2章『結局のところすべては自分次第。』
鷲尾が家庭教師が来るらしく、俺らより先に家へ帰っていった。結局鷲尾とはそこまで話せずに終わってしまった。
少し申し訳ないが、勉強会なのだから分からない人を教えるほうが最優先だろう。そう自分なりに納得してあまり気にしないことにした。
それに、鷲尾は勉強会じゃなくとも聞いてくるのであまり変わらないだろうし。
「塾に家庭教師に、わっしーすごい大変そうだね。」
「それ定着させる気満々だな。」
「あははは、あだ名あった方が親しみやすくない?」
明日からみんながいる前でよんじゃおっと!そうニコニコしながら湖越に漏らしている。そんな叶野を見て、
「……叶野って、鷲尾には容赦ないよな。」
前々から思っていたことをついポロっと零した。
鷲尾に容赦のないことを別に悪いとは言わない、鷲尾からすると変に気遣われるよりきっと楽だろうから構わないと思う。
だけど、俺や伊藤に……親友であろう湖越にも叶野はずけずけと言うことはないのだ。俺は付き合いがまだ浅いってこともあるのだろうが、俺よりは付き合いの長い伊藤にも、一番親しいであろう湖越にもそこまで容赦ないことはしないと言うか。
そう言うのが二人の距離感だとは思っていたが、つい零した。
「えっ」
「確かにな。湖越にもそれなりに口悪いけど、鷲尾には結構えげつないよな。」
「えー…?」
驚く叶野とは逆に伊藤は俺の言うことに同意する。
敵視、とまでは行かずとも鷲尾にのみでちょっと厳しいような、でもその割には絡みに行く頻度は高めだなと思う。昨日だって頭突きかましてたしそれに鷲尾も応戦してたな。
「いやいや?俺平等だよ?だって一ノ瀬くんにも悪戯したし?」
「それとこれとまた違ってて……なんつうんだろうな。」
「……鷲尾にはあまり気を遣わず話している感じはある。」
「あーそれだ。そう言うことだな。まぁ、あいつに気遣ったところでその気遣いに気付かないだろうし、そんぐらいでいいんだろうな。」
確かに、と伊藤の言葉に頷く。
言葉をそのままに受け取ってかつ無意識に人を傷つけてしまいそうな物言いをしてしまうところは、ちょっと不安に感じるところがある。
俺もそうだが、鷲尾も俺とは少し違った意味で国語が苦手なようでこの人に隠された思いを答えなさいと言う問いに『何故隠す必要が?』と首を傾げているのを幾度と見ている。
俺はその登場人物に同調できなくて、鷲尾はなぜ隠すのかがそもそも理解していない。正直俺もちゃんとは理解できないので、暗記しているだけだ。
隠したい思いがある気持ちは分かっても、どうしても出てくる登場人物に自己投影は出来ないのである。
鷲尾はまず隠したいことなんてないんだろうな。あれだけ堂々としていて自分に自信がある、そんな姿勢を見習いたい。
「え、えー俺ってばそんなに鷲尾く……わっしーに遠慮なかった?」
「いや、わざわざ呼び方を言い直さなくてもいいんじゃないか。」
「安心しろ、希望。お前は俺にも容赦ない。」
「誠一郎ってさフォローする気ないよね!いや、その通りだけどさ!」
「まぁな。」
「……」
湖越と叶野の会話が始まってしまい、結局叶野は自覚はなかったらしいとうやむやに会話は終わった。
流されたように感じられたが……別にそこまで深堀するような話題でもないか、と少し違和感をおぼえつつも気にしないことにした。
とりあえず湖越に数学はあらかた教えたから、きっと大丈夫だろう。
「な、透」
「……ん?」
「ここどう解けばいいんだ?」
「……この公式の応用、だな。」
伊藤に聞かれて意識をそっちに向けた。
昨日に比べて随分意欲的になったのは教えた俺からすると誇らしく思う。
ただ、中間は期末と違って5科目しかないもののそれでも伊藤のブランクを考えると他のもやるべきだとも思うので、明日でも明後日でもいいが他の科目を少しずつ手を付けていったほうがいいかもしれない。
数学ばかりやって他の科目をまた1からやるのもつまらなく感じてしまうだろうし、少しずつ慣らしていくべきかも。
そう思いながら伊藤に勉強を教える。
湖越と叶野も会話をやめていつの間にか勉強していた。
叶野が湖越に勉強を教えているのを見て、やっぱり叶野って頭良いんだなと再確認した。
静かに勉強してたまに質問されてそれに答えて、て言うのを繰り返していればいつのまにか夕方になっており、見回りに来たであろう岬先生が少し驚いて「まだ残ってたんだね、勉強は捗ったかな?そろそろ下校時間だよ。」と声をかけてくれるまで勉強会は続いた。