小噺



私がいつも集まっている某小学校の先生に恋をし、その先生の北海道転勤が決まり学校から旅立った更に数日後。

伝えられずに終えた失恋の悲しみはだいぶ癒えてきた。最初はみんなからも沢山気を遣って貰っちゃったけど、自然に楽しい事は楽しいと笑えるようになった。

あの日以来、朝まで泣き続けた私を慰めてくれたアンサーさんと2人で会話をする機会は無かった。
でも今日は改めてお礼を兼ねて手作りのお菓子を持って来た。注射男さんに教えて貰って、アンサーさんの居る教室へ会いに行った。アンサーさんはケータイ電話をカチカチ鳴らしながら何かを見ていた。


テ「あ、アンサーさん⋯!こ、こんばんは⋯!」

怪「⋯!テケテケではないか。どうした。」

テ「えっと⋯、遅くなっちゃったんですけど、こ、この間のお礼です!!ありがとうございました!!」


元はアンサーさんからだったとは言え、男の人に抱き着いてしまった事実になんだか恥ずかしくなって、うまく目を合わせられない。
お菓子を手渡すのも照れてしまう。もう鳴らない筈の鼓動は早く鳴り、震える手で差し出す。するとアンサーさんは目を開き驚いた表情を見せた。


怪「手作り、か⋯?」

テ「あっ、はい⋯。甘いの好きか分からなくて、男の人でも美味しく食べられる様にビターチョコの、パウンドケーキを⋯。」

怪「参ったな⋯。」

テ「⋯え!? ご、ごめんなさ⋯、」

怪「こんなに嬉しい事はない。ありがとう。」


アンサーさんの口から出た言葉は優しく、手で口元を隠しながらもその頬は赤く染まっていて、喜んでくれた事を物語っている。私も心から嬉しく感じた。
今までみんなにお菓子を作って持っていったけれど、これまでとは違う、胸の奥から熱くなる様な嬉しさだ。

アンサーさんが私の事を「守りたくなる」と言っていた事は知っている。でもそれは、単に体の小さい私をマスコットとか小動物とか、子供を相手にする様な感覚で言っているのかと思っていた。

そんなアンサーさんが、私の事で顔を赤く染めて喜んでくれた事が嬉しくて嬉しくて、ドキドキが止まらない。このままじゃ、


テ「あーーー!!私用事を思い出しちゃった!!もう行かなきゃ!!それでは失礼します!!」

怪「え、」


堪えきれなくなり、勢いよく教室から飛び出した。自慢のスピードでいち早くアンサーさんから距離をとった。熱くなった体を冷ますのも丁度いい。

じゃないと私⋯⋯、



テ(失恋したばっかりなのに⋯、こんなの、好きになっちゃうよ⋯)



新しい恋に芽生えてしまいそう⋯いや、もうしてしまったのだから。







怪「⋯メールアドレスを聞きそびれてしまった。⋯まあ良い、ケーキを食べながらニュースの続きでも⋯

⋯ん?北海道で小学校教師が児童をかばい交通事故?ほう⋯。」


アンサーさんがケータイ電話で見ていたニュースサイトにそんな見出しが表示されていたのを、私は知る由もなかった。




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