第1部



本日より4月。雪も溶け日差しも暖かみを増す。しかし夜はまだ肌寒く、春の匂いを残したまま冷たい風が某小学校へ吹き込んだ。

4月1日23時50分。これはある10分間の出来事。



花子さん「まだヒキ子来ないわねー。」

テケテケ「うん⋯何かあったのかなぁ。」

口裂け女「大丈夫よ。今日はたまたま用事があったとかよ、きっと。」

テ「そうかな⋯。」

花「何気に毎晩来てたからねー。」


毎晩某小学校校舎に集まっては語り合うお化け達。毎晩必ず4人で集まるのだが、今夜はヒキ子さんがまだ来ていなかった。


注射男「口裂けさんっ!実は俺達、前世では恋人同士だったんです!」

口「嘘おっしゃい。」


テ「今日エイプリルフールだもんねぇ。」


エイプリルフール。嘘を吐いても許される日。下らない嘘を吐かれても皆で笑い飛ばす。今日はそんな日だ。


注「嘘でも夢を見ていたいんですよ口裂けさん~」

口「前世も後世も貴方となんか一緒になりたくないわ。」

花「フラれてやんの~。」


あはは、と夜の教室にお化け達の楽しい笑い声が響く。そんな中、遊具が並ぶ中庭にて。


さとるくん「ひゃほーい!」

童心に戻ってブランコを漕ぐさとるくん。そして⋯


ヒキ子さん「⋯⋯⋯⋯。」


対照的に向かいのベンチに大人しく座るヒキ子さん。二人のテンションの温度差は激しいものである。


さ「あはは、ヒキ子ちゃんも遊ぼうよ~。」

ヒ「⋯⋯ブランコは酔うから嫌いです⋯。」

さ「あ、そうなの⋯。」


少し申し訳なさそうにさとるくんは再びブランコを漕ぎ始める。


さ「ん~⋯、じゃあたまには普通にお話ししようよ。」

ヒ「⋯お話し⋯?」

さ「質問ごっこ♪何でも答えてあげるよ?」

ヒ「⋯あ、アンサーさんの真似事ですか⋯?」

さ「一応僕だって質問に答える系都市伝説なんだよ? 最後に一つだけだけど。」


今更だとは思うが、さとるくんとは、公衆電話から自分の携帯電話にかけ「さとるくん、さとるくん、おいでください。」と唱えると24時間以内に彼から携帯電話に電話がかかって来ると言う都市伝説だ。

電話に出るとさとるくんから今いる位置を知らされ、そんなやり取りが何度か続き、最終的には「今僕は君の後ろに居るよ」と言う。

このときにさとるくんはどんな質問にも答えてくれが、後ろを振り返ったり、質問をしなかったりするとどこかに連れ去られるらしい。


さ「という事で はい、どーぞ♪」

ヒ「⋯特に無いです。」

さ「うわぁ、ズバッと言うね⋯」

ヒ「⋯⋯帰ります。」


ベンチから立ち上がり中庭を後にしようとするヒキ子さん。さとるくんは慌てて追い掛ける。


さ「待ってよ~。」

ヒ「⋯来ないで下さい。」

さ「えー 。普通に一人残されるの嫌じゃん。」

ヒ「⋯太郎くん達と遊べばいいじゃないですか⋯。」

さ「そうだけど、今はヒキ子ちゃんと話したいんだよ。」

ヒ「⋯⋯はぁ⋯。」

さ(溜め息吐かれた!?)

ヒ「⋯あなたは⋯何故そんなに私に⋯構うんですか⋯?」


さ「好きだからに決まってるじゃん。」


全ての空間から音が、空気が消えた感覚。さとるくんの気持ちに気付いていない訳ではなかった。が、面と向かって誰かに「好き」と言われるのは初めてだった。


ヒ「⋯⋯⋯」


嘘だ、と言いたげにさとるくんを見つめるヒキ子さん。だが彼のその目は“嘘”を否定するように真っ直ぐだった。


ヒ「⋯⋯わ、私は⋯好きじゃ、ないです⋯。」

さ「それでも僕は好きだよ。」

ヒ「⋯でも私は好きじゃないです。」


スタスタと校門へ向かい歩き始める。追いかけられても尚、振り返る事なく。


ヒ(⋯⋯今日が何の日かも⋯、知らない癖に⋯)


4月1日午後11時59分。



ヒ(いくらでも言ってやりますよ。“今日”が終わるまで)



熱を増す顔を隠すように、止まる事なく歩みを進める。

“好きじゃないです。”

さて、その言葉の反対は⋯⋯。




END
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