第1部
保健室に行くと、あいつが寝ていた。
さとるくん「あれー、ヒキ子ちゃん。やほー。」
ヒキ子さん「⋯⋯⋯⋯。」
さ「珍しいね、君がここ来るなんて。」
ヒ「⋯⋯人の気配がしたので⋯?」
さ「へぇー。僕、最近寝不足でさ~。ヒキ子ちゃんにいつか着せるつもりの激萌え ☆コスチューム製作で♪」
ヒ「⋯⋯⋯」
さ「ああん、その『なに気持ち悪い事言ってんですか正直引きます』的な目しないでおくれよ~⋯。」
ヒ「⋯⋯事実ですから。」
さ「やっぱりそう思ってたんだね⋯。なんてのは冗談で、最近ハマったアニメが面白くて最新話まで一気見してたんだ〜。」
ヒ「⋯はぁ⋯。」
さ「孤独な少女が魔物と出会い一緒に戦いながら恋が芽生える話なんだけど、今度一緒に観る?」
ヒ「⋯遠慮します。」
さ「そっか⋯、なんかごめん⋯。」
なかなか会話が弾まない。ヒキ子さんは近くのソファーに腰掛け、さとるくんは元居たベッドにゴロンと横になった。暫く沈黙が続いた。
するとさとるくんからもう一度話題を振って来た。
さ「ヒキ子ちゃんって本当の名前は『森 妃姫子』って言うんだよね?」
ヒ「⋯⋯⋯!!」
森 妃姫子。それはヒキ子さんの本名である。“もりひきこ”を並べ替えて“ひきこもり”、引きこもりと現代社会の闇を表している説がある。
ヒ「⋯そうですけど⋯今はその名前を名乗ってはいないので⋯。
酷いことをした両親の付けた名前なんて⋯要りませんから⋯。」
ヒキ子さんは学校では虐めで引き摺り回され、家では虐待を受けて引き摺られ、それから引きこもりになった果てに外で人を見付けると捕まえ死ぬまで引き摺り回すと言われ都市伝説となったらしい。
さ「そうかなぁ⋯?僕は好きだけど⋯。」
ヒ「⋯⋯⋯。」
さ「妃姫子ちゃん。お姫様みたいで可愛い名前だよ。」
ヒ「───!!!」
さとるくんの発言に目を見開き、ヒキ子さんはつかつかと早足でさとるくんの居るベッドに向かう。そしてその勢いのまま彼の首を絞めた。
さ「⋯ッ!?」
ヒ「⋯⋯何を⋯ふざけた事を言ってるんですか⋯!」
さ「え、照れ隠しかなっ? いやぁ、これが君の愛情表現なら喜んで受け止め⋯ぐぇえっ!!」
ヒ「⋯⋯ッ!!」
愛情表現、それに近いものかも知れない。名前が好き、なんて初めて言われた彼女にはどう受け止めて良いか分からないのだから。
今まで両親にすら愛された記憶の無い彼女が正面から好いてくれる人物なんて⋯
今まで出会った事の無いのだから。
だからこそ、そう誉められた時どう対応して良いのか分からない。「ありがとう」なんて言葉が上手く口から出ない。
さ「⋯ッ⋯、は⋯ッ!」
絞められた喉から必死に何とか息をしようとするさとるくんに、彼女の中に一瞬だけ何か別の感情が生まれた気がした。
(⋯⋯そう、言ってくれたのは⋯貴方が初めてなんです⋯)
更に手に力を入れると、更に呼吸が出来なくなり細く荒い息をする。そんな彼を見て、ヒキ子さんは見られないように小さく、ほんの小さく笑みを浮かべた。
(⋯⋯⋯ありがとう⋯⋯。)
怪人アンサー「おお、さとる。どこへ行っていたんだ。」
太郎くん「あれー?さとるお兄ちゃん首に赤いあと付いてるよー?」
注射男「本当だー⋯つか手形!?何あったんだよ!?」
さ「ああ⋯、ヤンデレの愛情表現を体感してたっす。」
「「はあ?」」
太「?? やんでれ?」
さ「そ・れ・に♪ 笑った顔も拝めたしねっ♪」
にんまりと微笑みながらボソッと呟いた。その頃、ヒキ子さんは⋯
テケテケ「あれ~、どこ行ってたの?探してたんだよー。」
口裂け女「しかも何か顔が赤くってよ?」
花子さん「何、熱?大丈夫なわけ?」
ヒ「⋯⋯!! な、何でもない⋯です⋯!」
あの二人に何があったかはあの二人以外誰も知らない。真相は闇の中である───。
END