちは、その子のためにいわないものだそうよ。
魔法を始める時に、自分の力の限界なんて知らない方がいいものね。
自分の気持ちがしっかり固まってからなら、受け入れられるけど」
そうタルトちゃんはちょっと寂しそうです。
タルトちゃんは1番力が弱いっていわれている、赤なんだもんね。
それは目標を決めてがんばっているタルトちゃんにとっては、残念なことだと思います。
そしてお母さんにとっても。
でもそんな2人はがんばりやさんとして、みんなから尊敬されています。
そう大事なのは力の強さじゃなくて、その力をどう使うかだよね。
「そうなんだ」
今度研究室に行く時に、わたしの色について、お母さんに聞いてみようと思いました。
それはみんなにとっても、魔法のお薬が作れるようになってからわかることなんだもんね。
とっても気になるけど、それまでは忘れていることにしました。
「西の方が夕焼け空になってきちゃったね」
そうつばめくんが気が付くと、タルトちゃんがうながしました。
「そろそろ、みんなのところに戻りましょう」

そう戻ったら、もう案内が始まっていました。
これから泊めてもらうお部屋を教えてもらうんだよ。
家族ごとなので、急いでお母さんとテトリちゃんのところに行きます。
お母さんはちょっと髪の毛を伸ばしていました。
髪のまとめ方はいつもと同じで、わたしよりも大きめの緑のリボンを付けてもらっています。
だからいつもよりも若く見えるよ。
そのお母さんにだっこされたテトリちゃんがたずねます。
「みかんちゃん、どこかに行っていたんですか?」
わたしはうなずきます。
「うん。つばめくんとタルトちゃんとね、わたし達の木にごあいさつしてきたの。
ここにいる魔法使いみんなが、この森に自分の木を持っているんだよ。
明日テトリちゃんにも、わたしの木を紹介するね」
そう約束をします。
その時に森のおばさんに呼ばれました。
「はい。いちごちゃん、みかんちゃんも輪館(りんかん)です。
ではみなさん、部屋まで案内するので付いてきて下さい」
そう名前を呼ばれた人みんなで、おばさんに付いていきます。
わたし達がこうしてお泊りさせてもらう建物は、秦館(しんかん)と輪館と2つあります。
お隣同士に並んでいて、見た目も中もそっくりな4階建ての建物です。
この建物は、この時期だけここに魔法で建てているそうです。
いつもは空き地なんだって。
こんなにしっかりとした物を毎年建てられるなんて、凄い魔法使いだよね。
輪館に着いたら、1階の人達から案内してもらいます。
わたし達は2階でした。
ドアにははっぱの形のプレートがかかっています。
このプレートはお部屋ごとに形が違っています。
そして真上や真下のお部屋は、同じプレートになっています。
だからプレートの形で、階段から何番目のお部屋かわかるんだよ。
そのすべすべしたはっぱにあいさつしてから、お部屋に入りました。
わたしはお母さんと2人だけなので、1番小さいお部屋です。
でもベットと机が置いてあっても、ちっともせまくは感じません。
ベットは2人用の大きな物が1つ置いてありました。
ここにいる間は、お母さんと同じお布団です。
一緒に眠るのは久しぶりなので、ちょっとドキドキします。
お父さんとお母さんがいるお家はベットが2つあって、片方が2人用になっています。
そして独立して1人の人達は、大きなお部屋に何人か集まって眠るようになっています。
みんなで眠るって、学校のお泊りみたいだよね。
奥に行くほど大きなお部屋になっているので、その部屋は通りの1番向こうにあります。
お部屋に入ってすぐに、お母さんが窓を開けました。
するとわたしの部屋からは、さっき髪の毛を切った建物や、夕焼け色の木が見えます。
もう空もすっかりオレンジ色です。
やわらかい風が吹いてきて、わたし達の髪の毛がゆれました。
「気持ちいいわね」
お母さんの言葉にうなずきながら、わたしは匂いにも気が付きました。
「お部屋の中も、林の香りでいっぱいだね」
風で外からの匂いも入ってきているし、そしてこの建物からも木の匂いがしています。
そういえば木って、こうやって切られても生きているんだよね。
おじいちゃんみたいに自然魔法が使えたら、このお部屋からの声も聴こえるんだね。
そのことをテトリちゃんにもいってみます。
するとテトリちゃんは床の木を見つめて、前足でトントンとあいさつしました。
「はじめまして。これからお世話になるテトリです。
どうぞよろしくお願いします」
そのテトリちゃんの言葉の後に、わたしもお辞儀をします。
それから壁や天井などをぐるっと見回しました。
きっとこのお部屋も、ようこそって思ってくれているよね。


5─魔法使いの夕食会

そうほっと一息をついたら、もうお夕飯の時間です。
外に出たらまだまだ明るいけれど、夕日はもう沈みそうでした。
オレンジ色のまぶしい光の中に、真っ黒な長い影法師が浮かびます。
テトリちゃんと一緒に、弾むように影踏みして行きました。
そう影を楽しみながら、食堂のある建物に向かいます。
このお部屋は、24人も座れる大きなテーブルが3つも並んでいます。
席はもう半分くらい埋まっていました。
お母さんと並んで、まずは今晩のメニューをもらいに行きます。
テトリちゃん達パートナーは、別に集まってご飯をもらうんだよ。
お母さんがテトリちゃんにそれを教えました。
「あそこにガラスで出来たドアがあるでしょ。
テトリ達はね、あの隣のお部屋で食事をするのよ」
そう奥に見えるドアを指差します。
「あの部屋には、いろんなお友達がいっぱいいるよ」
そうわたしもいいます。
元がぜんまいねずみさんや、照る照るぼうずさんもいたなあ。
パートナーって、本当に人それぞれです。
置物だったり、ボールだったり、普通は生き物に見えない子も多いんだよ。
その人が興味のある物が選ばれるからだって。
そうそう、この前はお留守番をしていたから、紹介が遅れました。
おじいちゃんには、作り物のもみの木のミリスくんがいます。
背はわたしのお腹のところまであります。
鉢植えの木だから動くのが大変なので、おじいちゃんが運んであげているよ。
ミリスくんは軽いので、そんなに大変ではないそうです。
もみの木だから、クリスマスの時は主役です。おしゃれにしています。
おばあちゃんは、毛糸で出来たほうき娘さんのエルナちゃんがパートナーです。
大きさは20cmくらい。
毛糸で出来ていて軽いからか、エルナちゃんは飛べるんだよ。
ほうき娘さんとは、スカートの部分がほうきになっています。
でも毛糸なこともあって、そのスカートではお掃除できません。
それでもほうきらしく、とってもきれい好きなんだよ。
お掃除のポイントを教えるのが得意です。
汚れているところがあると教えてくれます。
そんなエルナちゃんがいるので、おばあちゃんのお家はいつもぴかぴかです。
そんな2人もおばあちゃん達と一緒に、もうすぐここに来るんだなあ。
久しぶりに会うのが楽しみです。
まだおばあちゃんの家にいた時は、一緒に暮らしていた家族だもんね。
テトリちゃんは、パートナーの仲間に会うのは初めてです。
わたしがそんなお話をすると、わくわくして駆けていきました。
それを見送って、わたし達は並びます。
真っ白なエプロンと三角巾を着たおばさんが、給食当番のようにお盆に1皿ずつ載せてくれます。
そしてその奥のキッチンでは、お片付けをしている様子が見えました。
席は自由なので、お母さんと真ん中のテーブルに決めます。
席に着く前から美味しそうなスープの匂いがしてきて、楽しみになります。
今晩のメニューはきのこのスープに、木の実の入ったごはん。そしてサラダです。
この林で採れた物がたくさん入っています。
森の人達にはお魚も付くんだけど、わたし達はご飯がメインのおかずにもなります。
お母さんと向かい合わせに座りました。
そう座る時に、斜め前(お母さんの隣)にタルトちゃんを見つけました。
そして同じテーブルにえびさんもいます。
それからつばめくんも来ました。
「みかんちゃん、一緒に食べよう」
わたしはうなずきます。
「うん」
お友達のみんなと近くに座れて、うれしいです。
そこで隣につばめくんの家族が座りました。
隣からつばめくんがたずねます。
「みかんちゃんは、どこのお部屋になったの?」
「輪館の2階の葉っぱのお部屋だよ」
そう答えると、つばめくんはうれしそうにいいました。
「ぼくも輪館!4階のどんぐりのお部屋なんだ」
そう聞いて、前に4階になった時のことを思い出します。
「4階だったら、景色がいいね」
「うん!後で遊びに来てよ」
そう盛り上がります。
するとつばめくんのお母さんに注意されました。
「ほら、つばめくん。早く食べなさい」
そこでわたし達も食べ始めました。
「いただきまーす」
最初にスープを飲みます。
今日のスープは味がしっかりしています。
するとタルトちゃんが教えてくれました。
「魔法の薬にも、よくきのこを入れるのよ。
 薬作りは、材料を採りに行くところから始まるの」
「そうなんだー」
きのこ狩りはしたことがないので、楽しみです。
そしてえびさんが不思議なことを聞きました。
「そのきのこや木の実は、魔法の味がするでしょう?」
そんな意外なお話に、わたしとつばめくんは驚きます。
「えっ?」
「これ、魔法が入ってるの?」
スプーンの上のまあるいきのこを、わたし達はまじまじと見つめます。
するとえびさんはにっこりと説明してくれました。
「お料理に魔法をかけたんじゃないのよ。
このきのこや木の実自体に魔法が宿ってるの。
 だってほら、魔法使いの魔法で育った木に成った物だもの」
「そうかあ」
このきのこ達も魔法も栄養にして、育ったんだね。
そういう物を食べるって、不思議な気分です。
そうきのこを見つめ続けるわたしに、お母さんがいいました。
「そう。夜にここの木の実をたくさん食べることには、意味があるのよ。
 眠っている間に、みんなの魔法を栄養にさせてもらうの。
 それがまた明日、新しい魔法を覚える力になるのよ」
タルトちゃんのお母さんも付け加えます。
「色々な人の魔法が入っているからね。
子どもは大人の深い魔法を、大人は子どものはじける魔法を感じられる貴重な機会ね」
そういわれて味わってみると、なんだか奥から不思議な味がするようです。
色々な物が入っていて、それが渦を巻いているみたい。
そう感覚を研ぎ澄まして、考えます。
そんなお話をしていると、森の人がやって来ました。
名札に緒珠と書いてあります。
「私達が魔女を名乗って魔法を開発してこられたのも、そこにあるんだよ。
 先祖代々、毎日この森の物を食べているからね。
元は普通の人間でも、少しは本当の魔法が通ってるんだ」
その言葉にタルトちゃんがうなずきます。
「なるほど。あれだけの魔法を使えるんだもの。
やっぱりただの人間じゃないわよね」
するとつばめくんがたずねます。
「じゃあこの森の物を食べ続けたら、他の人でも森の人みたいに魔法を使えるようになるんですか?」
その質問を聞いて、わたしも考えます。
魔法を使える人がそうやって増えたら、すごいことです。
仲間が増えるのはうれしいけど、騒ぎになったら大変だよね。
普通の人は魔法の正しい使い方をきちんと知らないから、それをまとめていくのは難しそうです。
そして大事に魔法を受け継いできた森の人にとっては、困ったことだよね。
そうちょっと心配したけれど、緒珠さんは首をひねりました。
「うーん。確かに素質は上がるだろうね。
 でも本当に長い時間をかけないといけないしね。
それにやっぱり、使い方の手順をマスターしないと使えないからね」
そうそんなに心配はないみたいです。
「魔法の料理を食べたから、明日からの勉強大丈夫ね」
そのえびさんの言葉に、わたし達はしっかりうなずきました。
「はい。がんばります!」
そんな時にテトリちゃんが戻ってきました。
テトリちゃんは何だか興奮していました。
そして慌てていいます。
「あの踊る空き缶さんが生きてました!」
そう聞いてわたしは、前におもちゃ売り場で見た、あの空き缶を思い出しました。
サングラスを駆けて、生きているように踊っていたあの空き缶さんを。
わたしとテトリちゃんはその不思議な空き缶さんが気になって、しばらく見ていたんです。
「本当!?あの空き缶さんをパートナーにした人がいたんだね。
 どんなふうだったの?」
「飲むときも、ずっと元気に踊っていました」
どうやら空き缶だから、飲み物だけもらったようです。
その子によって食べる物が違うので、パートナーの子の分は何種類か用意してくれているんだよ。
そんなテトリちゃんを、みんなはまじまじと見つめています。
それで思い出して、わたしはみんなを振り返りました。
「紹介が遅れました。5月の終わりに家に来たテトリちゃんだよ」
「ごあいさつが遅れました。初めまして」
そうテトリちゃんもあいさつをします。
するとみんな、わっと喜びます。
「みかんちゃん家にも来たの。良かったわね」
そうタルトちゃんがいってくれます。
お父さん、お母さんがパートナーを持っている家が多いので、みんな慣れています。
「自分のじゃなくても、家族ができるとうれしいよね」
そのつばめくんの言葉に、お母さんが答えます。
「このテトリは私のじゃなくて、みかんのパートナーなのよ」
その言葉に、みんなは打って変わって驚きます。
「ええ!?いちごさんより早く!?」
そうタルトちゃんは止まります。
「小学生でなんて、すごいわね」
えびさんは目を丸くします。
「みかんちゃん、良かったね」
つばめくんはきらきらとした表情で喜んでくれます。
「うん。わたしが人間のみんなみたいに、家に動物がいたらいいのにって思っていたら、お母さんがくれたの」
そうわたしが説明をすると、タルトちゃんがため息をつきました。
「みかんちゃんのお母さんも甘いわよね。
 まあ、つばめくん家よりはずっといいけど」
そう小さな声でいいます。
そして横目でつばめくんの家族を見ます。
その先ではつばめくんのお母さんが、つばめくんの口の周りを拭いていました。
そうつばめくんのお母さんは、つばめくんのお世話をしすぎるとみんなから評判なのです。
「じゃあテトリちゃんは、みかんちゃんと授業に出るの?」
えびさんが聞くと、お母さんが首を振りました。
「いいえ。双葉クラスにはパートナーを持っている子はいないし、私のクラスに連れて行くわ」
するとつばめくんが残念そうにいいます。
「そうなんだ。じゃあ一緒にいられる時間は少ないんだね」
そんなつばめくんに、テトリちゃんはにっこり笑いました。
「自由な時間に、一緒に遊んでください」
するとつばめくんも明るくなって、うなずきました。
「そうだね。お風呂が終わったら、また会おうね」
そう夕食の後は、みんなでお風呂に入りに行くんです。
それで本当に、今日やることはおしまいです。
その後はタルトちゃんとえびさんときりんくんと、みんなでつばめくんのお部屋に集まりました。
この位の時間になると、少し涼しくなっていました。
窓の外を見てみると、遠くに他の建物の明かりが見えて、いい雰囲気です。
学校のことや魔法の進み具合いなど、いろんなお話を楽しみました。
みんなも魔法使いとしてがんばっているのを聞いて、励みになります。
そしていつもより夜更かしになった9時半頃。
眠くなったので、お開きにしました。
明日からは初めての授業もあるし、本当に楽しみです。


2007年3月~2008年8月制作
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