第2部
怪人アンサー「何故貴様は常に包帯を巻いている?」
冷たい空気の流れる深夜の校舎にて。それは唐突な怪人アンサーの質問であった。顔や首に包帯を身に付ける事が当たり前である注射男は受けられた質問に驚きの表情を浮かべた。
注射男「イキナリ何だよ。」
怪「何の深い意味もない、只の怪人の疑問だ。そして私の質問には必ず答えろ。」
注「いつもに増してえらっそーだなぁ、オイ。」
怪「悪かったな偉そうで。質問に戻るが、怪我を負っている訳ではないのだろう?何故巻く必要がある。」
問いながらグイッと顔に巻いた包帯を引っ張った。普段は見せる事のない素顔が怪人アンサーの前に晒される。素肌は傷一つない極めて綺麗な肌であった。
注射男という都市伝説は“注射器を携えた包帯を巻いた男”というのが最大の特徴だ。
注「イキナリ剥ぐとか変態かテメー。」
怪「衣服を剥ぎ取った訳ではないだろう。五体不満足になる前に質問に答えろ。」
注「もうこれ以上集めるパーツねぇだろ。」
しかし仕方なさそうに答えてやる、といつもの調子の上から目線でただ一言の回答を紡いだ。
注「癖。」
あれ程しつこく問いただしていた質問がたった一言たった1秒で答えられ、怪人アンサーは眉間に皺を寄せた。
怪「どういう事だ?」
注「満足出来ねーってか。めんどい奴。」
取られた包帯を怪人アンサーの手から無理矢理奪い戻す。ガシガシと頭を掻きながら再び回答を始めた。
注「俺さ、昔⋯身内に監禁されてたんだよ。」
突然明かされた過去。驚きの余り言葉を失った。注射男は続ける。
注「飯はまともに食わして貰えねぇ、拷問の如く毎日暴力、その傷は申し訳ねぇ程度に包帯巻かれるだけでさ。生き地獄とはこの事かって身に染みて感じたぜ。」
注射男には身内によって座敷牢に監禁されていたと言う説が存在する。監禁による怨念でお化けとなってしまったと言う。
注「⋯で、身内を殺してでも脱走したのは良いけど積もりに積もった恨みはどうやっても晴らせそうになくてさ。
それから憂さ晴らしに人間に毒薬注射する毎日、いつのまにか名前どころか人間だったって事すら忘れて都市伝説“注射男”の出来上がり。
⋯笑えるだろ?」
注射男は笑った。黙って耳を傾けていた怪人アンサーの目にはその笑みがとても哀しげに写った。
怪「笑えはしない。しかし、貴様は哀れだ。」
普段のお調子者な注射男しか知らなかった怪人アンサーはたった今発覚した哀しい過去に対してそれしか言葉を掛けられなかった。
注「同情なんかいらねーし。ま、つまりは常に包帯巻かれてたから今でも付けてなきゃ落ち付かねぇんだよ。」
新たに顔の包帯を巻き直す注射男に怪人アンサーは、
怪「今でも包帯に縛られていては真の自由とは言えないぞ?」
それだけ伝えた。
注「⋯そしたら俺の存在する意味がなくなるだろ。」
怪「まあな。話し相手が居なければ私も退屈だからな。せいぜい縛られていてくれ。」
注「うるせ。」
普段のおふざけな雰囲気から急に湿っぽくなり、初めて語った自分の過去に調子も狂い、そのまま立ち去る注射男。そんな彼の中の心情は怪人アンサーは知らない。
注(⋯そうだよな⋯縛られてなきゃ、俺は存在出来ねぇんだよな。)
哀しい過去に、哀しい癖に縛られる自分、再認識した哀しい存在意義に改めて自分を哀れだと他人事の様に思ってしまっていた。
END