小噺





猿夢「暇、ですねぇ。」



真昼の中、悪夢の世界に一本だけある線路をさ迷う一台の電車。人が眠り夢を見る頃ではないこの時間は、その世界の住人にとって退屈この上ない時間帯であった。時折、長い黒髪の少女が遊びに来る事はあるが、今日は来る様子もない。


猿「こんな時に来ないなんて、役立たずで鬱陶しいにも程がありますよ。」



悪夢電車の車掌、猿夢は深い溜息を吐いた。この“猿夢”と言う一つの悪夢の世界を作り上げた張本人は悪夢電車の一番車両、もとい車掌専用車両で一人寂しく紅茶を嗜んでいた。

否、一人寂しくではない。



猿「そう思いますよねぇお前達。」


小さな小人達をテーブルに上げ語り掛ける。名前の無いその“しもべ”達も猿夢が作った幻像。たった一人悪夢電車を管理する彼にとっては唯一無二の存在だ。

ティーセットのビンから角砂糖を取り出し小人に与える。小人は嬉しそうにピョンピョンと跳ね大喜び。その様子に猿夢は柔らかく口角を上げた。

悪夢に招待した人間を甚振る様子からは考えられない優しい表情。それ程彼等が大切らしい。



猿「ふふ、美味しいですか?」


指先で小人の頭を撫でる。小人達は腕を伝い肩にやって来た。顔に擦り寄り甘えている。猿夢は更に笑みを増した。沢山の小人達を一人一人愛しげに眺め、また一口紅茶を吸った。




猿「⋯おや。怪人アンサーが眠りについた様ですねぇ。“遊び”の準備をお願いします。」




“玩具”の睡眠を確認した為、急ぎ目に紅茶を飲み干し、楽しそうに専用車両を後にした。沢山の仲間を引き連れて。







猿「行きますよ、お前達。」





END
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