序章〜子供時代編
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「かくかく〜!朝ご飯だよ〜」
「はーい」
あれから7年ほどが経った。
さすがに年月が経てば自分の身に起こった事くらいは何となく把握した。
「ピーちゃんもおいで〜ご飯だよ〜」
「ハッピハッピ」
「お庭の水やりご苦労様」
(……把握したと言っても理解したとは言いがたいのだけど)
目の前にいる丸型の生物を見る。
そう、私の母親が今ルンルン気分で話かけたピンク色の生物。
図鑑No.242しあわせポケモン:ハピナス である。
(未だに信じられないんですけど…いや、もう、ねえ!?)
『事故の後で目が覚めたら赤ちゃんになってて、しかもポケットモンスターの世界にいました』って、誰がそんなすぐに理解できるの!?できる!?私はできなかったよ!!
日常茶飯事で謎の生き物が草むらから飛び出てきたり、人と目があったらバトルとかしちゃうあの世界ですよ!?
いやいやいや無理無理無理無理。
気付いた当時はそれはそれは酷く混乱した。
記憶が残っているといっても生まれてすぐの赤ん坊だったためなのか、自分ではコントロールできない程すぐ泣きわめき、ちょっとした事ですぐ癇癪を起こして暴れたりというようなとても手のかかる幼年期を過ごした。
膨大な記憶の容量が脳にいろいろな負荷をかけていたと思われる。
あの時の事故の事は、思い出したくもないのに今だにフラッシュバックする。忘れていたら、この記憶がなければ、どれだけ良かっただろう。
雨の冷たさ、痛み、恐怖。考えるだけで目眩がして気持ちが悪くなる。
普段は忘れているけれど、たびたびその恐怖は日常生活で顔を出す。
ふと壁に目をやった時、夢から目覚めた時、崖下を見た時、テレビで乗り物が映る時…様々だ。
誰にも言えない。まだ、誰にも言えそうにない秘密だ。
「ほら!熱いうちに食べて食べて!今日は特別にピーちゃんの卵を使った栄養満点、幸せ満点のフレンチトーストでーす」
「ハッピーーーー!!」
母の声に合わせてハピナスが鳴く。そして謎の決めポーズ。
うちのピーちゃんは他のハピナスと比べてテンションがやたら高いように思う。病院にいたハピナスこんなにテンション高くなかった。
絶対にトレーナーである母の影響だと思われる。
(いつも思うけどハピナスの卵って食べていいのかな…美味しいし好きだけど…)
いただきます。と合唱した後、焼きたてのフレンチトーストに齧り付く。
ほんのりと甘いメープルシロップのかかったそれは焦げていた。
カリカリのベーコンも、『かえんほうしゃ』で焼いたの?ってくらい焼き過ぎだけど顔には出さずにコップに注がれていたミルクで飲み込んだ。
横ではピーちゃんが幸せそうな表情でポフィンを食べていた。
「ごめんねえ。ちょっと焼き過ぎちゃった」
「…うん、大丈夫」
「朝ご飯食べたらみんなにもご飯あげないとね!今日のポフィンはよくできたのよ〜。奮発してカイスの実入れちゃった」
嬉々として話す母親。この世界での母は現役バリバリのポケモンコーディネーターで、結構名のある実力者らしい。ちなみにここにいるハピナスはシンオウ地方『かわいさコンテスト』を制覇した経験を持つメダリストである。リビングに飾られたリボントロフィーや写真の数々はいつ見てもまばゆい輝きを放っている。
「ところで、今日は何か特別な日だっけ?朝からピーちゃんのフレンチトーストだし…コンテスト近いわけでもないのに奮発して良いきのみ使っちゃうし…」
「やだ、もう何言ってんのよかくかく!今日は貴女の誕生日でしょ?」
「え!?」
パッと壁にかけてあるカレンダーを見れば7月7日にどーんと大きく花丸がついていた。
が、しかし
「…今日って6日だと思ったんだけど」
「え!?」
驚愕の顔で俊敏にテレビのリモコンへと手を伸ばした母。
ニュースキャスターは『おはようございます。7月6日今日のシンオウ地方の天気は…』と言っている。
「……おめでとう明日!」
「ハッピーーー!!!」
おい、お母さん!!
「フライングバースデイよ!」
「えええ??!?!」
悪びれる様子もなく可愛くウインクしながら親指をグッと上に突き出してくる母。
(そんないい笑顔で言われても…)
この世界のお母さんはちょっと、いやかなり天然であったりする。
びっくりする。本当にびっくりする。
まあ、母の事はさておき。
7月7日。
その日は七夕であり、この世界での私の誕生日。
そう、7年前の事故と同じ日なのである。
元の世界でのポケモンの知識とこの世界で調べた事を混ぜた推測なのだが、私がこの世界に来てしまったのは、ねがいごとポケモン:ジラーチのせいなのではないかと思っている。
1000年間で7日間だけ目覚め、どんな願い事でも叶える力を持つという伝説のポケモン。
もしかしたら、7年前の7月7日が1000年に一度の7日間に被ってたのではないだろうか。
素人考えもいいところだが…。
ポケモンの世界と元の世界が何故リンクしてしまったのかといえばわからないけれど、可能性はゼロではないと思っている。
(…お父さんの知り合いの人で、ジラーチに詳しい人っていないかしら)
現在、学会の研究発表にでかけているこの世界での父親。
専門はみずポケモン。特にここ、ナギサシティの海辺に生息するポケモンについての研究者である。
父親は研究者、母親はコーディネーター。ポケモン世界での私の家庭はなかなかにインテリなのだ。
彼らの知り合いの中にはきっとジラーチの研究をしている人だっている筈。いつかこの世界に来た理由を解明できたら…なんて、そう思っている。
まあ、解明できたとして納得できるのかわからないけれど。
それとこれとは話が別ですからね。
「お父さん、いつ帰ってくるの?」
「えーと、かくかくの誕生日には帰ってくるって言ってたから…今日、じゃなくて明日ね」
やだわ、今日帰ってくると思っていろいろ準備しちゃってたのに。なんて言う母の言葉に苦笑いする。
ようやく最後のフレンチトーストを飲み込むと、もう登校しなくてはいけない時間。
なんて言ったって今の私はピカピカの1年生だ。
母が買ってくれた(私は別に普通のでもよかった)モモン味の歯磨き粉で歯を磨きながら洗面所に立つ。
こうやって鏡の前に立つたびに『誰だこの少女は…?』という不思議な気持ちが湧くけれど、いい加減馴れつつあった。
光の加減で少し青っぽく見える時があるけれど、一応黒髪なのでそこだけは日本人として親近感が湧く。
でも問題は目の色だ。どう見てもアンバーカラーなのだ。
こんな色、元の世界じゃコンタクトレンズでしか見たことがない。
一部のヨーロッパでは実際に見られる色素だから許容範囲といえば許容範囲だろうか。
これがピンクとかだったら受け入れるまでにもう少し時間がかかっていたと思う。
不思議といえば、顔が違うのに名前は元の世界と一緒というのも不思議すぎる。
でもこの世界は不思議だらけで、あまり深く考えていると頭痛がしてくる。
時折、自分の頭がおかしいのではないかと悩んでしまう事もある。
精神病かもしれないし、ただの虚言妄想癖患者かもしれない。でもこの記憶は流石に妄想ではないと思う。
正直に言えば帰りたい気持ちが強い。
元の世界には私の全てがあるから。家族はどうしているだろうか。
頑張って取得した資格も、卒業した学位もこの世界では何の意味もない。
友人も思い出も、職場も、生活も…誰かと共有できるものが何もない。
何もかも置き去りにして生まれ変わってしまった。
今の私は、私であって私ではないのだ。
あの事故のあとの私は…一体どうなったんだろう。
そんな私の質問を、なんだかんだと聞いてくれるような相手も、答えてくれる情け深い人も、ここにはいない。
『ロケット団』っていう単語すらパソコンの検索で引っかからないのだ。
なんでだよ!よく似た仮想現実世界なのか?わからーん!
…はい。実は私はポケモンのゲームをプレイした事がある。
アニメも子供の時に結構見てたから、未だに『なんだかんだと聞かれたら』と言われたらその続きが言える。
事故当時は仕事が忙しすぎて全然できなかったけれど、ポケモンは大好きで、大人になってからもたびたびゲームをプレイしていた。
映画館で限定の配信ポケモンをゲットしに行く程度には好きだった。
もっとも、私なんか足元にも及ばないぐらいのポケモン好きの友達がいて、その友達に誘われて流れでゲットしたみたいなものだけど。
きっと友達がこの世界に来たら、何も悩むことなくこのポケモン世界を楽しむんだろうなあ。
あいつ今、何してるのかなあ。
「かくかくー!そろそろ行かないと学校に遅れるよー!」
「はーい!!」
ハッと時計を見るともうこんな時間。
急いでカバンを持って玄関へ急ぐ。
(私みたいに別世界から来てしまった人っているのかな)
いるかも。不思議な世界だし。
探せるかなあ…。でもどうやって探す?
私の物語は、まだ始まったばかり。
「はーい」
あれから7年ほどが経った。
さすがに年月が経てば自分の身に起こった事くらいは何となく把握した。
「ピーちゃんもおいで〜ご飯だよ〜」
「ハッピハッピ」
「お庭の水やりご苦労様」
(……把握したと言っても理解したとは言いがたいのだけど)
目の前にいる丸型の生物を見る。
そう、私の母親が今ルンルン気分で話かけたピンク色の生物。
図鑑No.242しあわせポケモン:ハピナス である。
(未だに信じられないんですけど…いや、もう、ねえ!?)
『事故の後で目が覚めたら赤ちゃんになってて、しかもポケットモンスターの世界にいました』って、誰がそんなすぐに理解できるの!?できる!?私はできなかったよ!!
日常茶飯事で謎の生き物が草むらから飛び出てきたり、人と目があったらバトルとかしちゃうあの世界ですよ!?
いやいやいや無理無理無理無理。
気付いた当時はそれはそれは酷く混乱した。
記憶が残っているといっても生まれてすぐの赤ん坊だったためなのか、自分ではコントロールできない程すぐ泣きわめき、ちょっとした事ですぐ癇癪を起こして暴れたりというようなとても手のかかる幼年期を過ごした。
膨大な記憶の容量が脳にいろいろな負荷をかけていたと思われる。
あの時の事故の事は、思い出したくもないのに今だにフラッシュバックする。忘れていたら、この記憶がなければ、どれだけ良かっただろう。
雨の冷たさ、痛み、恐怖。考えるだけで目眩がして気持ちが悪くなる。
普段は忘れているけれど、たびたびその恐怖は日常生活で顔を出す。
ふと壁に目をやった時、夢から目覚めた時、崖下を見た時、テレビで乗り物が映る時…様々だ。
誰にも言えない。まだ、誰にも言えそうにない秘密だ。
「ほら!熱いうちに食べて食べて!今日は特別にピーちゃんの卵を使った栄養満点、幸せ満点のフレンチトーストでーす」
「ハッピーーーー!!」
母の声に合わせてハピナスが鳴く。そして謎の決めポーズ。
うちのピーちゃんは他のハピナスと比べてテンションがやたら高いように思う。病院にいたハピナスこんなにテンション高くなかった。
絶対にトレーナーである母の影響だと思われる。
(いつも思うけどハピナスの卵って食べていいのかな…美味しいし好きだけど…)
いただきます。と合唱した後、焼きたてのフレンチトーストに齧り付く。
ほんのりと甘いメープルシロップのかかったそれは焦げていた。
カリカリのベーコンも、『かえんほうしゃ』で焼いたの?ってくらい焼き過ぎだけど顔には出さずにコップに注がれていたミルクで飲み込んだ。
横ではピーちゃんが幸せそうな表情でポフィンを食べていた。
「ごめんねえ。ちょっと焼き過ぎちゃった」
「…うん、大丈夫」
「朝ご飯食べたらみんなにもご飯あげないとね!今日のポフィンはよくできたのよ〜。奮発してカイスの実入れちゃった」
嬉々として話す母親。この世界での母は現役バリバリのポケモンコーディネーターで、結構名のある実力者らしい。ちなみにここにいるハピナスはシンオウ地方『かわいさコンテスト』を制覇した経験を持つメダリストである。リビングに飾られたリボントロフィーや写真の数々はいつ見てもまばゆい輝きを放っている。
「ところで、今日は何か特別な日だっけ?朝からピーちゃんのフレンチトーストだし…コンテスト近いわけでもないのに奮発して良いきのみ使っちゃうし…」
「やだ、もう何言ってんのよかくかく!今日は貴女の誕生日でしょ?」
「え!?」
パッと壁にかけてあるカレンダーを見れば7月7日にどーんと大きく花丸がついていた。
が、しかし
「…今日って6日だと思ったんだけど」
「え!?」
驚愕の顔で俊敏にテレビのリモコンへと手を伸ばした母。
ニュースキャスターは『おはようございます。7月6日今日のシンオウ地方の天気は…』と言っている。
「……おめでとう明日!」
「ハッピーーー!!!」
おい、お母さん!!
「フライングバースデイよ!」
「えええ??!?!」
悪びれる様子もなく可愛くウインクしながら親指をグッと上に突き出してくる母。
(そんないい笑顔で言われても…)
この世界のお母さんはちょっと、いやかなり天然であったりする。
びっくりする。本当にびっくりする。
まあ、母の事はさておき。
7月7日。
その日は七夕であり、この世界での私の誕生日。
そう、7年前の事故と同じ日なのである。
元の世界でのポケモンの知識とこの世界で調べた事を混ぜた推測なのだが、私がこの世界に来てしまったのは、ねがいごとポケモン:ジラーチのせいなのではないかと思っている。
1000年間で7日間だけ目覚め、どんな願い事でも叶える力を持つという伝説のポケモン。
もしかしたら、7年前の7月7日が1000年に一度の7日間に被ってたのではないだろうか。
素人考えもいいところだが…。
ポケモンの世界と元の世界が何故リンクしてしまったのかといえばわからないけれど、可能性はゼロではないと思っている。
(…お父さんの知り合いの人で、ジラーチに詳しい人っていないかしら)
現在、学会の研究発表にでかけているこの世界での父親。
専門はみずポケモン。特にここ、ナギサシティの海辺に生息するポケモンについての研究者である。
父親は研究者、母親はコーディネーター。ポケモン世界での私の家庭はなかなかにインテリなのだ。
彼らの知り合いの中にはきっとジラーチの研究をしている人だっている筈。いつかこの世界に来た理由を解明できたら…なんて、そう思っている。
まあ、解明できたとして納得できるのかわからないけれど。
それとこれとは話が別ですからね。
「お父さん、いつ帰ってくるの?」
「えーと、かくかくの誕生日には帰ってくるって言ってたから…今日、じゃなくて明日ね」
やだわ、今日帰ってくると思っていろいろ準備しちゃってたのに。なんて言う母の言葉に苦笑いする。
ようやく最後のフレンチトーストを飲み込むと、もう登校しなくてはいけない時間。
なんて言ったって今の私はピカピカの1年生だ。
母が買ってくれた(私は別に普通のでもよかった)モモン味の歯磨き粉で歯を磨きながら洗面所に立つ。
こうやって鏡の前に立つたびに『誰だこの少女は…?』という不思議な気持ちが湧くけれど、いい加減馴れつつあった。
光の加減で少し青っぽく見える時があるけれど、一応黒髪なのでそこだけは日本人として親近感が湧く。
でも問題は目の色だ。どう見てもアンバーカラーなのだ。
こんな色、元の世界じゃコンタクトレンズでしか見たことがない。
一部のヨーロッパでは実際に見られる色素だから許容範囲といえば許容範囲だろうか。
これがピンクとかだったら受け入れるまでにもう少し時間がかかっていたと思う。
不思議といえば、顔が違うのに名前は元の世界と一緒というのも不思議すぎる。
でもこの世界は不思議だらけで、あまり深く考えていると頭痛がしてくる。
時折、自分の頭がおかしいのではないかと悩んでしまう事もある。
精神病かもしれないし、ただの虚言妄想癖患者かもしれない。でもこの記憶は流石に妄想ではないと思う。
正直に言えば帰りたい気持ちが強い。
元の世界には私の全てがあるから。家族はどうしているだろうか。
頑張って取得した資格も、卒業した学位もこの世界では何の意味もない。
友人も思い出も、職場も、生活も…誰かと共有できるものが何もない。
何もかも置き去りにして生まれ変わってしまった。
今の私は、私であって私ではないのだ。
あの事故のあとの私は…一体どうなったんだろう。
そんな私の質問を、なんだかんだと聞いてくれるような相手も、答えてくれる情け深い人も、ここにはいない。
『ロケット団』っていう単語すらパソコンの検索で引っかからないのだ。
なんでだよ!よく似た仮想現実世界なのか?わからーん!
…はい。実は私はポケモンのゲームをプレイした事がある。
アニメも子供の時に結構見てたから、未だに『なんだかんだと聞かれたら』と言われたらその続きが言える。
事故当時は仕事が忙しすぎて全然できなかったけれど、ポケモンは大好きで、大人になってからもたびたびゲームをプレイしていた。
映画館で限定の配信ポケモンをゲットしに行く程度には好きだった。
もっとも、私なんか足元にも及ばないぐらいのポケモン好きの友達がいて、その友達に誘われて流れでゲットしたみたいなものだけど。
きっと友達がこの世界に来たら、何も悩むことなくこのポケモン世界を楽しむんだろうなあ。
あいつ今、何してるのかなあ。
「かくかくー!そろそろ行かないと学校に遅れるよー!」
「はーい!!」
ハッと時計を見るともうこんな時間。
急いでカバンを持って玄関へ急ぐ。
(私みたいに別世界から来てしまった人っているのかな)
いるかも。不思議な世界だし。
探せるかなあ…。でもどうやって探す?
私の物語は、まだ始まったばかり。