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燕子花は愛を語る

俺の友達のことを聞きたい?
……何でまたそんなことを?
え、俺のことを知りたいから?
ここの飯も奢ってくれる?
……じゃあ、ちょっとだけ。
実は、俺の級友に同じ顔をしたふたりがいるんだけどさ。
あー、これじゃ分かりづらいか。ええっと片方がもう片方の姿に常に変装しているから同じ顔なんだ。これで伝わったか?
え、ますます混乱してきた?
まあそりゃそうだよな。なんか、慣れちゃったから当たり前のように思ってたけど、そんな話聞かないもんな。でもそういうことなんだよ。
そう、同じ顔で同じ組、何なら長屋の組み分けも一緒で何をするにも大体一緒にいる。ついたあだ名は名物コンビ。一言で言うと仲がいいんだ、すごく。
え? 俺? 俺も仲良いよ。一緒にバカなことやるし、グループで行動するときは割と一緒に組む。同じ組だから、行動時間も被ることが多いし。でも、それとはまたちょっと違うんだ。
俺の話はいいよ。それより、そんなふたりが最近ちょっとおかしかったんだ。周りは喧嘩してるって噂してたけど、俺は違うと思う。
いや、あいつらよく喧嘩してるよ。喧嘩っていうか、片方がもう僕の顔に変装するな~ってキレて、もう片方が落ち込んでたり、お菓子を食べたとか食べてないとか、使ったものはちゃんと片付けろとかなんかそんな感じのやつ。大体すぐ仲直りするし、あーまたやってんなって感じなんだ。でも今回は違った。
喧嘩とかそういうんじゃなくて、なんだろうな。上手く言えないんだけどちょっと様子がおかしかったんだ。
え? もっと聞かせろ?
分かった。じゃあ、どこから話そうかな。

◇◇◇◇◇◇

 八左ヱ門が違和感に気付いたのは、三郎が長い忍務から帰ってきてしばらくのことだった。
 ――雷蔵と三郎は、互いに惹かれあっている
 級友として、おそらく一番近くでふたりと時間を共にしてきて、何となくそうなんじゃないかと気付いたのはいつだったか。思い出せないくらいにごく自然に受け入れていた。
 毎日違う顔をしていた三郎が、気がつけば雷蔵の顔をするようになって。最初は困った顔をしていた雷蔵がいつの間にかそれを当然のことであるかのように振る舞い「もう、慣れたよ」と何でもないことのように返す言葉の奥底に潜む感情に気が付いて。友人として、思うことはたくさんあった。だけれど、ふたりの友人としてそっと応援してやりたいと思った。だから、あからさまなのに進展しないふたりに焦れながらもこっそりと見守ってきたのだ。
 ――そんなふたりが、距離を置いている
 機会があれば、雷蔵にベッタリとくっついて雷蔵、雷蔵と名前を呼んで鬱陶しいくらいに傍にいた三郎が雷蔵の肩に手を回さず、どこか壁を作っている。
 良く言えばおおらかで、はっきり言えば大雑把で喧嘩をした翌日には何事もなかったようにしている雷蔵がどこか思い悩んでいる。
 何かが起こっていた。
 雷蔵と三郎が学園長先生のお使いに出たのは数刻前のことだった。これを機に上手くまとまればいいのだが、そう簡単に上手くいくだろうか。ここは友人として作戦を練るべきではないのか。思い立ったら居ても経ってもいられなくなって、八左ヱ門は〝い組"の長屋に足を運んだ。
「……ということなんだが、何かいい案は思いつかないか?」
 手土産の饅頭を差し出し、八左ヱ門は頭を下げた。
「え、何この饅頭」
「なんだ、饅頭なのか」
 目を丸くする勘右衛門と、白い饅頭を手に取って何かを連想する兵助を前に八左ヱ門はもう一度手を合わせる。
「頼むよ! この通り! 雷蔵と三郎の様子がおかしくてさ。俺たちで仲直りのきっかけを作ってやりたいんだよ」
「仲直りって、喧嘩してるのか?」
「喧嘩ってわけじゃないとは思うんだが、でも様子が変なんだ」
「この前、南蛮カルタして励ましたじゃん」
 早速饅頭を頬張り、もぐもぐと口を動かしながらながら勘右衛門が答えた。結構美味いよ、食べれば? と差し出された饅頭を反射的に受け取りながら、八左ヱ門は言葉を返す。
「ありがとな。でもあの時は落ち込んでる雷蔵を励まそうとしてだったろ? 今度は三郎もおかしいんだよ」
「三郎が雷蔵のことでおかしくなるのはいつものことじゃない?」
「いや、まあそう言われりゃそうなんだけど」
「八左ヱ門の気のせいってことは」
「ない!」
 ハッキリと言い切るその勢いに、勘右衛門と兵助は顔を見合せて押し黙った。それまでの空気から一転して真剣な眼差しで続きを促され、八左ヱ門は言葉を続けた。
「……なんかさ、ふたりとも元気がないんだ。そりゃあ、あいつらも子どもじゃないしいつも通りに見せかけてる。けど、なんか違うんだよ」
「確かに、鉢屋の奴この前委員会の最中はため息ばっかついてた気がする」
「言われてみれば、雷蔵もだ。この間一緒に昼食をとった時にため息ばかりついていた」
 思い当たるところがあるのだろう。そういえば、あの時は。後輩からこんな話を聞いた気がする。疑いはじめると、あれもそれも気になってきてひとしきり話し終えたあと、勘右衛門は口を開いた。
「……八左ヱ門。お前の気持ちは分かった。俺たちだって、何とか力になってやりたいも思うよ。なあ、兵助」
「ああ、俺もそう思う」
「ほんとか!? ありがとう!」
「でもさ、ふたりとも今一緒にお使いに行ってるんだろ」
「ん? ああ、今朝一緒に行ったよ」
「じゃあ、今のところは何もせずに見守った方がいいんじゃない。三郎も雷蔵も、何か言ってきたわけじゃないんだろ?」
「でも……」
「俺も、勘右衛門の言う通りだと思う。状況はよく分からないけど、八左ヱ門の話を聞く限りこれはふたりがふたりの間で解決すべきなんじゃないかな」
「ふたりがふたりの間で、か」
「もし、助けを求めてきたらその時は手を貸せばいいよ。俺ら、友達だからさ」

◇◇◇◇◇◇

それで結局どうなったかって?
待ったよ。
確かに、よく考えたら俺が口出しするのも変なんだよな。委員会で低学年たちと一緒にやってるからかな。つい世話を焼いてやりたくなるんだ。それじゃダメなこともあるよな。
え?でも黙ってられなかったんでしょって?
なんで分かったんだよ。そうだよ、その通り。結局はちょっとお節介しちゃったんだ、俺。
ほんと、見てるだけって辛いんだな。

◇◇◇◇◇◇

 夜更けに叩かれた門の音と叫ぶ声に最初に気が付いたのは誰だったのか。
 医務室に担ぎ込まれたふたりのことを八左ヱ門が知らされたのは明け方のことだった。
「……雷蔵! 三郎!!」
 一目散に駆け込んだ医務室は重苦しい空気に包まれていた。まず目に映ったのは、布団に横たわる姿だった。そのすぐ傍に、腹の傷を抑えながら青白い顔に必死の形相を浮かべて片割れの手を取るもう一人がいる。
 言葉が出てこなかった。
 ちょっと様子はおかしかったけれど、ふたりともいつも通り出かけたのだ。面倒くさそうに装う三郎と、そんな三郎をなだめる雷蔵を見送った。なのに、これはどういうことだ。
「……雷蔵が、目を覚まさない」
 静寂を破ったのは、悲痛な声だった。そこで、八左ヱ門は布団に横たわっているのが雷蔵で、今口を開いたのが三郎だと理解した。
「八左ヱ門。……目を覚まさないんだ。もうずっと。何度も名前を呼ぶのに、ずっとだ。なあ、八左ヱ門。私はどうしたらいい? このまま目を覚まさなかったらどう償えばいい? 雷蔵がいなくなったら、俺は……」
「三郎、落ち着け!」
 何が、落ち着けだ。八左ヱ門は咄嗟に三郎の肩を掴んだ己の手が小刻みに震えていることに気がついていた。自分でさえこうなのに、三郎の心境を思うと無理は無いと思った。だが、同時に言わずにはいられない。いや、言わなければならないと思った。
「お前が弱気になってどうするんだ! 三郎が信じなくてどうするんだよ! 雷蔵はきっと目を覚ます。……そうですよね」
 縋るように、新野と伊作に視線を向ける。状況を見守っていたふたりは顔を合わせると力強くうなづいた。
「大丈夫ですよ、竹谷くん。不破くんは眠っているだけです」
「外傷もほとんど見られない。鉢屋の話を聞く限りは、脳に損傷があるとも思えない。……きっと、目を覚ますよ」
 三郎は何かをこらえるようにぐっと拳を握りしめて黙り込んでいる。腹の傷が痛むのか、時々相貌をゆがめた。包帯から、僅かに血が滲んでいた。
「三郎、お前のその傷」
「……大丈夫だ」
「どう見ても大丈夫じゃないだろ。お前も休んだ方がいい。俺も、新野先生も、善法寺先輩もいるんだ。少し眠った方がいいんじゃないか」
「ほっといてくれ」
「ほっとけるわけないだろ」
「いいから、好きにさせてくれ!」
「出来るわけない。このままじゃ雷蔵が目を覚ます前にお前の方が」
「雷蔵が目を覚ますなら、私がどうなったって構わない」
「いい加減にしろ!!」
 思わず、張り上げた声に八左ヱ門は自分でも驚いていた。そんなつもりはなかったのに、気持ちが抑えられなかった。一瞬の気持ちの昂りのあとに襲ってきたのは、やるせなさだ。
 ふたりの間に何があったのか、そこに触れるは野暮かもしれない。今、この状況で自分に出来ることが知れていることも、頑なになる三郎の気持ちも痛いほど伝わってくる。でも、それでも八左ヱ門は思ってしまう。
「··········友達じゃないか」
 心配することくらい、許してほしい。
 自分にとっては、三郎も雷蔵もどちらも大事な友人なのだから。
 何とか絞り出した声は、静寂に吸い込まれた。
 
◇◇◇◇◇◇
 
 結局、駆けつけた兵助と勘右衛門。それに、「医務室で騒ぐなら場所を移せ」と鬼の形相を浮かべた伊作によって仲裁されてその場は静まった。
 どうやら三郎は医務室に運び込まれてすぐ同じように取り乱していたようで、たっぷりとお灸を据えられて大人しくしている。それでも、雷蔵の傍を離れようとしないのは彼の意地か本能か。相談の結果、交代で様子を見にくることを決めて八左ヱ門たち同級の面々は医務室を離れることにした。
 三人とも口を噤んだまま、いつも通り食堂に足を運ぶ。あんなことがあったのに、学園はいつもの朝を迎えようとしていた。食堂のおばちゃんのいつもの元気な声。後輩たちの無邪気な笑い声。五年生に進級して数ヶ月。こんな朝ははじめてだった。
 黙々と食事をとる。いつも通り美味しいはずなのにどこか味気なく感じてしまい、八左ヱ門は苦虫を噛み潰した。兵助が口を開いたのは、そのときだった。
「あのさ」
「……どうした?」
「あんな三郎、はじめて見た」
「無理ないよ。他でもない雷蔵のことだし」
「でも、勘右衛門も驚いたろ?」
「……確かにね。しょっちゅう雷蔵のことで悩んでる
けど、基本的にあいつ、いつも飄々としてるし」
「お使いで、何があったんだろう」
「……分からない。八左ヱ門は、知ってるか?」
ふたりの会話をじっと聞いていた八左衛門は首を横に振る。何もかもが分からず、どうすべきかも分からなかった。だから、八左ヱ門はただ一言だけ発した。
「信じるしか、ないよな」
――信じるしか、ない
 自分の言葉を、八左ヱ門は心の中で反芻する。ふたりに言ったようでいて、自分に言い聞かせていた。
 チュピピピ……どこからか、ツバメの鳴き声が聞こえた気がした。
 
◇◇◇◇◇◇
 
 雷蔵が目を覚ましたのは、それから三日後のことだった。
「雷蔵が!? よかった!! よかったな、三郎!」
「……迷惑をかけたな、八左ヱ門」
「いいや、そんなことはもういいよ。ふたりが無事なら俺はもうそれでいいんだ。本当によかった! 雷蔵は?」
「まだ医務室だと思う」
「俺、行ってくるよ」
 その事実を三郎の口から朝一番に聞かされた八左ヱ門は、驚きと喜びのあまりにその時の三郎の様子がいつもと違ったことを見落としてしまっていた。
「三郎も行くだろ?」
「いや、私は学園長先生に報告しなければならないから。……あとで行く」
「分かった。じゃあ、また後で!」
 それが、それから数日間の間で最後にみた〝雷蔵の姿をした三郎"だった。
 思い返せばあの日、兆しはあったのだ。あんなに取り乱していた三郎が、自分から雷蔵と離れて、どこか落ち着いた様子で自分に雷蔵の無事を告げてきたことは奇妙だった。見舞いの時の雷蔵がどこか沈んだ様子だったのは、勘違いではなかったのだ。
 今や、学園中で雷蔵と三郎が喧嘩をしているという噂が独り歩きしている。三郎は毎日、八左ヱ門や兵助、勘右衛門。挙句の果てには誰彼構わずに〝雷蔵以外"に変装して生活していた。雷蔵と同室の部屋にも戻らず、見舞いにも顔を出していないようだ。一度、雷蔵から「三郎は、元気にしてる?」と聞かれたが、苦笑いしか出来なかった。
 それは、雷蔵が授業に復帰してからも変わらなかった。いつも一緒にいた〝五年ろ組の名物コンビ"はどこかに消えてしまったようだった。
――ふたりが、ふたりの間で解決すべき問題
 分かってはいたけれど、動かずにはいられなかった。助けを出すことは出来ないかもしれないけれど、ともに過ごすことならできる。もし、救いを求めてくるのであればすぐに手を差し伸べることができる。だから、兵助と勘右衛門は三郎と。八左ヱ門は雷蔵との時間を取るべく、それぞれがそれぞれの信念をもって動いたのだ。
「おー! 順調だな~」
「ホントだね。このまま上手く育ってくれるといいけど」
「とりあえず、ジュンコたちが近寄らないように気をつけさせないとな~」
 少しでも気晴らしになればと提案したが、思ったよりも効果があったようだ。ここのところ浮かない顔をしていた雷蔵の顔がほんの僅かだが和らいでいる。それが嬉しくて、八左ヱ門は次から次へと夢中で言葉を続けた。生物委員会の後輩たちがツバメを見たがっていること。ツバメが巣を作る場所の特徴。ツバメの外敵。思いつくことを話せば、雷蔵がちょうど良いところでうなづいてくれるものだから、ついつい話しすぎてしまう。
「でもまあ、俺たちが出来るのはここまでだな。あとは、人間は手を貸せない」
 そう口に出したところで、八左ヱ門はハッと気がついた。そうだ、勘右衛門や兵助が言いたかったことはこれだったのだ。
「え、そうなの?」
 雷蔵が驚いたように聞き返してくる。努めて平静を装って八左ヱ門は言葉を返す。
「生き物は、最後は自然界で自分の力で生きていけるようにならないといけないんだ。だから、人間が下手に手出しするとヒナの成長を止めてしまうことになるかもしれない」
「あー、なるほど。さすがだね、八左ヱ門。僕も気をつけなきゃ」
 そうだ、三郎にも……と雷蔵が言いかけて、慌てて言葉を飲み込んだことに八左ヱ門は気が付いた。少なくとも雷蔵は、三郎と距離を置こうとは考えていない。三郎との関係を前に進め、向き合おうとしている。
「あのさ、雷蔵。三郎のことだけど」
 気がつけば、そう切り出していた。言葉に出してはじめて、これは話してもいいことだろうかと不安になるが、雷蔵がうなづいたことで言葉を続ける。
「これはふたりの問題なんだろうから、俺たちは口を出すべきじゃないんだろうけどさ。でも俺、雷蔵と三郎は一緒にいるべきだと思うんだ。なんて言うか、それが自然というかそれがあたりまえというか。……ごめん、何言ってるか分かんないよな」
 雷蔵の瞳が不安そうに揺れている。だから、八左ヱ門は照れ隠しをしつつ言葉をさらに続けた。
「上手くいえないけど、難しく考えすぎるなよ」
 初夏の風がザァっと吹き抜けていく。雷蔵の目からは迷いが消えていた。
「八左ヱ門」
「ん? どうした?」
「三郎は、僕と話してくれるかな」
「大丈夫さ。三郎が雷蔵のことを好きなのは、当たり前だって本人が言ってただろ。ふたりが忘れても、俺が覚えてるよ」
 そう、きっと一番近くで見てきたのだ。だから、自信を持って送り出せる。
――行ってこい
 背中をトン、と押してやると少しだけ躊躇いを見せたあとこちらを振り返らず、雷蔵は真っ直ぐに駆け出した。
 その背を見送りながら八左ヱ門はほっと息をつく。少し、手を出しすぎたかもしれないなと反省するが、その気持ちはピィピィと雛たちが唄う声が聴こえてきて吹っ飛んだ。後輩たちを呼んでくるか……ぐっと伸びをして歩き出す。
 雲の切れ間からは、日差しが差し込んできた。もうすぐ、梅雨が明けるだろう。
――雨降って地固まる、か
 雷蔵と三郎の仲も。俺たちの友情も。
 願わくば、永遠に続くように。そう願わずにはいられなかった。
――なあ、知ってるか。雷蔵、三郎。
  燕は優しい人に幸運を運んでくるんだ。
 ツバメが空を舞っている。それが吉兆を告げていることを八左ヱ門は知っていた。

翌日。
少し照れたように。どこか気まずそうに。それでも、ふたりともどこか幸せそうに八左ヱ門の前に姿を現したふたりを見て八左ヱ門はほっと息をつく。いつもの日常が戻ってきたのだ。

「おはよう! 今日はいい天気だな!!」

◇◇◇◇◇◇

ということで、ふたりの間に何があったのかはよく知らないんだ。
それでいいのか?
……いいんだ。あいつらが一緒に居て、幸せそうだからさ。それが答えだと思う。
え? 結局手を貸してる?
んー、まあそうかもな。
でも、俺たちはほんの少しだけ背中を押しただけだよ。アイツらの問題はふたりで解決したんだ。だから、大丈夫だ。でも、今度何かあったら頼って欲しいと思うし、力になりたいと思うよ。それはずっと考えてる。だって、俺たち友達だからさ。
――で、満足したのか? 三郎?
なぜ分かったって、そりゃあ分かるよ。
突然、あなたのお友達のこと聞かせてくれる?って相席してくる絶世の美女とか怪しすぎるだろ。しかも話に食いついてくるしさ。俺だって学園の人間以外にこんなにベラベラ話さないって。
なんだよ、その目。
もういいからその変装やめろって。落ち着かないだろ。
え、やめない?お前、面白がってるだろ~。
あ、雷蔵だ。おーい、らいぞ〜!!
··········よし、やっぱその顔が落ち着く。
え? 雷蔵? 嘘だよ、冗談。
うわ、三郎やめろって。ごめんごめん。だって、そっちの方がなんかしっくりくるんだよ。そう、不破雷蔵の顔をした鉢屋三郎が。おかしな話だけどさ。
なんだよ、嬉しそうだな。
お詫びに今度は私の話を聞けって?
あー、分かったよ。
ん? 雷蔵が鈍感過ぎて困る?
ってそれ、惚気話じゃん。
まあ、いいや。ふたりが仲良くしてる方が俺も落ち着くし。
ん? どうした、三郎。
え? ありがとう? 急に真剣にいわれると照れくさいだろ~。いや。こっちこそ、これからもよろしくな!
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