3章『やらない善意よりやる偽善。』


理科はまだ良い、プリント4枚あるが教科書とノートに全て答えが書いてあるから探せば何とかなる。問題は数学だ。
得意な人は得意、苦手な人は苦手とほぼ完全に二つに分かれてしまう教科だ。
しかも……人のことを悪く言うのもあれなんだけれど、数学担当教師の牛島先生は教え方があまりよろしくない、たとえ得意な人でも牛島先生の教えでは苦手意識を持ってしまうことも考えられる。その癖何故か宿題が多い、数学冊子(表紙も中も再生紙使用)は問題用紙が25枚分もある。
……それらを6日で終わらすのは、かなりの難易度だ。
元々計算や公式を覚えるのが苦手で長期休みのおかげでテストのときに覚えた公式がすっかり抜けてしまった伊藤からすると、かなりの。

1日は理科を片付けて残りの5日は数学を徹底することになった。

「しぬ、頭がしぬ……。」
「分かった5分休憩で。」
「5分っ!?」
「頑張ろうな」
「、おう……、」

5日も切っていたので悠長には出来ないため、少し厳しめに。
教える俺も頭が重くなってきたけれど伊藤のため頭痛を隠して気持ちは鬼にする。
俺の答えを書き写すのは最終手段のつもりでいる。
伊藤も最初はそれを期待していたようだけれど俺が「出来る限りは自分でやろうな」と確固たる意思で言えばそれが伝わったようで文句も言わず言う通りに問題に向き合っている。
決して意地悪で書き写すことを拒否したわけじゃないし本当に間に合わないのなら写しても良いと思うけれど、猶予は5日あるし、ゴンさんも事情を伝えれば宿題優先しなさい!とバイトを休みにしてもらえた。
学校は学ぶところであり遊んだりするところではない……なんて硬いことは言う気はない。
ただ単に出来ることは自分でやったほうがいい、というのが俺の意見。

忘れたのならもう一度叩き込む。
数学は一回躓いたり忘れたりしてそのまま放置するとついていけなくなる。
たとえ伊藤が理数系の大学に進まず、将来使うことのない科目だとしても今現在はちゃんと覚えないといけないものなのだ。
分からないのならそれはそれでいい、何回でも根気よく教えるだけだ。

再生紙のため書き込んでは消すを何度も繰り返すとすぐにぐちゃぐちゃになってしまうので伊藤が持っていたルーズリーフで何度も計算し直した。

『数式を見るのもう嫌だ、』と投げ出しそうになる伊藤を宥めながら俺も伊藤が計算している間に先に躓きそうな問題を探し出してどう導けばいいのか何度も睨めっこした。


こうして過ごしている間に8月31日、夏休み最終日はあっという間にやってきた。

「……あ”〜〜、終わっ、たぁ〜〜……」

もうすぐ日が暮れるところで伊藤は両腕を天井へと向け身体をぐいーっと伸ばした後、糸でも切れたかのように机に突っ伏した。
最後のページを確認する、うん、書き間違いや計算ミスは無さそうだ。
「お疲れ、よく頑張ったな。」
「透のスパルタ指導のおかげでなぁ……。」
「夏休み前半、もしくは中盤あたりで気付いてくれればスパルタ指導しなくても良かったんだけどな」
「……おっしゃるとーり……」
厳しめに教えたことを避難するような伊藤の目を見ながら事実を突きつければ降参だと言わんばかりに机に両肘をつけてひらひらと手を振った。

「今度から気を付けような」
「おー……」

すっかり疲れ切ってしまったようで返事にも覇気がない。
携帯電話を見れば18時半、夏は日が落ちるのが遅いので外はまだ明るい。
ちなみに今日はゴンさんはいない。
普段着けているウィッグを外し、いつもの女の人の格好ではなく男性用スーツで行ったので雰囲気が随分違っていた。法事、だろうか。
黒い短髪に化粧もせず黒いスーツだったせいか全くの別人に見えた。
ただ「いってくるわねん!すずめちゃん戸締まりよろしく〜」と言葉遣いだけはいつも通りでこっそりホッとした。
宿題のエールを送りながら家を後にしたゴンさん、深夜まで帰ってこないとも言っていた。
普段ゴンさんが不在の場合、伊藤が夕飯を作ってくれるのだが……

「今日は外食かコンビニ飯だなあ……」
「……そうだな。」

肉体的な負担は無いものの、5日間頭を酷使していたので精神的にも疲れ果てたようで、伊藤は普段節約のため夜はゴンさんの賄いか自炊をしているのだが、今日ぐらい自分を労っても良いと思う。
俺が普通に料理が出来たら良かったんだけどな……。何度そう思ったか分からない。
ただ塩だけとかそんな調味料を一つしか使わないような、シンプルな味付けならギリギリ大丈夫にはなってきた。
見た目は平気なのになんでこんなに味が微妙になるのかと何度伊藤と首を傾げたかもはや数えてすらいない。

「今日は奮発してコンビニの良いアイスも買おうぜ、お互い頑張ったし」
「頑張ったのは伊藤だろ?」
俺がやっていることはただ間違えたことをしていないかとあら捜しをしているだけなのだから『お互い』と言うのは違うと思う。
「なに言ってんだ、教える方も……いや、下手すると教える方が負担大きいだろ。ありがとな、問題が分からなすぎて何回か八つ当たりしちまった。」
俺の考えなんて伊藤には手にとるように分かっているのか何も言っていないのに俺を労るように頭を撫でられる。しかもお礼までついてきた。
白い部分の多い、多くの人はその三白眼を見て吃驚してしまう伊藤の目だけど、今俺に向ける瞳は慈しんだ、優しいもので、普段と違うから違う意味で驚いてしまうかもしれない。
伊藤の目を見ていたらその直後優しい感触が突然訪れてビシッと身体が固まる。
(そんなに俺って顔に出やすいか?)
そういえば叶野にも吉田にも案外分かりやすいって言われた。
じわ、と頬が熱くなる。
「……はやく、いこ」
急速に恥ずかしくなって財布と携帯電話を手にとって外に出ようと促すしか出来なかった。

自分からその手を外したりは、しなかった。



「あっちぃな……、残暑厳しそ」

外に出ると日が暮れる時間にも関わず熱気が漂っていた。
冷房の効いた部屋から出てきたばかりなのにすぐに恋しくなった、叶うことなら外に出ずにいたいところではあるが仕方ない。
この分だと9月もまだまだ暑そうだ、想像に容易くうんざりした気持ちになる。
いつも行っているコンビニでいいだろう、駅前のコンビニ以外は遠いし。
示し合わせたかのように足は駅の方へと向かっている、お互いどのコンビニだろうとなんでもいいからである。
「なに食うかなー」
「新しいのあるかな……」
「透は新商品好きだよなぁ」
くだらない話をしていればあっという間にコンビニにたどり着いた。

時間も時間だからかレジは並んでいて、店内も混んでいた。
カゴを持って何となく入ってすぐの雑誌コーナーを流し見して(伊藤は迷うことなく音楽雑誌を手に取った、好きなバンドが表紙だった)、1番奥まで進んで飲み物を軽く見て、少し悩んでペットボトルの紅茶をカゴに入れたあと弁当や麺類のコーナーを覗く。
カップ麺とも一瞬悩んだけれど、コンビニでおにぎりやパンは買うものの弁当などはあまり食べたことがない、いや、あまりというかまず食べたことがないが正確か。
スーパーに売られている弁当よりもコンビニのほうが高くつく。祖父の遺産はまだまだあるが、今後何が起こるかわからないので現段階学費や生活費以外で使うつもりはない。
バイトを始めてからはほとんど手付かずの状態である。不確定な将来のために……というのはほぼ建前で、膨大な桁であるが故に逆に使ってしまうのに戸惑ってしまう、なので今日も自分で稼いだ少ない金で買い物をしようと思う。前に感じた自分が生きるために他人の金を使って食い繋いでいく罪悪感は大分減っただけ成長(退化?)を感じよう。
話が逸れた、とにかく置いてある弁当を吟味した結果、炒飯にマーボー豆腐がかかっている見るからにこってりしたそれを手に取りカゴに入れようとして、紅茶しか入っていなかったのに何故か重くなったのを感じて中を見ると明らかに辛いであろう真っ赤なパッケージのカップ麺と缶コーヒーが入っていた、俺はそれらを入れた記憶は無いしカップ麺に至っては手に取る気にもならないだろう。そこまで見ていつの間にか隣りにいたすっかり見慣れた人物が俺の隣にいることに気付く、驚くことも無く今度こそ俺も自分が選んだものをカゴの中に入れた。
そこでようやく隣にいた……伊藤が口を開いた。
「なんだよ、マーボーチャーハンにミルクティの組み合わせって。体に悪そうだなぁ」
「……伊藤だって、見るからに体に悪そうだが。」
激辛カップ麺にコーヒー、人のことは言えないが胃に良くないだろ。
指摘に指摘で返せばクツクツと少し悪い顔で目を細めて笑った。

「いいんだよ、たまには身体に悪いことでもして息抜きしようぜ、ゴンさんもいないんだしさ。よし、アイスも選ぼうぜ。ああスナック菓子もいいな。」

この間だってワクドナルドというファストフード店でハンバーガーを食べたばかり、というそんな野暮な突っ込みはしない。
保護者のいないワクワク感、と言うのだろうか。
自分の家にいても保護者がいない、束の間の子どもだけの時間、後でバレければ何をしても怒られない、そんな贅沢を味わおうと普通の日常の中のちょっとした特別な日を過ごそうと、伊藤はそう言っている。俺にとって保護者のいない状況が『普通』だと知った上で。

「……それなら」
「ん?」

だけど俺の『普通』は伊藤にとっても『普通』のことだ。
世間一般で言う普通とは外れている、だって伊藤はゴンさんと一緒に暮らしているけれど血の繋がりは全く無い、他人だ。
両親や兄弟、もしくは祖父母、事情があって親戚の元にいたとても何かしらの血の繋がった人、と共にいるのが『世間一般で言われている普通の保護者』だとすると、伊藤や俺の『普通』は普通ではない、のだろう。
そんなこと指摘しなくても分かっている、指摘したらそれこそ水を差す行為。
けれど、俺から見たゴンさんは……俺には両親の記憶がごっそり抜け落ちてしまっているけれど、それでも彼は『父』のようだ。特に伊藤とは本当に、それこそ血の繋がった父親よりも父らしいように感じた。俺にも気にかけているところに俺も父性を感じているのかもしれない(格好はともかく)で、今日はそんな『父のような』ゴンさんがいない。
『保護者のいない自由』の時間を味わえる。なんだか甘美なもの感じた、だから、俺も伊藤に乗って、普段なら言わないようなことを言ってみたりした。

「コンビニスイーツとかつまみ系も、買おう。」
「、ははっそれいいな!」

高いし買わなくても別に何も問題のないそれらをあげてみた、気にはなっていた、だが絶対に買わなければいけないものでもなく、買う機会がなかったので今言ってみた。
予想外だったらしい俺の言葉に驚いたような表情をしていたがすぐに吹き出した。
そんな伊藤があまりに楽しそうに笑うのでつられて俺も笑った。

「お、花火売れ残ってんな、やるか。」
「そうだな。」

普段ならしないコンビニ内を散々物色してからレジに並んで次呼ばれるところで近くに並んでいた手持ち花火を伊藤が持ち出してきたのを俺は二つ返事で承諾したと同時に店員に呼ばれた、花火をさっと入れてレジへと向かう。



まあ、な。
お互いテンションが上がりに上がっちゃって訳わかんなくなっちゃったんだとおもう。
「……食いきれるか?これ」
「……食いきれない分は俺の家に置いておこう」
「そうしよう……。」

まさかレジ袋2つ(たぶん最大)も使うことになるとまでは思わず、食べきれない心配をしたのはコンビニを出てからだった。テンション上がると何するか分かったものではない、そう痛感しながらも後悔はない、とりあえずはこの熱気ではせっかく買ったアイスは家まで持つこと無く溶けてしまうだろうから食べながら帰路へ着くことにした。



マーボーチャーハンはまあ、味は濃くて美味しかった。だが少し油っこい、食べ終えた容器をみればテカテカしていてやはり結構な量の油を使用しているんだな、と痛感する。
「うへぇ……腹重たっ」
「……コンビニスイーツもツマミ系も胃にやられるんだな……」
食べたことがなかったから知らない事実だった。
胃の辺りにムカムカとした痛みを感じるようになったのはさきイカを食べながらもチャーハンを食べ終えた頃だったか、ロールケーキに手を出したころだったか今となっては定かではなかった。

俺は弁当を温めて、伊藤はやかんで水を温めてお湯をカップ麺に注いでからテーブル席についたあとは袋のものを広げていく、出して行く事に徐々にお互いの顔が青ざめていく。コンビニのなかをまわったときのあの高揚感はすでに萎え、もはや後悔しかない。テーブルを埋め尽くす品々を流し見て……頭を抱えた。

「あ"ーもうむり!入らねえ!!」
「……そうか、おれはまだ、はい……う、ぷっ……」
「透!無理すんな!」

何とかチーちく(ちくわの穴にチーズが埋め込まれている高い奴、普段食べたらおいしいと思う)を食べたところでお互い限界がきた。やせ我慢しようとした矢先に腹から何かかがせり上がってきそうで口をおさえたところで伊藤からストップされた。

「悪いけど、残ったやつは透の家に持って帰ってくれ……これから地道に消費していこうな……。」
「そうだな……。」

大量のスナック菓子を袋の中に入れ直す。
いくつか……伊藤しか食べないであろう辛いやつは退けて、袋を手渡される。中にはポテチやクッキーなどなど……当分はお菓子を買わなくて済むな、なんて少しの現実逃避。
ため息を吐いてふとテーブルの端を見ると何か黄色がメインの派手なパッケージのものが置いてあった。入れ忘れだろうか、と何も考えずにそれを手に持って見てみると、そもそも口に入れるようなものではない、手に持って遊べるタイプの花火。
こんなものいつ買ったか、と一瞬分からなかったがすぐにそういえばレジで呼ばれる前に伊藤がやろうぜ言ってそれを何も考えずに俺は頷いたな、と思い直す。
まだやる時間あるだろうか、と携帯電話を確認してみるともうすぐ9時になるところだった。
……未成年が出歩いていたら補導されてしまう時間である。そして明日は学校、始業式とHRぐらいではあるが夏休み期間と違って通常の学校通りに早く起きないといけない。
花火にも消費期限はある、だがまだ湿気ることはないはず。
今日のところは明日のことを考えてこのまま帰ってさっさとシャワーでも浴びて忘れ物がないか確認して明日に備えて早めに眠ったほうがいい。花火は来月のどこかでやってもいい、それこそ明日の放課後とかこの週末にでも。
そう約束して今日は解散する、今すぐにでもこの家を出て伊藤と別れて明日を待つ。
と、言うのが模範解答。

「……花火、やるか。」
「お、そういえばあったな!やろうぜ!!」

模範解答を態々頭の中で導き出した上でやろうと提案してみた、伊藤は楽しそうにそれに乗ってガタ、と音を立てて椅子から立ち上がる。勢いが良すぎて椅子が倒れるのではないかと危惧したが大丈夫だった。

「やっぱり今日やらねえとな!うし、公園……だと補導されそうだし店の前でやるか!」

8月31日、夏休み最後にやる花火はやっぱり特別に感じるのは俺だけじゃないようで伊藤は楽しそうに先に花火持って出ていてくれ!と言ってバケツどこだっけか、と呟きながら上に登っていったのを見送った。

「……はは、そんなにはしゃぐか?」

伊藤の反応が面白くて、一緒に花火をするだけなのにすごく楽しそうで、はしゃいでいたその表情を思い返して……嬉しいのになぜだか泣きそうになった。
胸がきゅう、と苦しい。伊藤が、笑うのを見ると、俺のことを自分のこと想ってくれている見ていると、こうなるんだ。
……これは本当に俺は伊藤を親友としてみている感情なのだろうか、そんな疑問が一瞬浮かんだけれどいつまでもこのままいれば何かあったかと心配されてしまう、とそう思って俺も立ち上がって花火を手に持ち外へ出た。



花火は楽しかった。
帰宅してお風呂に入って布団に入って明日のために眠ろうとする前につい30分前のことを脳内に浮かべぼぅ、と心の底から思った。
両手で手持ち花火を持って吹き上がる火花が色を変えていくのをわいわい言いながら楽しんで、ねずみ花火が予想上に激しい動きをするのを目の当たりにして驚いたり……昔の俺もこうして両親や伊藤とともにやったりしていたのかな、とまでは聞けなかったけれど、そうであるといいなぁと漠然とそう思えた。
伊藤のあの回る携帯電話で写真も撮ったりしたけれど、暗くて何がなんだかよくわからないものばかりになっていた、それでも色々とモードを変えて試していたら段々綺麗に取れるようになった、最早カメラが本体だなあと伊藤の携帯電話を見てそう思った。
最後、締めとして線香花火をして灯火が静かに消えていくのをお互いしゃがんで無言でじっと夏休みの終わりになんだかしんみりとしてしまう空気の中、ついに落ちてしまった線香花火にあーあと残念に声を出したあと、水を張ったバケツに入れてずっと同じ体勢だったせいで固まってしまった体を伸ばして、

「また来年もやろうな。」
「うん。」

またやろうと、そんな約束をした。当然のように約束する伊藤に俺は何の躊躇いもなく頷いた。
……そのときまで『俺』がいるかどうかは分からなかったけれど。
けれど今日までは目を閉じて見ないふり。
その後は時間も時間で、簡単に掃除して俺は菓子の入った袋を持って自分の家に帰った。
伊藤が俺の家まで送っていくと言われたとき、いくらなんでもこれでも男子高校生だから平気だと断ってみたても、危ないし安心させてほしいとそう食い下がられては何も言えず結局俺のアパート前まで送られてしまった。
また明日、そう言って伊藤と別れて、自分の家について後手で鍵を閉めたと同時に訪れる虚無感。
伊藤といて別れたあと、いつもこうなるんだ。
楽しい時間があっという間に終わってしまったことや、さっきまでは伊藤といたのに一人になってしまうと分かってしまう寂寥感に苛まれて胸が痛む。
それでも、明日にはまた会える、伊藤だけじゃない、優しいクラスメイトや頼れる先生のいる学校にまた通えるのだ。
去年までは何とも思わなかった学校の再開が俺には喜ばしい。
悩みは尽きないけれど、それでも死んだように生きていたあの日々を考えると幸せに思えた。
……自分が消える恐怖感も、同時に味わっているけれど、それでも逃げようとはもう思えなかった。

梶井のこと、湖越のこと、吉田のこと……桐渓さんのこと、そして俺の記憶のことを。
目をそらせないことがどんどん増えていく。
これからもっと衝突して大変なのかもしれない。
でも、この夏休みが終わるこの夜だけは……自分に伸し掛かる全てを忘れて、9月1日を迎えることを楽しみしたい。


もう、逃げないから。

誰に許しを請うているのか、自分でも分からなかったけれど。
熱の籠もって息がしにくいこの夏の夜が今の自分にはとても心地が良くて、今度こそ眠るため目を閉じた。
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