第1部
こんばんわ。私は下半身の無いお化けです。都市伝説のお化け「テケテケ」として第2の人生を楽しんでいます。
お化けになってから面白い友達も出来て、毎日とっても楽しいです。
そんな私はある日、恋をしました。
花子さん「テケテケ~」
テケテケ「⋯⋯」
花「テケテケ?」
テ「⋯⋯⋯」
花「テケテケってば!」
テ「わぁ!?あ、ごめんね、どうかしたかな?」
花「どうかした?って⋯さっきから呼んでもボーッてしててさ。あんたこそ何かあったわけ?」
こちらは花子ちゃん。お化け友達の一人、低学年くらいのちょっと気が強い女の子です。
でも本当は素直になりたい優しい子だって私は知ってるよ。
テ「な、何でもないよ⋯!」
花「ふぅん?なら良いんだけどさ。」
花子ちゃんは「掃除の続きー」と言い、女子トイレに戻っていった。
テ「ふぅ⋯。」
口裂け女「ごきげんよう、溜め息なんか吐いてどうかして?」
テ「あ、口裂けさん。」
彼女は口裂け女さん。一番年上の大人の女性です。よく花子ちゃんをからかい喧嘩もしばしばだけど、きっと本当は口裂けさんなりに可愛がっているんだよね。
口「もしかして貴女⋯」
テ「⋯?」
口「恋、したわね?」
テ「へっ!?」
口裂けさん唐突に何言ってるの!?と言いたいけれど言葉がうまく回らない泡ふためく状態の私に口裂けさんはくすくす笑う。
口「ほほほ。貴女も女ね♪」
ああ⋯やっぱり大人の女性だ。やっぱりなんでもお見通しだなあ⋯。
口「で、どんな殿方?」
口裂けさんはワクワクしながら聞く。
口裂けさん⋯、いつもより目が輝いてるような気がするよ⋯
テ「言ってもつまらないよ⋯、だって相手⋯」
口「なぁに?もう、勿体振らないでお言いなさいな。」
テ「その人、生きてる人なんだもん⋯」
花「えー!?ケテケ好きな奴いたの!?しかも生きてる人!?」
テ「花子ちゃんいつの間に!?」
口「⋯あらまあ、それは多難な恋ね。いつから?」
テ「うぅ⋯、恥ずかしいよ~⋯」
皆にそんな恋愛の話するのなんて初めてだなぁ。
凄く恥ずかしいけど、どんな人か言うだけなら良いのかな⋯?
テ「2週間くらい前、この学校に忘れ物取りに来た人が居たの。職員室に入って行ったから多分先生だと思うけど⋯」
花「それでそれで!?」
テ「その人が職員室から出た時、目が合ったの。
そしたら、恐がらないでニコッて⋯笑顔向けて、くれて⋯うぁー!恥ずかしいぃい!!」
口「まあまあ⋯恐れない人間が居るなんて珍しいわね。で、どうするの?」
花「告白?」
テ「え!?むむ、無理無理!!駄目だって!」
ヒキ子さん「⋯引き摺って来ますか⋯?」
テ「ってヒキ子ちゃんもいつからそこに!?」
この子は大人しいヒキ子ちゃん。人をいつも引き摺ってる、心に傷を負っている子だけど、最近は皆と仲良くなって来てると思うな。
テ「皆には悪いけど、とにかく相手は普通の生きてる人だし⋯諦めるよ!」
花「えー」
口「貴女それで良くて?」
ヒ「⋯⋯⋯。」
そろそろ明け方に近付いてきた4時。私は「大丈夫」と笑って言って、今夜は皆その場で解散した。
昼間はお化けとして活動しない時間。私は暗い所で力を溜めながら夜に向けて待機していた。
テ「今日も、居るかな⋯」
私は小学校前で少しドキドキしながらあの人を待つ。午後2時を告げるベルと共に学校から出てくる⋯
「先生さよならー!」
「気を付けて帰るんだぞー。」
来た。あの人だ。
「ナオヒコ先生、また明日ー!」
「おう、気を付けてなー!」
ここの小学校の先生である“ナオヒコ”先生。それだけしか知らない。
だけど笑顔が優しい人。
朝と午後に生徒達一人一人に挨拶をしているこの時間を、私はいつも待っている。
それに⋯
「⋯⋯!」
いつも、私を見付けては笑顔を向けてくれる───
見える人ならば、私を見ては怯え、「化け物」と言い逃げる。お札を投げられた時は流石に成仏しちゃうかと思った。そんな人を私は構わず怖がらせ続けた。
でも彼は違う。
“ナオヒコ先生”だけは違う。本当に、その笑顔が大好きになっていた。
「⋯またね。」
ぼそりと呟き、直ぐに消え去った。
深夜2時。またいつもみたいに皆で集まった。
口「テケテケ。」
テ「⋯⋯」
ヒ「⋯⋯テケテケさん?」
テ「⋯⋯⋯」
口「テケテケ⋯⋯返事くらいしなさい!」
テ「ふえ!?」
口「テケテケ⋯貴女ますますボーとしてきていてよ?」
テ「嘘!?ごめんなさい!」
口「もう⋯貴女お化け以上にお化けみたいよ?」
うーん、お化け以上にお化けみたいって何だろう⋯。でもまたボーってしてたんだ。
テ「なんかもう、毎日見れば見る程辛くなって⋯諦めつかなくて…。」
口「テケテケ⋯」
ヒ「⋯テケテケさん⋯⋯」
すると、廊下から花子ちゃんの声と走る音が鳴り響く。
花「テケテケー!!大変大変!」
口「何よ、騒々しい。」
花「あんたじゃないわ!テケテケ、大変なの!」
テ「どうしたの?」
花「大変なの!あんたが好きだって言った先生、転勤だって!!」
テ「え⋯?」
ヒ「⋯何処に⋯?」
花「確か北海道⋯、来週にはもう⋯」
テ「⋯は、はは⋯あははは⋯」
口「テケテケ?」
テ「あはははは⋯!よかった!これでスッパリ諦められるよ!」
花「テケテケ、良いの⋯?」
テ「あはは、はは、あー、おっかしい⋯!笑い過ぎたら喉渇いちゃった。ちょっと水飲んでくるねっ!」
私はドアをガラガラ開け、教室を出た。するとドアの内側から小さい声が聞こえた。ヒキ子ちゃんだった。
ヒ「⋯テケテケさん⋯、あの⋯無理、しないで下さいね⋯?よく、⋯頑張りましたから⋯、」
テ「⋯ッ、⋯⋯ごめ⋯っ⋯」
頑張って我慢して笑ったふりをしていたけど、遂に涙が溢れた。私は零れる涙を押さえる手より、早くこの場を離れようと手を速く進めた。
テ「な⋯、泣いちゃ⋯駄目⋯う⋯ッ」
怪人アンサー「何を泣いている?」
テ「うわぁあ!?アンサーさん!?」
怪人アンサーさん。何を質問されても全てを答えられる頭脳を持つらしい、ちょっと⋯少し変わったお兄さんだ。
テ「な、泣いてませんよ⋯!あ、別に失恋なんかしてませ⋯、はっ、しまった墓穴!!」
怪「そうなのか?(天然なのも可愛いな⋯)」
テ「そうですよ!!」
ああもう、正直過ぎな自分が憎い!失恋はするし、皆にはバレるし、心配かけちゃうし⋯!
もう最悪だ⋯
テ「⋯!!」
気が付いたら、私はアンサーさんに抱き締められていた。反射的に武器の鋸を構えてしまう。
テ「は、離してください!!」
怪「何も言うな。その物騒な武器も下ろせ。
⋯今だけ胸を貸してやる。存分に泣け。いつでも良いから、またいつもの笑顔を見せろ。」
テ「⋯⋯」
怪「な?」
アンサーさんの見せた笑顔は、まるであの人のように優しくて⋯。目の奥が熱くなる。溢れ出た涙はもう止められなくなった。
テ「う⋯うわぁあん⋯!!」
私はアンサーさんの服を掴み声を上げて泣いた。そりゃあもう、五月蝿いくらいに子供の様に泣いた。その間アンサーさんはずっと優しく髪を撫でてくれた。
ただ、今は悲しみの赴くままに泣こう。
泣いて泣いて、沢山泣いて、悲しい気持ちを洗い流して明日はまた笑顔に戻ろう。
だから、だから今だけ⋯
テ「⋯アンサーさん⋯」
怪「何だ?」
「⋯⋯ありがとう。」
だから今だけ、貴方の腕の中で甘えさせて。
数時間後
怪「テケテケ⋯?おーいテケテケー?」
テ「すぴー⋯」
怪「泣き疲れて寝ている⋯?⋯まあ、これも悪くはないな。」
私を胸に抱いたアンサーさんも、いずれも目を閉じ眠りについた。それに気付くのはまた更に夜明け前の事だった。
END