第2部
クリスマス。それはいつしか恋人達の為のイベントとなってしまった。イルミネーションのライトに染められた街の中でプレゼントを贈り愛を確かめ合った恋人達は「自分達はこの世界で一番幸せなカップルなのだ」と思っているであろう。
そんなクリスマス間近に、恋人へのプレゼントに悩む人物⋯都市伝説のお化けが1人居た。
さとるくん「プレゼントが決まらない⋯っすか?」
怪人アンサー「うむ⋯。全く考えつかないのだ⋯」
さ「アンサーさんセンスあるって思ってましたけど⋯。意外っすねー」
男子メンバー1の紳士、怪人アンサー。何事もそつなくこなす彼は年下であるさとるくんに真剣な表情で一生に一度の本気の相談をしていた。そう、恋人のテケテケへのクリスマスプレゼントについてで
怪「私は寧ろこういった事が苦手なのだ。答えのない人の感情、喜怒哀楽⋯全く理解出来なくてな⋯。今まで黙っていたが。」
さ「全く悟れなかったっす。ここまで悩みを押し殺す人も珍しい⋯」
怪「それなのだ。お前の能力で人の感情変化や好みを大体は“悟れる”だろう。だからお前に相談している。」
さ「あっ、なーる。」
そう、怪人アンサーとさとるくんの能力は似ているようで全く対照的だ。例えるならば怪人アンサーは答えの決まっている数学や算数が得意、対してさとるくんは言葉選びや複雑な心情、心境を捉える国語が得意。そんな違いだ。
少なくとも普段から女装を好んで趣味としている彼なら女心も少しは理解しているだろうと言う単純な理由で相談相手に選んだに過ぎない。
さ「因みに去年は何あげたんすか?」
怪「チョーカーだ。赤い薔薇が付いている⋯」
さ「一昨年は?」
怪「ダイヤのネックレスを⋯」
さ「首に付けるモノばっかりじゃないっすか!!」
怪「だから今年はせめてまともな物を贈りたいのだ!!」
さ「いや 今までのものも普通に女の子は喜びますけどね⋯。例えばどんな物が良いっすか?」
怪「アクセサリーは付けなければならない強制感を感じる⋯。寧ろ枷の様にも見えたからな。それ以外だな。もっと実用性があり、かつバラエティーにとんだ⋯」
案外面倒臭い人だなぁ。ほんの少し抱いた感情をそっと胸にしまい さとるくんも顎に指を添え考える。怪人アンサーも携帯電話でネットを開きながら唸る。そこへ、
注射男「何うんうん唸ってるんだよお前ら。」
注射男も某小学校へ到着し怪人アンサーとさとるくんの居る教室へやって来た。
さ「こんばんはー」
注「ん。太郎はまたお呼ばれか?」
さ「女性陣と手作りお菓子パーティーっす。⋯あっ!折角だから注射男さんにも協力して貰いませんか?」
注「協力?」
さとるくんの一声に怪人アンサーは若干表情を引きつらせたが仕方なく事情を説明した。注射男も半ばどうでも良さそうだったが話は大人しく聞いていた。
注「そんなの花でもアクセでも何でもいいだろ。」
怪「何でも良いと言う回答が一番困るのだ、馬鹿者。」
さ「注射男さんは去年口裂けさんに何かプレゼントしました?」
注「そりゃあしたぜ!人気SMグッズ詰め合わせ!俺の愛のレターも添えて⋯」
さ「それでどうなったんすか?」
注「放置プレイされた♪」
怪「ただ無視されただけだろう。ますます分からなくなって来た⋯」
注「ンなの手っ取り早くテケテケに聞けばいいだろ。」
さ「いやー テケテケさんこそ『何でもいいよー』って答えるタイプっすよ。と言うか遠慮しそう。」
怪「そもそもお前はヒキ子にやらないのか?プレゼント。」
さ「うーん⋯。前にウサギのぬいぐるみあげたら引き摺って持ち帰られた事あったくらいっすかねー。気に入ったのか否か悟れなかったっす。」
注「あー⋯ヒキ子らしいっちゃらしいな。」
暫く過去の経験を交え案を出し合ったが怪人アンサーの納得がいく案が出た訳でもなく、時間だけが無駄に過ぎて行ってしまった。最終的には初体験はいつだと言う下衆な話に持っていかれてしまった始末だ。
怪「ふむ⋯やはり本人に聞くのが一番だな⋯。」
注「何勝手に締めてんだよー。聞けよ俺の武勇伝。」
さ「注射男さんのビッグな自慢はもういいっすよー。」
怪「やはり自分で考える。貴様らに世話を掛ける訳にもいかんからな。ありがとう。」
さ「あっ⋯行っちゃった。 でもまぁ、テケテケさんなら⋯。」
注「さとる~ お前は聞いてくれるよなァ?オトナの勉強しようぜ?」
さ「ハイハイ。」
怪人アンサーはそっと教室を後にし校舎から出ようと歩みを進める。その時、お菓子パーティーをお開きにし帰るであろう女子メンバーの声が聞こえた。
花子さん「もう明日はクリスマスイブね!テケテケはまたケーキを作ってくれるの?」
テケテケ「うん!めっちゃ張り切っちゃうよっ!」
口裂け女「毎年すごいものね。」
ヒキ子さん「⋯⋯あれ⋯、テケテケさん…こんなに寒いのに手袋しないんですか⋯?」
クリスマスの話の途中でヒキ子さんのふとした発言に覗き見ていた怪人アンサーもテケテケの手に視線を向けた。確かに指先も赤くなっているにも関わらず手袋をはめていない。
怪(手袋⋯と言うのも悪くないな。マフラーも合わせて⋯。)
ヒ「⋯⋯よ、宜しければ私⋯、」
テ「もーねぇ、手袋だけは自分で編んだやつじゃなきゃ駄目なんだよぉ。すぐボロボロになっちゃうから、新しいのはまだ編み途中なんだ。」
口「あらそうなの。仕方ないわね。」
ヒ「⋯⋯⋯そうですか⋯。」
花「ヒキ子、ドンマイ。」
恐らく同じ考えだったらしいヒキ子さんもガクリと首を落とし、また振り出しに戻ってしまった。然し、実用性のある普段使いの良い物が一番良いなと思いそこから考えを広げようと校舎を後にした。
怪(雪国の都市伝説とはいえ身体は冷やさない方が良いからな⋯。何か暖かくなれる物か何か⋯⋯。)
そして時は経ち、クリスマスイブの深夜。男子メンバーも呼びクリスマスパーティーが開催された。テケテケは宣言通りのケーキで皆を驚かせ、ちょっとしたゲームやおふざけを楽しみ、あっという間に日付も変わり25日となった。花子さんと太郎くんもサンタクロースが来てくれると早めに眠りについた。
テ「楽しかったねー!」
口「貴女本当に器用よね。作れないものなんてないんじゃない?」
ヒ「⋯⋯流石です⋯。」
テ「そんなことないよ~!ほら、他の国の郷土料理とか民族衣装とかは全然作れないし!」
口「そこまでは求めていなくてよ⋯。」
注「プレゼント交換はさすがに無かったな~。おもしろグッズ揃えてたのによ。」
さ「金銭的な差とかがありますからねー。アンサーさんは結局決まったんすか⋯あれ、いない。」
注「なんだなんだ、お楽しみの時間かよこのっ!」
さ「卑猥に聞こえるっすねー」
怪人アンサーは悩み抜いて決めたプレゼントを隠しながらテケテケを集まっていた教室から連れ出した。テケテケも何の事か少し察したのか顔を赤くしながら着いていく。教室から大分離れた廊下でそっとプレゼントの箱を手渡した。
怪「その⋯、クリスマスプレゼントだ。受け取ってくれ。」
テ「あ⋯ありがとう⋯!開けてもいい?」
怪「そうしてくれ。」
嬉しそうに小ぶりな箱の包みを丁寧に広げ箱の蓋を開けると、テケテケの小さな手に丁度良いサイズのマグカップが顔を出した。グレーとイエローのラインが入ったシンプルなデザインだ。
テ「わぁ⋯!マグカップ⋯!」
怪「毎年アクセサリーばかりだったからな⋯。実用性を考えたのだがどれも浮かばなくて…。紅茶や珈琲が好きだと言っていたし身体も冷やして欲しくないからな⋯。」
テ「アンサーさん⋯。」
怪「然しデザインも些か地味だったよな⋯。如何せん私はこういったセンスや流行には全く疎くて⋯」
テ「アンサーさん⋯、そんなにいっぱい悩んで選んでくれたんだね⋯!」
怪「⋯え?」
気恥ずかしさから目をそらしテケテケの言葉を遮る様に言い訳の様な言葉を並べてしまっていた。然しテケテケは目を輝かせマグカップを両手に抱く。
テ「嬉しいよ⋯!私を想って選んでくれたんだもん⋯!大事に使う⋯!」
怪「喜んでくれるのか⋯?」
テ「当たり前だよ!それに、このグレーのとこ、アンサーさんの目の色みたいで安心する。黄色も大好きだし、私は好きだよ。ありがとう!」
感激のあまり涙さえ出てしまいそうな程の歓喜が全身を巡った。考えて考えて漸く選んだプレゼントを喜んで受け取って貰えるのはこんなに嬉しい事だったのか。怪人アンサーは初めてそう思った。
テ「それにね、アンサーさんのくれた物は全部宝物だよ。」
テケテケの服の襟の隙間からキラリと何かが光った。それは以前のクリスマスにプレゼントしたネックレスだ。
ここまで悩んだが、簡単な事だった。悩み迷い考えてプレゼントした物に嬉しくない物なんてない。テケテケはこんなにも幸せそうな笑顔を見せているのだから。
テ「私もね、アンサーさんにプレゼントあるの⋯!手袋、なんだけど⋯」
怪「私にか⋯?」
テ「うん。いつも手寒そうだなって思ってたから⋯。五本指の細めのタイプだからケータイも使いやすいよ⋯!」
なんとテケテケからもクリスマスプレゼントが用意してあった。本人は今年はあげる事だけ考えていた為予想外であった様だ。因みにそれはグレーのシックな手袋である。
テ「実は私もかなり悩んでたりして⋯。あと勝手ながらちょっとリボンも縫い付けてみました。色は好みで黄色に…、」
怪「私も灰色と黄色は好きだ。黄色は特に、お前の目の色の様で落ち着くからな。付けてくれないか?」
テ「⋯うん!」
怪「どうだ?似合うか?」
テ「うん、凄く素敵!喜んでくれて私も嬉しい⋯!」
プレゼントの手袋の暖かさを感じながら、怪人アンサーはそのままテケテケを抱き上げた。廊下の窓からは灰白色の雪がチラチラと降り始め、見事なホワイトクリスマスを演出していた。
怪「最高のクリスマスだ、佐知子。ありがとう。私は幸せ者だ。」
テ「私も凄く幸せだよ!ありがとうアンサーさん。」
寄り添う様に2人の影は重なり、身も心も暖かな幸福で満たしていった。この時の2人はお互いに世界中の誰よりも幸せだと思っているだろう。そんな邪魔出来ない程に幸せそうな2人を仲間達は見送りながら、それぞれのクリスマスを楽しんでいるのであった。
MerryX'mas.
END