第2部
静かに時を刻む深夜の中。某小学校でも変わらず同じ時を過ごすお化け達。しかし、これは今宵また訪れる事件の予兆に過ぎないのであった─────
花子さん「飽きた。」
口裂け女「文句言わないで頂戴。」
テケテケ「流石に3時間もトランプはアレだったかな⋯?」
ヒキ子さん「⋯⋯あがりです⋯。」
花「んー、座りっぱも疲れたし、外行こうよ~。」
本日は全員集まってから延々とババ抜き対決を続けていた。今で何回戦目で誰が何回勝って誰が何回負けたのかすら分からなくなっている程だ。息抜きしようと校庭に向かい歩き出した。
口「全く、最近の子供は飽きっぽいわね。」
花「飽きたモンはしょーがないの!」
テ「今度はまた別のボードゲームとか持って来ようか。」
ヒ「⋯私も何か探してみますね⋯、」
校庭に到着。さて次は何をしようかと、いつも通りの語らい。しかし。
口「あら?」
花「カシマさんじゃん。」
地面を忙しなく這いながらカシマさんがやって来た。最近はトンカラトンと共に旅をしているので単独での行動は少なくなった筈。しかし今日ばかりは初対面時のように一人で這って来た。おまけに何か切羽詰った様子で。
カシマさん「⋯みっ、皆さん早く逃げるのです⋯!」
テ「え?」
口「どうしたのよ、レイコ。」
カ「説明は後ですわ!とにかく逃げるのです!」
花「てかトンカラトンはどうしたの?」
カ「今に来ますの!だから早く逃げ⋯」
ヒ「⋯来ましたが⋯。」
カ「!!」
そこへ遅れてトンカラトンが来た。だが様子がおかしい。普段ならば陽気に歌いながら手を振るなどする明るい筈の彼が、ガックリと項垂れており明らかな違和感を感じる。
それ以前に、トンカラトンの代名詞、自転車に乗っていない。
テ「久しぶりですね!」
口「ちょっと、レイコったら変な事言うのよ?」
トンカラトン「⋯⋯⋯⋯」
テ「トンカラトンさん⋯?」
花「聞いてんのー?」
ト「⋯トンカラトンと言え⋯」
「「え?」」
ト「トンカラトンと言えぇええぇえい!!!」
「「!!?」」
テケテケと花子さんが話し掛けた瞬間、トンカラトンは今までの様子から想像出来ない程の鬼の様な形相で二人に突然斬りかかって来た。その目は血走りギラついている。
口「危ない!!」
ヒ「!!」
花「わあッ!?」
テ「きゃっ!!」
そこへ直ぐ様口裂け女とヒキ子さんが二人を抱え助け出した為、斬られる事にはならなかった。
口「危なかったわね、花子。」
花「あ、うん。おかげさまで⋯。」
ヒ「⋯大丈夫ですか、テケテケさん⋯」
テ「ありがとうヒキ子ちゃん⋯。」
口「説明して頂戴、レイコ。一体何があったの?」
カ「わたくしにも良く分からないんですの。でも彼の異変のきっかけは恐らく⋯自転車が盗まれた事なのです。」
花「自転車?」
テ「盗まれたって…?」
口「それで様子がおかしいの?」
ト「トンカラトンと言ええぇえい!!!!!!」
花「でもどーすんの!?チャリないと暴れるんなら見付けてやるしかないんでしょ!?」
口「このままじゃ校舎も破壊しかねないわ。仕方無いわね、私が時間稼ぎするからその間に…!」
テ「でも盗まれた自転車が何処にあるのか⋯!」
ヒ「⋯また来ます⋯! 」
花「わぁあ!?」
カ「とにかく今は危険すぎますわ!早く気絶させるなりして⋯!」
テ「でもこんなに刀を振り回してたら危なくて近寄れない⋯!」
ト「トンカラトンとぉおおおお!!!」
花「危ない───!!」
────ドスッ
「「「「!!?」」」」
ト「⋯⋯う⋯、」
────ドサッ⋯
トンカラトンが再び襲い掛かった瞬間、トンカラトンの首に何か刺さったと思いきや 同時にそのまま倒れてしまった。
その直後、何者かが後ろから突如やって来た。
?「あー驚いた。まさか口裂けさんに刀向けるとは、無礼な奴だぜ全く。」
口「なっ⋯!?」
注射男「大丈夫ですか、口裂けさん。」
なんとトンカラトンを倒したのは、まさかの注射男だった。
テ「まさかソレ麻酔!?」
注「そ。俺がただ死に至らしめる毒薬だけ調合出来ると思ったら大間違いだぜ。咄嗟に注射器投げちまったからちゃんと刺さったかどうか分かんねーけどな。」
花「まさかの助け舟ね⋯!アンタに助けられたってトコが屈辱だけど!」
口「助けた事には感謝してあげるわ。でも今は貴方を称えてる暇なんてなくてよ!」
注「何があったんですか?」
トンカラトンは一応離れた場所へ寝かせておき、かくかくしかじか、一体何があったのか、今分かる事は、取り敢えず何をすれば良いか。注射男に説明した。
注「バッカでー。」
テ「もう!笑い事ではないですよ!」
花「盗まれたんじゃどうしようもないし、今誰が持っててどこにあるかなんて到底分かりっこないわよねー。」
ヒ「⋯⋯⋯⋯。」
注「参ったなー、あの麻酔もいつ切れるか分かんねーし。もう手っ取り早くそこら辺のチャリパクって見つかったってやるしか手はねぇんじゃね?」
テ「泥棒は駄目ですよ!」
口「なんならこのまま朝までふん縛っておいて新品を購入するのはどうかしら。開店と同時に私の足で行くなら大丈夫かも知れないわよ。勿論請求はするとして。」
カ「いえ、あの自転車には何か思い入れがあるのか、かなり拘わっているようなんですの。」
口「確かに所々錆びていたわね、あの自転車。」
花「よく知ってるわねー。」
カ「た、たまたま聞いていただけですの⋯!」
テ「じゃあ一体どうすれば⋯」
ヒ「⋯⋯⋯⋯あの、」
口「どうしたの、ヒキ子。」
ヒ「⋯アンサーさんに⋯電話して自転車の在り処を聞けば⋯良いんじゃないでしょうか⋯⋯。」
「「「「ソレだぁあぁああ!!!」」」」
そこで名が上がったのは怪人アンサー。怪人アンサーにはどんな内容の質問でも問われたら必ず〝答えられる〟能力を持っているのだ。
花「早く誰か電話して!」
テ「あ、私知ってる!」
口「良くやったわヒキ子!!」
ヒ「⋯あの人に頼るなんて癪ですが⋯。」
カ「早くしないと目が覚めてしまいますわ!」
注「困った時はやっぱアンサーだな!」
困った時の占い●バ的な扱いをされているとは露知らず。怪人アンサーへの着信音が校庭に響く。
怪人アンサー『もしもし、私が怪人アンサーだが、』
テ「アンサーさん!」
怪『おお、テケテケ、丁度良かった。お前の好きそうな菓子を見付けてな。今向かっているのだが、』
注「それどころじゃねーんだよアラサー怪人!」
怪『む?何故貴様が出るのだ?テケテケのスマホの筈では、』
注「うるせー!まず聞け!!おいアンサー、トンカラトンのチャリの場所知ってっか!?」
怪『トンカラトンの自転車?何だその質問は。何故貴様がそんな質問を、』
注「まず答えろバカヤロー!!」
怪『煩い奴だ。それならば⋯⋯あ、充電が切、』
プッ、ツーツーツー⋯
注「は!?おい、もしもし!?おい!!」
テ「どうしたんですか!?」
注「切れた⋯。」
「「「「ええぇえええ!!?」」」」
口「肝心な所で役立たずねあのアラサー怪人!」
テ「もうどうすれば良いのー!!」
花「早くしなきゃアイツ起きちゃうわよ!」
ト「⋯ん?」
ヒ「⋯⋯今起きました⋯。」
花「嘘でしょ!?まだ10分くらいしか経ってないわよ!?」
注「象でも最低30分は眠る様に作ってたんだぞ!?どんな体してんだよ!」
ト「⋯!! トンカラトンと言ええぇえい!!」
口「⋯っ、仕方無いわね!」
注射男の麻酔薬でさえ跳ね除ける程の強靭な身体と精神力。トンカラトンの恐ろしさを目の当たりにしたお化け達はもう駄目だと諦めすら感じた。
しかし口裂け女は鎌を片手に走り出し、振り上げられた刀を受け止めた。
────ガキンッ!!
テ「口裂けさん!!」
口「時間稼ぎよ!とにかく怪人アンサーを探し出して自転車の場所を聞きなさい!」
花「はぁ!?どーやってよ!!」
口「知らなくってよ!!」
ヒ「そんな⋯!」
注「でも口裂けさんが危ないじゃないですか!!」
口「私はいいから早くしなさい!」
普段は自分が良ければ全て良しと言う自分主義な口裂け女が自分を犠牲にしてまで暴れるトンカラトンを止めようと身体を張っている。その強い姿に皆ゾクリと背筋を震わせた。その時。
怪「お前達!」
テ「え、あ!アンサーさん!?」
怪「はぁ、はぁ⋯、間に合ったか!?」
花「な、何よ!電話切っておいて遅すぎるのよー!!」
怪「携帯電話の充電が切れたんだ!それはそうとこれだろう!?トンカラトンの自転車!」
そこへ怪人アンサーも参戦、しかも探し物だった自転車を見つけ出して持って来ていた。
カ「これですの!」
花「どこにあったのよ!?」
怪「電話が切れた後、たまたま目の前を通り過ぎたのだ。おまけに自転車を盗んだソイツが近所で空き巣をやっていた奴でな、捕まえて匿名で通報していた。」
花「怪人のクセに!」
注「ヘタレの癖に!」
テ(アンサーさんカッコイイ!)
口「見付かったの!?」
注「はい!ちょっと伏せて下さい!」
口「え?」
注「よっ、」
────ドスッ
ト「⋯うッ⋯。」
注射男は再びトンカラトンの首に麻酔を注射し、眠らせた。騒動は終局へと走り出した。
ト「⋯⋯ん⋯?」
注「よう。」
ト「⋯? 何だい、人の顔覗き込んで気味悪ィな⋯⋯、俺の自転車!!」
テ「アンサーさんが探し出してくれたんですよ!」
花「おかげでヒドイ目にあったわ。」
ト「⋯そうか俺ぁ⋯! すまねぇお前さん達!!」
目が覚め、初めは記憶が混乱していたが、自分に何があったのか、何をしたのか、思い出した途端勢い良くその場に土下座した。
テ「トンカラトンさん!?」
ト「本当にすまねぇ、悪い事をした!許してくれ!この通り!!」
注「おう、小指一本で許してやんよ。」
口「何言ってるの注射野郎!顔上げなさい、怪我人も出なかったんだから…!」
ト「いや本当に悪い事をした⋯!」
花「もーいいのよ!ほら、自転車見つかって良かったじゃない!」
ト「だが⋯!」
カ「⋯⋯⋯⋯。」
────ゴッ!!!
ト「いっ⋯てぇえええ!!?」
謝り続けるトンカラトンと宥めるお化け達を黙って見ていたカシマさんは、そっとトンカラトンに近付き思い切り頭を振りかぶり頭突きした。怒りを見せている様なその瞳には涙が浮かんでいた。
口「れ、レイコ⋯!?」
カ「⋯し、心配、したんですの⋯!」
ト「⋯⋯!」
カ「このまま、貴方がずっとこのままだったら、どうしようかと⋯!」
ト「レイコ⋯、心配させちまって悪かった。」
カ「⋯⋯!! とにかく!貴方なんて大嫌いですわ!!ふんっ!」
トンカラトンとカシマさんのやり取りを見て、お化け達は安堵した。仲が良いのか悪いのか、そんな二人が可笑しくなって笑った。
静かに昇った暖かい朝日が校庭に降り注いだ。
口「本当、人騒がせなんだから。」
花「なんか意外だったわー。」
テ「ビックリしたねぇ。トンカラトンさんにあんな一面があったなんて。」
ヒ(⋯テケテケさんも怒ると人格が変わります⋯。)
注「あいつらこれでも付き合ってねーのか?」
怪「私には分からん。」
そのままトンカラトンはカシマさんを連れ、帰って来た自転車と共に小学校を出た。後に、お詫びらしい土産を沢山持ってお化け達の元へ現れる。その時は、また陽気に歌いながらやって来る事だろう。
END