第1部
2月14日、夢見る男子なら誰もが待ち望んだ日。そう、バレンタインデー。いくら都市伝説として恐れられるお化けであっても、お化けの前に男。
これはそんなお化け達のあるバレンタインの話である─────
某小学校。家庭科室の隣の多目的教室にて。
テケテケ「はい、友チョコだよ~!」
口裂け女「今年はビターを作ってみたわ。お子さまにはミルクチョコよ」
花子さん「誰がお子さまよ!?ふんっ!お気づかいどーも!」
ヒキ子さん「⋯し、失敗してしまいたが⋯どうぞ⋯。」
しかし今では友達同士で交換する“友チョコ”が人気。“本命チョコ”より盛り上がるものである。
そんな中、女子メンバーからのバレンタインチョコを待つ男子メンバーはと言うと⋯
注射男「何が友チョコ⋯何が本命⋯。ちきしょー!くたばれバレンタインデー!!菓子業界の陰謀だそんなモーン!!」
さとるくん「ハーイ只今注射男さん、ご乱心中だよー。」
太郎くん「花子ちゃんのチョコ美味しいのー♪」
怪人アンサー「相変わらずテケテケは菓子作りが上手いな。至福の甘味だ。」
注「くそっ!リア充共が!!」
さ「まあまあ、僕も貰ってませんから落ち着いて下さいっす。まだ。」
注「小声で“まだ”っつったの丸聞こえだ馬鹿野郎ー!!くそー!!」
怪人アンサーと太郎くんは想い人からチョコレートを頂いたものの、さとるくんとご乱心中の注射男はまだのようだ。
注「つー訳でお前等に一つ頼みがある!協力願う!!」
太「たのみー?」
注「今巷では“逆チョコ”が流行っている!逆に男から女性にチョコを送るアレだ!!だから俺は愛しの口裂けさんに惚れ薬入りチョコを作った!!」
さ「注射男さんでもチョコ作れたんすね。」
怪「漸く開発したのか惚れ薬。諦めていなかったのだな。」
注「苦節3年⋯苦労したぜ!」
怪「そんなに時間が掛かったのか。その労力だけは褒めてやろう。」
注「まあ俺から直接渡したってすぐ投げ捨てられる!去年の試作品がそうだったからな!!」
怪「⋯それで私達のいずれかが渡せば良いのか?」
注「イエス!」
怪「だが断らせて貰う。」
注「なっ⋯!?なあ、知り合いのよしみだろ~?それに俺とキスまでした仲じゃねぇか?」
怪「嫌に誤解を招く様な言い方はよせ!」
さ「ああ、お花見の時の⋯。あの時ほっぺただけでショックで気絶しましたからねアンサーさん。」
怪「く、私の黒歴史を⋯。仕方ない。協力してやる。」
注「よっしゃ♪ んじゃ太郎、渡して来い!」
怪「私は必要ないじゃないか!!」
⋯かくして男子メンバーの「惚れ薬入りチョコを口裂け女に渡そう大作戦」は静かに開始された。
さ『それ以前に僕らの誰かが行ったって疑われるだけじゃないっすか?』
注『え?』
さ『皆、包装しないでお皿に広げて食べてますし、サッと口裂けさんの近くに置いていくだけの方が簡単だと思うっす。』
怪『確かにそうだな。だとしたらやっぱり太郎が行く方が自然だな。菓子好きだろ?』
太『好き~!』
注『じゃソレでいくか!』
注「いやっほーい!これで口裂けさんは俺のモンだ!!」
さ「まだ成功してないっすよ⋯。」
怪(私の気の所為か⋯?嫌な予感がする⋯⋯。)
太「こんばんは〜。」
テ「あ、太郎くんいらっしゃーい!」
口「貴方も食べる?」
太「うんっ!ありがとう!」
花「何よ図々しいわねっ!まぁ別にいいけど⋯。」
女子メンバーの元へ行く太郎くん。皿に盛り付けられたチョコレートを取ろうと手を伸ばした時。ハート型のチョコを口裂け女の手の届く場所へ置いた。
(((おおっ!!?)))
注射男はその場でガッツポーズを取る。しかし。
ヒ「⋯それ貰っても良いですか?」
口「良くってよ。」
(((ええッ!!?)))
注射男の手作りのチョコレートはヒキ子さんの口内へぱくりと入って行った。
注「Nooooo!!!」
さ「え、ちょ!!どうするの!?」
怪「作戦は失敗か⋯」
ヒ(⋯⋯向こうが騒がしい⋯)
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる男子達の声に何も知らないヒキ子さんはチラリと彼らの居る方向を見た。
瞬間、怪人アンサーと目が合った。
花「ヒキ子?どーしたの?」
ヒ「⋯⋯あ⋯」
花子さんが声を掛けた時にはヒキ子さんはいつもの生気の感じない目をしていなかった。
男子メンバー、否、怪人アンサーの元へ真っ直ぐ歩みを進める。
ヒ「アンサー、さん⋯⋯」
怪「な⋯、何だ?」
ヒ「好きです。」
怪「え、」
「「「え?」」」
「「「「えええええええええ!!!?」」」」
テケテケを慕っているヒキ子さんはテケテケに恋心を寄せている怪人アンサーに対して敵意を向けていた。良い雰囲気になる度に嫉妬の念に駆られている程に嫌っている。
それがいきなり愛の告白をしてきたかと思えばヒキ子さんは勢いよく怪人アンサーに抱き付いた。
ヒ「アンサーさん⋯大好きです⋯」
怪「え、なッ!?どういうことだ注射男!?」
注「あの惚れ薬は食って最初に見た奴を好きになるようになってんだよ!畜生!!」
さ「僕だってヒキ子ちゃんから抱き付かれた事ないのにぃい!!」
口「“惚れ薬”⋯?どういう事かしら⋯?」
注「いや愛しの口裂けさんに惚れ薬入りチョコをあげて俺に惚れさそうかと⋯はッ!!」
口「へぇ⋯そう言う事⋯。この糞馬鹿下衆阿呆野郎が!!」
注「ヒィ!?」
テ「ひ、ヒキ子ちゃんがライバルに⋯!?」
花「普段はアンサーを腐った生ゴミに向けるような目で見てるヒキ子が⋯まさかあんな乙女な顔してるなんて!!」
怪「誰が生ゴミだ小娘!早く引き剥がせ!」
テ「ひ、ヒキ子ちゃん⋯?」
ヒ「誰であっても⋯アンサーさんは渡しません⋯私だけを見て下さいで!」
怪「えッ!?(何故だ、何か可愛く見える⋯!?)」
ヒ「アンサーさん⋯」
花「ああ何と言うこと!?普段はネガティブなヒキ子が恋するとこんなにアクティブになるなんて!」
怪「実況は良いから何とかしろ!!」
ヒ「大好き⋯アンサーさん⋯」
さ「ああああ!!!デレデレにハート飛ばすヒキ子ちゃんは解釈違い!!解釈違いぃいいい!!!!」
ヒキ子さんはトロンと艶めいた瞳で怪人アンサーを見つめ、顔を自分に引き寄せる。
テ「ま、まさかヒキ子ちゃん⋯!キスしようとしてッ⋯!?」
さ「ああああ!!!羨ましいいいいい!!!」
花「ちょ、さとる黙れ。」
このままヒキ子さんは本当の気持ちではない想いのまま怪人アンサーに身を委ねてしまうのか─────
───ギリギリギリギリ
怪「ぐぇえええ!!?」
キス、かと思いきやなんと怪人アンサーの首を締め付け始めた。
ヒ「好き、アンサーさん。」
怪「⋯ッ、はあ⋯!?」
ヒ「もっと⋯私で苦しんで⋯?」
怪「ッ、待て、!落ち着け!」
テ「は、早く止めないとアンサーさん死んじゃうよ!」
花「ああ⋯!ヒキ子はヤンデレなのね⋯!」
さ「僕だって首絞められた事あるよぉおお!!」
口「ちょっと!解毒薬とか無いの注射野郎!?」
注「いやぁ成功するのを前提に製作したからそんなモノある訳⋯あー!!ごめんなさいー!!」
口「私になんてモノ食べさせようとしたのよ!!」
怪「助けてくれ!!流石に死ぬ!!」
ヒ「そうして引き摺り⋯肉塊になるまで愛させて下さいアンサーさん⋯引き摺る引き摺る引き摺る引き摺る⋯」
怪「ぎゃぁあ!!!」
花「うわマジでコレ最大のピンチよ!?」
テ「早く二人を助けなきゃ⋯!」
バタン。
皆が焦る中、ヒキ子さんはその場に倒れた。
テ「ヒキ子ちゃん!?」
口「大丈夫なの!?」
ヒ「⋯あれ?私は何を⋯⋯!!?
何故私がアンサーさんと⋯離れて下さい⋯!」
「「「戻ったぁ~!!」」」
怪「助かった⋯」
注「やっぱ完全に成功してなかったのか⋯。あー良かった良かった!これで一件落着だな!!」
口「⋯で終る訳なくってよ⋯」
ヒ「⋯許さない⋯注射男⋯それに怪人アンサー⋯」
怪「私も被害者なんだが!?」
「「問答無用!!」」
「「ぎゃぁああああ!!!」」
花「あーもう、とんだバレンタインねっ!」
テ「このままずっとああかと思った⋯」
花「だよねー。ライバルにならなくて良かったわね!」
テ「そうだね⋯。」
太「チョコ美味しー♪」
花「あんたずっとチョコ食べてたの!?」
さ「僕もいつかヒキ子ちゃんのガチのデレを貰うんだ⋯!!」
そうして、てんてこ舞いの大騒ぎをして惚れ薬大事件は終末を迎えた。注射男と何故か怪人アンサーは口裂け女とヒキ子さんによってきっちり制裁を下されたのであった。
口「⋯はぁ。もう、ガッカリだわ。」
皆が帰り静かになった教室の中、開かれた赤い包装紙とリボンを膝に乗せ、チョコレートを一人食べる口裂け女。くるくると小さいカードを弄りながら。
そのカードに書かれた言葉。
“欲しけりゃくれてやっても良いわ注射野郎”
それを隠そうとしているかのように。
END