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【Stage.ゼロ】

 それは単にきざしにすぎませんでした……

 神殿…その中央。巨大な樹があります。
 その根元は絡みあって、クリスタルの珠を包んでいます。

 絡みあった根の間から漏れる紅い光は
 クリスタルの珠の中にある紅珠ルビーの放つものです。
 紅珠はクリスタルの中心で静止しており
 淡い光が大樹の根を照らしていました。
 その大樹には実が数多生っており、
 それは蜜柑くらいの大きさで様々な色があります。

 それを先程から摘み取る者たちがいました。

 彼らは摘み取った実を1つの籠に入れ、集めていました。
 不思議なことにある程度いっぱいになると、
 その籠の中の実はそれ以上増えなくなり、
 入れても入れても入っていました。

 その籠を持っているのは彼らの中で1人だけのヒト族です。
 他の者はみんな、妖精でした。

「……この実は、負のチカラが他のよりも強い……
 オリガさんに言っておかなきゃ……」

 ヒト族の彼はつぶやきます。
 不意に……フッと目の前が暗くなりました。
 彼は手を止め、頭を振ります。

 ――なにか変……時々頭の中で何か……――

「大丈夫ですか、シエルさま?」

 その様子を見て心配して、妖精の1人がシエルに声をかけました。

「あ、うん。それより、これで全部摘み取りは終わり?」

「はい、これでおわりで~す」

 最後の1個の実をもって来た妖精が嬉しそうに実を入れます。

「おつかれさま~。みんな、ありがとね~……」

 ぽふんっ……

 籠を抱え、神殿を出ようと歩き出したシエルは
 出入り口で誰かにぶつかりました。

「シエル? 大丈夫か、顔色悪いぞ」

「あ……ごめんなさい、大丈夫」

「それならいいが、あまり無理をするなよ」

「うん、心配してくれてありがと~、ラジャさん」

 ぶつかってしまったラジャと入れ替わりに
 神殿を出るシエルでしたが……。

 不意に、その視界が闇に包まれました。

 それは今までのように一瞬で晴れることはなくて……
 シエルはそのまま意識を失ってしまいました。

「シエルッ?!!」

 イキナリ倒れてしまったシエルにラジャは慌てて駆け寄ります。
 軽くほおをたたき、彼の名を呼んでみました。
 しかし反応はなく顔色は真っ青でした……。

   ◇◆◇

「う……ん……」

「あ……シエル、よかった気がついて……心配したんだよ」

 気がつくと、シエルは自分の部屋の天井が目に入りました。
 あの後、ラジャがここまで運んでくれたのです。

「クラレットさま、ご迷惑をかけちゃってごめんなさい……」

「ううん、シエル、無茶しちゃだめだよ。
 またシエルが倒れちゃったら、アトルに怒られちゃう。
 ぼく、あのヒト苦手なんだ」

「へぇ~♪ 誰が誰を?
 ク・ラ・レ・ッ・ト・さ・ま、聞こえてますよ♪」

「ぅわっう!?」

 クラレットの後ろからイキナリ、苦手なアトルが現れました。
 思いっきり、抱きしめられ慌てるクラレット。

「……シエルは体調が悪いんだから騒ぐなよ、兄貴」

 ばこんッ!!

 アトルは容赦なくゲンコツでどつかれます。

「ひ、ヒドイッ!
 カナリ、イキナリどつくことないじゃないですか。
 まあ、確かに騒いだ私が悪いのですが……」

 アトルはクラレットを離して頭をさすります。
 解放されたクラレットは十分に間あいをとって、

「それで、シエルの容態は?」

「少々、疲れがたまっています。しばらくは休養が必要でしょう」

 アトルは医者の顔になり、シエルの容態を説明します。
 アトルはこの城の医者なのです。
 そしてカナリはその助手なのでした。

   ◇◆◇

 その晩――

「……なんだか、やっぱり変……。
 このカンカク、負のチカラが増してきてるみたい……。
 このままじゃ……溢れる?」

 ぎゅっと、毛布をシエルは握り締めます。
 そしてその中に顔をうずめました。

 ――抑えなきゃ、世界が……夢幻が変わっちゃう……――

 目をきつくつむり、内からあふれ出そうになるモノを
 シエルは必死に内に抑え込もうとしますが……。

 しかし――

 その時、何処か遠いようで近い、何処かから声が響いてきました。

『辛そうだな……楽にしてやろうか……』

「え……?」

 シエルは顔を上げます。

『もう限界にきているのが自分でも解るだろう……』

「限界? ぼくが……」

『そう、限界だ……』

 不意にあたりが暗くなります。
 シエルの意識はそこで、闇に沈んでしまいました――
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