第2部



季節は6月───、梅雨入りにはまだ早い初夏。この季節の変わり目と同時にまた新たな風がお化け達の元へ吹き付けた。



花子さん「あ~~⋯だるい⋯」



女子トイレの個室でモップ肩に掲げたままうなだれる少女、トイレの花子さん。本日の曇り空の様に晴れない気分に苦しめられていた。




口裂け女「全く、6月に五月病なんて呆れたものね。」

テケテケ「仕方無いよ⋯、4月から5月ってまだ慣れてない新一年生の対応で忙しいみたいだし⋯」

ヒキ子さん「⋯面白半分で呼び出す児童が多いようですしね⋯。」


いつもの様に深夜の某小学校に集まったお化け達は様子が違う花子さんを陰ながら心配していた。


テ「きっと疲れてるんだよ。そっとしてあげよ?」

口「ふん、良いご身分ですこと。」

テ「うーん、呼び出す系の都市伝説も大変だね⋯。」

ヒ「⋯私達は⋯通学路での、遭遇系ですからね⋯⋯。」



因みに第1部では全く明かされなかった都市伝説のタイプ別振り分け。今更ながらここで紹介させて頂こう。


まずは遭遇系。主に通学路や道路で遭遇する事が多い都市伝説。場合によっては対処法が一説として存在する事もある。

ここでは口裂け女、テケテケ、ヒキ子さん、注射男、トンカラトン、車道男が上げられる。隙間女は私生活での遭遇が主となる。


次にある方法で呼び出す降霊系。花子さん、怪人アンサー、さとるくん。呼び出すに当たって何かしらのリスクが必要とされる。


最後に夢に現れる悪夢系。カシマさん、猿夢となる。夢と言う事で回避率は極めて低い事が特徴的だ。




太郎くん「花子ちゃーん。あーそーぼーっ!」


テ「あっ、太郎くん。」

太「こんばんはー。花子ちゃんいる?」

口「およしなさい、太郎。あの子なら 今五月病よ。」

太「ごがつびょー?なぁにそれー。」

ヒ「⋯五月病と言うのは⋯、」



太郎くん。彼はトイレの花子さんのスピンオフ的な都市伝説とされている。花子さんの恋人であったり、親族であったりと説は多々あるものの、この某小学校に現れるこの太郎くんは 今の所 人を傷付ける事もない、意外と謎が多いのである。

本人も花子さんのオマケ扱いな都市伝説である事に余り気に止めていない様子だ。



ヒ「⋯⋯では私と遊びましょうか⋯?」

太「ほんとー?やったぁ!さとるお兄ちゃんももう少ししたら来るって!」

ヒ「⋯⋯、⋯そうですか⋯。」

口「太郎も寂しがっているし、あの子を出て来るよう説得してやるわ。」

テ「うーん⋯。それもありなのかなぁ⋯。」





その頃、女子トイレの3番目の個室にて────



花「なんなのよもー、毎日毎日⋯。もう大した噂とかなくなったかと思ってたのに さぁ⋯、下級生が入るたびに上級生がまーた噂吹き込んでー⋯あーもーだるいだるいだるいだるいだるいだるいだるい⋯⋯」



ガンガンと壁をモップの柄で叩きながら1人ブツブツ日頃の鬱憤をぶつけていた。

彼女としては好きで殺されてしまった訳ではなく、好きで都市伝説のお化けとなった訳ではない。なのに面白半分で噂を確かめようと自分を呼び出す。そんな輩が花子さんは大嫌いなのである。



花「⋯テケテケ達心配してるかなぁ。でもヘタに顔合わせて八つ当たりなんてしてメイワクかけたくないのよね⋯。」



そしてこの通り素直になれなくて不器用なのである。







『⋯⋯⋯⋯う⋯⋯⋯か⋯⋯⋯⋯』





「悩みなんて別にないけど⋯、テケテケはマジで心配するし、ヒキ子も多分心配するし⋯口裂け女はぜったいバカにするし⋯⋯。」





『⋯⋯⋯⋯赤⋯⋯⋯マ⋯⋯⋯せ⋯⋯⋯よ⋯⋯⋯うか⋯』





「あーもぉ⋯こうやってウダウダしてるあたしが一番ムカつくぅ⋯。」





『⋯⋯赤⋯⋯ント⋯⋯着せ⋯⋯よ⋯⋯か⋯⋯?』




「⋯ってさっきから誰よ!?うっさいわね!」



『赤きマント⋯、着せようか?』


「え?」




花子さんの独り言の間で紡がれる何者かの声。イライラしている中聞こえるその声に花子さんは声の聞こえる頭上に目を向けた。

そこには、赤いマントに身を包んだ男がじっとりと彼女を見つめていた。








さとるくん「やっほーヒキ子ちゃーん♪太郎くんと遊んでたの?」

ヒ「⋯まあ、そうですが⋯。」

太「えへへー。」

口「さぁて、私達も花子の様子でも見に行きましょうか。」

テ「今日作ってきたお菓子持って行こうかな。」


注射男「口裂けさーん!口裂けさんじゃないですかー!」

口「まっ、タイミングの悪い。」

怪人アンサー「悪かったな、タイミングが悪くて。」

テ「アンサーさん!」



お決まりの男子メンバーも参上し、皆で花子さんを迎えに行く事になった。
その時、




「きゃああぁあ!!!!」




閑静な廊下に花子さんの悲鳴が轟いた。




「「「「!!!?」」」」



テ「花子ちゃん!?」

口「前にもあったわよこんな事!」

ヒ「⋯⋯デジャヴ⋯。」



どこかデジャヴを感じながらお化け達は女子トイレへひた走る。この胸騒ぎに彼女達は薄々と何かを感じ取っていた。




テ「花子ちゃーん!!」



花「みっ、みんな⋯!!」



口「な、誰よ!」

ヒ「⋯これは⋯、」



?「⋯何だ⋯?貴様らは⋯。」



そこへお化け達が見たものとは、赤いマントを羽織った男が花子さんを抱え今にも誘拐してしまいそうな光景。謎の男に皆その場で唖然とする。


花「た、助けて!!」


泣きそうな顔で助けを求める花子さん。男の正体もそうだが、まず先に花子さんを助け出す事が先決。男に先陣切って攻撃したのは────



口「ふんっ!!」

?「ぎゃん!」



口裂け女だった。
近くにあったバケツを男の顔面を目掛けて投げ付けた。見事にクリーンヒットした為 男は花子さんを手離し、その場に倒れ気絶してしまった。




?「う⋯⋯ん?」


口「さぁて、目覚めたわね?」

テ「話をたーっぷり聞かせて貰いますからね?」

ヒ「⋯小さい子に⋯花子さんになんて事を⋯。」



注「あいつら仲間内になんかした奴にゃ、とことん容赦しねぇよな。」

さ「それだけ仲が良いって事っすよ。」

怪「幸せ者だな、花子は。」



テ「まず、貴方は誰ですか?」

口「少なくとも私達と同じ存在なんでしょう?」

?「そ、そう簡単に貴様らに名乗ってたまるか⋯!」

口「ヒキ子、その首を締めておやり。」

ヒ「⋯⋯⋯名を名乗れ。」


?「ぐぇええ!な、名乗る!名乗るからぁ!だからその手を離せ!」


お化け達は妹的存在として可愛がっている花子さんに危害を加えた男にあれやこれや質問攻めを繰り出す。強情を張る男にヒキ子さんの首絞めでトドメを刺した所で、男は漸くその名を述べた。



「⋯ふう、⋯我が名は怪人赤マント⋯、この混沌なる世界で腐り行く人間共の首を狩る宿命を負う、闇に潜む赤き怪人だ。」



「「「「⋯⋯⋯⋯⋯」」」」



『あ、この人中二病だ。』お化け達は一斉に第一にそれを感じた。しかしその中二病より先に解説する事がある。



怪人赤マント────それは赤いマントを身につけた怪人が子供を誘拐、時に暴行し殺すと言う都市伝説である。

またそれとまた違うパターンの都市伝説もあり、誰もいない小学校のトイレで用を足そうとすると赤いマントの男が現れ、『赤いマント着せようか?』と質問をされ、『着ます』と肯定するとナイフで刺されてしまうという。
中には色を問う等、様々なバリエーションの噂を持つ都市伝説だ。


因みに中二病とは中学二年生頃の思春期に発症する『自分は他人とは価値観が違う』と思い込み自分には特別な能力がある、等の行動を取る人物に称される病名である。



さ「中二病まで説明乙☆」

口「へーぇ、それで花子を襲ったの?」

注「なんだお前ロリコンかよ。」

赤「なっ⋯!?我はロリコンではない!我の能力の根源は穢れ無き幼女の新鮮な生き血⋯、人間の首を狩る能力の為には必要不可欠なのだ!幼女の生き血を啜り何が悪い!」

さ「女の子に“幼女”とか言ってる時点でアウトー☆」

ヒ「⋯その語尾の“☆”は止めましょうか⋯鬱陶しいんで。」

怪「しかし、私と同じ怪人か⋯、歳は幾つだ?随分と若いな。」

赤「齢は数えて17、しかし元は年老いた怪人⋯、この姿は能力を使い、体内に蓄えている幼女の生き血によって保たれている。」

口「よく喋るのね、中二病っていうのは。それと、花子は生きた幼女ではなくてよ。謝罪と退去を要求するわ。」

赤「なっ⋯、そうなのか⋯!?いやしかし⋯、」

ヒ「⋯同じ存在であるのに気が付かなかったんですか⋯?」

赤「⋯うむ⋯、この左手の感知能力が効かなかったと言うのか⋯?どれもう一度⋯」

テ「花子ちゃんに触んじゃねぇ。」

赤「えっ、あ、ごめんなさいっ」

注(素に戻った⋯)



怪人赤マントの宿命(設定)────

混沌なる現代に生きる腐りきった人間の首を狩り、その首に“赤きマント”を着せる使命を負う怪人赤マント。首を狩る能力はその根源を体内に蓄積させてからでは使えない。その根源とは穢れ無き生きた幼女の新鮮な生き血。その生き血を摂取しなければ能力は使えず、そして元々は年老いている怪人の姿へ戻ってしまう。

そして怪人赤マントは今日も夕闇に紛れて人間の首を狩る────



注「設定説明いんのか?」

さ「説明乙☆」

口「と言うか、どうするのよコレ。」


赤「おお!ここにも居るではないか、幼女!さぁ我にその生き血を捧げよ!」

太「ぼく男の子だよー!」

さ「そ、そうだ!このショタは渡さない!!」

怪「ショタ⋯?」


テ「⋯って、あれ!?花子ちゃんは?花子ちゃんどこ行ったの!?」

ヒ「⋯もう女子トイレに帰った見たいですね⋯。」



また新たにお化け達の元へ訪れた、怪人赤マント。そんな茶番の合間に花子さんは気だるさに耐え切れず一人女子トイレに帰って行った。






花「⋯⋯もう一人にしてよバカぁ⋯」






それから花子さんの五月病が直るまで2週間かかったのであった。






END
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