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*さんまいめ【日勤のオハナシ】

 おれたちの仕事は、全滅したパーティーの救護のほかに城下町の見まわりもあるんだ。
 町を巡回して、モメ事はないかとか、魔物がうっかり町に入ったりはしていないかとか、
 迷子の子がいたりしないかとか、町の様子をチェックだよ。
 アリアハンの城下町は治安が良いし、特にそういったモメ事や事件はないんだけど……一応ね。
 町の見まわりは日勤って言って4人で担当するよ。
 救護の早番や遅番、夜番とは別にね。

 で、今日おれは日勤。
 はりきって町の見まわりに行きましょう♪

「ふ、副長さ、さん……行ってらっしゃ、しゃいで、です」

「あ、うん。行ってくるね。カイカくん、おやつは何がいい?」

「エ……あ、あのう……そ、その……お、おやつ……ええ、えと……」

「俺はね、ムライさんの焼き菓子がい~なぁ♪ なっ、カイカ~♪」

 悩むカイカくんの背後から気配もなく班長さんが現れた。
 いつものように軽い調子の班長さんだけど、カイカくんは石化したように固まっている。
 カイカくんはとっても怖がりで、こんな風にとつぜん背後に立たれたりしたら
 ビックリを通り越して固まっちゃうんだよね。

「……おれはカイカくんに聞いたんですけど」

「え~。ね、ね~カイカも焼き菓子がいいよね、ね~?」

「あ、わ゛わ゛ッ! は、は、はいぃ……い、い、いいで、です……」

「ほ~~~らぁ♪」

 班長さんは気の弱い、ムチャクチャ弱いカイカくんに笑顔で圧力をかけている。
 はぁ……なんて大人げないんだろう、班長さんは(-_-;)
 もっとオトナになってほしいよね。

「分かりました。今日のおやつはそれにします。
 カイカくん、班長さんにいじめられたらすぐに言ってね……
 いや、班長さんカイカくんをおどしちゃダメです。いつも言っていますが」

 カイカくん、いじめられても自分じゃ言えないよね……。
 いつも班長さんに注意しているんだけど全く効果ナシだからなぁ(泣)

「ええ~カナちゃん、俺、カイカのことイジメてもおどしたりもしてないよ~。
 人聞き悪いなぁ、ヒドイのぉ~。シクシク(ノД`)・゜・」

 班長さんは大袈裟に泣きマネをする。
 カイカくんは班の中でも特に気が弱くて人見知りする子で、おどしとかに弱いのに……。
 そんなカイカくんをからかって楽しんでいるんだから性格イジワルだよね。

「ヒドくも人聞き悪くもありません。カイカくんいつもごめんね……」

「エ、エ、ええと……ぼ、ぼく、ぼくなら、だ、大丈夫で、です……」

 にこにこ笑顔の班長さんにじぃ~っと見られて、そう言うしかないカイカくんだった(-_-;)
 ホントにごめんね……。

   ◆◇◆

「それじゃ、ジノヴィさんとレフは東回りで、おれとエゼルさんは西回りで行きます。
 お昼までにムライさんのお店に寄りたいので。それでいいですよね、ジノヴィさん?」

「別に構わないぞ。昼からは逆ということだな」

「はい。そういうことでお願いします。ふたりとも気をつけて」

「副長もな。ではレフ行くぞ」

「リョーカイです!」

 チョット余談だけど……
 ヨナス以外の年上の隊員さんには敬語で話してるんだ。
 年上の人なんだから、普通はそうだよね。
 でもヨナスはタメ口で話してほしいって言われたんだ。
 入隊した当時、ヨナスにも敬語で話してたんだけど、よそよそしくしないで
 ホントのお兄さんだと思ってフレンドリーに接してほしいって言われて。
 それで今に至るんだよね。

 余談はこの辺で置いておいて。

 見まわりは東と西から分かれてぐるりと巡回するんだ。
 昼からは午前中とは別のペアが回るよ。
 同じ人だと見つかられない異変を別の人だったら見つけられることもあるからね。
 日勤での見まわりは夕方までで、それ以降は別の隊の人が担当するんだ。

 おれとエゼルさんは西回りに見まわりをはじめた。


 西の方は目立った施設はないんだけど、有名な個人のお宅ならあるよ。
 アリアハンにこの人あり!と言われた勇者オルテガさまの家がね。
 オルテガさまは今から9年前に魔王を倒すべくアリアハンを旅立たれた。
 生まれて間もないルティムちゃんを残してね。
 一般の町の人とかにはその名前すら知られていなくて、
 おれも騎士団に入ってはじめて聞いたんだけど……。
 突如現れた魔王バラモスが世界を征服すると宣言して、それを開始しはじめた。
 そんな中、オルテガさまは魔王を倒すべくアリアハンを旅立ったんだ。
 その頃はまだ、全パ登録はしたりしなかったりだった。
 まだ町の人は魔王の存在を知らないし、お城の関係者も魔王のことを軽く見ていたからね。
 だから、オルテガさまは登録せずに旅に出てしまった……お元気にされているのかなぁ?
 お一人で行かれたようだし……チョット心配です。
 まぁ、おれなんかに心配はされたくはないだろうけどね。
 世界各地を旅できる人だからそう簡単に魔物に負けたりはしないだろうから。

 そんなオルテガさまの家のとなりには通りをはさんで宿屋さんがあって、
 それから武器屋さんなどのある商店街が続くよ。

「おっ、お城のお子さま副長さん! 今日はあんたが見まわりかい?」

 武器屋さんの前を通ると、店の前を掃除しているご主人に声をかけられた。
 うううう……町の人にまで子ども扱いされてる……かなしぃ~(TーT)

「そうですけど、お子さまって……おれ、そんな子どもじゃありませんよ~」

「おお、すまんねぇ。しかしそうにしか見えないからねぇ、ついつい」

「ついついって……。まぁ、それは置いておいて……何か困りごとはありませんか?」

「うん? そうだねぇ、困りごとならあるよ。
 それは武器が売れないことだね。副長さん何か買ってくださいよ~。
 ホラ、あの剣、特別に用意したんだし。
 副長さんさ、まだ一度も剣とか買いかえてないでしょ?」

 ご主人は持っていたホウキを、おれの腰に装備している武器に向ける。
 装備している武器は、はがねの剣とひのきの剣。
 はがねの剣はゼロ部隊を卒業して、騎士の称号をいただいた時に一緒に支給されるもので、
 ほとんどの人は少し使ったあと、新しいものに買いかえたりするんだ。
 でも、今持っているので十分なんだよね。ちゃんとお手入れもしているよ。
 アリアハンだったら、魔物が他の地域ほど凶暴でないし、そんなに強いのもいないから。
 だから、ごめんなさい。
 今のところ……というか、たぶんずっと買いかえる予定ないです。

「ん~、ごめんなさい。武器は今のところ新しくしなくても大丈夫です。
 ひのきの剣のことは本当に感謝です。
 ……班の誰か、武器か防具を新しくする人がいるか聞いておきますから、
 それで勘弁して下さい~(^-^;)」

 おれは、よろしくお願いしますね~と言うご主人の声を背に、
 そそくさと武器屋さんの前を通り過ぎた。
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