第1部



深夜2時。今宵も校舎にお化け達が集まる​───



花子さん「はぁ~⋯」

テケテケ「どうしたの花子ちゃん。」


いち早く某小学校に着いた花子さんとテケテケ。溜め息を吐いた花子さんにテケテケは理由を問う。


花「何か毎日視線感じるのよねー。」

テ「視線?どんな?」

花「嫌〜な視線よ。寒気通り越して吐き気がするの。」

テ「どこから?」

花「男子トイレ。」


即答した花子さん。その答えに誰だか予想がついたテケテケは苦笑する。


テ「それって太朗くんじゃ⋯」

花「⋯⋯⋯」

テ「花子ちゃん…?」

花「⋯⋯キモッ。」


太朗くん、正式名称トイレの太朗くんとは、あの有名なトイレの花子さんの男の子バージョンである。


テ「あ〜⋯はは⋯そんな言い方はよくないよ〜?」

口裂け女「あら、何を盛り上がっていて?」

テ「あ、口裂けさんおはよ〜。」

口「ごきげんよう。」


そこへ遅れて到着した口裂け女も会話に入って来た。花子さんは「関係ないでしょ」とぷいっと後ろを向いた。


口「まあ、可愛くない。」

花「どうせ可愛くないですよーだ。べー。」

口「あらあら、素直じゃない子。」

テ「まあまあ二人共⋯」


二人を宥めながら先程の話を口裂け女に説明するテケテケ。
その間でも二人はギスギスした雰囲気を醸し出していた。


口「そんな一つ二つの視線を気にしてるなんて、貴女も子供ね、ほほほ。」

花「花子、子供じゃないわっ!」

口「十分小さい子供よ。」

花「何ですって!!」

テ「お、落ち着いて、ね?」


またしても二人を宥めるテケテケ。彼女は気苦労が耐えない人物だ。


口「それに、視線なら私だってとうに感じててよ。」

テ「えー、口裂けさんも?」

口「ええ。あの嫌な包帯巻きの注射野郎よ。」

テ「ああ⋯、注射男さんね⋯。」



注射男とは​────

学校の校門や電柱に潜み、子供を見付けると手にした注射器で毒薬を注射すると言う包帯を巻いた都市伝説のお化けである。

バブル景気時代に関東地方で噂されていたらしい。


花「はっ。また誤解させる事言って誘惑したんでしょ。この年増ビッチが」

口「私に限ってそんな下らない事をするとお思いで?」

花「お思いで。」

口「何ですって!?」

テ「まあまあ二人共⋯」



同時刻。そんな3人の他に別室で語り明かすお化けたちが居る。

彼女たちの居る図工室とは離れた理科室​────


「相変わらず口裂けさんはお美しいなァ⋯」

「花子ちゃんって可愛いんだよ〜。ツンツンしてるのがとっても可愛いの!」

「馬鹿だな、貴様ら。テケテケを見たか?守りたくなる程愛らしいだぞ!」

「僕はヒキ子ちゃん推しっ!あの病み属性最高に萌えるっす!」


彼らも都市伝説に対象なるお化けだ。


トイレの花子さんの男子バージョン、トイレの太朗くん。

毒薬を注射する注射男。

「今僕は君の後ろに居るよ」が最後の言葉、さとるくん。

何でも質問に答えてくれる怪人アンサー。


⋯彼らもたまに皆で集まり日々の生活について語り合っているのだが、その内容は全てそれぞれの想い人の事ばかりなのだ。

そんな彼らの想い人は​─────


注射男→口裂け女
太朗くん→花子さん
怪人アンサー→テケテケ
さとるくん→ヒキ子さん

⋯と、まあ、こんな感じだ。


太「ぼく毎日花子ちゃん見てるんだけど、いつもお掃除してるんだ~!可愛いし偉いんだよぉ!」

注「いやいや、口裂けさんの美しさときたらそれはもう⋯ハァハァ⋯」

怪「ふん。貴様はただのストーカーだな。それよりテケテケの方が笑顔も絶えず性格も良さそうだ。」

さ「ヒキ子ちゃんはヤンデレであって欲しいなー。病み属性って美味しい要素持ち合わせてるしさ⋯」


更に因みに⋯彼らの恋愛観は様々であり、愛情表現も様々だ。


注射男の溺愛ぶりは崇拝を通り越して最早“変態化”し、
太朗くんは自己アピールをせずに毎日ただただ覗き見し、
さとるくんは直ぐにオタク思考になる。
唯一常識人の様な雰囲気の怪人アンサーは足の無いテケテケを“守ってあげたい”と豪語する。

しかし愛しき想い人への愛情は皆、同じだ。



怪「しかし、何故貴様は自己表現しない?」

太「だって恥ずかしいんだも~ん!花子ちゃんかわいくてっ!」

さ「そんなんじゃいつまで経っても進まないよ?良いの?」

太「うん!きっと花子ちゃんはいつかぼくに気が付いてくれるはずだもん!」

注「そんなんじゃいけねーな。俺みたくもっと近付かなきゃさ。口裂けさんを思うだけで俺ァ薬を作る手が止められねぇよ⋯ハァハァ⋯」

怪「最早“変態”だな。まあ、テケテケの方が初々しさや可愛いさが有るがな。」

注「ああ!?お前には口裂けさんの大人の色気が分からねぇってのか!!それに口裂けさんの方が胸大き」

怪「そのへんにしておけ変態。」

注「何だとォォォ!!!!」

さ「でも、ヒキ子ちゃんて大人し目で受けっぽいけど、意外と攻めでも可愛いと思うんだよね。受け寄りの攻めって萌えません?」

太「あ!花子ちゃんの落とした服のボタン発見っ」



そんな噛み合わない会話を繰り返す男子メンバー。
そんな彼らの背後に殺気を立たせた人物が⋯


口「毎日私をそんな厭らしい目で見ていやがったのね⋯このド変態が⋯」

花「そう言う事…、今まで猫ババしたやつ返しなさいよストーカー野郎⋯」

テ「いくら足が無くてもそんなに弱くないですよ私は⋯テケテケテケテケテケテケ⋯」

ヒ「引き摺る引き摺る引き摺る引き摺る引き摺る引き摺る⋯」


男子メンバーの背後には女子メンバーが。そして何時の間にか来ていたヒキ子さんも加わっている。
それぞれ怨念を渦巻かせて武器を構える。



怪「ははは⋯、鋸なんてそんな物騒な物を持っては駄目ではないかテケテケ⋯」

注「ああ、その蔑んだ目をする口裂けさんもまたお美しい⋯」

さ「ひ、ヒキ子ちゃん、一旦落ち着こうか⋯」

太「ごめんね花子ちゃん⋯、」




男子メンバーの言い訳に更にゴゴゴゴ⋯と殺気立つ女子メンバー。



「「「「問答無用!!!!」」」」

「「「「ぎゃああああ!!!!」」」」




女子メンバーにボコボコにぶちのめされた男子メンバー。
果たして彼らの恋が叶う日は来るのだろうか。それでも彼らは諦める事無くそれぞれのアピールを続けるのであろう。



口「まったく⋯私の美しさを理解してるなら変態化しなければ良いのに⋯もう⋯」

花「別に話しかけたいなら、話相手にやってやっても良いんだから⋯ふんっ。」

ヒ「⋯受け身寄りの⋯攻め手⋯?」

テ「⋯守られるのも、良いのかな?」




然し、そんな日はそう遠くないのかも知れない。



END
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