第1部
月灯りが差し込む夜の某小学校校舎のとある教室。そこに映える人影。言うまでもない、彼女達だ。
さて、今夜は何をしているのやら⋯⋯。
テケテケ「でーきたっ!完成!」
口裂け女「あらあら、可愛いじゃない。」
ヒキ子さん「⋯⋯良く似合います。」
花子さん「わぁ、テケテケ超器用!ありがとー!」
ぱっと花が咲く様な笑顔を浮かべるのは、トイレの花子さん。
綺麗に切り揃えられた黒の短い髪、所謂おかっぱヘアーをテケテケにアレンジして貰いご機嫌の様子だ。
編み込んだ毛束をくるりと捻り留め、ピンクのリボンを飾り付けたその髪は誰が見ても可愛らしい。
テ「こういうのも出来ちゃったりするんだー。一度やってみたかったの。」
花「ヘアモデルもやっぱ元が良くなきゃね♪花子を選んで正解よ♪」
口「お子様が何言っているのやら。」
花「むきー!お子様じゃないわ!」
テ「はいはい、まだ立っちゃダーメ。ヘアスプレーかけるから座って。次はヒキ子ちゃんね♪」
ヒ「わ、私は遠慮しますよ⋯!」
花「花子とおそろいにするの!」
テ「了解っ♪」
花(“ここ”に来てしばらく経ったから覚えてないけど⋯こういう事もしてくれてたのかな⋯お母さん。)
椅子に座りブラブラと足を振る花子さんはふと母親の事を思い出した。
全国的に有名な都市伝説トイレの花子さんにはさまざまな説が語られているのだが、その中に『全国のトイレに現れるのは母親を探しているから』という説が有るのをご存知だろうか。
小学校教師だった母親の帰りを待っていたが帰りが普段より遅く勤務先の小学校に向かおうとしたが乗る電車を間違えてしまい、とある小学校のトイレの中で何者かに殺害された。
そこからトイレに女の子のお化けが現れると噂されて都市伝説が誕生した。では何故全国のトイレに現れるのか。それは今でも母親を探しているからである。
テ「はーい、完成!」
花「ヒキ子可愛い~!」
ヒ「あ、ありがとうございます⋯。」
口「まるで姉妹みたいね。」
小さな子供が母親を無くしては生きていけない。その小さな身体には苦しみが重過ぎる。しかし現在、そんな彼女の抱え切れない苦しみを癒してくれる存在が出来たのだ。
テ「口裂けさんもどう?髪長いとアレンジし甲斐ありそう♪」
口「そうねぇ。じゃあ、お願いしようかしら。」
花「オバサンはオバサンらしく髪ダラダラしてたらいいのよ。」
口「お調子に乗るんじゃないわよ生意気ね!」
花「やぁ~!ほっぺたつねらないで~!」
口「ほほほ、不細工でお似合いよ。」
花「ふざけんなー!もー承知しないわよ!オモテ出なさい!」
口「上等じゃないの。ちょっと行って来るわ。身体張った遊びをしてくるわね。」
テ「あ~、程々にね⋯?」
口「手加減してるわよ、常に。ほほほ。」
ヒ「⋯楽しそうですね、花子さんと口裂けさん。」
テ「そだね~。初めは本当に仲悪かったから心配してたけど⋯でも何か気も合って来たしもう安心だね。」
ヒ「⋯⋯初めて逢った時よりも、表情も明るくなってますし⋯ね。」
初めて出会った日の花子さんは長年の孤独と都市伝説のお化けとして恐怖され続け、心は冷たく凍りつき、荒み、常に厳しい顔つきをしていた。
テケテケ達との交流で心が暖かく解けていった。
テ「⋯見付かれば良いね。花子ちゃんのお母さん。」
ヒ「⋯⋯⋯、はい。」
花「てやーッ!!」
口「ほほほ、まだまだ甘いわね。」
テ「それまではお母さんの代わりになってあげられれば良いな。あ~、私も早く足見付けたいなっ。」
ヒ「⋯そうですね。」
探し物は簡単には見付けられない。しかし、探し物は以外に案外近くにある物だ。
彼女の探し物が見付かる事を、心から祈ろう。
END