第1部



⋯キーコ、キーコ、キーコ、キーコ
⋯チリン、チリン


「トン、トン、トンカラ、トン⋯♪
トン、トン、トンカラ、トン⋯♪」




ある蒸し暑い深夜の事。


テケテケ「おはよ~♪アイス持って来たよ~」

花子さん「やったぁ!気が効くぅ~♪」

口裂け女「あらあら、悪いわね。」

ヒキ子さん「⋯⋯ありがとうございます⋯」


またいつもの様に某小学校に集まったお化け女子メンバー。いくら暑い夜でも必ず集まる。今夜は校庭に集合した。


花「花子ガリ●リ君ね~」

テ「ヒキ子ちゃんは?」

ヒ「⋯あ⋯、では同じので⋯⋯」

口「私は何でも良くってよ」

テ「じゃあパ●コ半分こしよ♪」


花「あ~、今日はまた蒸し暑いわねー」

テ「そうだねぇ⋯。そう言えば口裂けさんは夏でもコートだけど大丈夫なの?」

口「大丈夫じゃなくってよ。脱ごうかしら。」


胸元をパタパタ扇ぐ口裂け女。そして普段から着ている真っ赤なコートを脱ぎ始めた。その時。


注射男「口裂けさんがついに脱いだぁあああああ!!!」

「「「!!?」」」

ヒ「⋯⋯⋯⋯」


そこへ口裂け女に熱く一方的な恋心を抱く注射男がイキナリ乱入して来た。


注「ああ、綺麗なお腕が今俺の前に露に⋯何てお美しい!!是非その腕に惚れ薬を注射した」

口「お黙りなさい変態!!」


早口で口裂け女の魅力を語るが 暑い夜に暑苦しいその語りに苛立った口裂け女は鎌の峰で注射男の脳天に一撃入れた。



花「うわぁ、いくら峰打ちでも鎌で殴ると流石に⋯」

テ「あああ⋯口裂けさん、手加減して⋯」

ヒ「⋯⋯⋯強い⋯。」


口「⋯ほほほ、今ここでちゃあんと躾した方が良さそうね⋯」

注「ああ、口裂けさんから鞭打ちでしつけられるなら本望で……ぎゃん!あ、もっと…!!」

口「お黙り!!」

注「ありがとうございます!!」


テ「うわぁ⋯凄い光景だな⋯」

花「あいつドMだったのね」

ヒ「⋯ん?⋯何か聞こえる⋯」


チリン、チリーン⋯
キーコ、キーコ、キーコ⋯

「トン、トン、トンカラ、トン⋯♪
トン、トン、トンカラ、トン⋯♪」


ヒ「テケテケさん⋯、花子さん⋯、」

テ「どうかしたの?」

花「ん?誰が来るわよ⋯自転車?」


「トン、トン、トンカラ、トン…♪トン、トン、トンカラ、トン⋯♪
トンカラトンと言っておくれ⋯♪言わなきゃ仲間にしてやるよ⋯♪
トン、トン、トンカラ、トン⋯♪」


グラウンドから何かが校庭に向かって近付いて来る。自転車の漕ぐ音と何者かの歌と共に⋯


「トン、トン、トンカラ、トン⋯♪」


花「う、うわ、降りてきた⋯」

ヒ「⋯⋯!」

テ「こっちに来る⋯!」

「⋯⋯おいお前等。」

テ「は、はい⋯?」

「“トンカラトン”と言え。」

花「⋯はぁ?」


校舎の近くの街灯に照らされた人物。全身包帯が巻かれ、背には日本刀を背負い、イキナリおかしな事を要求した。


テ「え、えと、“トンカラトン”⋯?」

花「イキナリ何よ!あんた誰!!」

「────言わないならば⋯斬る!!」

花「なッ⋯!?」


謎の男を睨み付ける花子さんに、男は背の日本刀の鞘を抜き斬りかかって来た。


テ「危ないッ!!」

ヒ「⋯花子さ⋯!!」


ガキンッ!!

口「全くもう、何?相手は子供よ?」


そこには降り下ろされた日本刀を鎌で受け止める口裂け女の姿が。


口「大丈夫?花子。」

花「なッ、何であんたがッ!助けッ!?」

口「これはまた、注射野郎と似た容姿ね⋯名を名乗りなさい。」

「──!! く、口裂け女さんッ!?あの口裂けさんで!?」

口「は⋯?」

「「「え⋯?」」」

「間違いない⋯!マスクに鎌⋯着てはいないが赤いコート⋯!はッ、申し遅れた!俺は“トンカラトン”と申す!!以後お見知りおきを!」


────トンカラトン。
それは、全身に包帯が巻かれ、背中に日本刀を背負った姿の都市伝説の対象なるお化けである。
夕暮れ時に自転車に乗って現れ、遭遇した人は「トンカラトン」と言う事を要求され、要求通りに従わないと斬り殺され仲間にされるという。

また従い「トンカラトン」と言った場合は「こうやって仲間を増やしていく」と言い去る────


花「そのトンカラトン?が何でここに居んの?」

ト「いつかお前と巡り逢う事が出来たらと夢見てた⋯!ずっとこれを伝えたかった⋯!だから今言わせて貰う!

俺はお前が好きだ!!」


口「なっ⋯!?」

「「えええええ!!?」」

ヒ(愛の告白⋯初めて見た⋯!)


注「なんだとぉお!!?おいコラテメェ!!俺が悦に浸っている間にどの面下げてふざけた事言ってんだ!!口裂けさんは俺の女神⋯いや女王様だ!!」

ト「⋯む⋯、その容姿に注射器⋯そうか貴様が注射男か。成る程。」

注「冷静に分析してんじゃねェ!!包帯巻きとかキャラかぶってんだよ!
しかも上半身裸に包帯巻いてチャリ漕いでるとか変態臭くてならねぇよ!この露出狂!!つーか堂々と日本刀背負ってるとか銃刀法違反で捕まるだろ!!つか捕まれ!」

ト「俺達お化けに銃刀法違反で捕まる事は無いだろ。そして白衣キャラの方が変態臭くてたまらん。あと口裂けさんは俺が頂くと決めている。諦め願おう。」

注「ああ!るふざけんな!!口裂けさんに相応しいのは俺以外居ねェよばぁーーか!!!」


ぎゃあぎゃあと日本刀と注射器を構え言い争いをするトンカラトンと注射男。それをただ呆然と見るしか出来ない女子4人。そんな中、背後よりまた誰か現れた。


怪人アンサー「ああ~⋯しまった。逢ってしまったか⋯」

テ「アンサーさん!」


その人物とは怪人アンサーだった。


花「何?知り合い?」

怪「いや、私もこちらへ向かっていたんだが⋯その道中、『“トンカラトン”と言え』と要求され、更に『口裂け女さんはどこだ』と質問されたんだ。
まさかと思って来てみたらこうだ。やはり口裂け女に好意を持っていたのだな⋯。」

花「も~!なぁんで確信ついてるのに答えるのよ~!」

怪「わっ、ぷ!汚い物で叩くな小娘!仕方ないだろう!質問されたら答えるのが怪人アンサーとしての存在意義だ!」

ヒ「⋯だからって馬鹿正直に答えてこのザマでは無いですか⋯」

怪「ぐぇえ!首を絞めるな!!ギブギブ!」

テ「あああ、あの二人バトル始めちゃったよ⋯!」

怪「おい⋯、テケテケ⋯助け⋯⋯ガクッ」


ト「はっ、刀相手にほんの数本の注射器で何が出来る!」

注「はん!こっちにはメスもあるんだ!ナメんじゃねぇよ!」


トンカラトンが日本刀を降り上げた瞬間、注射男が腹目掛けて注射器を投げ付ける。それをギリギリ避けつつ刀身を傾け斬りかかる。
複雑に飛び交う互いの武器が月に照され鈍く光る。


テ「すごい⋯っ、二人共強い⋯!」

ヒ(⋯⋯これはコメディものの筈⋯)


口裂け女を巡る戦い。戦う動機は実に情けないが、実に壮絶な戦い。両者一歩も譲らない様子。
しかしその戦いがいつまで続くのか────



ト「うぉおぉおお!!!」

注「うあぁああ!!!」


口「そこまでよ貴方達!!静まりなさい!!」


「「!!!」」

「「「「!!!?」」」」


ヒートアップする男二人の間に戦いの根源である口裂け女が割って入った。


口「はぁ⋯。貴方達ねぇ。私の美しさを理解しているのは構わないわ。でもこんな戦い、何の意味があって?」

注「そ、それはで」

ト「う⋯」

口「貴方達がいくら暴れようが足掻こうが、決める権利はこの私に有るのよ。」

注「じゃあ口裂けさんは⋯」

ト「誰を選ぶんだ?」

口「それは⋯」


(((((ごくり⋯)))))


口「⋯誰も選ばなくてよ。包帯野郎は二人も要らないわ。」

「「フラれたぁあああああ!!!」」

テ「まあ⋯」

花「お決まりよね。」

怪「全く、とんだお騒がせだな。」

ヒ「⋯⋯『包帯野郎は二人も要らない』⋯⋯二人“も”⋯?」


ト「まあ仕方がない。決着はお預けだな。だが次は負けはしない。覚悟しておけ。」

注「は、言ってろ。口裂けさんを射抜くのはこの俺と、この注射器だけだ。」

ト「ははっ。楽しみにしてやる。じゃーな。」


チリンチリン、キーコキコキーコキーコ⋯

トンカラトンは自転車に跨がり、颯爽と夜の闇に消えて行った。まるで嵐が去ったようだった。


注「ふー。久々に動いたな~。」

怪「無理するからだろう、全く。」

花「もう夜明け前じゃ~ん!」

テ「日が昇る前に帰らなきゃねっ」

ヒ「⋯口裂けさん…?」

口「⋯⋯⋯⋯」


トンカラトンが去り、皆わぁわぁ話出す中、口裂け女は無表情で無言だった。


注射「口裂けさーん!俺口裂けさんへの愛の為に精一杯戦って来ましたよ~!」

口「⋯⋯⋯」

注「口裂けさん?」


口「⋯貴方もたまには男らしい所があるのね。」


小さい声で言うと、ぺちりと注射男の額を叩き、静かに校庭を後にした。


注「え、ええッ!?」

ヒ「口裂けさん⋯⋯」

花「なんか嬉しそうだった⋯わよね⋯?」

テ「⋯ふふっ。」


突然現れた来訪者。彼の登場で注射男の恋に思わぬ進展が⋯⋯あったのだろうか。




END
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