第2部



7月7日、今年も七夕が人々の願いの為やって来た。織姫と彦星の一年越しの再会の喜びが奇跡を起こす日とも言える────



注射男「覚えてますか?」



そしてここにも、また二人隣り合わせとなった男女が。



口裂け女「は?」

注「いやいやいや『は?』⋯って!去年の七夕も二人きりだったじゃないですか~!!更に詳しく説明すれば第1部9話で、オマケにさとるが作者に忘れられて一切登場してなかった回(実話)で!!、」

口「知らなくってよそんな事!メタ発言もおよしなさい!寒いわね!」



口裂け女と注射男。昨年の七夕も二人でこの某小学校中庭で七夕の星空を楽しんで(?)いた。そして今年も偶然なのか必然なのか、作られた偶然なのか。同じ中庭で二人きりになった。


口「全く自惚れないで頂戴。たまたま一人抜けていた所に貴方が勝手に付いて来ただけじゃないの。」

注「ガーン!!」


口裂け女の言葉の刃が刺さり、注射男は衝撃で脳天に岩が落ちて来る古典的表現が如くショックを受けた。ガックリ頭を下げ自惚れた己を反省する。

分かり易い程に落ち込むその様子に流石に言い過ぎてしまったかと背を向けていた注射男をチラリと見つめる。


口「わ、悪かっ、」

注「⋯あの夜の口裂けさんもまた⋯お美しかったなぁ~。」

口(⋯⋯裂こうかしら。)



落ち込んだかと思えばまたいつもの調子に戻る。テンションが上がったり下がったりな注射男の変わり身の早さは口裂け女もお手挙げだ。



口「少し黙っていてくれなくて?」

注「そんな~、だって口裂けさんが1人で居たら付いて行きますよフツーは。」

口「来ないで!」

注「それに世の中物騒だし、襲われちゃいますよ!」

口「私達が言える立場かしら、それ⋯。」



ああ言えばこういう、付き合いきれなくなり口裂け女は溜め息を吐き皆の所へ戻ろうと注射男に背を向け中庭を後にしようとする。



注「余り人に後ろを預けない方が良いですよ。」


口「⋯⋯五月蝿いわね、ほっといて頂戴。」





注「でも、もし────」





何を言おうが振り向く事なく歩き続ける口裂け女に注射男は静かに手を伸ばした。そして、彼女の細い腕を強く引いた。



口「────ッ!!」



余りの突然な出来事にそのまま重力に身を任せてしまった。目を開けた時には眼前に注射男が覆い被さる様にそこに居た。



注「────もし、こうされたらどうするんです?」




自分は今、この男に押し倒されている。



口「何の真似かしら?退きなさい。」

注「そう言われて退く程馬鹿じゃないですよ。」



珍しく反抗的な態度に、口裂け女は普段忍ばせている鎌を出し注射男の口元に切っ先を当て睨み付けた。



口「いい加減なさい。裂くわよ?」




これが常人だったならば、恐怖で戦き直ぐ様退き、謝罪し退去していただろう。そもそも相手が最強の都市伝説、口裂け女だと知っていながら押し倒す輩など常人とは言えない。

この男が、この男だから異常なのだ。




注「喜んで。」




異常なその男は微笑んだ。呆れて再び溜め息を吐き、ゆっくり起き上がる。



口「⋯⋯ふん、本当に馬鹿ね。」


注「馬鹿ですよ。」



先程は自分は馬鹿ではないと否定した筈の注射男は嬉しそうに口裂け女の長い黒髪を撫でた。




注「でも、俺だって男なんですよ。」




そしてそのままマスクを外し、裂けた彼女の唇に口付けた。







口「⋯⋯!!」


注「今日は七夕⋯、本当に願いが叶うんなら、俺のモノになってくれますかね⋯?」



突然の接吻に動揺し口を覆う口裂け女に注射男は唇をペロリと舐めながら笑う。思わず頬を赤く染めてしまった。




口「⋯私は天の者ではないけれど、仕方ないわ、叶えてあげる。」



片方だけ外れたマスクを掛け直し、静かに立ち上がる。




口「貴方のモノになってあげるわ


⋯⋯今夜だけ、ね?」




マスクの中で裂けた口角を上げ微笑み返した。その妖艷なる彼女に注射男はドキリと心拍を上げる。






注「口裂けさん。遠慮、しませんよ?」



口「なら最後まで、楽しませて頂戴?」






再び二人の唇は重なり、天の川の下で二つの影は闇の中で溶けた。一夜限りのその“願い”は儚くも甘く、全ては天の上の者だけが知っているのであった。




END
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