小噺





隙間女「なに弾いてるの?しゃどー。」



深夜。廃神社となっている境内の石階段に車道男と隙間女は居た。先程まで隙間女は「狭い場所でなきゃ眠れない」と賽銭箱の中で眠っていた。因みに埃まみれだった賽銭箱の中はきちんと掃除を済ませてから入っていた。



車道男「あ、起きた?ハニー。」

隙「これギター?」

車「違うよ、ベース。」

隙「べーす?」



車道男は彼女が目覚めるまで趣味であるベースを弾いて待っていた。隙間女は初めて見る楽器に興味津々の様子だ。


車「見て。ベースはギターより弦が太いんだ。だから低い音が出るんだよ。注射男君が新曲書いて来たからそんで練習してんだ。」

隙「へー。触ってみてもいい?」

車「どーぞ♪」


車道男からベースを受け取ると予想外に重かったのか膝に乗せるのがやっとだ。恐る恐る指先で弦を弾く。ベイン、と先程車道男が弾いていた音とは違う音が響く。


隙「ん~、上手く出来ない⋯」

車「ピック使うのもいいよ。俺はそのまま弾くけど。」

隙「難しいねー。」




返されたベースを手にそのまま一曲弾き始めた。



車「ベースって音低いからあんま目立たないけどさ、影からバンドを支えてるって感じで俺は好きなんだ。」

隙「そーなの?」

車「ん。目立たないけどバンドには必要ってトコ、良いと思うよ。」


車道男の指先や視線をじっと伺う。楽しそうに、かつ滅多に見せない真剣な表情で弦を操る。飽きる事無く見続けていた。低く重いその音を心地良さそうに聴き入っていた。




車「ごめんハニー!ずっとシカトしちゃってたよね!?」

隙「んーん、ずっと見てたからぜーんぜん。」

車「ハニーが見てくれてるって思うとスゲー調子乗ってた⋯ハズい⋯。」

隙「なんで?」

車「へ?」


隙「べーす弾いてるしゃどー、わたし好きっ!」


車「ハニー⋯、大好きだよハニー!」

隙「わぁ、ぎゅーされちゃった。」




2人の時間にまた一つ楽しみが追加された。“音”に心が揺さぶられる心地良さを隙間女は初めて知ったのだった。




END
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