第1部



桜も散り、緑の葉に変わり始める頃。またいつもの某小学校にて集まるお化け達。果たして今回はどんな事件が起こるのやら⋯


「「「え~~~~!!?」」」


早速事件が起きたようだ。それに相応しい叫び声が校庭に響いた。


テケテケ「口裂けさんに⋯」

ヒキ子さん「⋯彼氏が⋯」

花子さん「出来たですって~!?」


口裂け女「そんなに驚く事かしら?」

花「驚くわよ、あんたみたいな年増が⋯」

口「年増は余計よ。」

ヒ「⋯おめでとうございます⋯。」

テ「相手は?もしかして注射男さん?」

花「いやトンカラトンの可能性もあるわよ。」

口「断じて有り得なくてよ。」

「「「じゃあ誰?」」」

口「⋯⋯⋯。」


女子メンバーの質問責めに若干戸惑いを見せる口裂け女。少し顔を赤く染めながら答えた。


口「生きてる人、よ。」

「「マジっすか」」

ヒ「⋯誰か来る。」


注射男「口裂けさぁああぁあぁあん!!!」

花「げっ!」

テ「注射男さん!?」

ヒ「⋯⋯やっぱり⋯。」

注「彼氏が出来たって本当ですか!?」

口「なんで貴方が知っているのよ!!」

注「アンサーがSNSで呟いてました!」


バッと勢い良くスマホの画面を見せ付ける。そこには『口裂け女に彼氏が出来たなう』と書かれていた。


口「あのアラサー怪人が⋯。」



トンカラトン「口裂けさあぁあああん!!!!」

口「今度は何よ!?」



すると今度は勢いよく自転車を漕ぐ音が響く。凄まじい形相のトンカラトンがグラウンドに乱入して来た。



ト「彼氏が出来たって本当かい!!?」

口「はぁ!?貴方もまたアンサーのSNS!?」

ト「いやブログで。」

口「あのクソアラサー怪人!今度合ったらただじゃ置かないわ!!」

テ(アンサーさん逃げて!すぐ逃げて!!)


口「全く!この子達だから安心して話したのに!馬鹿な奴らは嫌いよ!

⋯あら約束の時間だわ。ごきげんよう。」


苛立つ口裂け女だが、時計を見た瞬間表情を変え嬉しそうに小学校を出て行った。残されたお化け達は呆然とする。


花「まさか一番乗りが口裂け女とはね~。」

ヒ「⋯⋯幸せそうでしたね。」

テ「これからあんまり会えなくなると思うとちょっと寂しいねぇ⋯。あ⋯、大丈夫ですか二人共⋯。」

「「⋯⋯⋯⋯」」

花「どしたのフラれ組。」

ヒ「⋯⋯もしかして⋯、」


「「覗きに行くぜ。」」


「「マジっすか。」」

ヒ「⋯はぁ⋯。」


と言う訳で、『口裂け女とその彼氏を覗きに行こう隊』も小学校を出て口裂け女の後を追う。そう遠くには行っておらず、すぐ近くの公園のベンチに座る彼女を見付けた。覗きに行こう隊は植え込みの陰に隠れる。


注「生きてる奴だかなんだか⋯、来たら顔面に硫酸ぶっかけてやるぜ。」

テ「止めて!やる事えげつないですよ!」

ト「八つ裂きにして五臓六腑引き摺り出してやる。」

花「流石に死ぬわよ!?」

ヒ「⋯⋯来たようです⋯。」

「「えっ!?」」

「「ああ゛!?」」


そこで覗き隊が見た人物とは、ごく普通の男性。さっぱりとした清潔感のある好青年。しかし杖を付きながら少しフラフラした足取りで歩いている。口裂け女は少し恥ずかしそうにはにかむ。


「待ちましたか?」

口「いえ、私も今来たばかりなの。」


見るからに初々しいカップル。軽い挨拶をし、男性が持って来た飲み物を片手にベンチに座り二人で話し始める。


注「なよなよしい男じゃねーか。」

ト「ふん、同感だ。」

花「見た目若いのに何で杖持ってんの?」

ヒ「⋯⋯目が見えてないんじゃないでしょうか⋯。」

「「「え?」」」

ヒ「⋯目の焦点が合っていないようですし⋯飲み物も手探りで渡していました⋯。」

テ「確かに⋯。よく見てるねヒキ子ちゃん。」

花「一体どういう経緯で付き合う事になったのかしらね。」



「今日は天気がよくて良かったですね。」

口「そうね。3日間ずっと雨が続いていたから⋯。」

「3日間ずっと、貴女に逢いたかったです。」

口「⋯ッ!わ、私もよ⋯。」

「ふふっ。」



注「あああ⋯クサイ台詞吐きやがって⋯!」

ト「あんなウブな顔をするのか口裂けさん⋯!」

花「ちょ、アンタら黙れ。」



口「あの⋯、その、本当に私で良くて?私こんな⋯、」

「貴女だから良いんです。そりゃあ初めて会った時『私綺麗?』と言われた時は少しビックリしましたが⋯。

目が見えないと伝えると何とか自分の顔の事を教えようとしてくれて嬉しかったんです。」

口「え?」

「あの時、先月も言いましたが、目が見えない事を相手が知ると迷惑がられたり、話を無かった事にされる事もありました。でも貴女は気にせず私の意見を聞こうとしてくれた。

だから貴女は本当に綺麗な人です。心から。」

口「⋯⋯!」



ト「何か良い奴っぽくないかい!?」

注「くそっ、俺誤解してたぜ!」

テ「今度は号泣!?」

花「キザな奴ね~。」

ヒ「⋯あの人⋯様子が変⋯。」

「「「「え?」」」」


口「!?」



どういう事だ。先程まで普通に話していた男の身体が淡い光に包まれだんだんと透け始めた。


「ああ⋯もうこの時が来てしまうんですか⋯。」

口「どういう、事⋯?」

「実は私、もう死んでいるんです。丁度貴女と会えなかった3日前に、交通事故で。」


「「「「!!!」」」」


口「じゃあ⋯これは⋯」

「もう天からお迎えが来た、成仏してしまうという事です。だから最後にどうしても貴女に逢いたかった。悔いが無いように。でも、やはり悲しませてしまうのが心苦しいです。」

口「そんな⋯、」

「貴女は綺麗な人。一度で良いからこの目に貴女を写したかった。
でも、出会えて良かった。貴女が大好きです。」

口「待って⋯!私まだ⋯貴方に⋯!」


口裂け女の言葉を遮るように光は更に大きく男を包み、笑顔と言葉だけを残し消えて行った。





テ「口裂けさん⋯⋯」

ヒ「⋯⋯⋯」


口「⋯貴方達そこに居るのは分かっていてよ。」


「「「「!!!」」」」

口「全く、こんな所を見られるなんて⋯空気が読めない連中ね。」

花「⋯泣いてんの?」

口「女は人前で簡単に涙を見せてはいけなくてよ。覚えてなさい。⋯でも、ね。」

「「「?」」」


口「⋯私、あの人に一度も⋯!“好き”って⋯言えてなかった⋯!」


植え込みに背を向け、涙を見せない様に小さく肩を震わせた。冷静を貫こうとしても尚、涙は止まらない。
これは、誰かに自身の弱さを見せる事の無かった彼女が見せた初めての瞬間だった。

その様子を見て黙っている筈の無い注射男とトンカラトン。立ち上がり口裂け女の元へ向かう。


花「あいつら、また余計な事しに行くんじゃ⋯」



───ポンッ

注射男は肩に、トンカラトンは頭に、手を乗せた。何も言わずともそれは“慰め”の意が込められている。

口「⋯⋯馬鹿ね⋯だから簡単に涙は見せたくないのよ。同情されるから⋯。」


強がりを見せるが、その行為に更に感情が込み上げた。


口「⋯でも、感謝するわ。ありがとう。」


涙を拭い、振り向いて笑みを見せた。


口「いつまでも悲しみに浸ってなんかいられないわ。後は呑んで笑って終わりよ。テケテケ、付き合って頂戴?」

テ「あ、はいっ!」

花「明日二日酔いでもするんじゃないのー?」

口「あら、私は酔い潰れないのが自慢よ。お子様は寝た寝た。大人の恋愛はまだ早いわ。」

花「む~!」

ヒ「⋯とりあえず帰りましょうか。」

花「ヒキ子がそー言うならそーするわ。ふん!」

口「さ!今夜は呑むわよ!」


注「あ、アンサー?ちょい付き合ってくんね?うん、いつものとこ。」

ト「俺も混ざっても良いかい?」


これは一つの恋から失恋にかけての、桜が散る様な淡く切ないお化けの話。

しかし、散った桜はまた季節を越えて美しく咲く。さて、次の桜が咲く頃には彼女はどんな恋をしているのだろうか⋯。


“今度”は、後悔が残らない様に。


END
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