小噺
ヒキ子ちゃんの濃い青のスカートは歩く度に小さく揺れる。口裂けさんの真っ赤なロングコートは長い髪と一緒に綺麗に踊る。花子ちゃんの短い丈は一つ跳ねるとふわりと舞う。
皆のスカートが、皆に合わせて翻る。そのスカートからスラリと流れるものは、私にはないもので。この手しか歩行手段の私には、あって当たり前のそれが羨ましくて仕方がなかった。
リズムを刻む様に靴音を鳴らして、レースのあしらった可愛いスカートを履いて、大好きな人と手を繋いで歩ける、
足が、あれば。
怪人アンサー「佐知子。」
小さく溜め息を吐くと、私の名前を呼ぶ優しい声が降って来た。
テケテケ「アンサーさん。」
怪「体調でも悪いのか?顔色が悪いぞ。」
大好きな人。この人の側に居る様になってから、足への固執は強くなった。近い目線で歩きたい、自分からもっと近くへ寄り添いたい。そんな願いを持つ様にもなった。
テ「大丈夫、何でもないよ。」
怪「そうか?なら構わないのだが⋯」
なんて事言ったって仕方無いし、余計に心配掛けたくないし。胸の奥にしまっておこう。
テ「わっ⋯!」
唐突にアンサーさんはひょいっと私を抱き上げた。目線が高くなったと同時にアンサーとの距離がゼロに等しくなった。そしてドキドキする。
怪「何でもない訳ないだろう?お前の『何でもない』は。」
テ「えっ、」
怪「何を悩んでいるんだ?」
物凄い近い距離、アンサーさんは突然こうやって私を抱き上げる事はたまにある。でもそれはいつも突然だから中々慣れない。身体がぴったりと密着してるから心音がバレてしまいそうだ。
そして、この人には隠し事が出来ない。
テ「⋯⋯スカート、」
怪「む?」
テ「スカート、足あったら履けたのになって⋯。ふわふわしたスカート履いてさ⋯アンサーさんと一緒に、デートとか⋯したいな⋯って⋯」
じわりと目元が熱くなって来た。それを気付かれない様にアンサーさんの服をぎゅっと握り胸に顔を埋めた。アンサーさんは黙って髪を優しく撫でてくれた。
アンサーさんに聞けば、きっと足の場所を教えてくれる筈だ。でも私もアンサーさんも知っている。私の足が見付かれば、“私”は“私”で居られなくなって消えてしまうんだ。足がないから、“私”は“都市伝説のテケテケ”で居られるんだ。
私たち怪異は夢を叶えられないんだ。
怪「⋯⋯やれやれ。泣いた後寝てしまうのは最早癖だな。」
せめて、せめて夢の中でも。綺麗な足でひらひらと舞うスカートを履いて、大好きな人と手を繋いで⋯
私の叶わない夢を叶えて下さい。
END
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