2章 後編


期末テストが終わり、テスト返却を終え終業式まであと1週間とちょっとになった、朝登校すると前期期末テストの順位が掲示板に張り出されたからそれを見に行った。クラスだけでなく学年総合なので、見に行く人が大勢な上書いてある自分の名前を何とか探し出せた。
俺は学年首席……なんて、そこまですごい頭脳を持っている訳ではなく。
叶野希望の名前は11位に書かれている。なんとも中途半端だ。
1位は他クラスの女の子だけど、その名前は学年のほとんどの子が知っているほどの有名な子。純粋にすごいと思う、下の方にテストの総合点が書かれていて、間違い一つない満点であることが分かった。
彼女と俺の差は限りない。けれど特に絶望するものではなかった。俺は俺なりに一生懸命やって全力を尽くした。その結果はこうなった、それだけ。次も全力を出せるようにがんばろう。
2位の子はたぶんニアミスで、1位にはほんのちょっと及ばない。
3位の子は1問か2問間違えたっぽい感じ。俺からすればみんなすごいけれど、悔しそうにしていた。
俺みたいに自分なりの全力でがんばれたから満足って子もいれば1位を目指して切磋琢磨している子もいる。色んな子がいる。努力し続ける姿は素晴らしいと思う。俺もその姿を見てがんばりたいと思える。
なんか、こう、やる気のある空間が好きだな。俺も頑張りたいって思えるし、すごいひとを見るのもいい刺激になる。次も楽しく本気でやりたい。ついつい笑みがこぼれた。

「あ、三木くん。おはよう。」

ふと周りを見ると三木くんが意外と近くにいた。
いつもと同じように、挨拶をした。

「……。」

だけど、三木くんは俺の存在に気が付かなかったのかそのまま反応されることなく歩いて行ってしまった。
三木くんの反応に首を傾げる。
聞こえなかったのかな?結構ざわざわしてるもんね。
辺りには人がたくさんいて、喜んでいる声や嘆いている声色々と聞こえてくる。
このにぎやかさなら気付かなくても仕方ないか。
俺もそろそろ教室いこうかな。
自分の中の理由に納得して教室へと向かう。

俺の順位は11位だった。
滅茶苦茶すごいとか言われるような順位ではない。普通よりは良いけれど本当にすごいひとには叶わない、そんな中途半端な順位だ。
別に天才ではないし、ひたすら勉強漬けの日々を送っているでもない。ただ自分なりの努力をして全力を出した。
突飛だったなにかを持っているような人間でもない。それなりに色々出来はするかもしれないけどすごく目立ちはしない、そんな人間だ。

自分の評価はそんなものだったし、客観的に見てもそうだと思う。
だから。
まさか俺が『いじめ』のターゲットにされるなんて思ってもみなかったし、三木くんとの関係が壊れるきっかけになるなんて、考えたくもなかったよ。
後から知ったけど、三木くんの順位は24位だった。



「三木く……」
「……。」

休み時間になるたび、三木くんのところへ行って話しかけてみても、一瞥するだけですぐ席を外して俺に話しかけられたことをなかったかのようにそのままクラスメイトのほうへ行ってしまう。
(……どうしたんだろう?)
俺、なにかしちゃった?なにか不快にするようなことを言ってしまったのか……?
昨日まで普通に話していたし、メールもしてた。今日にいたっては話してもいないから心当たりがない。
一言も話せることもなくそのまま今日が終わってしまった。
帰りのHRが終わって「三木くん、また明日ね」と言ったけれど、無視されてしまった。声も聞こえていないかのようなそんな態度だった。
胸あたりが痛んだけれど、きっとなにかあったんだろうし、何か無意識に俺は三木くんに何かしてしまったんだろうな。今のところ思い当たるところがなかったから、一回家に帰ってちゃんと考えてみよう。
そう思いながら教室を出て行った。
このときは三木くんのことに集中していて気が付かなったけれど、他のクラスメイトも俺に誰も話しかけに来なくて、冷たい目で俺のことを見ていたことに、後から気付いたんだ。

一回家に帰って落ち着いて原因を考えよう。そう考えていた俺だったけれど、考えることができなくなってしまった。

帰ってきた父さんから

「もう、みんなで会うの辞めようと思うんだ。」
「……え?」

そう切り出されることになるなんて、思ってもみなかった。


今日は珍しく父さんが早く帰ってきたから、夕ご飯の準備をしながら今日のことを話した。
……三木くんのことは言えなかったけど。
テストの順位が張り出されて11位だったことを告げれば「そうか、希望頑張ったな」と褒めてくれた。
「あとで母さんにも報告しないとね。」
褒められて嬉しいまま、当然のように母さんのことを出すと父さんは無言になった。
いきなり無言になったことに首を傾げながらもそのままお皿を出して二人でご飯を食べた。
食べ終わったあとだった。
『会うのを辞めよう』そう、言った。
父さんの言う『みんな』は俺たち家族のことだ。
やめる?
どうして。

「もう希望も勇気も大きくなったし、二人ともしっかりしている。
……本当のことを言うと、もう俺と母さんは互いを嫌い合っているわけではないが、もう一緒に住むことは出来ない。
もちろん希望が母さんと勇気に会いに行くのは構わない。勇気に俺も会いたいと思う。
ただ家族みんなで集まるのは、そろそろやめようと思うんだ。」
「……嫌い合ってないのに?」
「価値観の相違と言うのだろうか……。一緒にいても苛立ってしまうんだよ。互いに、な。」
「……。」

今まで、家族みんなで集まっていたとき。
俺の目から見るとみんな笑い合ってた。母さんが俺へ向ける笑みや父さんが勇気へ向ける笑みと同じように、父さんと母さんは笑い合っていた。
それは……本当じゃなかったの。
俺と目を合わせない父さんのことをそう問うように見つめた。
父さんが顔を上げることを期待してのことだったけど、そのまま父さんは話を続ける。聞きたくない。

「……もう集まるのを、辞めても良いかい?母さんにはこれから相談するつもりなんだ。」

俺から見て普通に笑い合っている二人だったけど、なにか思うところがあったみたい。俺には、分からなかった。
申し訳ない気持ちになるとつい俯いてしまう父さんの癖、俺知ってるから。傷ついている俺の顔を出来る限り見たくないんだと思う。
本当は。
あの木下くんとのことがなければそのままきっと母さんと勇気と会えなかった。でもそうはならなかった。どうして?俺のせいだ。
俺が、わがままを言ったから。
その『わがまま』を通すってことは、誰かがそのわがままを叶えるために『我慢』するんだ。
きっと父さんは母さんが勇気を連れて出て行ったときから、お別れする覚悟してた。俺があんなこと言ったから。俺は父さんと母さんに迷惑をかけてしまった。
てっきり、母さんがもう嫌になって出て行ったと思ってたけど、父さんも予想していたことだったんだろう。俺が滅茶苦茶にした。
おれの、わがままで。

「……分かったよ。」

俺のわがままのせいで我慢をさせてしまった後ろめたさから、父さんが俺に罪悪感を沸かないよう笑顔を作って頷いた。
そう言った瞬間に父さんは俯いた顔を上げた。俺の眉を少し寄せた笑顔に少し辛そうな顔をしながら傷ついたような表情がないことに安堵したみたいだった。

……誰にも言えないけど。
そんな父さんの顔を見た瞬間の俺の心はどこか冷めていた。
そしてこう決めた。
この笑顔で安心を与えられるならいくらでも作ってあげよう、て。

そのあと自室で母さんにもテストの結果の報告をメールでした。
報告を受けて俺のことを褒める返信がきたけれど、心は動かなかった。もう、なにも考えたくなかった。



三木くんからもメールが来ることはなかったのも、このときだけはもうどうだって良かったんだ。
今から思えば、このとき三木くんに連絡していれば……いや……どうだっただろう。変わらなかったかな……?
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