序章〜子供時代編
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雨が降っていた。
連日の暑い空気を冷やすかのようにナギサシティには雨が降っていた。
雨傘を持っていなかったのであろう。フレンドリィショップから出てきた大人のお姉さんが、ぎょっとした顔をして小走りに去っていくのが窓越しに見えた。
雨の日はトラウマを思い出しがちだから嫌いだ。嫌いだけれど雨自体は嫌いではない。
気にしなければいい。何か別のことを考える。そうして、騙し騙し乗りきっている。
ナギサシティの図書館。今日の私はそこにいた。
シンオウ地方で有名なミオシティの大図書館ほどではないが、ナギサにも図書館くらいはある。
さすがポケモンリーグの玄関口とも言われる街だけあって、素人目に見ても各公共機関がしっかりしているのがナギサシティの特徴だと思う。シンオウ地方最西端。自然の地形を利用した港、高低差のある町並み。美しい街だと思う。
この街の海は浜辺以外は暗礁も多く、条件が整うと海辺では濃霧も発生する。
海に出た船を誘導するシルベの灯台は、ひとたび霧が出ると霧笛を鳴らす。
『この音は、ダイヤフラムホーンといって電磁式発信なんだ!発音板っていう板を電気の力を利用して振動させると音が出るんだぜ。音波標識っていって、視界が悪い時に船に対して方向を知らせてやるんだ!それにな……機能が…で…共鳴が…なんだ!すごいだろ!』と機械少年デンジくんが先日注釈と脱線含めてたっぷり1時間くらい熱弁してくれたから覚えた。
この手の話はもはや聞き飽きているらしいオーバくんに『かくかくよくデンジの話に付き合ってやれるよな…』と感心された。
だってキラキラした瞳で一生懸命楽しそうに好きなもの語っている少年を無視できる?できないでしょ?
うん、うん。そうなんだ。それで?って聞いてると、ずーーーーっと話してんの。
普段口数少ないのに、ずーーーっと話してんの。可愛いくて遮れないでしょう。
図書館の中をグルリと回る。今日は何となく人が少ない。
総記、哲学、歴史、社会科学、自然科学…。棚と棚の間を私の軽い足音が響く。小難しい書籍ばかり並ぶコーナーにいる私の姿は目立つ。
気づいた大人はチラリと私を一瞥するが、探検している子供が迷い込んだんだろうとまた本棚に目線を戻した。
私が今日探しているのは、伝説のポケモンに関する本。それと時空や異世界について。
シンオウ地方に伝わっているポケモンの話はすごくたくさんあって、さまざまな神話が本になっている。
私も学校の図書室にある絵本で読んだ事があるけれど、絵本では詳しい事は調べられない。なるべく研究者が専門に書いた学術的な本が読みたい。そう思い図書館まで足を運んだのだった。
「自然科学…400から499の棚か…。数学、物理化学…ここまではこの間探したから、今日はとりあえずこの辺りからかな」
ずらりと並ぶ本の中からお目当の本を探す。暇を見つけては図書館に通っているので勝手知ったるナギサ図書館だ。
『教えてヤドラン先生!〜わかりやすい算数〜』とかいう題名のかかれた本があったりすると和む。
「数論序説、…解析入門、…線形空間…ひえ頭痛くなってきそう…」
とりあえず時空に関するものなら物理化学だろう。元の世界では物理はそれほど得意ではなかったが、読んでいるうちに思い出すかもしれない。
棚の上の方にあった気になる本に手を伸ばそうとしたが、なかなか届かない。
まあ、ここ子供のくるようなコーナーじゃないからね。そうね。
でも少しジャンプしたら届きそうだ。よーし、とジャンプしようとしたら、お目当の本はスウッと横から伸びてきた手によって視界から消えた。
「これか?」
「…どうも、ありがとうございマス」
私よりも幾分か背の高い青年が本を差し出してきた。青灰銀の髪色を持つ落ち着いた印象を受ける青年だ。
彼は手に持った本のタイトルと私をチラリと見比べ、少し驚いたような表情で私を見た。
「…重力理論だ。わかるのか?」
「なんとなく」
「ふむ…そうか」
まあ、読めば何となく分かるよ。中身これでも大人だし。分かるというか、分かった気になるというか。
本を受け取ってパラパラともくじを読むと、古典力学から相対性理論まで。と書かれていて、見た目のゴツさに対して中身が易しそうではあったのでとりあえずこれを読んでみようと思う。
その本を借りる気満々で小脇に挟んだら、目の前にいる青年はまたちょっと驚いた表情をした。
面白いものを見つけたような、珍しいものを見たような、そんな空気を孕んだ瞳。無表情に近いので分かりにくいが。
なんだいなんだい。気にしないでくれ。いろいろ事情があるんだこっちは。
見ると青年の手には「時空構造と存在の確定」だの「マクロ経済学」だの「分子ポケモン生態学学術書」だのこれまたコアで難解な本がしっかり握られていた。私ほどではないが見た限り彼もまだ若い。大人っぽい顔つきをしているので分かりにくいがせいぜい12、13歳といったところか。
(…本物の天才ってやつかしら。それかかなりの物好き)
それともデンジくんをしのぐかなりの変人かも。数学オタクとか。
それが彼との最初の出会いだった。
名も知らない。図書館で稀に会うようになる彼。出会うたびにお互い小難しい本を抱えて、特に何か話す訳でもない。
たまに上にある本をとってくれるので、礼を言う。
目が合うと会釈をする。
こんにちは、と言うと、どうも。と返ってくる。それ以上の会話はお互いにない。
その程度の関係。
その程度の関係だから、この密やかな交流とも言えないような顔見知りの存在を誰かに言うことはなく。
この時の私は、まだ知らなかった。
まだお互いに子供だった。
「やっぱ、難しいわこれ。何言ってるかさっぱりだ」
「ルリ?」
「専門家に聞きたい〜…。いっそお父さんに聞こうかな。ひっくり返るかもしれないけど…」
連日の暑い空気を冷やすかのようにナギサシティには雨が降っていた。
雨傘を持っていなかったのであろう。フレンドリィショップから出てきた大人のお姉さんが、ぎょっとした顔をして小走りに去っていくのが窓越しに見えた。
雨の日はトラウマを思い出しがちだから嫌いだ。嫌いだけれど雨自体は嫌いではない。
気にしなければいい。何か別のことを考える。そうして、騙し騙し乗りきっている。
ナギサシティの図書館。今日の私はそこにいた。
シンオウ地方で有名なミオシティの大図書館ほどではないが、ナギサにも図書館くらいはある。
さすがポケモンリーグの玄関口とも言われる街だけあって、素人目に見ても各公共機関がしっかりしているのがナギサシティの特徴だと思う。シンオウ地方最西端。自然の地形を利用した港、高低差のある町並み。美しい街だと思う。
この街の海は浜辺以外は暗礁も多く、条件が整うと海辺では濃霧も発生する。
海に出た船を誘導するシルベの灯台は、ひとたび霧が出ると霧笛を鳴らす。
『この音は、ダイヤフラムホーンといって電磁式発信なんだ!発音板っていう板を電気の力を利用して振動させると音が出るんだぜ。音波標識っていって、視界が悪い時に船に対して方向を知らせてやるんだ!それにな……機能が…で…共鳴が…なんだ!すごいだろ!』と機械少年デンジくんが先日注釈と脱線含めてたっぷり1時間くらい熱弁してくれたから覚えた。
この手の話はもはや聞き飽きているらしいオーバくんに『かくかくよくデンジの話に付き合ってやれるよな…』と感心された。
だってキラキラした瞳で一生懸命楽しそうに好きなもの語っている少年を無視できる?できないでしょ?
うん、うん。そうなんだ。それで?って聞いてると、ずーーーーっと話してんの。
普段口数少ないのに、ずーーーっと話してんの。可愛いくて遮れないでしょう。
図書館の中をグルリと回る。今日は何となく人が少ない。
総記、哲学、歴史、社会科学、自然科学…。棚と棚の間を私の軽い足音が響く。小難しい書籍ばかり並ぶコーナーにいる私の姿は目立つ。
気づいた大人はチラリと私を一瞥するが、探検している子供が迷い込んだんだろうとまた本棚に目線を戻した。
私が今日探しているのは、伝説のポケモンに関する本。それと時空や異世界について。
シンオウ地方に伝わっているポケモンの話はすごくたくさんあって、さまざまな神話が本になっている。
私も学校の図書室にある絵本で読んだ事があるけれど、絵本では詳しい事は調べられない。なるべく研究者が専門に書いた学術的な本が読みたい。そう思い図書館まで足を運んだのだった。
「自然科学…400から499の棚か…。数学、物理化学…ここまではこの間探したから、今日はとりあえずこの辺りからかな」
ずらりと並ぶ本の中からお目当の本を探す。暇を見つけては図書館に通っているので勝手知ったるナギサ図書館だ。
『教えてヤドラン先生!〜わかりやすい算数〜』とかいう題名のかかれた本があったりすると和む。
「数論序説、…解析入門、…線形空間…ひえ頭痛くなってきそう…」
とりあえず時空に関するものなら物理化学だろう。元の世界では物理はそれほど得意ではなかったが、読んでいるうちに思い出すかもしれない。
棚の上の方にあった気になる本に手を伸ばそうとしたが、なかなか届かない。
まあ、ここ子供のくるようなコーナーじゃないからね。そうね。
でも少しジャンプしたら届きそうだ。よーし、とジャンプしようとしたら、お目当の本はスウッと横から伸びてきた手によって視界から消えた。
「これか?」
「…どうも、ありがとうございマス」
私よりも幾分か背の高い青年が本を差し出してきた。青灰銀の髪色を持つ落ち着いた印象を受ける青年だ。
彼は手に持った本のタイトルと私をチラリと見比べ、少し驚いたような表情で私を見た。
「…重力理論だ。わかるのか?」
「なんとなく」
「ふむ…そうか」
まあ、読めば何となく分かるよ。中身これでも大人だし。分かるというか、分かった気になるというか。
本を受け取ってパラパラともくじを読むと、古典力学から相対性理論まで。と書かれていて、見た目のゴツさに対して中身が易しそうではあったのでとりあえずこれを読んでみようと思う。
その本を借りる気満々で小脇に挟んだら、目の前にいる青年はまたちょっと驚いた表情をした。
面白いものを見つけたような、珍しいものを見たような、そんな空気を孕んだ瞳。無表情に近いので分かりにくいが。
なんだいなんだい。気にしないでくれ。いろいろ事情があるんだこっちは。
見ると青年の手には「時空構造と存在の確定」だの「マクロ経済学」だの「分子ポケモン生態学学術書」だのこれまたコアで難解な本がしっかり握られていた。私ほどではないが見た限り彼もまだ若い。大人っぽい顔つきをしているので分かりにくいがせいぜい12、13歳といったところか。
(…本物の天才ってやつかしら。それかかなりの物好き)
それともデンジくんをしのぐかなりの変人かも。数学オタクとか。
それが彼との最初の出会いだった。
名も知らない。図書館で稀に会うようになる彼。出会うたびにお互い小難しい本を抱えて、特に何か話す訳でもない。
たまに上にある本をとってくれるので、礼を言う。
目が合うと会釈をする。
こんにちは、と言うと、どうも。と返ってくる。それ以上の会話はお互いにない。
その程度の関係。
その程度の関係だから、この密やかな交流とも言えないような顔見知りの存在を誰かに言うことはなく。
この時の私は、まだ知らなかった。
まだお互いに子供だった。
交流ともいえない、その程度の
「やっぱ、難しいわこれ。何言ってるかさっぱりだ」
「ルリ?」
「専門家に聞きたい〜…。いっそお父さんに聞こうかな。ひっくり返るかもしれないけど…」