第1部
「トン、トン、トンカラトン♪トン、トン、トンカラトン⋯♪」
満月を背に歌いながら自転車を漕ぐ、一人のお化け。トンカラトン。
「トン、トン、トンカラ⋯ん?」
トンカラトンが道端である“もの”を見付け、自転車を止めた。そこで拾った“もの”を切っ掛けに今回の物語は始まった─────。
花子さん「今日も今日とて太郎の奴がこそこそ男子トイレから覗いてたわ。」
口裂け女「あら、恥ずかしくて声を掛けられないなんて、ウブで可愛らしいじゃない。貴女も正直な気持ちを打ち明けてあげたら良いじゃないの。」
花「べっつに!あいつなんかレンアイの意味も知らずに好きだって言ってんのよ!バカバカしいったらありゃしない!」
テケテケ「でも花子ちゃんは太郎くんの事⋯」
ヒキ子さん「⋯そうだったんですね⋯」
今夜は女子会ではお馴染みの話題、恋話をしているお化け達。まともに女子会らしい光景だ。
花「あ、あんたこそアンサーとどうなのよ!」
テ「えぇ!?わ、私はその⋯普通にメールし合ったりしてるくらいだよっ!」
ヒ(⋯テケテケさんの幸せを応援したいけど⋯心のどこかでそれを拒む自分が居る⋯)
ヒ「口裂けさんはどうですか⋯? 」
口「全然ね~、新たな出逢いも何にもないわ。」
花「あの変態注射野郎がいるでしょ。」
口「そうね。顔は割と嫌いじゃないのよあの男。だから勿体無いとは思うわ。」
テ「そう思ってたんだ~。」
花「包帯巻いてちゃ素顔わかんないわよね。ヒキ子は? まあ一応イイ奴よ、さとる。」
ヒ「⋯⋯! 首なら絞め易かったです、けど⋯」
(((首って⋯)))
ト「おぉーい、お前達ィ!」
テ「あれっ。」
花「トンカラトンだ!」
口「⋯あの男は良い体つきしてるのよねぇ⋯」
ヒ(聞こえてしまったけど黙っておこう⋯)
ト「口裂けさんは今宵もまた麗しく⋯。あ、これは土産の沖縄のちんすこうだ。」
口「自転車で行ったのね。」
ト「口裂けさんに逢いに来たのもそうだが、今回はまた訳が違ってな。ちょいと拾いモンをしたのさ。」
トンカラトンは自前の自転車の籠から何かを取り出した。否、それはただの“拾いもの”ではなく───
テ「カシマさん!?」
彼女達が見たものとは、ぐったりとうなだれているカシマさん、もといカシマレイコであった。
花「道端で力尽きてるのを拾った、ねぇ⋯。」
ヒ「⋯目が覚めたようですね⋯。」
テ「大丈夫ですか?」
カシマさん「ん⋯?わたくしは何故ここに⋯?」
ト「俺が拾った。」
カ「ひッ!?お、男⋯!?いやぁあ!来ないで欲しいのです!!」
男性が苦手なカシマさんは目覚めて早々に叫びながら口裂け女の後ろに隠れる。
口「レイコ、一応ここまで運んだ奴よ。どんな相手でも礼くらいは言うべきだわ。」
カ「あっ、ありがとうございますわ⋯ッ!褒めて遣わします!」
口「顔が引き吊っていてよ。」
ト「そうか、お前達の知り合いだったか。名前はレイコだな、宜しくな。」
カ「い、いきなり下の名前で呼ばないで欲しいのですッ!!」
口「全く、困ったものね⋯。」
カ「わたくしだって楽しくて嫌ってる訳では⋯!怖いものは仕方がないのです!」
過去に複数の男に襲われ手足を失ったカシマさんにとって、男性は恐怖の対象だ。そんなトラウマを克服するべく急遽男子メンバーを呼び出しトラウマ克服作戦を始めた。
怪人アンサー「6月ぶりだな。」
注射男「歳は23って事は俺とタメじゃねぇか。」
さとるくん「はじめまして!」
太朗くん「こんばんわ~!」
一度に複数の男性が集まると、カシマさんも女子達の後ろに隠れてしまい、ビクビクと震えながら様子を伺っている。
太「ぼく太朗って言うの~、よろしく〜。」
カ「⋯宜しくお願いしますわ。」
テ「まあ子供相手なら平気だよね。」
花「じゃ、さとる行きなさいっ。」
さとるくんがカシマさんの前に来て中腰になり挨拶をする。間。
さ「あー⋯、大丈夫っすか⋯?」
カ「だ、大丈夫です⋯の!!」
さ「いやなんかグレーっぽい!!」
花「まあアンタ いかにもオタク臭プンプンだからね。」
注「影薄いしロリコンっぽいし。いやショタコン?」
さ「皆ひどい!グレてやる~!」
テ「グレちゃ駄目だよ。」
ヒ「⋯後は試しようが無いですね。」
カ「見るからに欲望全開の変態ですわ。」
口「あら、よく分かってるじゃない。」
怪「それに私も含まれているのか?」
そう簡単に、いきなりトラウマを克服出来る筈もなく。取り敢えずカシマさんを男子メンバーから引き離し、離れた場所で会議を続ける。
カ「わたくしの為に迷惑をかけてしまって申し訳ないのです。彼らも悪い人ではないかも知れませんが⋯、やっぱり怖くて⋯。」
テ「ううん、私がお節介なだけですから⋯!」
花「あいつら見るからに変態だからしょーがないのよ。」
ヒ「⋯⋯無理はしない方が良いですし⋯。」
口「そうよ、貴女こそ嫌な思いしたでしょう?」
カ「い、いいえ。わたくしは⋯その⋯、」
「「「「え?」」」」
カ「貴女方の様なお友達が居るだけで、十分なのですわ。」
「「「「!!」」」」
口「全く、可愛い事言うじゃないの!」
花「なんか愛しいんですけどー!」
テ「欠損同士仲良くしましょうっ!」
ヒ「⋯お友達⋯。」
ト「何やら盛り上がっているようだなー。」
怪「楽しそうで何よりだ。」
注「これだから女子は⋯。」
太「ぼくもレイコお姉さんとお話したいなー。」
さ「いっその事 僕が女の子の格好して話に行った方がいいのかなぁ。」
ポツンと残された男子メンバーはキャッキャと盛り上がる女子メンバーをただ見るしか出来なかった。
そして夜明け、別れの時がやって来た。
ト「じゃ、送っていくからしっかり捕まってなさい。」
カ「捕まる手なんて無いですわ。」
テ「また遊びに来て下さいね!」
花「待ってるわ!」
カ「はい。皆さん、ありがとうございました。」
ト「俺には見送りの言葉はなしかい、口裂けさん。」
口「レイコを襲うんじゃないわよ。」
ヒ「⋯⋯そうですよ⋯。」
ト「そんな事あるかい!人聞きの悪い!⋯じゃ、お前さん達も達者でな。」
そう言いトンカラトンは自転車を漕ぎ始めた。前の籠にカシマさんを乗せた異様な姿で⋯
ト「トン、トン、トンカラトン♪」
カ「歌わないで欲しいのです。」
ト「ははは、これはまた文句の多い乗客だ。」
花「何かいつもよりにぎやかだったから少し寂しいわね。」
口「そうねぇ。レイコもトンカラトンも帰りは退屈しないで良さそうね。」
ヒ「⋯最後はそんなに嫌そうではなかったですしね⋯。」
テ「また会う日が楽しみだね。」
注「俺が思うに、アイツらでくっ付けば良いんじゃね?」
怪「ライバルを減らしたいだけだろ。」
もうすぐ朝日が昇る、夜明け。お化け達は見えなくなるまで彼らの背を見送った。
カシマさんのトラウマを完全に克服する事は出来なかったが、何故だか自転車に揺られる彼女の表情は穏やかだった。
ト「なぁレイコ。行く場所がねぇってんなら、このまま乗っていくかい?」
カ「え⋯?」
ト「独り長い旅時は退屈だからな。憎まれ口でも、話し相手が入れば楽しいってモンさ。」
カ「⋯⋯! ⋯変な事をしたら呪いますわよ。」
ト「おお怖い怖い。」
END