3章『やらない善意よりやる偽善。』


俺らがいるところは海の家まで行く道のほぼ中間地点だったので、そこで待ってるとメールを返して無事に返信がきたのでそのまま待つことにした。

「でさー……あっ伊藤くんだ。」
「透っ大丈夫か!?」
「~~っ!」

叶野の会話が途切れて伊藤の名前を呼んだので見ている方向を振り向こうとする、その直前でゴッと頭に鈍い衝撃が襲ったかと思えば痛みが襲ってくる、立っていられず蹲る。なにが起こったのか理解できなかった。

「あー今のは痛い、痛いよぉ……。」
「悪い、いやごめん!大丈夫か!?」
「~っっ」
「伊藤は大丈夫なのかよ……。」
「それほど石頭だってことだろうな……あ、伊藤あまり揺らすな、下手すると吐くかもしれん。」
「まじかよ!」
「大声出すな。一ノ瀬大丈夫か?横になるか?」

蹲ってしまう俺に皆慌ててしまうなかで冷静な鷲尾の声だけはうまく聞き取れた。
質問に首を横に微かに振る。そこまでじゃない、あともう少しだけこのままでいさせてくれれば復活するから。
「無理はするなよ。」
「……ありがと、鷲尾。」

痛みで生理的な涙がにじんでいてうまく鷲尾の顔は見えなかったけれど、視線だけは合わせてそう礼を言った後自分が回復することに専念した。
今の俺の行動で空気が変わっていたことには気付かなかった。


「……あー……治まってきた。」
「透、ほんっとうごめんな……。」
「気にしなくていいよ。心配で来てくれたんだもんな。
それにしても伊藤本当石頭だな……。」

体感としては5分ぐらい。
ゆっくりと立ち上がってみても痛みは訪れなかったので大丈夫そうだ。とんでもない衝撃だったことを思い出してまた痛くなりそうだった。

「いやー伊藤くんが勢いよく走ってきてそのまま止まれなくて一ノ瀬くんと頭ゴッチンして、一ノ瀬くんだけが悶え苦しんでいたよー。」
「漫画とかなら身体入れ替わっててもおかしくないぐらいの勢いだったな。」

……とんでもない勢いで伊藤と俺の頭同時が激突したらしい、と言うのを叶野たちの会話から察することが出来たし、納得した。
だけど、何故俺だけ悶えて伊藤は平然としているのだろう……。

「伊藤くんって身体鍛えてるの?」
「いや別に。」
「……結構鍛えられているんじゃないか、バイトしてるところでは重いものとか平然と持ってるから。」
「まあ大人数の料理作るのって力いるしな。」
「へぇ……いや、それ頭の硬さは関係ないよな?」
「鍛えようもないだろうから岩頭は伊藤の自前だろう。」
「岩頭……。」
「突っ込んでくるな叶野。」

鷲尾の言う通りやっぱり鍛えようもない部位だし、きっと生まれつきの岩頭なんだろう。
俺が痛みに悶えていたのを俺とぶつかったはずの伊藤は平然と……いや、俺のことを心配してくれたのは分かっているから平然とは少し違うかもしれないか……とにかく伊藤は痛みに訴えるようすはなかったし、今も平気そう。
じっと俺が見ていることに気が付いて「どうした?何かほしいもんあるか?」とまぁ、なんだろうか。……俺は子どもかって言いたくなる、な。
今まで伊藤は俺のことを心配してくれたのは幾度もあったしそれは嬉しかったし今だって嬉しくない訳ではない。どちらかと言えば嬉しい。うれしい、んだけど。
………何となく、おもしろくない。
自分だけこうなっているのがなんだかつまらない。

「どうした、一ノ瀬?」
「……なんでもない、もうこの辺でご飯食べるか。」
「そうだな。」

合流も出来たしまた戻って食べるのも時間もかかる、俺の案は採用されて手前にあった岩の階段のようになっているところでみんなで座って食べることにした。

「……適当に買ったから何が入っているのか俺もよくわからん。」
「なんだそれ。」
「よし!じゃあじゃんけんで勝った人から選べる感じにしよ!」
「またそれか、ワンパターンだな。」
「シンプルでいいでしょ!はい、最初はグー……」


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