2章 後編


確かに木下くんに勝手に家のことをばらされたときは、泣いて彼を責めたけれど、心の底から謝ってもらえたからすでに俺のなかで怒りはなくて。
遅れて誠一郎と木下くんが二人でやってきて、俺がいることを木下くんは知らなくて「の、のぞ……!?」と目をこれでもかというぐらい見開いて、まるでお化けでも見たあとのように腰を抜かしてしまった。
それに2人は爆笑して、誠一郎が木下くんを起き上がらせた。

おろおろしている木下くんに、俺は極めていつも通りに「木下くん、久しぶり。」と笑顔で声をかけた。
誠一郎のように俺に胸張って会えるようにがんばっていると聞いていたけれど、現在の木下くんはまったくあっていなかった。
それでも、いつも通りに接してくる俺に慣れたのか段々普通に話してくれるようになった。
俺はすでに木下くんに謝罪を受け取っている。だから、なにも気にすることはないんだよと言い聞かせるように話しかけた。
「もう俺に罪の意識を持たなくても、良いんだよ」
そう伝わるように話した。
それが伝わったのかどうかは分からないけれど、木下くんは申し訳なさそうにしながらも、前みたいに明るい話し方はしなかったけれど、俺に謝ることは無かった。
だけど
「……叶野、ありがとう」
前の名前呼びから苗字呼びになったのに少し違和感をおぼえつつ、あえて「なんか言った?」と聞こえたないふりをした。
「……聞こえてないならいいや。」
「そう?あ、そうだ。アドレス交換しようよ。」
「っうん!」

なんでもない顔で提案すると嬉しそうに頷いてくれた。
木下くんの晴れ晴れした顔を見て、俺の選択は間違っていないんだと、これが正解なんだと、そう確信した。
ただ、俺は……どうしてか胸あたりが苦しくなった。なんでだろう。こうして、みんな笑ってくれるのに。
どうしてだろう。



「希望、久しぶりだな。」
「うん。誠一郎、身長随分伸びたねぇ……。」
「そうか?希望は縮んだか?」
「誠一郎がでかすぎなんだって!」
「ハハハ」

あのあと1時間ぐらい雑談して、そろそろ帰ろうと言う話になって誠一郎以外とはその場で別れて2人で帰った。
久しぶりの誠一郎は、すごい身長が伸びていて軽く見上げないと誠一郎と目が合わないぐらいだ。
話ながらとなりを歩く誠一郎を覗き見る。
出会った当初は周りの子よりもぽっちゃりで人見知りで上手く話せていなかったのが嘘みたいに、周りの子よりも逞しい身体つきになって堂々とした立ち振る舞いでもうどもったりしていない。
きっと今が成長期なんだろうな、中1でこのぐらいならまだまだ伸びるだろうな。

「そう言えば最近忙しくて連絡全然取れてなかったけど、希望のほうはどうだ?そっちの中学校は楽しいか?」

しばらく俺の身長いじりしていたけれど、中学校が違って連絡も取れていなかった俺の様子を聞いてくる誠一郎。話の流れとしては違和感はない。だけど、どう答えようか迷った。
……本当は『誠一郎に話そう』そう思っていた。
家族が本格的にばらばらになりそうなこと、学校での俺への扱いのことを。
誠一郎には話せる、そう思った。
だけど。

「進学校って言われてたけど、みんなとあんまり変わんないよ。最初は緊張したけどさ、仲の良い子も出来たし!」
「へぇなんかすごい真面目なやつばっかりだと思ってたけどそんなでもねえんだな。まぁ希望がいるぐらいだもんな。」
「不敬!」

言わなかった……いや、言えなかった。
だって、誠一郎は今大事なときだ。俺のことを話してしまったら心配させてしまう。
それに……やっぱり小学校のときと同じように認めたくなかったんだ。
家族が揃わなくなることも。……俺が、いじめを受けることになってしまったことも。それに、まだ希望(きぼう)を捨てている訳ではなかった。
夏休みさえ明ければ、きっとテスト前と同じように戻れるはずだって。三木くんも前と同じように接してくれるはずだって。
そう、言い聞かせてた。

「まぁなんかあったら言ってくれよな。」
「もちろんだよ」

誠一郎の善意にそう答える。
また俺は嘘を吐いた。
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